執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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まあ、まともに闘うにしても無理というか……


混じっている同類 ※番外オマケ追加

 今回のレーティングゲームの進行役となったグレイフィアが然り気無く話していた約二時間で終わるというゲーム時間についての意味が漸く理解できた観戦者達は、あまりにもあんまりなゲーム展開に却って微妙な気分になっていた。

 

 

「えー、ライザー・フェニックスに告ぐ! 貴方達の本陣は完全に包囲されている! このまま籠城を続けるのであるなら我々は本陣に一斉攻撃を仕掛ける! けれど、ゲーム最後の華として一騎討ちをするというのであるなら攻撃は仕掛けないから出てきなさい!」

 

「お嬢様、それでは弱いです。こう言ってみてはどうでしょうか?」

 

「そ、そんな下品な言葉を言わないと駄目なの? う、うん……わかったわ。ごほん――――ワレェゴラァ!! さっきから本陣に隠れてつまらねぇ時間稼ぎしやがって! 四の五の言わずに出てこんかいボケェ!!」

 

 

 代理を含めても6人しか居ないリアス陣営が、ものの40分で相手側の本陣を抜かした全てのエリアを制圧し、まるで立て籠り犯を包囲する機動隊、もしくは債務者に追い込みをかけるチンピラ借金取り――――要するに観戦してる立場としてはライザー側が逆に悲惨に思えてならない状況。

 

 

「お兄様、リアス様が拡声器使ってこちらに呼び掛けを行ってますが、いかが致しますか?」

 

 

 ライザー本陣である生徒会室の窓から見えるリアス達の姿をカーテンの隙間から伺うは、ライザー・フェニックスの僧侶の位置に属する少女。

 名はレイヴェル・フェニックスであり、フェニックスという姓の通り、何とライザーの実妹。

 そんな実妹の異様に他人事じみた報告に対し、ライザーはすっかり取り乱してしまう。

 

 

「ど、どうするも何もこっちの戦力はお前達しか居ないんだ、このまま籠城したって消し飛ばされたら終わり……ちくしょう!! あの人間風情がっ!!」

 

 

 拡声器を使って此方に呼び掛けてくるリアスと、それに付き従う様に立つ女王、騎士、戦車……そして眷属達に真っ先に潰せたら褒美を与えると賞金首に指定した燕尾服姿の代理兵士。

 誰一人として欠ける事無く、フィールドの殆どを30分もしない内に制圧した実力は凄まじいものがあり、特に人間風情である筈の代理兵士は、襲い掛かるライザー側の眷属達を仕事人の様に沈めていくのだがら、ライザーにしてみれば人間風情に虚仮にされてる様でやり場のない怒りだけが膨れていくだけだった。

 

 

「残っているのは私と、カーラマイン、リィ、ニィ、シーリスですわね」

 

「あの代理兵士の人間と戦車には直接狩られ、騎士と僧侶には罠に嵌められで散々だ。

戦車のイザベラが最後の砦だったが、あの代理兵士に一撃でやられてしまった……」

 

「あの人間……ホントに人間にゃあ?」

「イザベラ……ガードした腕とか脚が変な方向に曲がってたにゃあ……」

 

「少なくとも単純な腕力は我々に近いのかもしれない……」

 

 

 そんな兄の取り乱しっぷりを流し目気味に流したレイヴェルは、現状残る戦力達の名前を呟く。

 勿論その戦力には己自身も入っているのだが、観察してみるに生き残りの眷属達の顔つきはすっかり自信喪失といった具合だ。

 

 

「……。ここで嘆いていても仕方ないでしょう? それよりも速く姿を現さないと、どうやら相手のキングはこの建物ごと我々を消し飛ばすつもりの様だわ」

 

 

 窓際に居たレイヴェルがカーテンの隙間から、リアスが全身に魔力をオーラの様に纏う姿を見て、他の者達に報告する。

 

 

「く、クソ……出るしか無いのか」

 

 

 報告を聞き、ライザーの顔はこれでもかと歪んだまま吐き捨てる様に席を立つ。

 ギャラリー多き今回のレーティングゲームにおける恥の上塗りを避ける為には向こうの挑発に乗った上で勝利しなければならない。

 

 勝てばあのリアス・グレモリーとの婚約という所までこぎつけられたのに、それを人間風情の分際でグレモリーとシトリーの証をその身に付けられる事を許可されてる男ごときに潰されてたまるか。

 

 

「……。あの人間を全員して掛かって潰せば少しは状況も此方に傾くだろうか……」

 

「どうでしょう、リアス・グレモリーの眷属達個々の戦闘力も侮れないですから……」

 

 

「……………………」

 

 

 個人的な……所謂嫉妬の念に支配されるがまま眷属達を引き連れて外に出るライザーに付いていく眷属達が不安がる中、最後尾を少し遅れて付いていく金髪碧眼の少女は、ほんの少し笑っていた……。

 

 

 

 

 

「あ、出てきました。残り全員です」

 

「その様ね。さて、リザインしてくるのか、はたまた本当にこのまま総力戦になるのか。

どちらにせよ皆油断はだめよ?」

 

「勿論ですわ」

 

「ぼ、僕は向こうがリザインしてくれた方が良いな……」

 

「無理はしなくて良いギャー君。別に私と先輩で片付ければ良いし。ね、先輩?」

 

「………………………。僭越ながら一言……一々貴女様に合わせるのが果てしなく七面倒なのですが」

 

 

 ライザーと残りの眷属達が校舎から姿を現したのを確認したリアスは、持っていた拡声器を側に控える朱乃に渡し、出方を伺うように目を細める。

 場所としては周囲に何もない運動場で向こうが仕掛けても対処可能ではあるが、警戒はするに越したことは無いのだ。

 

 

「まずは此方の呼び掛けに対応して頂き感謝しますわライザー・フェニックス」

 

「………あぁ」

 

 

 ニッコリするリアスの言葉にライザーは顔をひきつらせたが、手を前に組み、姿勢良く佇む一誠を見た瞬間、嫉妬やら何やら入り交じった目で睨んでしまう。

 

 

「話し合った結果、キミのご厚意を受けようと思ってね」

 

「つまりそれは総力戦をして最後まで戦うと?」

 

「ああ……」

 

 

 表情筋が死んでる真顔で佇む一誠を睨み付けながらライザーは頷いた。

 当たり前だが、そんな視線をリアス達は気付いてるが、敢えて触れずに話を進める。

 

 

「では最終ラウンドと行きましょう――」

 

 

 睨もうが何をしようが、一誠という存在は不滅で消える事など無いのだ。

 今日に至っては見事に兵士代理として――執事として振る舞ってくれたし、文句の付け所なんてありはしない。

 後は今回のレーティングゲームに最後の華を添えて終わりにすれば、後日のんびりと人間界のどこかにピクニックでもしながらのんびりと出来る……………婚約を切り出してきたライザーの事なぞ初めからどうだって良かったリアスは、それぞれ構え始めた眷属達と共にライザー側との最終ラウンドへと突入しようと、どこぞの人工吸血鬼のハイテンション時の様な言葉を宣言しようとしたその時だった。

 

 

「お待ちください」

 

 

 始まった瞬間、一誠に一斉攻撃をしてやろうと密かに眷属達に指示を出していたライザー達が硬直したかの様にその動きを止める。

 勿論リアス達も同様であり、全員の視線が声を放ったその少女へと集まる。

 

 

「レイヴェル……? どうした?」

 

「今の声は貴女かしら?」

 

「その通りですわ」

 

 

 金髪に縦ロール。どう見てもお嬢様ですな風体の少女がリアスに気圧される様子もなく、寧ろ軽く笑みすら浮かべて返事をする。

 リアス達は特に気にする事も無かったが、仲間であり妹でもあるライザー側は少しばかり彼女の様子が……言ってしまえば今日のレーティングゲームが始まった――――否、リアス側とのゲームが決まった時から変だった事を思い出した。

 

 

「リアス様にひとつだけ私の願いを聞き入れて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「願い? それは内容によるけど……」

 

 

 困惑するライザーや、その眷属達の中から一人前に躍り出て、正面に立ったレイヴェルの言葉に眉をひそめる

リアスは続きを促す。

 

 

「是非共兄が真っ先に倒したいと躍起になって悉く返り討ちになされた代理の兵士さんと一対一で戦ってみたいのです」

 

「え?」

 

「お、おいレイヴェル!?」

 

 

 チラッと表情筋を殺した顔で斜め上を見上げてる一誠を見ながらのレイヴェルの『お願い』にポカンとしてしまったリアス以外の者達の顔が其々の意味で強張った。

 

 

「兄のプライドの手前言葉には出しませんでしたが、このまま貴女方と総力戦を繰り広げた所で我々は負けるでしょう」

 

「……。随分とアッサリ言うのね」

 

「事実ですから」

 

「ぐっ……」

 

 

 悔しそうに顔を歪めるライザーへと一瞬振り返りながらレイヴェルは自分達が負けるとハッキリ言い、『だからこそ……』と切り出しながらそろそろ『ご奉仕モード』が切れ掛かってる一誠をじーっと見つめながら告白する。

 

 

「戦ってみたいのです。シトリー家とグレモリー家の皆様に認められている人間の執事さんと」

 

「……ふーん?」

 

 

 何か言いたげなキングである筈のライザーを無視し、一誠相手にタイマン勝負をしたいと言うレイヴェル・フェニックスに、リアスは逆に困った。

 別に一対一で戦って貰うのは構わないが、見た感じ気の強そうなタイプで、ましてや然り気無くライザーの妹という事はフェニックス家の血を持っている。

 

 

「と彼女は言ってるけど、どうする一誠?」

 

「………………………。畏まりましたリアスお嬢様」

 

 

 今日の一誠の戦い方からして、この少女がぼろ雑巾になることも心が再起不能になることも無いのだろうが、何と無く嫌な予感がする。

 

 

「…………………。お嬢様達はお下がりください」

 

「ふふ…………お兄様達もお下がりください」

 

「ええ……」

 

「お、おい……レイヴェル?」

 

 

 女の勘的な意味で。

 

 

「…………………」

 

「ふ、ふくくく……」

 

 

 静かにお辞儀をする一誠と、何故か震えるように笑うレイヴェルの向かい合う姿を見ながらのリアスの予感。

 それはきっと……いや、完全に大当たりだった。

 

 

「―――――――――――――――やっと、逢えた」

 

「…………? …………………なっ!?!?」

 

 

 予想だにもしてなかった……本来の強敵という意味で。

 

 

「ははっ!!」

 

 

 その姿に誰しもが目を奪われた。

 あの一誠ですら、ある意味でその姿を前に……いや、その本質を前に驚きを隠せなかった。

 周囲の大気すら焼き尽くす程の熱風、触れる事すら許されない強き炎。

 

 

「兄がリアス様とゲームをすると言った時は何をトチ狂ったのやらと呆れましたが、今にして思えばそれは正解でしたわね……!」

 

「っ!? リアス、ギャスパー!! 塔城と木場と姫島を抱えてもっと離れろ!!」

 

「!?」

 

「え!?」

 

 

 待ち受けていたのは、エクストラボーナスタイム……なのだから。

 

 

「な、何だこれは!?」

 

「ら、ライザー様! もっと離れないとまずいです!」

 

「何故彼女にあんな力があるのかは知りませんけど、洒落じゃなくやばいよ!」

 

「こっちに早く!」

 

 

 妹から放たれる太陽を思わせる高純度の炎に、一切知らなかったライザーが盛大に狼狽えながら眷属達に引きずられていく中、ゲーム会場全体を支配せんとばかりに燃える炎の渦の中心に立つレイヴェルは、それまでとっとと終わらせて欲しかったとやる気の無かったのを一変させる一誠に語り掛ける。

 

 

「『サーゼクスくん。』に自慢され続けて約12年。

漸く相間見えましたわね、執事さん――いえ、イッセー様!」

 

「貴様……サーゼクスくんだと?」

 

「ふふ、悪魔としては畏れ多い魔王様ですが、悪平等(ぼくたち)としては一応対等に近いのでしてね?」

 

 

 

 逃がさないという意思が具現化したかの様に炎が一誠を取り囲み、レイヴェルは自分の本質を示す。

 

 

「やっと私の存在を知って貰える。この機会には感謝しかありませんわ!

我が名はレイヴェル・フェニックス! さあ、私を知ってくださいまし!」

 

 

 何度も一誠が苦渋を舐めさせられた相手、サーゼクスと同質である事を。

 

 

「あの子がお兄様と……ですって!?」

 

「ど、どういう事なんですか? サーゼクス様を今君付けで呼んでましたが……」

 

 

 名乗るレイヴェルの声を障壁を張りながら聞いていた小猫や朱乃、祐斗やギャスパーは、ある意味掴めない彼女を信じられない様な眼差しで見つめるしかできない。

 その中でリアスは――いや、この流れをモニター越しで見る一部は端的に理解出来ているのだが、その理解が逆に彼女達を嫉妬させる。

 

 

「お兄様と同じ、あの子は一誠と同質で同等の存在なのよ……! 気づかなかった自分に腹が立つわ……!」

 

「同じって……じゃあまさか一誠さんは……」

 

「ええ、お察しの通り、もしかしたら情熱的になっちゃうかもしれないわ……あの子に」

 

「そ、そんな!? せ、折角何年も掛けてこの日の所まで来たのに、あんなポッと出の焼き鳥女に横入りされるんですか!?」

 

「ずるい……」

 

 

 然り気無く初見にして『なんか気にくわない』と感じてた小猫が盛大にレイヴェルをディスっている。

 言葉には出さないが、他の者達も似た心境な辺り、対人恐怖症である本人の状況とは裏腹に割りと慕われてるのが伺える。

 

 しかしそんな気持ちを煽るが如く、レイヴェル・フェニックスという少女はやがて惚けた様な顔をし、大きな声で言った。

 

 

「この勝負、もしも私が勝てたら私をアナタ様のモノにしてください!」

 

「あ?」

 

 

 自分の胸元に手を当て、よりもよって一誠を慕う者達だらけのど真ん中で宣ったレイヴェルに、一瞬空気がフリーズした。

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

 だがそれも一瞬の事で、避難した両方の陣営から信じられないと云わんばかりの声が出てくる。

 

 

「ま、待て待て待て!? 何を言ってるんだレイヴェル!?」

 

 

 当然兄のライザーはこんな急すぎるカミングアウトに思わず飛び出し、レイヴェルに詰め寄る。

 

 

「言葉通りの意味ですわよお兄様?」

 

「その言葉通りなのが問題だ! 意味がわからん! 何でそんな力を持ってるのかも含めて!」

 

「聞かれなかったから答えなかった。そして今までここまで引き出す相手にも恵まれなかったからですわよ」

 

 

 素っ気なく返す妹の変わり様に勢いを削がれたライザーは言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「それよりさっさとお下がり願いませんか? 貴方がやられたらゲームが終わるでしょう?」

 

「お、終わるって……」

 

「良いから、邪魔です」

 

「ぐば!?」

 

 

 顎に一撃を貰ったライザーの脳が揺れ、その場に崩れ落ちる。

 意識が刈り取られては無く、しかし夢見心地な意識な為正常な判断ができなくさせられてしまったのは云うまでも無いのだが、そんなライザーの首根っこを掴んだレイヴェルは何とそのまま困惑している彼の眷属達に向かって投げつけたのだ。

 

 

「兄を頼みますよ?」

 

「あ、ああ……はい……」

 

「レイヴェルが怖い……」

 

「というか、色々と変わりすぎ……」

 

 

 ヘロヘロになってるライザーを抱える眷属達は、変わり方が半端無いレイヴェルに引き気味だった。

 

 が、それとは反対にリアス側はといえば……。

 

 

「な、中々に情熱的な子ね」

 

「意味がわからない。勝ったら先輩のモノにしてくれって。負けたらじゃないんですか……」

 

「いや、もしかしたら負けても同じ事にしてくれって意味で言ったのかも」

 

「じゃ、じゃあ一粒で二度美味しい展開をあの鳥は企んでるんですか!?」

 

 

 ポッと出に横入りされる危機に焦りまくっていた。

 そのやり取りはしっかりレイヴェルの耳に入ったらしく、嫌味な程にっこりしながら口を開く。

 

 

「当たり前ですわ、こちとら顔すら合わせる機会も無く12年も悶々としてましたのですから! もうお写真だけでは満足できません!」

 

「…………」

 

 

 写真だけで満足できないという所に如何わしさ全開な訳だが、言われた本人の一誠はこれでもかというくらい嫌そうな顔だった。

 

 

「サラッとド変態な事暴露してますよあの鳥……」

 

 

 小猫の呟きに周囲も同意するように頷く。

 要するに彼女はある意味で自分達にも似ている……というオチだったのだ。

 

 しかし忘れてはならない。

 今回のこのやり取りをモニター越しに聞いてしまってる……純粋無垢(?)な幼い子が居る事を。

 

 

『もし私が勝てたら、私をアナタ様のモノにしてください!』

 

「…………………………………………」

 

 

 小さな小さな……されどちょっとオマセな紅髪の幼子が……。

 

 

「安心院さん会合通りの子だなぁ、あの子……ストレートというか何と言うか――」

 

「そんなのだめに決まってるよ、何言ってるのこの人? モノってなぁに? 兄さまは別にアナタみたいな人要らないって言うもん。

というか相手にすらしないしお話だってしないよ? 僕だって頑張って頑張って頑張って、やっと兄さまに認めて貰えた。

それなのに『同じ』だからって簡単に認めて貰えるの? なにそれ? 違うもん、一誠兄さまのモノになるのは僕だもん、アナタじゃない……!」

 

「……oh,ミリキャス落ち着こう? いやほんとに……」

 

 

 一瞬にして目の輝きが無くなり、聞こえないのに画面に映るレイヴェルに向かってブツブツと呪詛の言葉をばらまく我が子にちょっと気圧されるサーゼクス。

 わかっていた事だが、この娘はどうにも一誠が好きすぎて、それらの話になると一切周りを見なくなる。

 

 親としては割りと心配だった。

 

 けど、そんな心配をすべきはまだまだ居る訳で……。

 

 

「え、セラフォルーが突然大泣きした? …………なんで?」

 

「その、レーティングゲームにて日之影様に対してレイヴェル・フェニックス様が向けた言葉に嫉妬した後、恐らくそんな展開を想像してしまったらしく……」

 

「…………………。本気過ぎるだろセラフォルー……はぁ、後で一誠本人を向かわせないと大変だ。いや、今ウチの娘もあんな感じなんだよね……」

 

「あは、兄さま凄い……。レイヴェルって人を容赦なく殴り飛ばしてるね? えへへ、凄いなぁ……そうだよね、断るに決まってるもんね? 僕としたことが兄さまを疑っちゃった……後で兄さまに沢山怒って貰わないと……」

 

 

 

「…………。あ、はい……あの方は実に不思議な方ですね。人でありながらお強いばかりか……」

 

「うん、まあ……なんだろうね、昔から器用じゃない性格だから、嫌われる比率は多いけど、好かれたらとことん好かれるタイプなんだと思うよ。

兄目線から見てもかなり律儀な性格してるし」

 

「それはセラフォルー様の護衛として日之影様を見てわかります……大変ですなこれから……」

 

「そうだね、一誠が特に」

 

 

 驚く事に互角の戦いを演じるレイヴェルの頬を容赦なく殴り飛ばした一誠の姿を見てニコニコするミリキャスの将来が不安でしょうがない。

 そう思うサーゼクスだが、実の所、寝てる一誠に跨がってたりとかし始めてる時点で手遅れなのかもしれない。

 

 

『あはは、痛い……! これがイッセー様の拳……ふふ、そろそろギアを上げますわ!』

 

『……………チッ、鬱陶しい』

 

 

 そんな状況を知らずにレイヴェル・フェニックスとタイマンを始めた一誠。

 サーゼクスに律儀な性格と評されてる通り、レイヴェルとのタイマン勝負にて一誠は決してその戦闘スタイルを崩さなかった。

 

 

「本当の一誠様をそろそろ見せて欲しいのですが……やはりダメですか?」

 

「……………」

 

 

 あくまで執事。あくまで代理兵士として戦うが故、何時もの粗暴な面は押さえ込み、スタイリッシュかつクールというヴェネラナからの言葉通りに戦い続ける。

 

 

「何故ですか?」

 

「…………………」

 

 

 レイヴェルの疑問に一誠は答えの代わりとばかりに脚払いをし、体勢を崩したレイヴェルの腹部に向かって槍の様な前蹴りを叩き込み、彼女の身を遠くに吹き飛ばす。

 

 

「けほけほ……イッセー様に蹴られて貰っちゃいましたわ♪」

 

「………っ!」

 

 

 平然と立ち上がるレイヴェルの妙に嬉しがる様子に一誠は全身にゾワゾワする感覚を走らせる。

 なんというか、このレイヴェルという安心院なじみの手の者&サーゼクスの同類の少女は、マゾの気があるらしく、さっきから一誠の攻撃すべてを受けては嬉しそうに身体をくねらせるのだ。

 

 ぶっちゃけ一誠的に最も苦手なタイプだった。

 

 

 

おわり

 

 

 

 レイヴェルとのタイマン勝負は果てなく続くと思われたのだが、意外な事にレイヴェルが降参をする事で呆気なく終わる。

 

 しかしその後リアスがライザーを潰して終わったレーティングゲーム後からが大変だった。

 

 

「セラフォルーが大泣き? そんなの俺にどうしろと……」

 

「えっと、恐らくですが日之影様がお姿を見せ、軽く抱き締めでもすれば泣き止んでくれるのではと……」

 

「やっちゃえよ一誠? 女性を泣かせたらだめだろ?」

 

「………。さっきからテメーはなに笑い堪えてんだゴラ……!」

 

「別に笑って――グフッ! 笑ってないけど?」

 

「今笑ったろーが!! ぶち殺すぞゴラァ!!」

 

「お、落ち着いてください!」

 

 

 泣きじゃくるセラフォルーのフォロー

 

 

「あ、いーちゃん……くすん……」

 

「……。ホントに泣いてるし……。何があったんだよ?」

 

「くすん……あのレイヴェルって子がいーちゃんに近いばかりか、何かいーちゃんのモノになりたがってるのを見ちゃって、それから急に……ふぇぇん……!」

 

「ただのあのガキの戯言だろあんなのは……つーか、そんなんで泣くかよ良い歳した女が……」

 

「わ、私にとっては重要だもん!」

 

 

 ハイライトの消えた瞳で笑うミリキャスのフォロー

 

 

「兄さま、今日は僕と一緒に寝て欲しいな?」

 

「はぁ? 俺今日にでも向こうに戻るつもりなんだけど……」

 

「そっか……そうだよね……うん、ごめんね……」

 

「……………………。わかったよ、今日だけだからな? ったく、何で俺が……」

 

 

 そのフォローは多分不正解なのかもしれない事に一誠は気づかない。

 

 

「ZZZ……」

 

「お腹が熱いよ兄さま……切ないよ、寂しいよぉ……」

 

 

 すやすや寝てる一誠に脚を絡ませ、もぞもぞと発情した犬か猫みたいに押し付けるミリキャス……。 

 果たしてどうなるのか……。

 

 

 

 

そして……。

 

 

「おい死に損ない」

 

「今度はゴミか……」

 

「何で生き残って悪魔達とフラグたててたのかは知らないが、これで終わりだ。

お前なんか一瞬で消し去れる仲間を得たからな!」

 

「こいつを始末すれば我の静寂は帰ってくる?」

 

「ああ、この俺の姿を真似したコイツが消えたら間違いないぜオーフィス?」

 

「わかった……それなら――――――――え?」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

「オマエ、我と同じ気配がする……」

 

「は?」

 

「え、オーフィス――ぐがっ!?」

 

「お前は邪魔だからどっか行って。

お前は何者? 我と同じ無限を感じる、そしてポカポカする……静寂に似た気持ち……」

 

 

 邂逅するは、似てない様で同じ無限を持つ龍神。

 

 

嘘予告

 

 

 

 

 

 

オマケ・漏洩事件簿その2

 

※本編とは何の関係もありません。

 

 

 後ろに大人がつく夢のお城に連れていかれかけたセラフォルー。

 けど直前にリアス達が現れて止めに入ったおかげで一応青少年保護条例の向こう側にダイブする事は無くなったのだが、適量を遥かに越えた惚れ薬を嗅いでしまったせいで一誠が完全に『本来ならそうなるだろう性格』になっていた。

 

 

「い、一誠が惚れ薬を嗅いじゃったのはわかったけど……」

 

 

 ギラついたネオンのお城に連れていかれそうになったセラフォルーを引っ剥がすまでは成功したリアス達の目に飛び込むのは、普段なら絶対的にあり得ない一誠の姿。

 

 

「へい! そこのブーメランハニー! 俺とゲートボールやりに良い玉突き合わない~?」

 

 

 ニヤニヤした笑み、口から飛び出る下ネタだらけのナンパ口調。

 そしてなによりショックなのが……。

 

 

「ちょーっとあそこの夢のお城で休憩しようか? 大丈夫何にもしないから、ちょーっと腰のマッサージするだけだからぁ!」

 

「あらやだ、冗談でもこんなオババに言う台詞じゃありませんよ」

 

 

 

 

 

「な、何で老女オンリー!?」

 

 

 腰の曲がったブーメランハニーにのみ声を掛けまくるのだ。

 これにはショックどころの騒ぎではない。

 

 

「日之影がとんでもないモンスターハンターに覚醒しちまった! あ、あんなおばあさん悪魔ばっかしに……」

 

「何で部長達には目もくれてないんですかね?」

 

「知らないわよ! 目を覚ましなさい一誠! アナタは今惚れ薬のせいで……」

 

 

 惚れ薬のせいとはいえドン引き気味の元士郎と祐斗の疑問に若干納得できないリアスとソーナが怒りっぽく一誠を怒鳴るが、当の本人はブーメランみたいに腰の曲がった老女のナンパに忙しくて全然聞いてない。

 

 

「あとちょっとでいーちゃんと青少年保護条例の向こう側に飛び立てたのにー……」

 

「お黙りなさいお姉様! そんなズルみたいな手段は許しません!」

 

「許しませんもなにもいーちゃんがそうしたんだよ?」

 

「ですからそれは惚れ薬のせいで―――」

 

「心配するなハニー達、別に俺は差別はしてねぇ。

ブスも美女もロリもババァも皆同じアナとして愛する――」

 

「「だまってなさい!!!」」

 

「ぶべら!?」

 

 

 普段ならまずありえないリアスとソーナによるダブルアッパーカットを貰ってひっくり返る一誠。

 ちなみに今揉めに揉めてる彼等の居る場所が大人の夢のお城が立ち並ぶ場所だったりするのだが、まあ、そこはどうでも良いだろう。

 

 

「くぅ、とにかく一旦一誠を正気に戻すために城に戻るわよ。

このままじゃ一誠がモンスターハンターになっちゃうし」

 

「既になってる気がしますけど……」

 

「まだ一線は越えてないからセーフよ」

 

 

 気絶した一誠を抱えて一時撤退を決意するリアス達。

 しかしそこは腐っても進化した男、呆気なく意識を取り戻したかと思いきや、今度は一番に視界に入ったリアスとソーナを見るや否や、二人の手を優しく掴みながら――

 

 

「リアス、ソーナ……今まで近すぎて気づかなかったが、お前達は俺にとってかけがえのない存在だった。

どうだい、セラフォルーとも一緒にこのまま夢のお城でエレクトリックパレードでもしないか?」

 

「「う……」」

 

「おぃぃぃっ!!? 二人ともぼーっとすんな! 今の日之影は惚れ薬の影響ぉぉぉ!!!」

 

「ご自分で言ってたのに反故にするんですか!?」

 

 

 無駄にキリッとした顔で言われて満更でも無さそうに頬を染める二人に元士郎と祐斗の二人がすかさず突っ込む。

 手分けしてるので助かったが、もし他の眷属の女子の一部まで加わってたらそれこそ大変な事になってただろう今の理性が吹き飛んだ一誠の見境の無さは軽く脅威だ。

 

 

「ゆ、祐斗に匙くん……アナタ達は一旦城に戻って一誠を発見したと報告しなさい」

 

「私たちは後から……えっと30分、いえ3時間程遅れて戻りますので」

 

「その三時間でなにする気だアンタ等!?」

 

「妙に生々しいんですけど!」

 

「なにってナニに決まってんだろ、俺のゲートボールスティックをこの三人のゲートのゴールにイン――」

 

「「シャラップ!!!」」

 

 

 普段『必要のない感情』として切り捨てて生きてきただけに、一度タガが外れただけでこんな事になる。

 惚れ薬のせいだとわかってても、なんかチャラチャラ感が増してるとわかってても腰に手を回して抱き寄せてくる一誠に惚れ薬じゃなくともハンターされた三人は最早使い物にならないどころかエレクトリックパレードをしに行く気満々だ。

 

 

「正気に戻ったら首でも吊るんじゃないか日之影の奴……」

 

「う、うん……」

 

 

 戻った時のその反動がすさまじいのが簡単に想像できてしまうからこそ止めなくてはいけないと二人の男子は思うのだが……。

 

 

「や、優しくしてね?」

 

「任せろハニー達!」

 

 

 まあ、相手がこの三人だしわざと放置してみるのも良いのかもしれない……とも何となく思ってしまう元士郎と祐斗なのだった。




補足

怒るで無く、ガチ泣きになった理由は、それほどまでにマジだからという。
現状、恐らく本気過ぎなのがこの魔王様とミリキャスちゃまなのかもしれない。


その2
レイヴェル・フェニックスのスペックは少なくとも発展途上のリアスやソーナより上の次元かつ、互いに全力ではないものの一誠をも――――

つまり、結構どころじゃなく凄い。



その3
オマケはまったく本編とは関係ないです。何度も言いますが。

銀魂の愛染香のアレみたいなそれです。
それで覚醒した執事は下はランドセル背負った小◯生から上は腰の曲がったブーメラン老女まで関係なく口説き出すモンスターハンターになっちゃったってだけの話であり、恐ろしいのはその矛先が執事に好意的な子達に向けられると一瞬で夢のお城でエレクトリックパレードが成立してしまうという……ね。

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