執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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別に深い意味なんてタイトルに無い


スイッチ魔王少女

 夏休みなので冥界に長く滞在するリアスとソーナ御一行。

 

 その滞在の合間にリアスとソーナは若手の悪魔としての会合を行ったり、シレッと来ていたアザゼルに戦闘データを取られたりと割りと忙しい夏休みだった。

 

 そんな忙しい悪魔達とは別に、唯一の純人間にてシトリー家とグレモリー家から絶大なる信頼を寄せられている日を避けて影に徹したい少年こと日之影一誠は、転生悪魔ですらなく、尚且つ四大魔王の内の二人から寵愛じみた庇護下に居るという勘違いも甚だしい誤解を多くの悪魔から認識されており、基本的にヘイトを貯めまくっている。

 

 例えばそう、会合の際はリアスとソーナでは無くセラフォルーの護衛に付いていた所を目にされれば舌打ちされたり、殆どの貴族悪魔に人間の悪知恵の固まりと揶揄されたりと、コミュ障というのもあるせいで一誠という人間のイメージはグレモリーとシトリーを騙してる詐欺人間扱いだった。

 

 勿論リアスやソーナやセラフォルーを筆頭にそんな事は無いと訴えてるのだけど、やはり一誠が無口で態度が悪いせいかその誤解は中々解かれる事は難しそうだった。

 

 

「昨日はありがとうソーナ」

 

「こちらこそリアス」

 

 

 そんな一誠の立場が続いていく中、この日リアスとソーナは先日行われたレーティングゲームを終えての挨拶を握手を交わしながら行っていた。

 

 若手悪魔の会合の最中にあった少しのイザコザが原因で魔王による提案で始まったリアスとソーナのレーティングゲームなのだが、どうやら互いに凌ぎを削りあった良い試合だったらしい。

 リアスとソーナが握手を交わすのに続き、それぞれの眷属達も握手していた。

 

 

「ところで一誠が見当たらないのだけど、ソーナの所に戻ってないかしら?」

 

「あら、私はてっきりリアスの所に戻ったと思ってたけど……?」

 

 

 宴もたけなわに握手を終えた両者は、両者のレーティングゲームが組まれたその日以降、『公平さの関係』によりサーゼクスからレーティングゲーム終了まで外泊する様に頼まれ、この日まで本当に一誠の姿を見てなかった。

 

 しかし先日にてレーティングゲームは終了しているので、てっきりリアスもソーナも互いの実家に居るのかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 はてそれなら一誠は一体どこに? と眷属達と首を傾げていた所に然り気無くずっとグレモリー家に上がり込んでたアザゼルが『そういや……』と思い出した様に口を開いた。

 

 

「お前らの執事なら昨日セラフォルーに引っ張り回されてるのを見たぜ? 何かすげーげんなりとしてたみてーだけど」

 

 

 むしゃむしゃと誰かに作られたのだろうポップコーンを食べながら軽い調子でセラフォルーと一緒だぞと教えるアザゼルに全員の視線が突き刺さる。

 

 

「セラフォルー様と?」

 

「確かに私達のレーティングゲームが終わるまでは姉の近くに居るって話だったけど、終わっても尚一誠と遊んでるのかしら」

 

「多分そうじゃねーか? 貴族共が忌々しげにあの執事睨んでたし」

 

 

 『目の敵にされてるよなーあの執事は』と呑気に話すアザゼルはそのままフラフラとグレモリー家の中へと入っていく。

 

 

「そのまま戻らせるつもりが無かったみたいねあの方は」

 

「ええ、まったく……」

 

「じゃあ先輩はまだ戻って来ないんですか?」

 

「折角一緒に遊んで貰いたかったのに……」

 

 

 セラフォルー一人に出し抜かれた――とは思わないが、それでもギャスパーや小猫などのちんまいタイプは残念そうにしている。

 まあ、人間界の学校にリアスとソーナの護衛次いでに通い始めてたからはこういう時でないと殆ど会えないのだし、多少は仕方ないとも思えるため、リアスやソーナなんかはある程度黙認するつもりだった。

 それにセラフォルーのはしゃぎにキレて帰ってくる可能性もあるし、ましてや二人きりだったとしても何が起こるわけでもない。精々先程アザゼルが言った通り引っ張り回されるだけだろう。

 

 そう考えた二人は残念がる眷属達にそう告げ、帰りを待ってあげましょうと話すのだった。

 

 

 

 

 その頃、冥界のどこか。

 若手悪魔の会合から始まったリアスとソーナのレーティングゲームに伴い、両者片方を鍛えてしまったら公平性に欠けるという理由で終了するその時まで外に出ていた一誠は暫くセラフォルーの護衛をしていた。

 セラフォルー自身に果たして護衛が必要なのか? という疑問もあるが、本人がとにかくやって欲しいと言うのと、一誠自身外に出ても野宿かサーゼクスの用意した宿泊施設で過ごす以外やる事も無かったので、暇潰しという意味で暫くセラフォルーの傍に居た。

 

 よくも悪くもセラフォルーは目立つ為、傍らに居る自分に対して多くの悪魔がネガティブ的視線を向けてきたりもしたけど、一誠本人は雑魚の視線なぞ知らんと無視をしてるので問題も無く、セラフォルーの護衛もリアスとソーナのレーティングゲーム終了に伴い、終わりを迎えて帰ろうかと思っていたのだが……。

 

 

「やらぁ!!! 帰っちゃ嫌!!」

 

「……………」

 

 

 グレモリー家の一張羅――つまり燕尾服の後ろのスリット部分を掴まれ、帰ろうとする一誠に対して本気過ぎる駄々をこねまくるは、これでもソーナの姉で四大魔王のレヴィアタンであるセラフォルー。

 

 肩出しのトップスにスカートという、魔法少女衣装を正装と宣えるセラフォルーにしては地味に見える服装なんだけど、帰ろうとする一誠に駄々っ子みたいに地面を引きずられてる為、所々汚れてしまってる。

 

 

「お前の下僕にでも後は頼め―――って、お前って確か持ってなかったな下僕」

 

「そうよ、だからもっと居てよ!」

 

 

 何故か眷属を一人たりとも所持しないまま魔王をやってるセラフォルーに帰さんと燕尾服のスリットを掴まれるだけで既に目立ちまくっていて、レヴィアタン護衛の悪魔が物凄いひきつった顔で見ているのが一誠には見えた。

 

 

「あの、日之影様、聞けば今月末まで滞在すると伺ってます。

でしたらその……どうか魔王様の我が儘を聞いてあげて頂きたいのですが……」

 

「…………。」

 

 

 護衛の一人にてセラフォルーにより数少ない悪感情を一誠に持たない護衛悪魔が物凄く申し訳なさそうにコミュ障発動の一誠に頭を下げる。

 それを受けて一誠もかなり渋い顔をして返事の代わりとして返すのだけど、自分の足にしがみついてまだ嫌嫌言ってるセラフォルーを蹴り飛ばして帰っても良いことが全く無いのは目に見えてる。

 

 はぁぁ……と深くため息を吐いた一誠は、自分の足にしがみつくセラフォルーを猫のように首根っこを掴んで無理矢理立たせると、余程帰って欲しくなかったのか、涙目になってた彼女に言った。

 

 

「わかった、何で急にそんなに頑ななのかは知らないけど、要するにもう少しオメーの護衛してれば良いんだろ? ったく、俺は何時からこんなパシりみたいな真似を……」

 

 

 後半は殆ど愚痴っぽく、言われた通りにしてやると渋々話すと、半泣き顔だったセラフォルーの表情がパァァっと明るくなり……。

 

 

「いーちゃん!!」

 

 

 勢いそのままに一誠目掛けて飛び付こうとした。

 

 

「ええぃ鬱陶しい! 離れろ! それとその呼び方はやめろ!!!」

 

 

 何故こんな女にここまでされなくちゃならないんだ……と腰辺りをロックされながら抱きつき、顔を近づかせてくるその頭を押しやりながら嫌がる一誠に、セラフォルーの護衛は心底ホッとするのだった。

 

 何せこの夏より少し前に一度一誠がリアスやソーナ達と戻ってきた際、ベロンベロンに酔った一誠による大事故以降、それまで以上に一誠の事ばっかりになってしまった。

 

 護衛も一応その大事故が何なのかを聞いた――というか、セラフォルーにしつこいレベルで自慢気に語られたので知っている。

 故に我が儘言い出したセラフォルーを制御できるのはこの魔王と真正面から殴り合える人間の少年だけであり、護衛の悪魔達はセラフォルーにひっつかれて鬱陶しそうにしてる一誠に心の中で呟いた。

 

 

『ホント、セラフォルー様を何とかしてあげてください』

 

 

 と、何でも良いから一緒になったら落ち着くだろうとセラフォルーの制御材になってくれと手を合わせるのだった。

 

 

 そういう理由の為に帰るに帰れなくなっていた一誠は、引き続きセラフォルーの護衛をする為に基本的にセラフォルーが居住にしてる旧レヴィアタン城に缶詰にされていた。

 

 

「どうせ仕事なんてサボって勝手に来る癖に、何で帰っちゃ駄目なんだかさっぱりわかんねーよ」

 

「だって、帰っちゃったらリアスちゃんやソーたん達と一緒になって、いーちゃんと二人きりじゃないじゃん?」

 

「二人だろうが三人だろうがどうでも良いだろそんなの……くそ、護衛共にも押し付けられるし、最悪だぜクソが」

 

 

 手持ち無沙汰なのと、軽い職業病のせいか、せっせとセラフォルーの仕事部屋の片付けや掃除をしながらセラフォルーの言い分に一誠はハタキで本棚のほこりを叩きながら鼻を鳴らす。

 

 

「そもそもオメー、この前から変だぞ? こっち見るたんびクネクネしやがって。蛸にでも生まれ変わりたいのか?」

 

「だって、この前の帰省の時にいーちゃんがあんな事するし、しかもアレが初めて同士だったって聞いたから……」

 

「だから何の話だよ? この前からそればっかで具体的に話しゃしねぇし」

 

 

 大勢の前では基本的にイッセーくん呼びだが、二人きりやプライベートだと愛称のつもりか『いーちゃん』と呼ぶセラフォルー。

 その呼ばれ方にイッセーは今まで何度と無くガキ扱いされてる気がして嫌なので訂正させようとしたのだけど、本人にやめる意思が全然無いせいか、最近は殆ど口だけで注意する程度に留めてほぼ諦めており、今もいーちゃん呼びしながら、この前の帰省について話し出すが、本人はベロンベロンに酔ってたので全然覚えてない。

 

 

「えっと、それはそのぉ……」

 

 

 ポンポンと書類の山をめんどうそうに片付け、一応仕事らしい仕事をしているセラフォルーの手が止まり、ポッと頬を赤らめる。

 

 泥酔して悪酔いし、性別無差別キス魔に変貌した一誠による第一号にされた……と言いたいけどちょっと恥ずかしくて口ごもってしまう辺り、遅れて現れた思春期なのかもしれないが、悲しいかな一誠本人はまったく――それも自分の初めてのキスがこの昔から変を通り越してただの変態女悪魔と思ってる相手だとは知らない。

 

 ましてや、普段は痴女丸出しな格好ではっちゃけてる様な女なのだ。

 今更キスのひとつや二つでここまで引き摺る様な性格だったなんて思いもしないだろう。

 小さい頃から知ってるだけに余計。

 

 

「い、いーちゃんって、誰かとちゅーした事ある?」

 

「あ? 何だ急に……」

 

 

 結局挙動不審のセラフォルーから聞くのは無理だなと早々に諦めたいーちゃんこと一誠は、彼女に背を向けながら窓を丁寧に拭いていると、急とも言える話の振りに思わず振り返ってしまう。

 

 すると一誠の目に飛び込んで来たのは、全く魔王の仕事に手をつけず、指をもじもじさせながらこっちを見てる変態女悪魔の、逆にこっちが具合でも悪いのかと心配になる珍しすぎる姿。

 

 

「変なもんでも拾い食いしたのかお前……気味悪いんだけど」

 

「なっ!? わ、私だって女の子なんだけど!?」

 

「女の子って……人間換算じゃ三十路に届きそうなおばはんが何をほざいてんだよ……普通に引くわ」

 

「おばっ!? ひ、ひどいよいーちゃん……。確かにいーちゃんからしたら大分年は上かもしれないけど……」

 

 

 コミュ障が発動しない相手なのか、かなり喋るこの姿はリアスやソーナの眷属達が見たら軽く違和感だらけだが、生憎この場に居るのはセラフォルーと一誠の二人だけ。

 故におばはん呼ばわりされて凹むセラフォルーにケタケタ笑う姿もまたセラフォルーにしてみれば見慣れてる姿だ。

 

 

「お前が凹むなんて相当だな。

グレイフィアとは反応が違うけど」

 

「グレイフィアちゃんはなんて?」

 

「無言で頭どついてきたと思ったら、そのまま服ひっぱがされてヴェネラナのババァに向かって投げ付けられた……。その後の事は思い出したくもねぇ……」

 

「ふ、ふーん……? 中々に過激だねグレイフィアちゃん……」

 

 

 顔を白くさせながら軽く身震いする一誠にセラフォルーはちょっと顔をひきつらせる。

 女性に対して年齢で弄るのは地雷原の中でブレイクダンスするくらい危ないのはあの時で思い知ったらしい……その割りにはヴェネラナを今みたいにババァ呼ばわりしたりセラフォルーをおばはん呼ばわりしたりするのだが。

 

 

「まぁ、そういう訳だから今のは軽い冗談だとして、何だっけ? 誰かとキスしたかって話だったな。

あぁ、あるわけ無いだろ、ガキの頃からサーゼクスぶちのめしてやるって事しか頭に無かったからな」

 

「! へ、へぇ~?」

 

 

 と、本人はあくまでも未経験と言ってるが、意識がない間に何人かにほぼ犯されてる感じでされてる事は知らないらしい。

 とはいえ、それが始まったのは泥酔してキス魔に変貌した後の事だから、それを考えるとやはり正真正銘の初めてはセラフォルーになる。

 

 それを本人からめんどくさそうに聞いた瞬間、セラフォルーの顔は自然とニヘラニヘラと緩んでいた。

 

 

「何だよ……気色悪いな」

 

「えっへへ~ そっかぁ、いーちゃんはまだかぁ……」

 

 

 最初は自分の衣装をそこら辺の竹尺でぶっ飛ばした単なるスケベな子供だと思ってたのに、ニヤニヤするのが止まらないセラフォルー。

 小生意気な子供がいつの間にか自分の背を追い越し、青年と成長してからは余計に意識してしまう事が多くなったけど、やはりリアスやソーナを思うと流石に自分は――とも一時は考えていた。

 

 が、今一誠から聞いたお陰でやっとあの時から抱いたモヤモヤに踏ん切りがついた。

 

 

「そっか、うんうん……やっぱりいーちゃんには責任を取って貰おうっと☆」

 

「あ?」

 

 

 衣服を吹っ飛ばされた、泥酔で滅茶苦茶キスされた事について全責任を取って貰おう。

 ニヨニヨしながらそう告げたセラフォルーに一誠は片方の眉を器用に吊り上げながらこっち見てる彼女を見つめるが、変に変をブレンドさせたこの女悪魔の挙動がおかしいのは今に始まった事じゃないと自己完結し、移行していた床掃除を仕上げるのだった。

 

 

「はぁ、終わった」

 

 

 そんなこんなで二人きりの時間は過ぎていき、遂にセラフォルーの仕事部屋の清掃を完全に終わらせてた一誠は、然り気無く魔王の仕事を終わらせていたセラフォルーに今度こそ帰るぞと告げる。

 

 

「えぇ? いーちゃんにお掃除させてばかりだったから、少しくらいお礼させてよ?」

 

「要らねーよ、この前みたいに痴女衣装を次々見せられるなんて嫌だし」

 

「そういうお礼じゃないよいーちゃん。ほらおいで?」

 

 

 お礼がしたいと言うセラフォルーにまたしても引っ張られ、仕事部屋から出た一誠はどこでも無駄に広いな、金持ち悪魔の根城は……と何の気なしに考えながら、セラフォルー自身のプライベート部屋に案内される。

 

 

「おい、やっぱり同じだろ……」

 

 

 そのプライベート部屋に案内されたその瞬間一誠の顔は嫌そうに歪む。

 それはセラフォルーの部屋は部屋というよりは寝具があるだけの衣装倉庫みたいな部屋だからだ。

 

 これでも実家のシトリー家の彼女の部屋の100分の1の量しか無いのだからドン引きものである。

 

 

「だから違うって、ほらここ座って☆」

 

「……チッ」

 

 

 そろそろ力尽くでも帰るか? と軽く舌打ち混じりに考えつつも言われた通りセラフォルーが此処で寝泊まりする時に使用してるベッドに座らされた一誠。

 

 そしてセラフォルーは腰かけた一誠の隣に何故か座り、妙に甘えた視線を寄越し始める。

 

 

「は?」

 

 

 てっきりここから着替えては一々見せびらかしてくるのかと思ってた一誠は怪しむ様に、割りと至近距離になって甘えた目をしてるセラフォルーを見る。

 昔から何を考えてるのかいまいち掴めなかったが、この時もまた初対面時並みに読めず、暫く目が合ってたのだが……。

 

 

「ね、ねぇいーちゃん? その、さ……さっきの話じゃないけど、ちゅー……してみない?」

 

 

 徐々に頬を紅潮させながらの、言葉に一誠はポカンとしてしまった。

 

 

「……………………はぁ?」

 

 

 何だ急にコイツ? と、ちょっと照れてる仕草のセラフォルーから若干離れながら訝しげな顔をする一誠。

 

 

「……。何で離れるの?」

 

「急に訳のわからない事をお前が言うから」

 

「わ、訳がわからないって何よ? これでも結構勇気出したんだよ?」

 

 

 まるで罠でも疑う様な警戒さに若干凹みながらセラフォルーは言う。

 普段の行いのせいだとはまさにこの事なのかもしれない。

 

 

「ていうか、そんな事を言うためにわざわざこんな所に俺を連れてきたのか?」

 

「う、うん……」

 

 割りと平然と辛辣な言葉を向けられ、落ち込みながらも頷く。

 この反応からして間違いなく断られるだろう……そう考えて更に気分が沈むセラフォルーだったのだが……。

 

 

「だったらもったぶらないでさっさと言えよ。

で、どこにすりゃ良いんだ?」

 

「…………へ?」

 

 

 返ってきた言葉は予想を大きく外し、尚且つかなり軽い調子のもので、思わずセラフォルーは顔をあげて一誠を見る。

 

 

「あ、あのいーちゃん? キスだよ? ちゅーなんだよ? しかもいーちゃんにとっては初めてなんだよ? 何でそんな軽いの?」

 

「軽い? あぁ、これ軽いのか? 悪いけど意識したことも無いからよくわからない」

 

 

 首を傾げて見せる一誠にセラフォルーはハッとした。

 だからベロンベロンになった時あんなキス魔になっちゃったんだと。

 

 要するに一誠はキス自体を相当軽く考えてるのだ。戦闘極振りのせいで。

 

 

「えっと、じゃあお口とお口の……」

 

「口ね、はいはい……」

 

 

 しかしこれはまたとないチャンスなのかもしれないと踏んだセラフォルーは、そのままの勢いで一誠に指示すると、はいはいと軽い返事をした一誠と向かい合い、目を軽く閉じた。

 その際、今までにないくらいに心臓が早鐘し、全身が熱くなったりとしたりで、もしこのまましちゃったら一体自分がどうなるのかとセラフォルーはこの先の展開を大いに期待したのだが――

 

 

「…………………って、バーカ、嘘に決まってんだろ?

流石にそんな軽く出来るかっつーか、何でオメーにそんな事しなきゃなんねーんだっつーの!」

 

「いたっ!?」

 

 

 訪れたのは唇の感触では無く、額に走る鈍い痛みだった。

 そう、目を閉じてたセラフォルーは軽くその額にキスの代わりに凸ピンをされたのだ。

 

 パッと目を開けて見れば、ケタケタと笑いながら小バカにした顔の一誠……。

 そう、セラフォルーはおちょくられてたのだ。

 

 

「ひ、酷い! 私の事騙したの!?」

 

「騙しただぁ? いきなりトチ狂ったオメーを正気に戻してやっただけだぜ? つーか何マジになってんだよ? あははは!」

 

 

 

 怒るセラフォルーに向かって腹まで抱えて大笑いする一誠もまたレアな姿だが、おちょくられた本人にしてみれば冗談じゃない。

 このドキドキをどうしてくれるんだと、怒り出したセラフォルーがポカポカと一誠を叩きながら抗議する。

 

 

「酷い酷い! 年上をからかって楽しいの!?」

 

「特にオメー相手なら毎日やっても飽きないねぇ? くくく、急にマジなツラした時は笑いこらえるのが大変だったぜ………あははははは!!!」

 

「わ、笑わないでよぉ! うわーん!!! いーちゃんのばかぁ!!!」

 

 

 遂には泣き出してしまったセラフォルーだけど、一誠はそれを前にしてもまだ笑っている。

 これもまた一誠にとって『他人ではない』相手にだからこそのコミュニケーションのやり方なのだけど、これはこれで酷いと言わざるを得ない。

 

 だからこそなんだろう……。

 悪魔をおちょくった罰は割りと重い……。

 

 

「あーぁ、面白かった。さて帰るわ、じゃーな、年甲斐もなく何か勝手にマジになったセラフォルーちゃま? ひゃひゃひゃ!」

 

「うー……! このまま帰さないよ!!」

 

「うぉ!? てめ、離れろコラ!」

 

 

 さっさと部屋を出ようとしたその背中に本気でしがみつき、そのまま揉み合いになる二人。

 

 

「わっ!?」

 

「っぶね!?」

 

 

 そしてセラフォルーの足と一誠の足が引っ掛かり、そのまま盛大にひっくり返り、そこから面白いくらいに互いが密着し、ゴチンと額が激突し……。

 

 

「「あ………」」

 

 

 気付いた時には床の上で互いに抱き合う体勢で向かい合っていた。

 

 

「チッ、少しはできるようになったじゃねーか」

 

「え、う、うん……」

 

 

 体勢からしたら一誠が押し倒されたみたいな体勢であり、上手いこと組伏せられたと解釈した一誠は軽くふて腐れた様にセラフォルーを褒める。

 はっきり言ってただの偶然だけど、セラフォルーは取り敢えず頷きながらも、ふと自分の措かれてる状況に気付き、瞬時に閃く。

 

 あ、これいけんじゃね? と……。

 

 

「ねぇ、いーちゃん?」

 

 

 その閃きに従う形となったセラフォルーが急にニコニコしながら一誠を愛称で呼ぶ。

 

 

「その『いーちゃん』っての本当にやめろよ………ってなに?」

 

「さっきさぁ、結構――ううん、本気で期待したんだよ私? でもさ、いーちゃんったら私の事おちょくっただけで結局してくれなかったよね?」

 

「何が?」

 

「ちゅー☆」

 

 

 可愛らしく、にっこりしながら話すセラフォルーにイッセーは本能的な危険信号をキャッチした。

 そう、この笑みはスイッチの入ったヴェネラナによく被ったのだ。

 

 

「退け―――」

 

 

 だからこそ一誠はセラフォルーを押し飛ばそうとした。

  が、一誠相手に割りと凌ぎを削っていたセラフォルーもまた進化をしており、それよりも速く一誠の手首を床にそのまま縫い付ける様に押さえつけると。

 

 

「この前さ、お父様に間違って渡されたお酒飲んでベロンベロンに酔ったいーちゃんは、狂ったみたいに私にちゅーしたんだよ?」

 

「は、はぁ!? …………!? だ、だからあの次の日どいつもこいつもおかしかったのか!?」

 

「うん、そういう事。で、あのとき最初にいーちゃんがしたのが私で、あれが私の初めて……ふふ、これ、どういう意味だかいくらニブチンないーちゃんでもわかるよね?☆」

 

「て、テメェ、俺の服と床を氷で縫い付けて――っ!?」

 

 

 さっきよりも頬を紅潮させ、ある程度の抵抗をさせないようにし、そっと顔をひきつらせた一誠に顔を近づかせるその様はいつものセラフォルーには無い異様なまでの妖艶さがあった。

 

 

「だから……絶対に責任取ってよいーちゃん☆」

 

「酒飲ましたお前のオヤジに文句言えや! 第一そもそもテメーは魔王だろうが! 人間のガキ一匹に何をマジに――」

 

「小さい頃のいーちゃんに服を脱がされた時から私はずっといーちゃんに"マジ"だよ。うん、そうだね、言い方を変えてあげる―――――好きだよいーちゃん?」

 

「はぁっ!? 知らねーよそんな――あむむっ!?」

 

 

 これで後でボコボコに殴られても良いや……という覚悟。

 その覚悟と先程のおちょくられで吹っ切ったのか、セラフォルーはベロンベロンに酔っ払った一誠にされたあの時と同じ――言ってしまえばアレなキスをした。

 

 

「気に入らないなら、私の舌そのまま噛み切っても良いよ? 自分でやっちゃってるって自覚はあるし」

 

「お、俺お前にこんな事したのかよ……」

 

「したよ? しちゃったよ? お陰で暫くいーちゃんの事が頭から離れなくてね……えへへ、まさかあんな小さかったいーちゃんに骨抜きにされるなんて思わなかった☆

だからほら……もっとしようよいーちゃん……ちゅ、んっ……」

 

「く、くそ……こ、コイツさっきより進化してるだと? しかも急速に……こ、の……あ、ちょ……ヴェネラナのババァみたいにどこ触って――あ、おい!? やめろ! あひぃぃぃっ!?!?」

 

 

 この日以降、一誠はヴェネラナ並みにセラフォルーに頭が上がらなくなった……らしい。

 

 

 ちなみに、兵藤を奪った方の一誠は悪魔とのフラグが立てられないからと無限の龍神とフラグを立てに自ら死ににいく真似をしていたらしいが、それはまさにどうでも良い話だった。




補足

服を吹き飛ばされました。
ベロンベロンに酔っ払ったまんま凄いチューをされました。

思い切りおちょくられました。

………ここまでされたら流石に魔王だもん、怒るよ。


その2
コミュ障発動させない相手だとこんなもんですね。

寧ろかなりお喋りかも。
だからこそ仲良くなりたい人達は悶々としちゃう。



その3
ちなみにこの頃の転生者はとある黒猫とかと出会してるらしい

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