執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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活動報告に意見お待ちしとります。


内弁慶

 うちの一誠。

 つまり神器を持ってる兵藤イッセーの方じゃなくて、私達が本当だと思う一誠は……その、最近の言い方をするとコミュ障って奴だと私は思うの。

 

 というのもだ、過去の事があるからというのが大半でまだ他人に対しての壁が分厚いせいか、一誠にとっては故郷とも言える人間界の学校に通わせても、所謂ボッチで過ごしてる。

 

 一誠は二学年、私は三学年な為に何時も何時も一緒という訳にもいかないし、過去の事もあるから無理強いは出来ないとは思うけど――

 

 

「あのー……一誠さん?」

 

「…………………………」

 

「ええっと……お茶の入れ方をご教授して頂きたいなって……」

 

「……………………………」

 

「一誠、いい加減朱乃達とも一言くらい会話してあげなさ―――え、何? 『葉っぱ入れて熱湯ぶちこんでカップに注げは良い』と言えですって?

だからそれを直接言えば良いじゃないの……!」

 

「……………………」

 

「『無理。話そうとすると吐きそうになる』……って、もう何年同じ事を言ってるのよアナタは……はぁ」

 

 

 いくらなんでもこれは重症だと私も思うし、私が抱えてる眷属達も引いてるし……はぁ。

 

 

「朱乃、毎度の事だけど一誠のお茶はほぼ適当よ。気分で葉の量を変えるし、気分でお湯の温度も変わるし全部気分。

有り体に言えばまるで参考にならないって事ね」

 

「は、はぁ……」

 

「……………………………………………………………」

 

 

 人間界の学校に通うに辺り、私は部活動の部長というのをやっている。

 オカルト研究部……読んで字の如くオカルトチックものを研究している――という建前で悪魔である私や悪魔に転生させた私の眷属達が『本来の仕事をする』為の隠れ蓑みたいなものだったりする訳だが、そのオカルト研究部には眷属じゃない部員――つまり一誠も所属している。

 

 最初は本気で嫌がってたけど、お兄様との決闘での敗北による約束事がある手前逃げられず、加えてわざわざ守らなくても良いのに私の護衛を引き受ける根の律儀さで一誠はサボる事なくちゃんと部活に出ているんだけど。

 

 

「挨拶くらいしてみなさいよ? 朱乃は私と同じ学年でアナタより先輩なんだから……というより、何だかんだで朱乃とも10年近い付き合いでしょうに」

 

「あ、いえ、そんな無理強いはしなくても私は――」

 

「え、何々……『こんにちは、今日はお日柄も良く』と言えですって? だから、それを直接言いなさいっての!!」

 

 

 ただ、冒頭でもあった通り一誠は全く喋らない。

 何だかんだで私の眷属達ともそれなりに付き合いが長いというのに全く会話をしない。

 意思疏通が完全に私を介してという辺りが、一誠が所謂『内弁慶』だと言える最大の特徴だわ。

 

 

「…………………」

 

「えぇ?『他人とベラベラ喋れる程、俺は体力があるわけじゃない』って?

嘘つきなさい! お兄様と極悪人みたいに笑いながら半日以上も殴り合ってる様な男が、もっとマシな嘘を言いなさいよ!」

 

「……………………」

 

「は? 『そこの女王さんと話をした所で何か良いことあるのか?』ですって?

いや、メリット・デメリットじゃないわよ! もう朱乃とも10年近いのよ? 少しは社交性を――」

 

「あ、あの……もう良いですよ?

今日こそはって勝手に私が意気込んでいただけですし……」

 

「もぐもぐ……あ、お茶が無い……」

 

 

 眷属達には『そういう奴だから』と昔から言ってあるので、ある程度理解を示してくれるし、無愛想極まりない一誠に話し掛けてもくれる。

 しかし最古参の朱乃ですらもう10年近く付き合いがあるというのに、一誠は全く会話をしようとせず、子供でもしないような言い訳を盾に私に言いたいことを耳打ちして代弁させるのだ。

 『俺はコミュ障じゃない! 話す理由が無いからだ!』と、私の前じゃ小生意気な事ばかり言うくせにでだ。

 

 

「ほら、言ってみなさい。ちゃんとお話をする相手と目を合わせ、ご挨拶する! はい!」

 

 

 無理強いはしたくは無いが、こうまで改善がないとちょっとイラッとしてしまうのも本音であり……。

 メッセンジャーをやらさせてる身としてはちょっと無理にでも困惑してる朱乃の目の前に突き出し、簡単な挨拶の訓練をさせても私は悪くないと思う。

 

 

「………………ぉ」

 

「む……そう、その調子よ一誠」

 

「……。(ドキドキ)」

 

 

 恨めしそうに私を睨む一誠に心を鬼にして受け流し、朱乃を見ろと顎で差してやる。

 すると観念でもしたのか、あかさまに目が泳いでる一誠はそのまま緊張してる朱乃と何とか目を合わせ――

 

 

「……うぶっ!?」

 

「「あ……」」

 

「お茶……」

 

 

 急に口を押さえながら部室を飛び出してしまった……。

 そして………。

 

 

『おぇぇぇぇっ!!!!』

 

 

 旧校舎内には、一誠の断末魔だけが空しく響く。

 

 

「……。私、一誠くんに気味悪がられてるのでしょうか……? ちょっとだけ泣きそうなんですけど」

 

「いや……私達家族以外と無理に話そうとしからだわ。

朱乃は悪くないわよ」

 

「は、はい……」

 

 一誠は無関心を貫いてるので知らないと思うけど、朱乃はこんな一誠でもちゃんとしたコミュニケーションを取ろうと日々おっかなびっくりで頑張ってたりする。

 けど、こんな態度をされたらいくら朱乃でも凹む訳で……私はフォローをしながら青白い顔して戻ってきた一誠を複雑に見つめる。

 

 

「…………ぅ」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「………………」

 

 

 血色の悪い顔で、加えてまた無言な一誠の姿に朱乃は恐る恐るで問い掛けてるも、一誠は私を怨めしそうに人睨みするだけでやっぱり声は出さない。

 

 

「朱乃……一誠は私に怒ってるみたいだから大丈夫よ」

 

「…………」

 

「は、はい……」

 

 

 朱乃は一切目もくれず、ひたすらに『帰ったら覚えてろよ……』と主張する目をするだけの一誠に朱乃はションボリしてしまってる。

 まあ、10年近くも知り合いとして居るのにまともな会話はできないし、あっても一誠に修行を付けて貰う際のほんの一部しか声を出さない。

 それも……

 

 

『2秒でおねんねしたらそのまま崖からぶち落とす』

 

 

 だの。

 

 

『しゃっきーん、これぞ最強武器・三角定規手裏剣よ。おら……さっさと死ねや!!』

 

 

 とか、修行を付けてくれるは良いけど鬼畜過ぎるやり方で私や私達をしごく時位しか話さないのだ。

 しかもその表情は物凄い嬉々としたそれだし……。

 

 

「まあ、私達はこれからまだまだ長く生きるのだし、ゆっくり少しずつ行きましょう」

 

「………はい」

 

 

 無理強いはしない。

 けど一誠に敵意が無く、歩み寄ってくれる子を目の前で蔑ろにするのを見てるだけなのは流石にしない。

 特に朱乃や小猫や今は外に出払ってる祐斗は、一誠を嫌ってないのだ。

 ……どうしても嫌だと言うならまだしも、嫌では無いが無意味だと言い張ってる以上、私も心を鬼にするつもりだわ。

 

 

「あの、部長……。

また兵藤イッセーがオカルト研究部に入れろと言って旧校舎の前まで来てますが」

 

 

 チラチラと朱乃に見て貰えてるのに気付いているのかいないのか、口を濯いでる一誠の背中を眺めていると、丁度外に出払っていた騎士の駒を持つ眷属・木場祐斗が辟易した様な表情を見せながら顔を見せ、最近ちょっと問題になってる出来事についての処理をどうするかと指示を仰ぎに来た。

 

 

「え、また? いい加減しつこいわね……『部員』は間に合ってるし新規募集の予定も無いから無理と言ってきてくれるかしら祐斗?」

 

「わかりました」

 

 

 それを聞いた私もちょっと顔をしかめ、何時もの対応をしろと命じると、祐斗は素早く頷いて出ていった。

 そう、最近は一誠じゃない方の兵藤イッセーが露骨に接触してくるのが鬱陶しくて仕方無い。

 

 

「そろそろ手を打った方が良いかもしれないわね……」

 

「ここの所毎日ですわよ、彼が来ようとするの」

 

 

 既に事情をお兄様や一誠から聞いてしまってる以上、いくら神滅具持ちの有望株だろうと入れる気が起きないし、況してや悪魔に転生させるなぞもっての他だ。

 前に『そう簡単に転生は出来ないから無理だ』と断ったのにしつこく来るせいで、朱乃達も殆ど兵藤イッセーを信用してないのだが、同時に彼が持つ神器が強大で危険なのも事実。

 

 

「余計な事かもしれませんが良いのですか? 彼って不気味な程――いえ性格以外の全てが一誠君と瓜二つとはいえ、本人は赤龍帝を自称してましたし……」

 

「赤い龍の力を持ってるから眷属にすべきだと?」

 

「そこまでは言いませんが、神器を持ってると自覚した人間をそのままにし続けるのは大丈夫なのかと……。

他の勢力とかに狙われたら……」

 

 

 ほぼ毎日やって来ては眷属にしろとしつこい兵藤イッセーに、祐斗を介した何時もの対応をさせる傍らで、私の女王でありさっき一誠にお茶の入れ方を教えて欲しいと話し掛けていた朱乃と兵藤イッセーについて話し合う。

 やはり兵藤イッセーが自身の持つ特別な力を自覚している事に朱乃も危機感を感じている様だ。

 

 

「危険と言えば危険だけど、此処は人間が支配してる人間界だからねぇ……下手に動いて余計拗らせてしまうのもあまり良いとは思えないのよ」

 

「それは……むぅ」

 

「一誠先輩のお茶……」

 

「……………」

 

 

 

 確かに朱乃の言う通りだと思う。

 二天龍の片割れの力を持つ兵藤イッセーを監視目的で引き入れるのが正解なのかもしれないが、それじゃあ単なる臭いものに蓋をしてるだけにしか過ぎないし、何より……うん。

 

 

「それにねぇ、朱乃も何と無く解ると思うけど、あの兵藤イッセーって子の私や朱乃とあと小猫を見る目が……ちょっとね」

 

「あー」

 

 

 二天龍の片割れは凄い。

 それを自覚して『使いこなせる為に修行してます』らしいのも凄い。

 だが、それ以上にあの兵藤イッセーって子が私やこの朱乃……そして隅の方で黙々とお菓子を食べては、空になってカップを片手にチラチラと何時もの無言顔に戻って私の後ろに立つ一誠に視線を向けてる小猫……つまり女の子に対する視線に本能的危険を感じる。

 だからどうしても嫌なのだ、一誠の事もあって尚更ね。

 

 

「確かにありますわね……。

何というか、油断をしてたら薬を盛られて――みたいな」

 

「ソーナ達にも一応忠告してあるし、何かある前に動くべきなのでしょうけど、まだ直接された訳じゃないしねぇ」

 

「お茶……」

 

 

「…………………………」

 

 

 されようなら消すつもりでは居るし、本当の事を言えば一誠の事含めてさっさとケリを着けるべきだとは思うが、どうにもお兄様や一誠が言う転生者の兵藤イッセーは、赤い龍の力以外に何かを隠し持ってるかもしれないという話らしいし、中途半端にやっちゃうよりも完全に消す大義名分を作ってしまった方が早いかもしれないと私は思う。

 

 

「一誠、嫌じゃなければ小猫にお茶のおかわりを煎れてあげれる?」

 

「……………………」

 

 

 ……。イザとなったら一誠と二人で殺す覚悟もあるけど、今はまだその時ではない。

 いっそ彼から『眷属にしないとアナタ達の事をバラすぞ』と脅迫でとして尻尾を出してくれないかしらねぇ……そうすれば即座に記憶を消すか抹殺するかが出来るのに……。

 

 

「………………」

 

「ぁ……ありがとうございます」

 

 

 私のお願いに、後ろに立っていた一誠が無愛想な顔そのままの無言で小猫に近付き、空のカップにお茶を注いでる姿を朱乃と一緒になって眺める。

 

 

「…………………」

 

「ありがとうと言われてるんだから、少しくらい反応したらどうなのよ……」

 

「…………………………………………………………………」

 

「やはり私達がまだ未熟だからでしょうか……」

 

 

 無言と無愛想な顔のせいでちょっと威圧的に見える一誠に小猫がお礼を言うも無言。

 これもまた何時もの事なのだが、私としては注意したくもなる訳で、役目を終えて再び私の背後に立ってピタリとも動かない一誠に注意をしてもまた無言。

 

 さっき朱乃に対して見せた反応からして間違いなく対人恐怖症だけど、それにしたってその壁が分厚すぎるわ。

 

 

「それは無いわよ。だって同じく未熟な私と普通に会話するわ。最初の頃は朱乃達と同じ感じだったけど、今じゃ私や家族達と会話するし」

 

 

 こんな一誠とよく私や家族は会話が成立できる関係にまでなれたなと思うと、今更ならがら奇跡に近いものを感じる。

 いや本当に……。

 

 

 

 

 

 ……。別に俺は対人恐怖症じゃない。

 ただ、他人と話すのが嫌なだけだ。

 リアスやグレモリー家の連中の場合は押しが強すぎて慣れてしまったからだが、いくらリアスの眷属とやらだろうとも俺からすれば只の無関係な他人なのだ。

 

 会話する必要性も無いと俺は真面目に思っている。

 決して他人と会話しようとすると頭が真っ白になるとか、声がうまく出せないとかそんな理由じゃないぞ? 会話するのが無意味だと思ってるだけだ。

 

 

「言い訳にしか聞こえないけど?」

 

「うるさい」

 

 

 木場……ってリアスの騎士の男が兵藤イッセーを追い返し、悪魔としてしての仕事に精を出す姿を、眷属じゃなくてリアスのコマ使いでしか無い俺はただボケーッと眺めるだけという、実に面白味も無い部活動を終え家に帰って来た俺とリアスは、今日も結局コイツの眷属と何の会話もしなかった事についてネチネチつつかれていた。

 

 

「朱乃も小猫も祐斗も一誠を嫌ってないし、寧ろ色々話し掛けてくれるじゃない。

何でそんな頑なに会話しようとしないのかしらね……この怖がりさんは」

 

「誰があんな雑魚共を怖がるか。会話する意味が見出だせないだけだ」

 

「雑魚共って……。

アナタやお兄様基準で計られたら皆雑魚じゃないの……まったくこの子は」

 

「ケッ」

 

 

 サーゼクスは悔しいが俺より強い、だから会話する。

 リアスとおっさんとオバハンとサーゼクスの嫁はんはサーゼクスの身内で、俺がズルズル10年以上あの家に住み着いたから会話するし、サーゼクスの餓鬼であるミリキャスも……まあ、嫌いじゃねぇ根性してるから遊んでやるかもしれん。

 

 ほら、何処が対人恐怖症だ? 必要と感じれば――そうする価値があると思う相手にはちゃんとする。

 それだけの話なんだよ……それをこのリアスは……。

 

 

「あっ……あっ……そこ……ぁ……♪ 良いわよいっせぇ……えへ、えへへ……」

 

「一々うるせぇ声出すな鬱陶しい……」

 

「だ、だってぇ……あっ……気持ち良い……っん……! だもん―――

 

 

 

 

 

 

 

「一誠のマッサージ……んっ……♪」

 

「……。チッ」

 

 

 本当ならあの日初めてサーゼクスに連れられてグレモリー家に来た時は、予定なら3日以内にサーゼクスをぶちのめしてさっさと去るつもりだった。

 それがどうだ、あの化け物魔王――師匠の分身の中ではトップクラスの人外と近さ故に一度も勝てやしねぇ。

 

 お陰様でズルズルズルズルとグレモリー家に住み、今じゃサーゼクスのパシリまでやらされてる始末だ。

 でなきゃこんな痴女みてーに声出してるアホ毛女なんぞのボディガードなんぞやるか。

 

 つーかもはやボディガードじゃなくてコマ使いになってるけどよ。

 

 

「ねぇ、もう少し腰から下も良い?」

 

「………………」

 

 

 勝者たるサーゼクスの命令だから、敗者たる俺は仕方無く従ってコイツの護衛兼コマ使いなんざやっとるが……このアマ……図に乗ってやがるぜバカ野郎。

 

 風呂じゃ身体洗わせるわ、風呂上がりはマッサージさせられるわ……罰ゲームだから仕方無くやってるとはいえ……

 

 

 バチン!!

 

 

「いひゃい!?」

 

「そんなサービスはごめん被るぜお嬢サマよぉ……?」

 

 

 尻のマッサージがしたければ夜中の繁華街でオッサンに金払わせてからして貰うんだな……と、尻をつき出す調子乗りのお嬢サマの尻をパーでぶっ叩いてやった。

 

 

「ほ、ほんの冗談なのに……赤くなったらどうするのよ……」

 

「知るか」

 

 

 そのリスク覚悟で頼んでみたんだろうに……てか、言われてハイハイと俺が聞く訳が無いくらい知ってるくせに毎度似た要求をするコイツはバカとしか思えない。

 

 

「うぅ……ヒリヒリする……」

 

「………………………………」

 

 

 うつ伏せになったまま痛そうに尻を擦るリアスにふと俺は思い付く。

 ……。あぁ、一度態度で示してやるかぁ……と。

 だから俺はまだうつ伏せのままで無防備なその姿に手をパーにして振り上げると……

 

 

 バッチーン!!

 

 

「ぴぃっ!?」

 

 

 あんまり調子に乗ったら反逆されるから気を付けろよ? 的な忠告込み込みの逆襲を開始した。

 尻をどうこうして欲しかったらしいし丁度良いじゃないか。なぁ?

 

 

「な、なにすんのよ!? 痛いじゃ――

 

 

 バッチーン!!

 

 

「みぎゃぁ!?!?」

 

 

 別に俺はコイツに命令されるのが嫌という訳じゃない……何やかんや飯や寝床の世話になってる奴の一人だしな。

 

 が……こういった感じの要求に関してだけは、リアス自身がニヤ付きながら言ってくるので無性に腹が立つ。

 立つからこそ……やる!

 

 

「やれと言ったのはお前だろ? 喜べリアス……スペシャル無料体験コースだ……」

 

「ひっ!? な、何でお兄様と殴り合いしてる時みたいな顔なの……?」

 

「さぁ? 知らねぇな、よくわかんないけど血が騒いで仕方無いんだよ」

 

 

 ちょっと泣きそうになりながら此方を手を振り上げると俺を見てビクッと身体を硬直させるリアスに、よく分からない充実感に満たされた俺は、その問いに我慢できない口の歪みを解放しながら……。

 

 

 バチン!! ビシン!! バッチーン!!

 

 

「ひぃ!? いひゃぁ!? ひぎぃ!?」

 

 

 しこたまスペシャルサービスコースをしてやることにした。

 

 

「や、やめて……! 私が悪かったし謝るからやめ――

 

「ふ……ふへ! キッヒヒヒ……!!」

 

「ひぃ!?」

 

 

 で、分かった事がひとつある。

 

 

「嫌! パチンってしないで!」

 

 

 逃げようとするリアスを押さえ込み、それでも嫌だ嫌だと喚くその姿を見てると、心の中にある何かがゾワゾワする。

 

 

「嫌なのか? やれと言ったのに?」

 

「そ、それはその……叩くじゃなくて優しく――と、とにかく私が悪かったわ、だから――

 

 

 痛くて涙目になって訴えてくるその表情に言い知れぬ愉しさを感じる。

 だから俺は――

 

 

「うーん……………………聞・こ・え・ん・な・ぁ・?」

 

 

 自分でも引く程に笑みを見せ、そしてドスの効いた声で聞こえてるのに聞こえてないと言い張り、それを受けたリアスのマジ泣きしそうな表情にゾクゾクしながら……。

 

 

「ケッヒャヒャヒャ……あっひゃひゃひゃひゃ!! 何か愉しいなオイ!!!」

 

「ひゃぁぁぁっ!!!」

 

 

 疲れるまでやることにした。

 泣いてもやめないことにした。

 

 

「や、やめっ――うきゅ!? ほ、本当にやめて――ひん!?

そ、それ以上されたらわ、私……さっきから――あ……!?」

 

「あ? …………………あ」

 

 

 その際何かしらの事故があってもやめなかった。

 いや寧ろ――

 

 

「ぁ……ぁ……ふぇぇん……!」

 

「…………。おいおい」

 

「や、やめてっていったのにぃ……ばかばか!!グスッ」

 

「…………。お前は幾つだよ?」

 

「アナタより年上よばかぁ!!」

 

 

 生まれて初めて愉悦を知った様な気がする。

 子供みたいに泣きじゃくるリアスをまた風呂場に連行しながら俺は思うのであった。

 

 

終わり




補足

典型的な内弁慶タイプ。それが彼の今。

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