多分いきなり飛ばしてます……エンジン的な意味で
グレモリー家とシトリー家の仲はかなり良好なのは冥界内周知の事実。
しかしその理由の一つに、とある人間の少年が少なからずここ数年影響させていることはあまり知られていない。
「そ、その技はデンプシーロー……あがっ!?」
「こ、小猫ちゃん!?」
グレモリー家帰省三日目。
人間界の日本は祝日と振り替え休日が重なって、ちょうど一週間程の連休となっているお陰で、リアスとその眷属……そして専属執事である一誠はグレモリー家に滞在しており、今日も冷徹コミュ障一誠により一方的な獄殺修行が執り行われていた。
「……………」
「がっ!? ぐふっ!? げほっ!?」
差を埋める為、両腕に特注25オンスのボクシンググローブを填め、更に加重の魔法を仕込んで眷属達の修行に付き合っている一誠は、女の子が相手だろうが一切の手心等加えず、ハンデとも云うべき特注グローブもものともせず、素手で挑んできた小猫の顔面を左右から涼しい顔で殴り付けていた。
「ぐっ……あうっ!」
「…………」
形振り構わず、とにかく一撃を見舞いたいと躍起になって手足を武器に攻撃してくる小猫を嘲笑う様に避けていた一誠が、突如として放った技。
上半身を∞の軌道で振り続け、身体が戻ってくる反動を利用した左右の連打という、一見すると隙だらけに見える大振りのパンチの嵐を、既に意識が飛び掛けている小猫の顔面に浴びせ続ける一誠の表情は終始『冷酷』な殺し屋を連想させるソレであり、近くで見ていた他の眷属達はその容赦の無さに戦慄を覚え、足がすくんで動けない。
「…………………………」
「か……ぁ……! ぅ……あぁ……」
右、左、右、左、と全体重を乗せた一撃は、威力を最大まで消した特注グローブなぞまるで意味も無く、殴り付けられ続けた小猫は、あっという間に意識を手放し、最後の右フックを待たずしてその場に崩れ落ちていった。
「………」
「………………。ふん」
確実に顔の形が変わる鬼畜ラッシュをした云うのに、気絶した小猫を前に一誠の表情は褪めている。
「…………。次」
「「っ!?」」
それどころか、立ちすくむ祐斗と朱乃に来いと小さく告げ、小猫は放置している。
「と、特注のグローブを嵌めててこれか……」
「ぼ、殴殺されるのかしら私達……」
手加減の中の手加減をされても尚届かない領域に戦慄する祐斗と朱乃は、一誠の足元に転がる小猫の安否の心配をするも、それは許されないと悟る。
「来ないならそのまま死んでろ……」
悪魔より悪魔。
魔王より理不尽な――人外の寒気すら覚える薄い笑みを見てしまったが故に……。
修行に手加減は必要か? そんなもん決まって答えはNOだよNO。
仮にもリアスの眷属をやってんだ。
弱かったせいでアイツ守れませんでしたーなんてクソみたいな言い訳は許されねぇ。
だから俺はこの雑魚共の相手を仕方無くしてやってんだ……女の顔を殴って責められる謂われなんて無い。
「あら一誠? リアスの眷属の皆さんは?」
「中庭で勝手に伸びてる」
わざわざ足を一切使わないボクシングで相手してやったのに、結局奴等は俺に触れさえも出来ず伸びちまいやがったので、そのまま起こすこと無く着替えをしようと中に戻った俺は、運悪くはち会わせしちまったババァに事の顛末を説明しておく。
「鍛練ですか? アナタに触れられた子は――そのお顔じゃまだまだと云った所でしょうか?」
「……。まぁな」
このババァはそこら辺の雑魚と違って、女子供を修行でぶん殴っても注意はしてこない。
いや、流石に強要させた修行でそうすれば文句は言うらしいが、俺の場合は向こうの了承をきちんとしている上でのそれだと解ってるから何も言わないらしいが、もし言ってたらとっくの昔にぶん殴ってやってた。
「その内起きるだろうし、そうでなくても手伝いの誰かが気付いて起こすだろうよ」
「そう……後でお薬を出してあげないとね」
だからある程度は認めてるんだ。
このババァ、サーゼクスのお袋だけはあって、精神だけじゃなくて戦闘も意外とやるしな。
「今日はお客様がお越しになられますからね。
お顔を腫らした状態でお迎えする訳にもいきません」
「あ? そういやシトリーのおっさんとババァ連中が来るのは今日だったのか? なら今日は部屋に引きこもるのは――」
「駄目に決まってますよ。元々アナタの顔を見る為に来るんですから。それとおっさんだのババァという言葉は――」
「チッ、また始まった」
「良いから聞きなさい!」
チッ、ソーナの所が一家総出で来るとか嫌すぎるぜ。
あそこもあそこでバカみたいに変な一家だから苦手なんだよな……。
でも引きこもろうにもババァに釘刺されたし……あぁ、戻って着替えるしかないのか……あぁ、気持ち悪くなってきた。
「仕事をしろとは云いませんが、身形だけはキチンとなさいね? 後ご挨拶も――」
「はいはいわかったわかった……はぁ」
一々うるさいババァめ。
サーゼクスにさえ勝ってたらこんなかったるい真似なんぞしなくて済んだのによ。
テメーの弱さを呪いたくなるぜ。
リアスに一日遅れでシトリーの実家に里帰りをする私と私の眷属達は、1日目をシトリー城で過ごし、2日目――つまり今日から最終日までをリアス達が待つグレモリー城で滞在する。
母同士が昔からの親友同士なのと、幼馴染み同士……そして一誠という存在がそれまで以上に両家の繋がりを強めており、連携もここ数年でより強くなっている。
『ようこそグレモリー家へ!』
冥界に初めて来ることになった眷属達の案内を挟みつつグレモリー家のお城へ到着した私達は、現レヴィアタンである姉を先頭にその門を開くと、待ち受けていたのはグレモリー家のお手伝いさん達による合唱を交えた歓迎であり、最近眷属になった子――特に匙という子は大層面を食らった表情をしていた。
「ようこそおいでくださいましたシトリー家の皆様。我がグレモリー家は歓迎しますわ」
「やっほーリアスちゃん!」
グレモリー家の家族の皆様を代表して、次期当主であるリアスがまずは私達に歓迎の挨拶をすると、やはりというか、空気を読まない姉がリアスに抱き着きだす。
「うーん……またおっぱい大きくなった?」
「や、やめてくださいレヴィアタン様……!」
「お姉様!」
全く恥ずかしい……。
ウチの両親とリアスの両親は微笑ましそうに眺めてるだけで止めもしないし、此処は私がと止めようと声を荒げてしまうも、姉は全然止めずリアスに抱き着きながらキョロキョロと無遠慮に演奏しているグレモリー家の皆様の中に混じっているだろう彼の姿を探している。
「いーちゃんは?」
正直云うと、グレモリー家への訪問の理由の大半は彼にある――というのは昔から決まっている事であり、思わず姉だけが使う一誠の愛称に釣られて私も彼の――一誠の姿は何処なのかとキョロキョロと探してしまう。
「………………」
すると、姉の声に反応したのか、グレモリー家の皆様の後ろに隠れていたと思われる一誠が、嫌々といった顔を隠しもせずヴェネラナ様とグレイフィア様に引き摺られる形で現れ、私達の前へ立つ……勿論燕尾服姿で。
「うっそ、日之影だと……!?」
「わ、わぁ……アレが噂の執事モードの日之影クン……」
その際、この姿の一誠を知らない私の眷属数人が驚いた様子で目を逸らしながら無言を貫こうと悪あがきをしている一誠を見つめており、何故か私は微妙な優越感を感じた。
「あ、いーちゃん! 暫く見ない間にまた逞しくなっちゃって~! お姉さんと再会のハグハグを――ふびゃ!?」
「…………」
私達の前へと立った一誠が、嫌そうに目を逸らしているのを見た姉が、妙にテンション高くリアスと同じように抱き着こうとしたが、当然一誠がそれを許すわけも無く、飛び掛かってきた姉にカウンターの拳骨を浴びせて地面とキスさせる。
ふざけているものの、レヴィアタンという魔王の地位に着いている姉を拳骨一発で黙らせた姿に、冥界に初めて来た一部の眷属の子達がギョッとした顔をしているが、私や両親は一誠の行動に怒りを向ける真似は決して無かった。
だって昔からのやり取りだし。
「いたたた……あ、相変わらずの愛の鞭で安心したよ☆」
「……。テメーは相変わらず嘗めた格好だなセラフォルー」
『!?』
そんな姉は顔を汚しながらもムクリと立ち上がると、蔑んだ目をしてる一誠に変わらずニコニコなんてしながら宣っており、一誠も怠そうに『会話』する。
普段は私かリアスとしかまともに会話をしないと知る匙達冥界初見組の眷属の子達は大層驚き、そして固まっているけど、こんな程度で驚いていたらキリが無いと思うわよ。
「一誠よ! お義父さんと再会のハグは……」
「寝言は死んでから言ってろおっさん」
「あら……相変わらず手厳しいですね一誠」
「チッ……厄介なババァが増えりゃあこうも――」
「はい、何ですって一誠?」
「………………。いや、べつに」
ウチの母とヴェネラナ様に対して微妙に弱い姿もあるとかね。
夕飯は軽いパーティとなるらしく、時間まで自由となった私は眷属達に時間まで自由にしてなさいと命じ、自分は一誠を尋ねて彼の部屋の前まで来た。
「リアスと最近ずっとだったし、私だって……」
基本的に一誠はリアスの傍に居る頻度が高い。
仕方ないと言えばそれまでだけど、やはりちょっとは寂しいと思うわけで、折角夕飯まで時間はあるし、ちょっとくらいなら……という気持ちと共にドアノブへ手を伸ばした時でした。
『欲しいのか? え?』
『うぅ……!』
ドアノブに触れたその瞬間、一人の筈の一誠な部屋から聞こえてくる如何わしい声に、私は思わず開けるのを止めて扉に耳をくっつけていた。
『氷水でキンッキンに冷やしたこのタオルが欲しいんだろ?』
『ほ、欲しい……!』
………。冷やしたタオル? え、というか今の声は一誠と――ね、姉さん!?
『欲しい~? ……………くださいだろ?』
『く、ください……!』
扉に耳に当て、中から聞こえる声を聞き逃さないと躍起になる私は、何でサーゼクス様と話し合いをしている筈の姉が私を然り気無く出し抜いて一誠のお部屋に居るのかとか、さっきから聞かされる如何わしい会話にドキドキしてしまう。
『くださいだぁ? 違うな、『私のような雌豚の火照った身体をお冷ましください一誠様』……だろ?』
『わ、私のような雌豚の火照った身体をお冷ましください一誠様……!』
そもそも一誠と姉はこんな関係じゃないというか……いや姉はそんな予兆はあったけど、少なくとも一誠がこんなノリノリでサドっぽい事を言っているのを聞くのは初めてで……。
止めなければいけないという良心と共に『い、一誠の罵倒の声をもう少しだけ……』という気持ちに傾いてしまって扉にくっつけた耳を離せない。
『一誠様ー』
『一誠様ァ……!』
『この雌豚の身体を冷やしてくださいー』
『こ、この雌豚の媚びた身体を冷やしてくだしゃいぃ……!』
そんな私の気持ちなぞ知りもしない一誠は、姉さんを相手に明らかに楽しそうな声でヒートアップさせ、姉さんもまた一誠に命じられたままはしたない言葉を……こ、こう……ちょっとえっちな声で言っている。
私の心臓は更に高鳴り、全身が熱くなる。
『あーもう早く頂戴ー?』
『あぁん、もういじわるしないで早く頂戴いーちゃんぁん……!』
「だ、駄目ぇぇぇっ!」
ですが、最後の最後で良心と姉に対する羨ましさから扉を勢いよく開け、止めようと……そして何をしていたのか確かめようと中を見ると……。
「……と、いうわけで来期から始まる私が作ったアニメの声優をいーちゃんに頼みたいんだけど……。
キャラはちょっとM気味な主役ヒロインの、ちょっとSな幼馴染みって役回りで……」
「ぜってーやだ。一回だけって言うから動きまでつけて付き合ってやったが、めんどくせーよ――てか、テメーは何時まで足にしがみついてんだ離れろバカ」
「あん……♪ さっきの役作りから抜けてないせいか、今のもちょっと気持ち良かったかも……」
中に居たのは、今頃裸にされて凄い羨ま――じゃなくて如何わしい事をされていた筈の姉が分厚い本を片手に一誠の足にしがみき、それを嫌そうに払い除けようとしている何時もの一誠の姿だった。
「あ、あれ?」
「あ? 何だよソーナ?」
「え、い、いや……あ、あれ?」
「どうしたの? 顔が真っ赤だけど―――あ、まさかさっきの台本読み合わせを聞いてたとか?」
「っ!? い、いいいい、いえ!? 聞いてませんけど!? 一誠に罵倒されて羨ましいとか思ってませんけど!?」
「……………。聞いてたなコイツ――しかも最悪な誤解をされてるし」
「あちゃー……でもソーナちゃんの気持ちはすんごい解るしなー」
全部只の誤解だったと解った私は、色々と恥ずかしすぎて死にたくなりました。
でも誤解されるような事を個人の部屋でやってる二人が悪いのであって、私は悪くないというか……。
し、しかしそれにしても……。
『これが欲しいのか? え?』
『このインテリぶってるいやらしい雌犬にください……だろ?』
『欲しいです一誠様……だろぉぉぉがっ!』
む、無理矢理組伏せられ、着ていた服を無理矢理引き裂かれて……そして、そして――――はっ!?
「い、一誠のせいよ! この鬼畜!」
「……。何で俺が罵倒されなきゃなんねーんだよ」
「あらー……ソーナちゃんが開けてはいけない扉をあけちゃったかも」
く、くぅ……で、でもちょっとやって欲しいかも。
補足
当時このネタやった時、ちょうどおそ松さんが流行してた時期で、元ネタはそれです。
何だっけ、誰か一人残して風邪になっては看病する流れで、一松が看病するターン時のアレ……だったか?
それを台本の読み合わせに付き合わされた一誠か渋々……けど若干乗ってセラフォルーさんにやってたらしい。