執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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ホント微妙ながら改訂してます。


執事と眷属達
グイグイ来られてビビる執事


 

 

 サーゼクスに負けた時と同等の精神ダメージを受け、それを誰かに相談する相手も居ないまま胸の内に秘める事になった一誠は、その日以降は淡々とした業務を続けていた。

 それは新学期となった現在でも変わらず、寧ろ夏休みに溶けかけていた色々なものが嘘みたいに凍てついてしまっていた。

 

 

「………」

 

 

 自分の記憶が無い所で泥酔した挙げ句、誰彼構わず襲い掛かったなんて聞かされれば誰だってショックだし、何より散々虚仮にしてやっていたセラフォルーに組伏せられたという現実は、負けず嫌いの一誠にしてみたら何物にも代えがたい屈辱である。

 

 

『お、おぼ、覚えてろよバーカバーカ!』

 

 

 ぶっ飛ばしてやろうとしたのに結局出来ずに逃げる様に退散してしまったのも後悔でしかない。

 故に一誠はこれまで以上に自分を追い込み続け、異常な進化をし続け、若干軟化したように見えたコミュニケーション能力は更に拗れ、今現在の彼はリアスとソーナ以外との接触からそそくさと避けてる様にすら見えていた。

 

 

「先輩は?」

 

「基礎訓練と言って町中を全力疾走中よ。最近は妙に自分を追い込んでるのよねぇ」

 

「私達とも全く話さないのは変わらないですが、それに加えて顔を合わせようともしないですし……」

 

「僕たちが何かしてしまったのでしょうか……?」

 

「しつこく一誠さんに付いていったのが駄目だったのかな……」

 

 

 新学期が始まったオカルト研究部に来ない一誠が、町中を何かを吹っ切りたい様に毎日毎日全力疾走しているというリアスの言葉に眷属達のテンションは少し下がり調子だ。

 ある意味リアスの知り合いでの最古参で、人の身であり続けながら強い一誠とどうしても仲良くなりたいと願い続ける健気な子達。

 

 今年の夏休みの間にほんの少しだけ縮まったと思ってたのに、新学期が始まってからの一誠は以前と変わらない無言無表情を貫いてしまってるせいで、眷属達はそれが自分達のせいでは無いかと心配するのだが、一誠の性格を理解してるリアスは軽く笑みを見せながら首を横に振る。

 

 

「その心配は無いわ。皆が原因じゃないことだけは確かよ」

 

 

 あれは寧ろ別の何かでしょうと、眷属達に落ち度は全く無いとフォローするリアスは燃える様に紅い髪を耳に掛ける仕草をしている。

 

 

「変わり始めが私とソーナのゲームが終わって、セラフォルー様の護衛から戻ってきた時だから、恐らくはその時にセラフォルー様と何かあったとかだと思うわ。

例えば、何かしらの事でセラフォルー様に敗けたとかね……あの子昔から誰かに負けると一人で修行に行っちゃうから」

 

「……。流石先輩と昔から一緒だっただけに、何でも知ってますね部長は」

 

「知ってても、それに見合う力が無ければ、知った風な口を叩いてるだけにしか見えないわ。

もし私がアナタ達と同じタイミングで出会ってたら会話すら成立しないでしょうし、こればかりは偶然よ」

 

 

 掌の上に小さく形作った魔力の玉で軽く遊びながら、一誠という進化し続ける人間との仲を若干自虐的に話す。

 真の意味で対等に話せる相手が誰かとするなら、それはサーゼクスだったり、やり込められるヴェネラナだったり、一誠の精神を見出だした安心院なじみなる存在だろう。

 

 

「私にはまだその力は無い。

確かにお兄様と一誠によって見出だされたスキルがあっても、その領域に入れるかは自分次第」

 

 

 リアスの掌に浮かび上がる小さな魔力の塊が収束し、やがて消え去る。

 

 

「あの子を悔しがらせれば、その報復の間は他に一切目もくれずにその相手を見続ける。

一誠って少しだけ間違えた一途さがあるのよ……アナタ達の中――特にギャスパーなんかは体験した事があるんじゃない?」

 

「確かに……あの状態の一誠さんは物凄く情熱的……かもです」

 

「「「………」」」

 

 

 意味深な笑みを向けるリアスにギャスパーは何故かほんの少し頬を赤らめさせながらはにかむ。

 そんな経験がひとつ足りとも無い祐斗や小猫や朱乃は、然り気無くどころか発覚してから妙に感じ続ける敗北感に再び打ちひしがれながら、そんな事がこの先あるのかと心配になってしまうのだった。

 

 

「とはいえ、それと会話をしないとはまた違う事なんだし、アナタ達も一誠を知ってから短くないのだからそろそろ打ち解けるべきなのよね。

特に朱乃なんて最近までかすりもしてないでしょう?」

 

「え、ええ……小猫ちゃんや祐斗くんはほんの少しながらありましたけど、私は本当に何にも……」

 

 

 リアスの眷属という意味では最古参なのに、一番一誠との距離が物理的にも心的にも離れてる気がする朱乃は、ドSさも出せずにしょんぼりしている。

 一度リアスがほぼ無理矢理に対面して会話させようとしたら、真っ青な顔で今にも吐きそうな様子で飛び出してしまったのもあるし、それ以降小猫やら祐斗が少しずつ一誠に近寄れてるのに軽く嫉妬心を覚えたのは否定できない。

 

 だが嫉妬した所で一誠との距離が狭まる訳じゃないので、朱乃も自分なりに色々と試したけど効果は全く無いのが今の現状だった。

 

 

「そうね、ならこうしましょう!」

 

 

 一誠に実力勝負を仕掛けても秒殺。

 勇気を出して話をしても相づちのひとつも無い。

 というか返事の言葉すら無い。

 無い無いだらけでそろそろ泣けて来た朱乃を見て、そろそろ本当に何とかしてあげないといけない時が来たのかもしれないと悟ったリアスが妙案とばかりに手を叩く。

 一体何を思い付いたのか、さぞかし凄い作戦なんだろうなと少しだけ期待してしまう朱乃だったが、全員を集めて思い付いた内容を聞かされた瞬間、本人だけでなく他の仲間達も微妙な顔をした。

 それで本当に上手く行くのか? ……と。 

 

 

 

 

 町内を全力疾走で何十週もしながら、あの日セラフォルーとの間に起きた不覚を忘れようとしていた一誠が、結局寸足りとも忘れる事が出来ずに学園に戻ってきた。

 自分が兵藤一誠として全て失った元凶足る男があまりにも弱すぎたせいで、微妙に締まらない復讐も自分という存在に日々怯えて生きなくてはならない事を思えば最早どうでも良くすらなっており、最近も知り合いになったらしい例の金髪の女とばったり鉢合わせした瞬間、目に見えて自分を恐怖していた。

 

 化け物を見るような目で……いや、死んでなかったという誤算と始末が出来ない後悔と悔しさにまみれた顔で自分を見る姿も最早何も感じない。

 寧ろ感じるのは、こんな程度の存在にしてやられた当時の自分の弱さへの怒りだけだった。

 

 

「…………」

 

 

 相変わらず生徒会とオカルト研究部のメンツと顔見知りで親しいように見えてるのか、事情を知らぬ者達に嫉妬じみた悪意を受ける一誠は、走り込み時に着ていたジャージから学生服に着替えてオカルト研究部へと足を運ぶために旧校舎へと向かっていた。

 

 意外な事に男子の多くがやるような腰パンだの、第2ボタンを外したシャツを着たりだのとした事はせず、キッチリとした着こなしだ。

 これはリアスの母であるヴェネラナによる教育と、割りと長年本人にとっての罰ゲームである執事紛いな仕事がそうさせており、喧嘩になってテンションが上がる時以外はいっそ堅苦しいまでのピッチリした着こなしだった。

 

 なので教師にコミュ障以外での生活態度で注意をされた事が無かったりする一誠は、セラフォルーとの一件にて知ってしまった泥酔時によるしょうもない行いについてを何とか思い出してはならないと自分の頭を軽く叩きながら、オカルト研究部の部室に入る。

 

 

「………」

 

 

 リアスが居れば適当に町中の全力疾走ついでのパトロールについて異常は無いという報告をしてから時間を見てソーナの所へ……。

 リアスが居なくて他のみなら来るまで適当に隅っこで知恵の輪かルービックキューブでもしてよう……等と考えてたのだけど……。

 

 

「おかえりなさいませ……」

 

「……………………………………」

 

 

 部室にリアスは居らず、居たのは何故か日本の大きな神社が祭りか何かの時にでも着る紅白衣装……所謂巫女服を着た姫島朱乃ただ一人であり、三つ指ついて床に正座して自分にお辞儀していたので一瞬一誠はピシリと固まった。

 

 

「今日は皆を鍛えてくれる……と聞いて、レーティングゲームの時と同じくこんな格好をさせて貰ったのですが……まだ来ないんですのよ?」

 

「………」

 

 

 鍛える? 何の話だ? と話の意図を察するにリアス達の行方を知らない様子の朱乃に対し、一誠は運動の時よりも量の多い変な汗を背中に滲ませながら、犬みたいに辺りをキョロキョロと落ち着きの無い様子であった。

 

 リアスが間に入いらないで、しかも碌に話もしてない相手と二人だけ……一誠にしてみれば普通に地獄だ。

 

 

「ただ待ってるのも、その……何ですし、お茶でもお入れしましょうか?」

 

「が………………がぅ……」

 

 

 巫女服姿の朱乃に何を抱くなんて事は無く、話を振られてただただテンパる一誠は、間抜けな獣みたいな声をやっとさ出しながら、後退りして部室から出ようと扉のノブに手を掛ける。

 しかしその瞬間、無理矢理持たされた携帯がブルブルと震え始め、取り出して中身を確認してみるとメールだった。

 

 差出人はリアスであり……

 

 

『事情があって今ソーナ達と外に出てるの。

だからそれまでの間、教師に呼び出された関係で合流できなかった朱乃の事をおねがいね?』

 

 

 中身は簡潔ながら一誠にとっては史上最高難易度のリアスからのおねがいメールだった。

 わざわざ後ろにハートの絵文字を入れてるのに軽くイラッとし、思わず携帯を握りつぶしてしまいそうになった一誠なのだが、朱乃に声を掛けられてハッと我に返る。

 

 

「? 部長からメールですか? 差し支えなければ内容を…………あ、ごめんなさい、話せませんよね……」

 

「………………」

 

 

 内容を知りたがった朱乃が気づいた様に謝るので一誠はひとまず携帯を仕舞い、口のはしっこをピクピク痙攣させながら落ち着かない様子で部室の中をうろうろと歩き出す。

 

 

「……………」

 

「あの、大丈夫……ですか?」

 

「………………」

 

 

 こんな願いなんて無視すべきなのだろうと一瞬思った。

 だがそれだと自分が逃げたみたいな感じがして敗けた気持ちになる。

 コミュ障だけど負けず嫌いな一誠にとっての天秤としては、この胃がキリキリするような空間に碌に話せない朱乃と居るか、それとも逃げるかを考えたらこの場に留まってしまった方が少なくとも敗けじゃないと傾き、目が物凄く泳いだ状態で椅子に座り、ソワソワと身体を揺らしてリアス達が戻るのを待つことにした。

 

 

「……………」

 

「リアス達は遅いですわね……一体どこに……」

 

 

 『やべぇ、どうすれば良いのかまったくわからない』と一人しなくても良いパニックを引き起こしてる一誠とは裏腹に、のんびりとした口調でリアス達の帰りが遅いことを呟く朱乃は、内心物凄く巡ってきたチャンスにハシャイでいた。

 

 

(ほ、本当に二人だけになった……! で、でも一体何を話せば――いえ、どう切り出したら……)

 

 

 負けず嫌いな面を突っついてやれば簡単だというリアスの言う通り、呆気なく二人だけになれたこの状況を嬉しく思う反面、さっきから落ち着かない様子でテーブルを指でコツコツ叩いてる一誠にどう会話しようかと悩む朱乃だったが、またしても震えた一誠の携帯がその悩みを解決させる事になる。

 

 

「……………!?」

 

(間違いなくリアスからのメールみたいだけど、どうしたのかしら? かなり驚いてるけど……)

 

 

 『私に任せなさい!』と言ったきり、深くは語らずに自分がやりたいとブー垂れる小猫やギャスパーや祐斗を連れてソーナの所へと行ってしまったので、朱乃はリアスが何をやってるのかが分かってない。

 

 察するに一誠からなにかをさせる為にメールでそれとなく何かを指令してる様子だが、それを見た途端一瞬朱乃と目が合った一誠の顔面が蒼白となってる辺り、少なくとも一誠にしてみればとてつもなきハードルの高い何かなのだろう。

 

 

「っ……ざけ……んな……!」

 

「あ、あのー……?」

 

 

 蒼白な顔ながら、怒ってる様子の一誠に朱乃はますます気になるので思わず話しかける。

 すると声を掛けられた事自体に驚いたのか、一誠は飛び上がる勢いで身体をびくつかせると、前と同じく今にも吐きそうな顔で何かを葛藤する表情を浮かべていた。

 

 

「ブツブツブツブツ……」

 

(本当にどんなメールだったのかしら……かなりの無茶振りな様だけど、私大丈夫よね? 回り回って蹴り飛ばされたりしないわよね……?)

 

 

 頭を抱えてブツブツブツブツと呟いてる一誠に若干キレる前兆を感じて心配になる朱乃。

 他人とコミュニケーションを取る事に限界が訪れると火山の噴火みたいに激昂して暴れだすのは前に一度見た事があったからこその必然的な心配だったのだが……。

 

 

「すーはー……ひーひー……!」

 

 

 もう一杯一杯なのが見てとれる深呼吸をし始めたのは割りと見ない姿だったので、朱乃は思わずその姿を暫くボーッと見ていた。

 

 誰かを介してでなければ話さない。

 認めた相手以外とは話さない。いや慣れた相手じゃないと話せない。

 そんな相手とちゃんと仲良くなりたいと思い始めてもう何年経ったのか……。後輩達が次々と追い抜いていく中を少し諦めていた朱乃についに……出会ってから割りと長かったりする一誠はついに……。

 

 

「………………ご、ご……ご趣味は、なんです………か?」

 

 

 死にそうな顔をしながら、そして噛み噛みながらも生まれて初めて姫島朱乃に話し掛けた。

 

 

「へ?」

 

 

 顔面汗だくの過呼吸気味で声を出した一誠に一瞬自分が話し掛けられたのだと理解出来ずに目を丸くしてしまった朱乃に一誠は後悔した様にサッと顔を逸らした。

 

 

「ふ、ふざけんな……ご趣味は何ですかって何だよ……意味わからねぇ」

 

「………」

 

 

 どうやら自分の言った台詞に後悔したらしく、恥ずかしいのか頬を軽く赤くさせながら小さく自己嫌悪の言葉を吐いていた。

 それが何と無く可笑しくて、つい朱乃は笑ってしまった。

 

 

「ふ、ふふ……!」

 

 

 戦ってる時は口が回るのに、普段はただ話すだけでもあんなに大変そうなのか。

 最初は自分からも踏み込めずに戸惑ってたけど、この何とも言えない……言うなれば初対面同士のお見合いの第一声みたいな台詞によって少しだけ朱乃の中に勇気を芽生えさせた。

 

 

「趣味は……うーんそうですわねぇ? ある男の子を長年知ってるし、顔を合わせる機会も多いのに今までお話も出来ずに居たので、何とかお話出来るようにする為に自分を磨く事ですわ」

 

「ぁ……え、っと……それは……」

 

「ええ、アナタの事ですわ。

今やっと向かい合ってお話できて嬉しい……」

 

「なんだそりゃ、わかんねぇ……」

 

 

 ニコリと微笑む朱乃を何と無く直視できずに目を逸らす一誠。

 なんでも良いから朱乃と話をしてみなさい。出来なかったらお母様が悲しむわね……。

 

 なんてメールを貰った瞬間、リアスが余計な真似をして姫島朱乃と向かい合わせたなと察した一誠は当初殴り倒しに行こうと思った。

 だが、ババァことリアスの母からのまさかのメール……。

 

 

『リアスから聞いたわ、逃げたりしないわよね? 私の大事な息子なのに♪』

 

 

 というリアスに報復しに行けば即座に出張ってやる的メールのせいで逃げられなくなってしまった。

 だから吐きそうなのを何とか我慢して、コミュ障故に碌な切り出し方も知らずについついお見合いの第一声みたいな台詞を吐いてしまったのだが、どうやら掴みは良かったらしく、妙にニコニしながらしょうもない自分の質問に対して律儀に返して来た。

 

 良かった……と内心ホッとしながら、辿々しく言われた通り逃げてない証明として朱乃と話をしていく。

 

 

「これからもお話してくれますか?」

 

「え……なんで……」

 

「何でって、一誠くんと仲良くなりたいから……」

 

「仲良く……? あ……」

 

「? どうかしました?」

 

 

 話すのが苦手じゃなくて嫌いなだけだと、コミュ障にありがちな言い訳をしてきた一誠との会話は思いの外朱乃も楽しく、つい親しくなりたいが為に敬語口調が抜け始めて来た頃、何かを思い出した様な顔をする一誠。

 

 そして一瞬だけ躊躇した様な顔をしながらも、朱乃に向かって最初よりは落ち着きながらこんな質問をした。

 

 

「……ゴールデンウィークの日、冥界に帰った時の事は覚えてるか?」

 

「ええ、まだ数ヵ月前だし。それが……?」

 

 

 自分の入れたお茶を飲んで貰おうと差し出しながら朱乃はゴールデンウィーク時の事は覚えてると返す。

 すると一誠は小さく『覚えてるのかよ』と呟くと、かなり苦い顔をし、ひねり出すような声で言った。

 

 

「俺がソーナの親父に間違って飲まされた酒で記憶がすっ飛んだ時の状況の事は……」

 

「えっと、はい……覚えてますよ勿論。

忘れられる訳無いじゃない……」

 

 

 泥酔した時の行動をセラフォルーに聞いたが、まだ他に聞いてない為信じたくなかったのでこの際だからとあの場にいた筈の朱乃に聞いてみた所、返ってきたリアクションはセラフォルーと被っていた。

 

 そのリアクションだけで十分だった。

 

 

「あ、そう……本当だったんだセラフォルーの言った事は……」

 

「セラフォルー様から? なるほど、だからあの時の事を。

その……この機会に言うけど、私……初めてだったわ」

 

「……は!? あ、アンタに俺が!?」

 

「ええ、こう……獣みたいに押さえ付けられて、貪られる様に……舌までこう……」

 

 

 泥酔してキス魔化した一誠に初めてを奪われた……という割には当時を妙に鮮明に覚えてる様で、もじもじと頬を赤らめながらその時の事を話す朱乃に一誠は内心『俺は一体何を……』と死にたくなってきた。

 

 

「一誠くんは暑かったのか上半身裸だったし、その……唇どころか舌まで奪われた時に色んな所を触られたり……」

 

「いや、いやいやいや……いや! セラフォルーも似た様な事を言ってたけど……お、俺が本当にそんな……!」

 

「はい。だってベロンベロンだったし、仕方ないと思う。

それに殆どの女性は最初はびっくりしたけど誰も抵抗しなかったし、寧ろ途中で腰砕けになっちゃったと思う。私なんかそうだったし……」

 

「抵抗しろよ!? 金的でも噛ましてやりゃよかったろ!?」

 

「だ、だって……普段の一誠くんじゃ無かったから驚いちゃって……」

 

 

 然り気無く殆どの女性に対してという新たな情報に苦虫を噛み砕いた顔しかできない一誠。

 しかもセラフォルーと同じく別に嫌では無かった的なコメントに対してどう思えば良いのかもわからないし、今まで自分なりに抱いてた罪悪感はなんだったのか……。

 

 

「前にさくらんぼの茎を一誠くんが舌で蝶結びしていたのを見たけど、その通りに上手というか、多分もうあれを知っちゃった私達はダメになっちゃってるかなって……」

 

「そ、そっすか……」

 

「でも良かった、お話出来た上にこの話もできて。

ずっとしてみたかったから……」

 

「はい……」

 

「セラフォルー様やリアスやソーナ様が腰砕けになるんだもの、私なんか抵抗できないわ」

 

「……」

 

 

 碌に話もしなかった相手にまで及ばせた凶行はどうやらかなりやらかしたらしい。

 冥界から戻ってから以降、毎日毎日電話して来るセラフォルーのあの態度から考えても、その時の自分をぶち殺してやりたい……そう思いながら朱乃の入れたお茶をチビチビと飲むのだった。

 

 

「リアスと交わされてる会話が私とだなんて、新鮮だけどとっても嬉しい。

何年もこの時を待ってたから……」

 

「明日になればまた元に戻るかもしれない……」

 

「そうかもしれないけど、今日みたいになれるまで私は頑張るわ。

だって、小さい頃からの一応の顔見知りなんだから」

 

「……」

 

 

 終わり。

 

 

 

 

 

 オマケ。

 

 誤解。

 

 

 携帯の操作が割りと下手な一誠は、素朴な質問を部活中のリアスと色んな打ち合わせで来ていたソーナの二人に聞いてみた。

 

 

「なぁ、画像や写真のデータってどうやって消すんだ?」

 

「いきなりどうしたのよ?」

 

「画像や写真はファイルマネージャーから操作して消せば良いけど、何よ、まさかスケベな写真でもダウンロードしたの?」

 

 

 冗談っぽく一誠に言うリアスだったが……。

 

 

「ある意味それに近いな。いや、ダウンロードってどれかは知らんけど、送られて来るんだよ……」

 

「………………誰に?」

 

「………………セラフォルー」

 

 

 魔王の名前にソーナとその場に居合わせた二人の眷属達の動きがフリーズする。

 

 

「貸して一誠」

 

「おう」

 

 

 思わず真顔になって携帯を受け取ったソーナは、電話帳に登録されてる数少ない存在の中に居る姉のセラフォルーからのメールと、それに添付されてる写真のデータに絶句する。

 

 

「こ、これって……!」

 

「どんな写メールかしら――――って、これは……」

 

 

 絶句するソーナの隣からひょいと画面を覗いたリアスも思わず固まる。

 

 

「これ、日付見る限り人間界に戻ってから毎晩来てるわね?」

 

「あぁ、まぁな……」

 

「ちょうど私とソーナがレーティングゲームする為に暫くセラフォルー様の護衛をやってから妙に様子がおかしかったけど、まさかこんな大胆な……」

 

 

 何だ何だと気になるって顔をする眷属達には絶対見せられないソーナは、自分にはやれないやり方で突撃してきたセラフォルーにちょっとしたジェラシーを抱いてしまう。

 

 というのも、毎日毎晩の電話の後に送られるメールに添付される写真データは、最早自分を夜のお供に使ってくださいと言わんばかりのセラフォルーの自撮り写真であり、全力で一誠を取りに来てるとしか思えないものだった。

 

 

「『いーちゃんへ、写真だけど私を使ってくれたら嬉しいな☆ でもその内私自身も使ってね?』…………やっぱり一誠に護衛されてる間に何かあって本気になりだしてるわねセラフォルー様……」

「勇気を出して聞くけど、その……一誠はお姉さまの写真でそういうアレしてたりするの? 家だとそんな気配は全然無いけど」

 

「したら敗けた気分になるから絶対無い。

てか、消し方教えてほしいって時点で察してくれよそこら辺を」

 

 

 とは言いつつ、あの組み伏せられた時以降、微妙にセラフォルーに対して気まずい気分だったりする一誠。

 もろに好きだよ的な事も言われてるのもあってセラフォルーからの写真はちょっと残したくないのだ。

 

 

「えっと、意地っ張りな男の子は大きく受け止めてあげる……と。

なるほど……いーちゃんの事はよしよししてあげれば良いんだね☆」

 

 

 吹っ切れて以降、割りと本気で取りに来はじめた魔王。

 

終わり




補足

お母ちゃんが強すぎる件。

そして泥酔時の事を徐々に知り始めて自己嫌悪の執事くん。


その2
セラフォルーさん、本気出し始めました。

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