執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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整理です。徐々に話数更新します。

タイトルの意見をくれたアゼルバイジャン大佐さん、まことにありがとうございます!


執事と悪魔
過去と今


 

 

 ちょっとだけ昔話をしましょう。

 あれはまだ私が小さかった頃の話。

 

 悪魔であり、私の兄であり、そして魔王でもあるお兄様が一人の――それも『人間の』男の子を私達悪魔が住まう冥界に連れ込んで来た。

 

 その男の子はまだ小さかった私と歳が近く、妙に偉そうというか……マセてるというか。

 

 

『おれ、修行で忙しいから早く帰りたいんだけど……』

 

『まぁまぁまぁまぁ、修行の相手なら僕がしてあげるし、何より彼女から言われた事を無視するのかい?』

 

『…………。ちっ、わかったよ』

 

『よしきた!』

 

 

 種族が違うし子供だってのもあるけど、当時から最強の悪魔と吟われていたお兄様にも不遜な態度を崩さず、寧ろお兄様が下手に出る姿に違和感しか無かった。

 

 

『気は進まないが、此処に住むことになった……只の人間だ』

 

 

 そんなこんなでお兄様が連れてきた男の子は暫く此処に住む事になり、歳が一番近いという理由でお兄様から面倒を見るようにと命じられた私は早速この男の子とお話をしようと、実家の城の中庭の――しかも日影の端で黙々と身体を鍛えている所に赴いて話し掛けてみた。

 

 

『……………』

 

『あの……』

 

『………………………』

 

 

 結果、男の子は喋るのが好きではないみたいで、一言声を掛けた私を一瞥しただけで応える事は無く、再び黙々と鍛練をする作業に戻ってしまった。

 

 

『良いかいリアス。

彼はその……人間かもしれないし、声を掛けても返事をしないかもしれない。

でもそれはちゃんとした理由があるから怒らないであげてくれないか?』

 

 

 男の子に話し掛ける前、お兄様にこう言われる事がなければ、子供だった事もあって怒っていたかもしれない。

 無反応というか、見事なまでの無視をされた私はただただ私を一瞥した時に見せた『暗い瞳』に圧倒されつつ、無言で無視で無関心で――お兄様以外の私達家族とは一切口を聞かなかった。

 

 正直……正直に言うと、この時の私は『こんな人間の男の子なんて……!』と憤慨したわ。

 世間知らずの子供らしく、人間は弱いって勝手に決め付け、自分を『信用できない』って目で見てくるこの男の子がその時は間違いなく嫌いだと思ったの。

 

 けれど、その弱いという認識は直ぐに改めさせられた。

 

 

『ま、まさかその歳で此処までの水準(レベル)だなんてね……。

ははは、肋骨がグチャグチャにされちゃったよ……』

 

『ま、まだだ……! まだ終わってないっ……!』

 

『いや終わりだよ、キミは一度でも気絶した。

戦う前に取り決めた約束を忘れたとは言わせないよ?』

 

『ち、ちくしょ……ぅ……!』

 

 

 その日は珍しく朝食の席に現れた男の子が、兄様に話し掛けていた。

 殆ど声を出さずに私達が出す食事も食べずに過ごしていたので珍しいなと思いつつ耳をすませてみると、どうやらお兄様に決闘を挑もうとしていたらしい。

 

 常日頃から黙々と鍛練をしてるから、強くなりたいのかなと思ってたけど、よりにもよってその成果をお兄様で試そうとしている。

 いやいやいや、悪魔の事を知ってるのであるなら尚更無謀じゃないか――と私や男の子の事をまだよく把握してない父や母はギラついた目でお兄様を見据える男の子に警告した。

 

 だが男の子はその悉くを無視し、お兄様ですら苦笑いしながら私達を制止させ、男の子からの申し出を受け入れた。

 

 

『俺が勝ったら今すぐにでも出ていかせて貰う。

『なじみ』と所縁があるとはいえ、所詮は分身でしかない悪平等(きさま)……いや貴様等なんぞ信用できん』

 

『まだ彼女しか信じられない、か。

まあ、当たり前だと思ってた居場所をイレギュラーに奪われ……名前すら盗られたともなれば他人を信用できないのは分かるよ。

だけど……フッ、僕も悪平等(ノットイコール)の端くれ、次期後継者たるキミの面倒をあの人から命じられてる以上、その申し出はキミを叩き伏せてから断らせて貰おうか』

 

 

 決闘場所は男の子がよく一人で鍛練している中庭。

 数メートル程二人は距離を離し、男の子が冷たい殺気を放ちながらお兄様を睨み、それを受けたお兄様が軽く微笑みながら受け流す。

 その際、お互いから聞いたこともない言葉が何個か出て、私達は首を傾げたが、それ以前にものの2秒もしないで決まるだろう無意味な決闘結果に気を取られて気にも止めなかった。

 

 

『さぁ来なさい一誠くん。

及ばせながら僕がキミの成長のお手伝いをしよう』

 

『ほざいてろ……!!』

 

 

 文字通りの子供を優しく相手にするかの様に微笑むお兄様と、初めて見せる殺意に満ちた形相の男の子が飛び掛かる。

 

 人間にしては素早い身のこなしに私を含めた家族達はちょっとだけ驚いたが、それでもお兄様じゃあ相手が悪すぎだし直ぐに終わるだろうと思っていたわ。

 結果は予想を斜めにぶち抜けちゃったけど。

 

 

『リ、リアス……。

彼を、一誠くんを寝室に運びなさい』

 

『は、はい……』

 

『お、驚いた……人間の子が……』

 

『どういう事ですかサーゼクス? この子は一体……』

 

 

 勝負はお兄様が勝った。

 けど予想していた内容とは明らかに違う……苦しそうに肩で息をしながら私に倒れ伏す男の子を運べと命じる姿に、初めてこの男の子の異常性を垣間見た。

 

 

 魔王と呼ばれるお兄様との試合形式の決闘で、意識を失って負けたとはいえお兄様に重傷を負わせたという、冥界中に知られたら大事になりかねない出来事に、見ていて軽くショックを受けた私と父と母は、お兄様の妻であり私が実の姉の様に慕うグレイフィアに治療されるお兄様に問い詰めるも、お兄様は首を横に振るだけで答えてくれなかった。

 

 

『僕からは言えない。

知りたければこの一誠くんに直接聞いてください……。

だけど、これで分かったと思う……一誠くんは人間だけど強いことに』

 

『……………』

 

 

 いてて……と痛みに堪えながら、聞きたければ本人に聞けと言うお兄様に私達はそれ以上問い詰めることは出来なかった。

 今日まで只の人間だと思っていた男の子の異常な力を見せ付けられた……それだけが現実であり、何処で生まれたのか、どうやって育ったのか、両親はどうしてるのか……それを今まで知らなかったし知らされもしなかった私は此処で初めて、気を失ってる男の子を知りたいと思った。

 

 

 けど男の子――一誠という男の子を彼に宛がった寝室に運び、ものの数分で目を覚ました後も悔しそうに顔を歪めるだけで何も語ろうとはしなかった。

 

 

『クソ……! また負けた……!』

 

『あ、あの……』

 

『っ!? な、何だ紅髪女か。何の用だ?』

 

『むっ……! 何って、お兄様に負けて気絶したアナタを此処に運んだのは私なんだけど?』

 

 

 負けたショックで精神的に不安定だったのだろう、何時もなら一瞥しただけで何も話さない男の子は、私を見るなり驚いた顔になって……紅髪女なんて変な呼び名を口にして来た。

 恐らく普段から私をそう認識してたのだろうと思うとムッとなるわけで、ベッドから起き上がる一誠という男の子に言い返してやる。

 

 

『それに私はリアスって名前がちゃんとあるの。その紅髪女ってのは止めて貰いたいわ』

 

『……。ふん、呼び方なんて……名前なんてどうでも良い――ぐっ!?』

 

『ちょ、ちょっと……!?』

 

 

 言い返す私に初めて応じた一誠という男の子が無理に起き上がってるせいか、明らかに痛みで顔を歪ませる。

 あの決闘……多分お兄様もそれなりに本気で叩きのめした筈だし、寧ろこの程度で済んでるのがおかしいと思うのだが、苦しんでる姿からしてやせ我慢をしてる様にしか見えないので、痛みに堪えながらベッドを降りようとする一誠を無理に止める。

 

 

『アナタお兄様に負けたのよ? そうでなくてもその程度で済んでるのが奇跡なのに、無理に動いたら――』

 

『うるさい……!

負けた上に情けを掛けられときながら能天気に寝てられるかよ……! 一々関係無い俺に構わないでくれ……!』

 

 

 ベッドに押し戻そうとする私を手傷を負った獣が如く威嚇する様な形相で睨み、肩に触れていた私の手は乱暴に叩かれた。

 

 

『他人なんかくだらねぇ……! ちょっとした事で平然と忘れるような親も何もかも……全部がくだらねぇ……!』

 

『な、何を言ってるのよ――って、だから出ようとするな!』

 

 

 ベッドから降り、苦痛に歪んだ表情で私を睨みながらフラフラと部屋を出ようとする一誠の言ってる意味が分からず、思わず見送りそうになった私はハッとしながら引き留める。

 お兄様に重傷を負わせた異常な強さをまざまざと見せつけられて怖いとは思ったが、流石にボロボロの状態なら私でも抑え込む事は出来る訳で、アッサリと身柄をベッドの上に投げ込んでやった。

 

 

『物静だと思ってたけど、案外乱暴な子ねアナタって』

 

『き、貴様に言われたくない――ぐうっ……!?』

 

『……。それに口の聞き方も悪いし、一応アナタより年上なのよ私は?』

 

『だから、なんだ……!』

 

 

 想像以上に弱ってる様で、呆気なくベッドに戻された一誠が睨んでくるけど全然怖いと思わない。

 例えるなら捨て子犬が威嚇してる様にしか見えないのと、初めて会話がちゃんと成立している事実にちょっと笑ってしまう。

 

 

『ねぇ、アナタって何者なの?

お兄様がわざわざ人間のアナタを此処に住まわせてる理由もそうだけど、何でそんなに強いのかしら?』

 

『…………』

 

 

 なので今なら聞けるかと思い、ずっと疑問に思っていた事を問い掛けてみる。

 すると一誠は急に無言となり、私から目を逸らす。

 どうやら話したくないらしい。

 

 

『……。言いたくない?』

 

『他人に語った所で意味なんてない』

 

 

 観念はしたのか、ベッドに大人しく横になってボソッと言う一誠は私に背を向ける。

 人間でありながら異常なその強さ、そして私と変わらない年で独りである理由を話そうとは結局しないと分かった私は、子供心に察してそれ以上無意味に追求するのは止めた。

 

 

『そう、話したくなければ話さなくても構わないわ』

 

『………』

 

『だけど、その無愛想な態度はやめなさい。

私にしても構わないけど、お父様やお母様やグレイフィアにまでその態度は良くないわ』

 

『どうせ互いに忘れるような他人に――――』

 

『忘れないわ。

というより、魔王ルシファーを継いだお兄様をあそこまで追い込んだアナタを間近で見せられて忘れろというのが無理な話』

 

『…………………』

 

『それに、こうしてちゃんと話も出来るみたいだし、畏まれなんて言わないなからちゃんと呼ばれたら反応くらいはしなさいな。

お兄様とどんな約束をしたかは知らないけど、アナタも此処に一緒に住んでいるのだから……ね?』

 

『………………………………』

 

 

 今日この日初めて漸く一誠という男の子の性質をちょっとだけ分かった気がした。

 理由は結局分からないけど、多分一誠は両親が居ないんだと思う。

 人間とは思えないその異常な力を恐れて捨てられたのか……それは分からないけど、だから頻りに他人なんか信用できないって態度なんだと思う。

 

 

『それじゃあ、安静にしてなさいよ?』

 

『………………………』

 

 

 そう解釈すれば、ショックからまだ立ち直れてないんだなと思えば……うん、ある程度嫌な態度されても受け流せると思うし、ほんの一部だけかもしれないけど一誠という男の子の事が分かった。

 

 

『あ、何なら一緒に寝る? アナタより一つ年上のリアスおねーさんが絵本でも――』

 

『消えてろ、ぶっとばされん内にな』

 

『あはは、言うと思ったし冗談よ。

けどレディに向かってその言葉遣いは控えた方が良いわよ?』

 

『レディ……? 何処にそんなのが居るんだ?』

 

『む、目の前の私よ私!』

 

『……………………………………………。へっ!』

 

『あ、今鼻で笑ったわね!? 私より子供の癖に!!』

 

 

 異常に強い癖に、妙に心が脆い……でもちゃんと話せば小生意気な男の子。

 それが一誠という男の子との歩む最初の一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて事が小さい頃にあったわねぇ……」

 

「……。あまり思い出したく無い話だなそれは」

 

 

 そんな最初の一歩からもう数年。

 結局一誠は、あれからお兄様に何度も戦いを挑んでは負けての繰り返してグレモリー家に住み続ける内、徐々に私達に対する態度を軟化させていき、現在ではびっくりするくらい私達は気軽な仲となっていた……と思う。

 

 

「で、今日もお兄様に負けたんでしょう?」

 

「………」

 

 

 あの日の後で聞いたのだが、どうやら一誠はお兄様に勝たないとグレモリー家から出られないという取り決めがあったらしく、結局一誠は今の今までお兄様に勝てないままこうして成長してしまっている。

 当然その強さも限界知らずでどんどんと伸び、今尚進化が止まらずであり……聞けば最近修行目的でお兄様から頼まれて討伐した強力で凶悪なはぐれ悪魔を『悪魔には聖剣……故にこのエンピツカリバーの錆びにしてくれる』とふざけた事を言いつつ、本当にそこら辺に売ってるエンピツで倒したらしいのだから、恐ろしいにも程がある。

 

 まあ、別に私はそんな事実があろうとも一誠を怖がりはしないけどね。

 

 

「アナタの成長に比例してお兄様も進化してるしね、そう簡単にはまだまだ行かないわよ?」

 

「……チッ」

 

 

 そして今日も決闘をしたらしいのだが、一誠こ異様な成長に並んでお兄様もその実力を今尚上げており、結果は一誠の表情からして敗けたと容易に察せた。

 

 

「まったく、ちょこちょこお兄様に喧嘩を売ってはボコボコにされるのに、ケアする私にもう少し優しくして欲しいわね……」

 

「……」

 

 

 ちなみに『敗けたらしい』というのは、今私は冥界の実家じゃなく人間界で暮らしてる為、二人の決闘を見てないからである。

 負けた相手の施しを拒否するせいで、此方に戻る時の一誠は決まってボロボロであり、当然そのケアは私の役目なのだが……もうかれこれ10年以上もやってるといい加減お礼の一つも言って欲しいと思う。

 

 

「もう寝る」

 

「あらら、また拗ねちゃった……」

 

 

 しかし一誠は私にお礼というか……受けた恩義をストレートに表現してくれず、大体は遠回しの態度とかで示してくる。

 

 その最たるものが、人間界の学校に通う為に今はこっちのマンションの部屋を借りて暮らしている私と一緒に住んでいる事だ。

 というのは、毎回毎回毎度毎度お兄様からの敗北続きが祟り、只今の一誠は人間界で暮らす最中は私の護衛を任されてる――いやお願いされていたりするのだ、他ならぬお兄様に。

 

 本来ならこんな真似をする義務なんて当然一誠には無いのだけど、どうやらお兄様との定期的な決闘の際に前以て言いくるめられたらしい。

 グレモリー家が管理してる人間界の領地の中に建てた学園に通う私の家にある日現れて『罰ゲームの執行だ』と言ってる嫌々な態度を見せてるが、ちゃんと護衛をやってる辺りやはり律儀だなと私は思う。

 良くも悪くも受けた恩義も恨みも忘れない……それが一誠なのだ。

 

 

「でもよーく考えても凄いわよ? 負け続けとはいえお兄様と互角なんだから……」

 

「勝たなきゃ意味がない」

 

 

 学園に通う為に借りた人間界のマンションの一室に住まわせ、どうせならと一緒の学校に通わせてる一誠が拗ねながらリビングのソファを占拠して横になる姿に、昔と変わらないわね……と思わず頬を緩めながら眺める。

 

 

「……。何見てんだよ?」

 

「良いじゃない見てたって。そんなピリピリしないの!」

 

「ケッ!」

 

 

 人間の身でありながら魔王と互角に戦える――いや多分お兄様以外の魔王なら勝てる。

 こんな人間は後にも先にも一誠だけしか私は知らない。

 そりゃあ神器と呼ばれる力があれば分からないでもないが、一誠は神器なんて持ってないのだ。

 

 

「それにしても驚くほど同じ顔だったわねー……あの兵藤イッセー君は」

 

 

 まあ、もう一人の『兵藤一誠』は神器を持ってる訳だが……と、これ以上不貞腐れて貰うのも嫌なので、話をすり替えるつもりでこの前『何故か』私を悪魔と言い切り『何故』か兵士の駒で下僕にしろと言ってきた、目の前で不貞寝してる一誠とは違う『もう一人の兵藤一誠』について思い返す様に切り出す。

 

 

「ある程度アナタとお兄様から事情を教えられたから良かったけど、アナタと出会わないままだったら目先の力持ちにホイホイ眷属にしてたわね……」

 

「……。サーゼクスと師匠曰く、アレは俺の『成り代わり』って奴らしいぜ?」

 

「成り代わり?」

 

「兵藤一誠――つまり俺の容姿と名前と本来持つべき……ええっと赤なんちゃらって力を成り代わりで持った転生者だかなんとか……」

 

「だからアナタを見た時の彼は『ありえない』って形相だったのね……。

うーん、ゴチャゴチャしててややこしいわ」

 

 

 成り代わりというのは読んで字の如く、その人物に成り代わる事であり、お兄様も言ってたが、私に自分を下僕にしろと売り込んできたあの兵藤一誠は、目の前でまだ不貞腐れてる一誠の当時の経歴や人間関係――果てには本来ならこの一誠が持つべきだった神器まで成り代わりで得て別世界から転生した何者からしい。

 

 確かに初対面なのに私達の正体を当然の様に言い当ててたし、この一誠を見た時の顔なんて『お前が何で存在してるんだ』というソレだったし、色々と思い当たる節は沢山あった。

 

 つまりこの一誠は向こうの兵藤一誠……的な何者かに名前を含めた全てを奪われ、捨てられた本来の兵藤一誠だという訳であり、他人を深く信じようとしないその態度はこれが原因だったという訳だ。

 

 

「まあ、もはや俺が兵藤一誠だと言い張った所で実の両親を含めた全ては、あっちの兵藤一誠が本物だと刷り込まれてしまってるからな。

現実じゃあ俺が偽者なんだよね」

 

「いいえ、少なくとも私やお兄様達はアナタを本当の一誠だと思ってるわ」

 

 

 同じ容姿、同じ名前が近付いてしまっても私や私の家族はこの直ぐ不貞腐れる一誠が本当の一誠だと思ってる。

 確かにその他の殆どは彼が兵藤一誠だと思ってるだろうけど、同じ名前で偶々そっくりだったと思えば別にどうって事はない。

 

 性格はかなり違うし、敢えて偽名も使わせず一誠と名乗らせてる。

 こそこそと名前を偽装する必要なんて無いのだ。

 

 

「あ、そ……」

 

「またそんな態度しちゃって。本当は認めて貰えてるのが嬉しいくせに?」

 

「お前に認められてるからって何だってんだよ、くだらねぇ」

 

 

 向こうの赤龍帝である兵藤一誠をこの世が認知してるのであればすれば良い。

 私達はこの一誠が一誠であると思い続ける――それだけ。

 

 とことん負けん気が強く、未だに他人不振で減らず口だらけだけど……。

 

 

「あらあら? その兵藤君と会って家に引き籠りそうになった時、私が言った言葉に泣きながら甘えて来たとは思えない態度ねぇ?」

 

「……。知らん。そんなもん忘れた」

 

「ふーん、私は鮮明に覚えてるわよ? 確かメソメソと泣き疲れるまで私に抱き着き、胸元で泣くだけ泣いて眠っちゃうもんだから添い寝して――」

 

「それ以上言ってみろ、身ぐるみ剥がして変態に5円で売り飛ばすぞ……!」

 

 

 強くなり続ける私のヒーローこそ……一誠なんだと。

 

 

 

 

 日之影一誠

 

種族……人間

所属……リアス・グレモリー専属ボディガード(度重なるサーゼクスとの戦いの敗北による罰ゲームと本人は主張)

 

備考……名前すら奪われた本来の兵藤一誠

 

 

リアス・グレモリー

種族……純血悪魔

所属……グレモリー家長女。

 

備考……一誠の事情を知る数少ない理解者。

 

 

「ちきしょう、テメーのメンタルの弱さにヘドが出るぜ!」

 

「私は構わないわよ? 寧ろそのメンタルの弱さにキュンキュンしちゃうもの。それに一度や二度じゃないし……ふふん、何だったらリアスおねーさんが添い寝してあげましょうか? 私の胸のに埋まって撫で撫でされたいでしょう?」

 

「うるせー!!」

 

「あらあら? レディに対してよくない口の聞き方よ?」

 

「んだとこの無駄乳が!!

頼んでも無いのに全裸で寄って来るテメーはレディじゃなくて紛れもねぇ痴女じゃボケ!」

 

「あー……それ言われると痛いけど、心配しなくても一誠にしかしないわよ? 浮気の心配なんてしなくても――」

 

「あぁぁぁっ!! サーゼクスと同じ――いやグレモリーの連中はどうしてこうも話を聞かねぇんだよ!」

 

「え、だって一誠は私のお婿さんするってお母様と密かに――」

 

「なるか!! クソ、あのババァ……今度ババァ専の変態に2円で売ってやる……!」

 

「お母様が居ないからって強気ねぇ……。

前に似たような事言って無理矢理抱き枕にされて半泣きしてた男の子とは思えないわ」

 

「シャラップ!!」

 

 

 

終わり




補足
これ、活動報告に載せるのですが、ひとつ迷ってます。

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