執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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とにかく愛情という概念が怖い執事君。

理由はまあ憑依を免れた代わりに一度全て失ったからというのが大きい。


このヤサグレた執事に過保護な愛情を

 ヴェネラナ・グレモリーが初めて一誠を見た時の印象は、『かなりヤサグレてる子供』といった感じだった。

 

 我が子であるサーゼクスが何処からか拾って来て、いきなり保護すると言い出した時は何を考えてるのかが読めずに反対もしたりした。

 けれどその子供は翻弄される形で独りで、後に自分達も知ることになるスキルを発現させていて、娘と変わらない年頃にして既にサーゼクスに重症を負わせる程の力を持っていると知った時、この子供は誰かに導かれなくてはならないと悟った。

 

 魔王の一人として君臨するサーゼクスに毎度負けてるとはいえ、真っ向から殴り合える人間など他に居る訳が無く、その力を使う事で危険な存在になってしまうのも充分に考えられるし、周囲に壁を作って独りになりたがる態度から見ても、その兆候はあった。

 

 ともするなら、サーゼクスの言った通り、友や実の親に忘れ去られて独りになってしまったこの少年を、悪魔である自分達が言うのも変な話だけど、全うな道に進ませるべきだ。

 

 そう思ったヴェネラナはこの日から兵藤から日之影に姓を変えた一誠の親代わりとなった。

 

 それも、ちょっと過保護っぽい愛情を惜しみ無く与えまくって。

 そして一誠の親を名乗れるだけの力を引退気味だったこの日以降再び磨きながら……。

 

 結果……

 

 

 

「あらあら、また髪をそんなにくしゃくしゃにして! 整えてあげるからお膝にいらっしゃい!」

 

「じゃかあしぃんじゃババァ!! ほっとけ!!」

 

 

 反抗期が無かった息子とは違い、第二の息子はめちゃくちゃ反抗期になった。

 いや、最初からこんな感じだった気もするけど、ヴェネラナにとっては息子も娘も孫娘も夫も、赤髪だらけの中、血どころか種族すら違う息子とはお揃いの色をした髪色だからというのもあるせいか、どこかの合法ロリお母さん宜しくに過保護であり続けていた。

 

 

「聞いたわよ? リアスの兵士としてゲームに出るんでしょう? やっとアナタの存在を冥界に認めさせる絶好の機会だし、キッチリとした格好をしないと……」

 

「知るか! 雑魚共に認められる要素がどこにあるってんだ!」

 

 

 とある存在により実の親に忘れ去られた分の愛情を。

 未だ拭えぬトラウマを少しでも忘れさせてあげる為に。

 ヴェネラナ・グレモリーはある意味で間違いなく日之影となった一誠の母親であった。

 

 

「良いから来なさい! 櫛で整えてあげるから!」

 

「要らねーってんだ!」

 

 

 

 

 ライザー・フェニックスとのレーティングゲームが決まってから明くる日、結局サーゼクスがニタニタしながら『良いよ、出ちゃいなよ?』という鶴の一声で一誠までもが巻き込まれてしまったゲームについての会議をする為、眷属達はオカルト研究部の部室に集結していた。

 

 

「これがレーティングゲームの基本ルールのブック。

一誠はこれを読んでルールを把握してね?」

 

「あの能天気バカが!

結局俺を巻き込みやがって……絶対にぶちのめしてやる……!」

 

 

 リアスから手渡されたレーティングゲームについての教本を嫌々受け取った一誠は、眷属達の変な期待の籠る眼差しを無視して定位置である部室の隅っこに移動し、体育座りしながら読み始める。

 

 

「クソが、何で悪魔共の茶番に俺が……」

 

 

 全力で嫌がる姿勢ながらも、根が律儀なせいかルールブックはきちんと読んでる一誠に眷属達は何とも言えないほんわかとした気持ちにさせられる。

 

 

「さ、一誠! 私が読み聞かせてあげる!」

 

「寄るなぁっ! この場所は俺の聖域だ!!」

 

 

 しかも今日はわざわざやって来たヴェネラナがいるせいかより感情的であり、それが余計にほんわかとさせる。

 今だって寄ってくるヴェネラナに犬の威嚇を思わせる唸り声を上げてるし、正直ずっと観察してみたい気持ちが大きい。

 

 

「一誠の事はお母様に任せて、私達はライザー・フェニックスとのゲームに勝つ事に集中しましょう。

朱乃、彼のこれまでのゲームの様子を映しなさい」

 

「は」

 

 

 髪の色だけを見たら本当の母子に見える一誠とヴェネラナのやり取りを背に朱乃が持ち込んだモニターに対戦相手であるライザー・フェニックスのゲームプレイ映像を映し出し、それを全員で観戦しながら彼の癖やら何やらについて討論する。

 

 

「彼の眷属はフルメンバーではありますが、正直言うと個々レベルはそこまで高い訳じゃありませんね。

寧ろ王であるライザー・フェニックスの持つ不死の特性が厄介かと」

 

「そうね、中途半端にダメージを与えてもたちどころに再生するからある程度のごり押しも可能」

 

「追い込まれてもライザー・フェニックスが直接相手の王を討ち取って勝利するパターンが多いですわね。

消耗戦に持ち込まれると厄介です」

 

「不死の特性を持つ場合、どう相手にすべきか……これが鍵になりそうだけど、一誠ならどう戦うか是非意見を聞いてみたいわ。ねぇ一誠――」

 

 

 フェニックスの名前通りの特性を持つライザー相手に消耗戦を避けるにはどうするべきかという議題について、一誠に意見を聞いてみようとリアス達は曰く『聖域』らしい彼の定位置へと振り返り……思わず微妙な顔をしてしまった。

 

 

「良いですか一誠? レーティングゲームはただ勝つだけでは駄目よ? 観戦者を唸らせる優雅さも必要なのです。

ゲームという名の通り、殺し合いではありませんからね」

 

「わかった……わかりました、だからもう勘弁してください……」

 

 

 一誠曰くの聖域に入り、死んだ魚みたいな目をしている一誠を後ろから腕を回し、まるで小さな子供に本を読み聞かせてる様な体勢となっていた。

 

 

「………」

 

「? 元気が無くなったけど、どうかしたの?」

 

「……………」

 

 

 屈辱通り越して疲れた顔となる一誠にヴェネラナはキョトンとしている。

 流石リアスとサーゼクスの母だけあって、そのハートは強かった。

 

 

 

 

 

 

 血の繋がらない母子のやり取りを生暖かく見守り、そのままゲームに向けて身体を慣らす事になったリアス達は、グレモリー家が持つ修行場にやって来た。

 

 

「もう帰ってくれよ……頼むから」

 

「娘と息子の成長した姿を見ない母親がどこにいますか?」

 

「俺は息子じゃねーよ……」

 

 

 さも当然の様に付いてきたヴェネラナにげんなりしながら一誠はリアスと向かい合う。

 

 

「お前の母親だろ? 何とかしろよ」

 

「こうなったお母様は止まらないわ。それは一誠だって知ってるでしょう?」

 

「……チッ」

 

 

 無理と呆気なく返しながら鋭いハイキックを放つリアスの足首を掴んで止めた一誠は舌打ちをする。

 全くその通り過ぎて返す言葉が無いのだ。

 

 

「あのババァ、テメーの娘が食い過ぎで豚になる事を注意しろってんだ」

 

「ぶ、豚じゃないわよ! ちょ、ちょっと体重が増えただけで……」

 

「それこそ豚の言い訳だな、ソーナはまだ…………いや、アイツはアイツで色々と足りてねーのか?」

 

 

 掴んだ足をそのまま身体ごと振り回して投げ飛ばされたリアスは猫化を思わせるしなやかな着地でダメージを逃がし、掌に滅びの魔力を生成し投げつけるのと同時に目にも止まらぬ速さで一誠の背後に回り込む。

 

 

「そうやってまたソーナだけ誉めるのね! もう、これでも食らいなさい!」

 

「ふん」

 

 

 回り込み、背に向けてもう一度滅びの魔力を撃ち込むリアスの、一誠を見て覚えた高速移動術によるコンボ。

 

 呑気にくっちゃべってるせいで気の抜けること請け合いだし、リアスとしてはほんの挨拶代わりでしかないコンボなので、当然通用はせず呆気なく滅びの魔力は片手で掻き消されてしまう。

 

 

「少し速くなったわねリアス。けど如何に修行だとしても戯れは控えなさい」

 

「え、えっと……はい」

 

「一誠はもう少し……そうねキリッとなさい」

 

「何でババァに指図受けなきゃなんねーんだよ……」

 

 

 一連の小さなやり取りを見ていたヴェネラナからのダメ出しにちょっと凹むリアスと、鬱陶しがる一誠。

 本番になったらその遊び心を持つなというヴェネラナなりの叱咤なのだが、素直になったら負けた気分になる一誠の態度はかなり悪い。

 

 

「最初から気が進まないのは分かってます。

けれどどうか今回だけは見せて欲しいのよ、アナタの晴れ舞台を」

 

「…………」

 

「一誠?」

 

「わかった! わかったよ!! 今回だけだからな! ったく、そのウザい笑い顔やめろ! ったくもぅ……!」

 

 

 そんな態度の悪い息子に対してヴェネラナは何時ものベタベタはやめ、ただ諭すように微笑みながら名を呼ぶと、一誠も遂に根負けしたのか、吐き捨てる様な言い方なりに今回の参加にやっと前向きになった。

 

 

「どこまでも鬱陶しいババァが……。

おいリアス、持ってる異常性を全部引き出せ、仕方ないから俺もお前等風に戦ってやる」

 

「えーっと、少しは手加減して欲しいのだけど……」

 

「恨むならそうさせたお前の母親を恨むんだな……!」

 

 

 ペッと唾でも吐き捨てる様な言い方で突き放した後、一誠の全身から本来あり得ない筈の『魔力』が放出する。

 しかもその魔力の種類はこの中に居る誰もが見慣れたそれであり……。

 

 

「消えちまいなっ!!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 滅びの魔力そのものだった。

 

 

「先輩が魔力を……? しかもあれは部長と同じ滅びの……」

 

「な、何でですか? 一誠君は人間の筈なのに……」

 

 

 普段は肉体のみで敵を粉砕していた一誠が魔力を扱い始めた姿に驚く祐斗と小猫にヴェネラナが半泣きになって逃げ惑うリアスに向かって滅びの魔力をマシンガンみたいに連射しながら嗤ってる一誠を見つめながら語り始める。

 

 

「一誠とリアスは所謂万能型の異常性を持ってます。

そもそも異常性というのは本来ひとつの事柄に突き抜けた技能を持つから異常性というのですが、一誠とリアスは全ての事柄に突き抜けているのです」

 

 

 ヴェネラナの説明に対して真剣な表情で聞き入る眷属達。

 悲しいかな半泣きになって逃げ回るリアスの事を誰一人として心配してない。

 

 

「ですから、時間さえ掛ければ一誠は進化という形で本来持ち得る事が不可能な力を修得できる。

サーゼクスとの兄弟喧嘩がこれまで絶えず行われていた事により、あの子は魔力という概念をその身で学習し、更に我々悪魔の肉体――いえ、グレモリーの血に適応することで血筋でしか発現できない滅びの力も得られたのは必然なのです」

 

「と、いう事は一誠君がもしその気になれば……?」

 

「いいえ、如何に一誠ともいえどその気になって我等悪魔の特性を吸収するには時間が掛かります。

第一あの子は既にサーゼクス以外の悪魔を越えている……今更特性を学習した所で何のプラスにもなりません」

 

「な、なるほど……シレッと言っちゃうんですね、悪魔を越えてると?」

 

「事実ですもの。目を逸らしては可能性は無くなります」

 

 

 無限に進化する異常性の副産物について今更ながら人ってこうなるのかと、ケタケタ笑いながらストレス解消とばかりにリアスを苛めてる一誠を見つめながら眷属達は改めて凄いと感じる。

 

 

「こ、のぉ!!」

 

 

 そして自分達の王であるリアスもまた、その領域に進んでいるという現実も……。

 

 

「リアスの気配が変わった事だし、今度はあの子についての説明をしましょう。

リアスもまた万能型です、しかもある一点に置いては一誠も認める程に突き抜けた技能を持っています」

 

「先輩が認める……?」

 

「それは一体……?」

 

 

 さっきから逃げてるばかりのリアスが? と自分の王なのにちょっと疑う眷属達。

 リアスが一誠と同類なのは何となくでわかってたが、一体何が一誠を越えているのか……。

 暫く続いた一誠の攻撃がやみ、半泣きになっていたリアスが土で汚れた姿でキッと睨む様にして一誠を見据えた瞬間、それは形となって訪れた。

 

 

「あったまに来た!」

 

 

 弄ばれた悔しさがそのまま態度に出るかの様に全身に魔力のオーラとして放出させたリアスがバッと両手を一誠に向かって突き出す。

 滅びの魔力の塊を放つのか? と一瞬思った眷属達だったが、それが間違いだったと直ぐに理解する。

 

 

「!」

 

 

 少し身構えた一誠が何かに気づいた様に軽く目を見開き、自分の足元に視線を落としたのと同時に一誠の両膝が凍り付き、地面に縫い付けられていた。

 

 

「え……」

 

「氷……?」

 

「あれってセラフォルー様のが持つ力……?」

 

 

 見たことが無かったリアスの一面に驚く小猫と祐斗とは逆に朱乃とギャスパーは、久々に生で見たリアスが自分達の王である由縁にちょっと失いかけていた尊敬の念がよみがえる。

 

 

「セラフォルーの魔力の猿真似か……へっ、くだらねぇ……ぬ!?」

 

 

 足元から伝うように腰辺りまで凍らされた一誠が鼻を鳴らしながら氷を砕かんと腕を振り上げた。

 が、その瞬間全身に強烈な痺れを感じ、動きが止まる。

 

 

「あれは私の……」

 

 

 自分の力と似た雷撃の力を使うリアスを見て小さく呟いた朱乃。

 これこそがリアスの覚醒させた異常性。

 

 

「リアスは他人の持つ力を学習する能力が一誠を越えている。

 見たもの、感じたもの、聞いたもの全てを即時取り込み、自分の力にできる。

残念ながら一誠みたいに進化する速さは敵わないけど、ちゃんと磨けばあの子は強くなれる」

 

 

 一誠という子供を引き取る事で知り得た実子のサーゼクスが進んでいた可能性と領域。

 その力は二人の息子により娘であるリアスも覚醒し、追い付こうとしている。

 自然と頬が緩んでいたヴェネラナは誇らしげに言った。

 

 

正心翔銘(オールコンプリート)……。それがあの子の異常性」

 

 

 血の繋がらない我が子に追い付こうという自分の意思により覚醒した娘のスキル。

 あらゆる力を学習し可能性を広げられるという意味では独りで道を進もうとする意地っ張りを孤独にさせない為の力ともいえる。

 

 

「図に乗るなよ……! こんなものかすり傷じゃぁぁぁっ!!!」

 

「え、ちょっ、ちょっと待ってその体勢は――――あひぃ!?」

 

 

 まだその差は大きいが、リアスもまた悪魔という種を越えた進化を果たそうとしている。

 

 

 

「……………。部長の攻撃を全部受けた上で平然としながら反撃した先輩にお尻蹴られてますけど」

 

「まだまだねぇあの子も」

 

 

 一誠が城を修行の度に破壊するという理由で用意する事になった擬似的な山の修行場に木霊するリアスの悲鳴。

 

 

「猿真似した所でイイ気になるなよ……! この前の時のセラフォルーはこんな程度の薄氷じゃなかったぜ」

 

「うぐ、お、お尻蹴るのはやめて……イタタタァ!?!?」

 

 

 戦う時だけは水を得た魚の様にテンションが上がる一誠のサドっ気たっぷりなやり方は見慣れてるといえば見慣れてるが、娘が尻を蹴られて前のめりに倒れ、追撃に踏みつけられてるのにのんびり笑ってるヴェネラナも大概というか、だから一誠にあそこまで出来るのかと改めて納得してしまう眷属達なのだった。

 

 

「ひ、ひどい……こんなに踏まなくても良いじゃない……」

 

「じゃあ精々そうならない程度に強くなってみるんだな……雑ァ魚が」

 

「く、悔しい……!」

 

 

 

 

 最後には原爆固めで脳天を地面に叩きつけられてKOされたリアス。

 進化を果たしたとはいえ、リアスやソーナはまだその中間に位置するレベルで、一誠は真の人外への扉の前に位置する領域。

 単純に倍の差があるのでこうなるのも必然だ。

 

 ところで、そんなリアス達子供グループに隠れて地味にミリキャスに残したトレーニングメニューを真似してやっていたヴェネラナ――とグレイフィア。

 流石に精神が完全に成熟した大人故にスキルは持ってないものの、その強さは引退したのが嘘の様に跳ね上がっていた。

 

 

「サーゼクスと喧嘩をする時みたいな怖い雰囲気は引っ込めて、こうもう少しクールと言いますか、何事にも動じずに仕事を決行するような……」

 

「一々注文の多いババァだな」

 

 

 有り余る強大な魔力により容姿が若々しいヴェネラナに向かって平然とババァと毒づく一誠のせいで、その都度気まずい空気が流れる。

 リアスですら緊張するくらいなのだからそれはもう変な空気だった。

 

 

「てかもう日も暮れたんだから帰れよ。迎えはどうしたんだよ?」

 

「その事ならさっきリアスに言ったけど、レーティングゲーム当日までの期間アナタ達を傍で見守る事にしましたから」

 

「ふーん……………………ぶばっ!!?」

 

 

 対ライザー・フェニックス戦までの準備期間中を修行に費やし、就寝をも共にするという事になって眷属達とも囲う夕食時にカミングアウトされたヴェネラナの一言に、水を飲もうと口に含んだ一誠は余りの驚きに勢いよく吹き出し、対面側に座ってた小猫に思い切りぶっかけてしまった。

 

 

「だ、大丈夫小猫ちゃん!?」

 

「えっと、はい……」

 

 

 ビシャビシャになった小猫に朱乃やギャスパーが慌ててハンカチで拭いてあげてるのだが、当の元凶である一誠は冗談じゃないとヴェネラナに食って掛かっていた。

 

 

「意味がわからないんだけど!? 何だよ見守るって!?」

 

「だって最近はセラフォルーちゃんに誘惑されてるらしいし? 親としては心配で心配で……」

 

「されてもねーよ! ふざけんな、とっとと帰れ! 第一ジオティクスのおっさんは何をしてやがるんだ!」

 

「サーゼクスと同じく『うむ、良いんじゃないか?』と気持ちよく送り出してくれたわ」

 

「使えねぇオッサンだなオイ!」

 

 

 濡れ濡れになってる小猫に気付かず、この場に居ないジオティクスに対して毒づく一誠。

 ヴェネラナが近くに居ると自分のペースがこれでもかと乱されるので、出来るだけ離れたい一誠としては学生としてリアスの近くに居る為にグレモリー家から離れてる今の現状が良かったのだ。

 なのにまた夏休み時みたいに常日頃顔を合わせなくてはならないなんて……しかもこんな狭い家に。

 

 

「お母様、この家の浴室等は狭いですよ?」

 

「広い狭いは関係無いですよリアス、それに三人くらいは一緒に入れるでしょう?」

 

「それはまあ……」

 

「!? 絶対俺は嫌だかんな! 野宿する!」

 

「ダメよ、風邪ひいちゃうでしょう?」

 

「んなもん高熱を出した方がマシだ!!」

 

 

 帰る気無しでリアスの自宅に泊まる気満々なヴェネラナに、一応リアスの自宅で寝泊まりしている一誠が野宿すると大騒ぎだ。

 

 

「何を不安がってるのよ? あ、もしかして添い寝して欲しいの? 子守唄歌いながら……」

 

「それが嫌だってんだよ! 誰が何時そんなもん頼んだよ!? 昔っから話は聞かねぇで余計な真似ばかりしやがって、干からび過ぎてボケたじゃ言い訳にならねーんだよ!!」

 

 

 そんな事までされてたのか……と、テンパり過ぎて余計な過去を掘り起こしてる一誠を見て思う眷属達。

 学生になるまではグレモリー家に眷属達も居たのだが、実の所一誠とは殆ど当時顔を合わせなかった為、普段どんな生活をしてたのか地味に知らなかったりするのだ。

 まあ、聞いてみると当時も相当ヴェネラナ達に可愛がられてた様だが。

 

 

「干からびたね……わかりました。そこまで言うなら私の何処が干からびてるのか是非ご教授頂こうかしら?」

 

「その手には絶対に乗らねぇ……! そもそも理解できねぇんだよ、此処まで言われてるのにテメーのガキ扱いするのが!」

 

 

 だが段々一誠は溜まっていた鬱憤を全て吐き出さんとばかりのものになり……。

 

 

「何かに付けて家族だ何だと言いやがって。どうせ俺がサーゼクスとやり合える力があるからそうほざいてるだけであって、力も何もないガキだったら見向きもしなかった癖に調子良くどいつもこいつもすり寄りやがって……!」

 

 

 少し……いや、かなり言い過ぎな一言を言ってしまった。

 

 

「一誠!!!!」

 

 

 ババァ呼ばわり以上に……それこそ言ってはならない一言を言ってしまった一誠に対してリアスが怒りの声を張り上げる。

 眷属達は思わずビクッとしてしまうが、怒りを向けられた本人は反省の色がまるでない。

 

 

「あ? 何切れてるんだ? 全部本当の事だろうが。

もしあの時俺が只のガキだったら見向きもしなかっただろう……? お前等だけじゃなく、セラフォルーもソーナも、ミリキャスだろうとそこの奴等も全員な!!」

 

 

 力が無いから全てを失ったからこそ持つ一誠の拭えきれない懐疑心が八つ当たりの言葉となってリアス達へと向けられる。

 

 

「それで何が家族だ……笑わせやがって」

 

 

 幼い頃を彷彿とさせる他人に対する拒絶の姿勢を露にしながら吐き捨てる一誠に、思わず勢いが削げてしまったリアスはショックを受けながら悲しい表情を浮かべる。

 

 

「私達がそう思ってるって、本気で思ってるの……?」

 

「当たり前だ、俺はずっと誰も信じない。アイツ……安心院なじみだろうと信じない……」

 

 

 親と友を奪われただけならよかった。

 奪われただけなら笑い話で済ませられたかもしれない。

 けれど奪われたどころか自分という存在を消去される形で失った時の恐怖。

 それまで当たり前の様に向けられていた愛情が向けられなくなるばかりでは無く忘れ去られたショックは筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 

「何なら失望でも何でもして追い出してくれても良いぜ? ええオイ?」

 

 

 既にその元凶となりし己の模倣の男は、精神をへし折り自分の存在に日々怯えて生きなくてはならないという意味で復讐は果たした。

 けれど復讐を果たした今でも失う恐怖は拭えず、失うくらいなら必要ないと切り捨てる道を選ぶ。

 

 まるでどこかの聖帝みたいに。

 

 

「これで互いによーくわかった筈だ。見守るだか何だか知らないが、好きにすれば良い。俺はお前等の茶番当日まで独りで――」

 

 

 ……。と、まあ此処までくればシリアスっぽい流れとなる訳だが、そうは問屋が下ろさないのが執事シリーズ。

 ヤサグレた態度で席を立ち、一人何処かへと姿を消そうとしたその瞬間、さっきから急に黙り始めたヴェネラナをチラッと見た一誠は、見たこと自体を後悔する事となる。

 

 

「………。グスッ」

 

「――行動させて……貰……う……?」

 

 

 此処まで言えば流石に黙るだろう。そんな事を思っての捲し立てだったのだが、どうやら予想を越えた効果を発揮してしまったらしい。

 ショック受けただけに留まらず、何とヴェネラナは普通に傷ついて泣き出してしまったのだ。しかも、割りと本気と書いてマジな意味で。

 

 

「た、確かに強い力は持ってる、けど、そ、それを利用しよって、考えてなんてなかったの、に……そう、思われてたのね、私って……」

 

「お、お母様……私もショックでした……」

 

「う……!?」

 

 

 嗚咽全開でシクシクとそっくり母子で泣きじゃくる姿に、それまでイケイケだった一誠の勢いが一気に止められてしまう。

 

 

「へ、へんっ! な、泣いた所でどうにかなるもんじゃねーし……」

 

 

 それでも虚勢を張る一誠なのだが、誰が見たってその顔は動揺一色だった。

 

 

「あの、先輩……? 今のは先輩が悪いと思います」

 

「私もそう思いますわ。もし私が言われたら首括るくらいのショックですもの」

 

「うん、人には言って良いことと悪いことがあるけど、さっきの一誠君は後者だと僕も思う」

 

「一誠さんが何でそこまで頑ななのかは僕も少し知ってますけど、ちょっと言い方がキツすぎると思います……」

 

「……………ぅ」

 

 

 今ごろになって小猫が濡れ濡れになってる事に気付きつつ、眷属達からの責めてるのとはまた違う言い方に、心の奥底では罪悪感を持ってるせいか、一誠の顔はかなり罰の悪そうな顔だった。

 

 

「くすんくすん……」

 

「大丈夫ですよお母様。ちょっと一誠はイライラしててつい当たってしまっただけですから」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「本当です。大丈夫ですよ……」

 

 

 本気で泣いてるヴェネラナを見たことが無いというのもあるせいか、リアスに背中をとんとんされながらしくしく泣いてる姿にますます居たたまれなくなった一誠。

 しかし今更ここまで啖呵を切って起きながら訂正するのも変な話だと思ってしまってる為に中々行動に移せない。

 

 

「……。出ていくの一誠?」

 

「あ、い、いや……」

 

「出ていくのは構わないけど、お母様を泣かせたのだからそれ相応の覚悟はしておくのね。

地の果てまで追い回してあげるんだから」

 

「ぅ」

 

 

 スッと目を細めて挑発的にいうリアスからかつてない迫力があり、普段は見下してる一誠が気圧されている。

 オマケに眷属達も無言で一誠を見つめてるし、このまま逃げたら文字通り本気で追い回されてしまいそうな気がしてならない。

 

 結局一誠は、内に押し込んでた罪悪感も手伝い、しくしく泣いていたヴェネラナに目を泳がせまくりながらも声を掛けてしまった。

 

 

「あ、えっと……ほんのちょっとだけ言いたい放題言ってしまった気がしたというか、ババァの癖に泣くほどの事だったのかとビックリと言いますか」

 

「ぐすん……ぐすん……」

 

「一誠?」

 

「一誠君?」

 

「一誠先輩?」

 

「一誠さん?」

 

 

「………あが! わ、わかったわかった! わかりました! 流石に言いすぎましたぁ! 仮にも飯食わせてくれたのに恩知らずな事吐いてすいませんでした! ちょ、ちょっとは信用してます!」

 

 

 リアス達の責めてる視線に遂に折れたのか、一誠はヴェネラナに対して謝る。

 

 

「くすん……でも私の事は母と思ってくれないんでしょう?」

 

「た、た、多少は思うように努力はしてやるよ……うん」

 

「じゃあ一緒にお風呂入ったり寝たりする?」

 

「いやそれは嫌だ……」

 

「……………。ふぇぇ……!」

 

「あが!? が、ぎ……わ、わかり、ました! も、もうわかった! 何でも良いよもう、ババァの好きな様にするよ! 髪でも何でも洗うし、寝たきゃ寝るよ! 髪の色だけは同じだしな俺とアンタは!」

 

 

 良い歳したババァがなんつー泣き声出してんだよ……と思いつつヤケクソ気味にヴェネラナからの色々について前向きになってやると答える一誠。

 それを耳した瞬間、ヴェネラナは孫まで居る悪魔とは思えない少女じみた笑顔を涙を目に溜めながら一誠に向ける訳だが、向けられた本人の顔はこれでもかというくらいに苦々しいものだった。

 

 

「何でそこまで……? 何もかもがわからない」

 

「わからないの? お母様の気持ちが?」

 

「わかる訳ねーだろ。寧ろ謎が深まっただけだし……普通なら不敬で殺すかドブ川に投げ捨てるなりするだろ。何マジで泣いてるんだよ……」

 

「泣いた瞬間、アナタの顔がこれでもかというくらい罪悪感に満ちていた辺り、実の所そこまで嫌では無かったんじゃないの?」

 

「じょ、冗談じゃねぇ! 誰がこんな干からびたクソババァに―――――げ!? お、おい泣くなよ!? わかった、肩揉みしてあげるし、肩叩き券もプレゼントしちゃう!」

 

「ん、では早速お風呂に行きましょう?」

 

「……………………。ボディソープでヌルヌルさせないって誓えるなら――」

 

「リアスも一緒に入りましょう?」

 

「勿論」

 

「聞けよ!?」

 

 

 呆気なくヴェネラナのペースに戻された一誠は、がっつり腕を掴まれながら浴室に連行されていく。

 結局、拒絶しきるにはあまりにもグレモリー家とシトリー家の世話になりすぎてしまっている……それに尽きるのだ。

 

 

「おい!? ボディソープを全身に塗りたくった姿でこっち寄るな! うへぁ!? くっつくなぁぁっ!?!!!!」

 

「良いことリアス? 一誠を振り向かせたくば、この母の真似をなさい。

この子は意地っ張りだけど、こうするとやがて大人しくなるから」

 

「ぬるぬるさせてにゅるにゅるさせるのですね? わかりましたお母様」

 

「クソババァ! 嫁入り前の娘にバカな事教えてんじゃねぇ!」

 

「ミリキャスにも教えちゃってるし、寧ろ今更だと思うけど?」

 

「けど? じゃねーよ! さっきまでの罪悪感を返せ――ひぇ!? 後ろからくっつくんじゃねー!?」

 

 

 

 

 

「断末魔が聞こえる、先輩の」

 

「ヴェネラナ様もお若いですわね……」

 

「ヌルヌルって、何をしてるのでしょうか……」

 

「多分、ヌルヌルな事だと思うよ……頑張ってね一誠君……僕はここで無事を祈るしかできない」

 

 

 結局情を持ち始めてるオマケ。

 

 

終了




補足

ぶっちゃけチートなリアスちゃんの異常。

見上げてる先が化け物勢やししょうがないよね。

その2
オカンには勝てんよ……うん。

その3
濡れ濡れになった小猫たんは……まあ、濡れ濡れ損だったらしい。
そしてヌルヌルがますます嫌いになった一誠くんなのだった。


その4
見向きもしなかったの件はある種真理ですが、結局のところ一誠自身の非情になれずに間抜けな行動をしてしまう姿とか、なんやかんやで律儀になってる性格等……彼自身だからというのも確かにあります。
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