執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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何物にも流されない真の『自我』を持った時、悪平等を一度は解体し旅立った人外は現れる。


今回は番外無しです……オチが一応強烈なんで。


真なる自我

 先輩が女性に対してかなりドライな理由がヴェネラナ様との件以外もあったと何となく分かった気がした後、先輩の所有する無人島に戻った私は、今日もドギツイ修行に気合いを入れていた。

 

 

「防いだだけで安心しないでください。その油断があるから――」

 

「うぐっ!?」

 

「―――こういう一撃を貰ってしまうんです」

 

「げほ! げほっ!」

 

 

 先輩の掌底打ちを防いだ瞬間に走るお腹への激しい衝撃が私の身が勢いよく投げ出され、大木を何本もへし折りながら吹き飛ばされてしまう。

 

 

「油断と余裕は違います。

今のアナタは、そのどちらも許されない」

 

「は、は……い……ゴフッ!」

 

 

 背中を打ち付け、その場に蹲る私の前までゆっくり歩いてきた先輩からの厳しい言葉。

 着ている燕尾服も履いてる革靴のどこにも汚れは無く、かれこれ三時間はこうして組手をしていたのにも関わらず、ボロボロである私とは正反対に汗のひとつも……息切れのひとつだってしていない。

 

 これこそが今の私と先輩の間に広がる圧倒的な差。

 

 

「あぅ!?」

 

「誰が休ませると言いましたか?」

 

 

 蹲る私の顔に先輩の足の甲が革靴越しに伝わり、鼻の骨が折れる嫌な音と鋭い痛みと共に強制的に真上を向かされながら身体が浮く。

 

 

「レベルに合わせた修行などと温い手を私が使う訳が無い。

だったら最初から鍛える真似などしなければ良いですからね」

 

「ぐぎっ!? がぁっ!?」

 

 

 浮いたと同時に先輩が私の足首を掴み、そのまま素振りの練習と言わんばかりに軽々しく縦に振り下ろし、成すすべも無く顔面が何度も地面に叩き付けられてしまう。

 この時点で痛いとか痛く無いとか以前の問題となっていた。

 

 

「どこまで行っても人間である私とは違い、アナタ様のフィジカルはお強い筈」

 

「く……ぅ……」

 

「私はその差により、何万回と苦汁を舐めさせられてきた……………サーゼクス・グレモリーと安心院なじみという本物の人外に」

 

 

 恐らく鏡を見れば、今の私の顔は悲惨な事になっていると思う。

 鼻で呼吸が出来ないし、目も満足に開けられないし、口の中は鉄臭い味しかしない……多分舌も切れてる。

 

 

「アナタは果たしてここで折れて朽ち果てるか、それとも折れずに立ち上がるか。

今が岐路となります……さぁ、お選びなさい」

 

 

 これでも先輩は私を殺さないように加減してる。

 いっそ笑ってしまいそうな程の差が私の身体に現実という名と共に重くのし掛かってくる。

 

 恐らくだけど、きっとかもしれないけど、今私が居る立場を昔先輩は居たんだと思う。

 耳なりのせいで先輩が何を言っているのか残念な事に聞き取れなかったけど、声色だけでも先輩が強く在り続けたい理由が何となくわかってきた気がする。

 

 

「っ……ぅ……うぅっ……!」

 

「……………」

 

 

 強くならないと生きていけなかった。

 強くなければ皆から見て貰えなかった。

 強く在り続けなければ見捨てられると思っているから。

 

 今私が先輩に感じている気持ちと同じ……。

 

 

「強く、ならないと……先輩から見限られる……っ、ぐ……そ、んな、の……嫌だ!!!」

 

「…………………」

 

 

 自分であることを主張できる手段が力しか無い。

 先輩はきっとそう考えるに至る、私にも知らない過去がある。

 だから私は、あの無愛想で普段は全然喋ろうとしない先輩に此処までして貰えた事に報いらないといけない。

 

 倒れても、踏まれても、立ち上がり、ファイティングポーズを取り続ける。

 強くなって、未だに守る対象としか見ない姉に真っ向から主張する為に……そして……。

 

 

「う、ああぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 物理的だけではなく、精神的にも先輩の近くに居れる人達に追い付く為に、最初から先輩の領域に横入りしてきた気にくわない雌鳥をぶっ飛ばしてやる為に……。

 

 

「あ………ぅ……」

 

 

 絶対に自分を折らない。

 折って見限られるくらいなら死んだ方がマシだ!

 

 けど……あはは、無駄に吠えたせいで足に力が――

 

 

 

 

 

 

「……。まぁ、最低ラインに漸く立てたといった所だな」

 

 

 手足を破壊し、ぼろ雑巾の様に痛め付け、普通ならまず立てないレベルまで追い込んだ先、小猫はそれでも立ってヨロヨロのボロボロの身で自分に立ち向かおうとした。

 

 

「……………」

 

「このまま折れたら完全にやめてやったが、まあ、多少の根性は見せたんだ。

引き続き契約は更新してやるよ白ガキ」

 

「………」

 

 

 その時の……安っぽく表現するなら『ど根性』と云うべき精神力を見せてそのまま力尽きた小猫を『素』に戻った一誠は支えると、慣れた手付きで横抱きに抱える。

 

 

「軽っ……ミリキャスとどっこいどっこいか……」

 

 

 ボコボコに腫れた顔になってる小猫が軽い事に軽いリアクションを一人でしながらスタスタとこの無人島唯一の建物になる別荘への道へと戻る。

 

 

「後はこのガキの姉の遥か上まで引き上げる所まで来た訳だが……。さてどうしたものか。ミリキャスやギャスパーみたいな潜在パワーをあまり感じないし、リアスやソーナみたいな天才タイプでもない。

どちらかといえば俺に近いタイプ…………だとしたら困ったな。

スキルでも持ってない限り俺みたいなタイプは即座に埋もれてしまう……」

 

 

 最初は嫌々ながらも手解きをしてあげてきた者達のタイプと比較し、小猫のタイプがスキルを持たない自分に近いタイプと予想する一誠。

 

 

「俺がサーゼクスに勝てないのと同じく、このガキはフェニックスのガキにこの先何千回と叩き潰される。

その時抱く挫折に果たしてコイツは耐えられるのか……」

 

 

 自分と似たタイプだからこそ、容易に小猫のこの先が予想できてしまうらしく、意識を失う小猫へと時折視線を向けながら一誠はスッと遠くを見るように目を細める。

 

 

「俺がこのガキに出来るのは、現実を叩きつけてとっとと諦めさせるぐらいかもしれない……。

けどこのガキは結局弱音だけは吐かなかった……リアスやソーナ、ミリキャスと同じで……。

どいつもこいつもアホみたいに強情だからなぁ……」

 

 

 小猫の見せた根性と、今まで見てきた者達と重なり、無意識に一誠の頬は緩む。

 するとまだ別荘へと到着していないのにその場に立ち止まると、適当な木を背に小猫を寝かせる。

 

 

「このままにしてヴェネラナのババァにバレたらうるさいからな……顔だけはちゃんと治療してやるよ」

 

「………」

 

 

 意識の無い小猫を木を背に座らせた一誠が着ていた燕尾服の懐のポケットから青い液体の入った小さな小瓶を取り出す。

 

 

「人間の俺と違って、リアスの眷属悪魔であるお前なら効き目も抜群だろうよ」

 

「ぅ……」

 

 

 意識の無い小猫に向かって頭から軽く振り掛ける様に液体を垂らした一誠はぶっきらぼう気味に言う。

 すると一誠の言った通り、垂らした青い液体が淡く輝いて小猫の全身を包むと、痛々しく腫れたり切れたりしていたあらゆる傷が癒える様に無くなっていく。

 

 

「ババァに無理矢理持たされたもんがこんな所で役に立つとは思わなかったが……これ副作用とか無いよな?」

 

 

 どうやらヴェネラナに持たされた悪魔式の傷薬らしい。

 こういう傷薬を微妙に嫌う一誠は今初めて使ってみたのだが、予想以上に効果があるせいか微妙に副作用の心配をしてしまう。

 

 しかし終わってみれば痛みや苦しみで呻いていた小猫は規則的な寝息を立てており、どうやら大丈夫そうだ。

 

 

「ん……ぅ……」

 

「大丈夫そうだな。よっと……」

 

 

 そのまま寝息を立てる小猫の身体を抱えると、別荘への道を再び歩き出す。

 普段はギャスパーに押し付けていた治療を自ら施したという時点で驚くべき話だが、生憎その現場を見てる者は居ない。

 

 というか、小猫自身が今一誠がした事を知れば恐ろしく喜びでのたうち回る事を考えれば誰も知らない方が色々と事がスムーズに運ぶと思われる。

 

 

「ま、だ……です……せんぱい、に……見捨てられたくない……」

 

「……ケッ」

 

 

 かつてリアスやソーナやミリキャスに示した時と同じ事をしたのだから。

 

 

 

 

 此処はどこなんだろう。

 

 

「………………………」

 

 

 私は確か先輩に修行を付けてもらってて、そしてボコボコにされて、それから………どうしたんだっけ? 思い出せない。

 

 

「何ですかここ……教室?」

 

 

 思い出せないけど、少なくともどこかの学校の教室に居る筈が無いのだけは確か。

 しかも着てる服装だって全然知らない学校のセーラー服っぽい学生服だし……。

 

 

「……………………はっ! まさか先輩はセーラー服萌えで、私が気絶してる間に着替えさせてくれたとか!?」

 

 

 そんな事を考えてる内に、先輩の趣味による展開を思い付き、着替えさせられた際に全部見られたと思い込んで思わずニヤニヤしそうになった時でした。

 

 

「残念ながらキミの愛しの一誠の趣味じゃあ無いんだな」

 

「!?」

 

 

 知らない教室に居た私の後ろから聞こえた、これまた知らない声に驚き、反射的に振り向く。

 

 

「だ……誰、ですか?」

 

 

 振り向いた先に飛び込んできたのは、私が今着てるのと同じ制服を着た女の人で、行儀悪くロッカーの上に片膝を立てながら座って此方を微笑ぎみに見つめている。

 

「う……。(すごい可愛らしい人……)」

 

 

 最初は驚いていた私だけど、暫くその人と目を合わせていたら次第にそんな気持ちになっていた。

 こう、なんというか今までに見たことないタイプの美人……というより可愛らしい人で、油断してると引き込まれてしまいそうな……そんな不思議な何かを感じる人。

 

 

「やぁ、随分と僕達の一誠に可愛がられたみたいだけど、元気そうだね白音ちゃん?」

 

「せ、先輩の事を知って――というか私の真名……? 何で……?」

 

 

 一誠と気安く呼び捨てで呼び、私の本当の名前まで言い当てて来た名前も知らない女の人に私は反射的に身構えてしまう。

 もしかしてこの人は姉や兵藤一誠の仲間で、先輩やギャーくんの目を盗んで私を拐ったのかもしれない。

 先輩の許可がなければリアス部長達ですら入れないあの別荘に侵入できるとは思えないけど、可能性がゼロでは無い以上疑うべきなのだ。

 

 

「キミの事なら大概は知ってるさ。一誠と同じ()()から見ていたからね。

あぁ、それと勘違いしないでよ? 一誠といっても僕が言ってるのは、皮肉通り越して単なるピエロとなってる兵藤一誠じゃなく、そんなピエロにかつて全部奪われた、僕が日之影君と同じ苗字を与えた方の一誠の事だから」

 

「……。根拠は? アナタが嘘を言ってない証拠は―――」

 

「ここに僕がサーゼクスくんに預けてグレモリー家のお世話になり始めた頃から今までの記録としての一誠アルバムがあるんだけど……」

 

「信じましょう。だから今すぐそのアルバムを此方に寄越してください」

 

 

 間髪いれずに言ってしまった私に、女の人は『はーいよ』と軽い調子でアルバムを寄越してきた。

 

 

「お、おぉっ……! 確かにこの小ささは昔の先輩……! ぶふっ!? こ、この写真はお風呂に入ってる時の―――あ、あぁ……なんて小さくて可愛いおちん―――」

 

「おっと、その感想は声に出すなよ? 完全アウトになってBANされちまうぜ?」

 

「は、はい……ふへ! うへへへ……!」

 

「気に入ってくれて何よりだけど、この場で一人でおっ始めんなよ?」

 

「し、しませんよ……! ですがその、物は相談ですが、このアルバム幾らで私に譲ってくれますか?」

 

「同じ物なら20冊くらいあるし、一冊くらいならキミに譲っても良いよ?」

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

 

 ………。決まった、この人はいい人だ。うん、ぜったい良い人だ。

 先輩の成長記録をくれるんだから間違いない。

 

 

「ただし、僕の話をきちんと聞いてくれたらだけどね?」

 

「わかりました!」

 

 

 そんな人からな話を聞くことに何の躊躇は無い。

 楽しみは後に取って置き、私は綺麗に並べられた机の一つに座り、女の人の話を全力で聞く姿勢になる。

 

 

「それで話というのは?」

 

「うん、さっきの話に戻るけど、キミの事は一誠目線から暫く見させて貰ったんだ」

 

 

 目線という女の人の言い方に少し違和感を感じたけど、敢えて触れずにそのまま耳を傾ける。

 すると女の人はヒョイとロッカーから降りると、座っていた私の前まで近寄り、鼻の先がくっつきそうになるくらいに人差し指を向けながら言った。

 

 

「単刀直入だよ白音ちゃん……キミは今岐路に立たされている」

 

「岐路……?」

 

 

 何の岐路なんだろう? とよく分からず首を傾げてしまう。

 

 

「キミが姉の黒歌ちゃんと仲直りし、元の仲良しな姉妹に戻るか、それとも黒歌ちゃんを越えるか」

 

「……。どういう意味ですか?」

 

 

 姉の事まで知ってる事に関しても突っ込まず、どういう意味なのかと話の続きを促すと、女の人は指を立てながら言った。

 

 

「キミは今何故黒歌と疎遠になったのかという『理由』を克服しつつある。

それはキミが人間のままにして新しく作り直した僕の反転であるサーゼクス君とまともにやりあえる一誠という存在を知り、何時しか憧れを抱いたからだ」

 

「…………」

 

 

 何でも知ってるのかこの人。

 何だかちょっと不気味だけど、少なくとも敵という意思をまるで感じないため、黙って頷く。

 

 

「今、キミは克服しつつある黒歌ちゃんと仲直りできる一歩手前まで来ている。

けど黒歌ちゃんは元々は全くの外側から沸いて現れた『転生者』の兵藤一誠に拾われ、異様なまでの短時間で好意を寄せている……のは、この前の観察で察したかな?」

 

「ええ……まあ……」

 

 

 癒しの神器使いの女の人と火花散らしながらその人を取り合いをしてるのを見たときは確かにそう思った。

 何故かというのは、ほら……私も似た様な感じなんで。こっちの場合油断できない人だらけですけど。

 

 

「それが一体?」

 

「キミには二つの選択肢がある。どちらを取るのもキミの自由だ。

ひとつはこのまま黒歌ちゃんと仲直りし、元の姉妹に戻って養殖臭い主人公(ショウリシャ)である転生者に保護されるか」

 

「………………」

 

「そしてもう一つは――もしかしたら成果が出せずに一誠に見限られるリスクを背負い続けながらも一誠の傍に居続けるかだ」

 

「…………」

 

「仮に黒歌ちゃんを選ぶなら、これも何かの縁だし、僕が少し手助けして『最初からキミがリアス・グレモリーの眷属じゃない現実』に否定して逃げさせてあげる。

そうなればキミまではぐれ悪魔にされずに済むしね」

 

「………………」

 

「ただし、その代わりキミは日之影一誠に関する全ての記憶が消えるけどね」

 

「………!?」

 

 

 途中までは黙って聞いていたが、最後の事柄に関してだけは無表情を貫けなかった。

 

 

「当たり前だろ? どちらかを捨ててどちらかを取るんだからそれくらいのリスクは無いと。

まぁ、仮に一誠側を取っても黒歌ちゃんに関する記憶が消えることは無いけどね。姉妹という現実までねじ曲げるのとは訳が違うから」

 

 

 さも普通に消すだの消さないだのと言って退けてるこの人が本格的に何者なのかと思ってしまうけど、それよりも前に私は今確かに言われて初めて岐路に立っていると自覚した。

 

 あの無表情の先輩が本気で嫌悪する程に相容れない兵藤一誠のもとに姉が居る今、このままでは確実に仲直りなんて不可能。

 そして姉を選べば先輩は確実に私を敵と見なす……。

 

 

「僕としては黒歌ちゃんとの仲直りを推すけどね」

 

「!? 何故ですか?」

 

 

 頭の中で整理していた最中、一人称が僕な女の人が突然私に向かって囁くような声で言ってきた。

 

 

「だって考えてみろよ? 基本的に粗暴で、女の子の気持ちなんて溝に捨てて自分本意に生きようとする男だぜ? このままキミがアイツに抱いてる想いを募らせても答える確率は3%未満だろうし、そんな悶々としなければならない事を考えたら、黒歌ちゃんと和解した方が楽に幸せになれるぜ? あの兵藤一誠ならキミの事も可愛がるだろうし」

 

「……………………」

 

 

 薄く微笑みながら宣う女の人だけど、この人は私をバカにしてるのだろうか……。

 

 

「わかりました、じゃあ答えます。

考えるまでも無く私は先輩―――リアス・グレモリーの戦車であり続けます」

 

 

 私の答えは言われる前からもう決まっている。

 確かに私は姉の力を恐れて逃げ出した臆病者なのかもしれないし、今はその恐怖も薄れてるし、少しちゃんと話し合えば和解だって夢じゃないかもしれない。

 

 けど、それでも私は――

 

 

「私も、姉の黒歌も、もうあの時みたいな子供じゃない。自分で道を選んで歩けるだけの成長だけは今、『生き方を決めるのは自分自身』であり、その道は姉だろうがリアス部長だろうが――先輩だろうが邪魔させない」

 

 

 これが私の答え。

 何時までも子供では要られない。

 先輩がきっと昔そういう道を選んだ様に、私は私の道を……。

 

 

「別に見返りなんて要らない。無愛想だし、未だに自己暗示しないと私と話せないし、容赦なく蹴り飛ばすし、素だと雑魚呼ばわりしてくるし、基本的にそんなんだから嫌われやすいのかもしれない――――

 

 

 

 

 

――――――――でも、私は一番挫折して、一番負けて、戦う事以外は割りとすぐ逃げようとする先輩が好きなんです。

同情心じゃなく、サーゼクス様から受けた挫折や敗北に決して折れない先輩が大好きなんです」

 

 

 先輩を追い掛け、追い付いて、横を歩いて助けになりたい。

 それが私の選んだ……見返りなんて要らないから先輩を追い掛ける道。

 

 

「だから私はリアス部長の戦車です。

欲を言えば、部長達やあの気にくわない焼き鳥女をぶちぬいて先輩の領域に入りたいってのはありますけど」

 

「ふーん……? 本当にそれでキミは良いんだね?」

 

「ええ、姉には悪いですけど、私なんか居なくてもその転生者って人が何とかすると思ってますから」

 

 

 嘘偽り無い私の本音を名前すら知らない女の人にぶちまけるのも今更ながらに妙な気もするけど、この際だし声に出して言うのも悪くない。

 

 

「あそこまでヤサグレちゃっても、一誠は一誠って事か。

まあ、アイツってバカみたいに根がお人好しだしなぁ……」

 

 

 そんな私の意思を知った女の人が、それまでどこか引っ掛かる笑みから初めて普通の笑みを浮かべた様な気がした。

 

 そしてその微笑みと共に女の人は私の胸元に触れながら、耳通りの良い声で言った。

 

 

「オーケー白音ちゃん……正解だ。

その意思によりキミは今やっと開け方を知らない扉の存在を知る権利と、その扉を開ける鍵を手にした」

 

「は?」

 

 

 女の人なので胸に触れられてる事にあんまり抵抗感は無い。

 しかしふとこの人の胸を見ると、大きくはないにせよ…………ちきしょう、私のコレに比べたら余裕のボインだ。

 脊髄反射的にもぎたくなる衝動に駆られた私は悪くない。

 

 

「キミは常々一誠や一誠が引き上げる事で覚醒させた『何か』について知りたがってたね?」

 

「えっと、はい…………知ってるんですか貴女は?」

 

「とーぜん、一誠にそれを教えたのは何を隠そうこの僕だからな」

 

「! それは……また唐突ながらも気になる案件ですね」

 

 

 つまりこの人は、先輩のお師匠さんに当たる人だったと……。

 そして先輩や部長達……あの雌鳥の不可思議な領域について分かる人。

 

 なるほどなるほど……今私はひょっとしなくてもかなり運が良いのかもしれない。

 

 上手く聞き出せれば、私ももしかしたら――

 

 

「おいおい、今更僕が一から白音ちゃんに説明する事なんて無いぜ? 何せキミは一誠から本格的に叩き込まれた事で芽生えさせたんだからな」

 

「え……? それはどういう―――うっ!?」

 

 

 どういう意味なのかと聞き返そうとしたその瞬間、いきなり教室の景色がグニャリと歪み、私の意識もそれと同時に眠くなる様に遠退く……。

 

 

「ホントアイツは一人で僕の昔の悲願だった『フラスコ計画』をやりやがる。

これも転生者を送り込んだ間抜けなバカ共のお陰だと思うと皮肉だが……」

 

 

 女の人が何を言ってるのがわからない……。

 待って、私はまだ聞きたいことが――

 

 

「また会おうぜ白音ちゃん? 僕は安心院なじみ―――会えるかどうか、一誠の隣を歩けるかはキミの意思次第だ」

 

 

 安心院なじみ……その名前を聞いた瞬間、私の意識は完全に途絶えた。

 そして次に見えたのは……。

 

 

「あ、小猫ちゃん! 一誠さん! 小猫ちゃんが起きました!」

 

「あ、そう」

 

「………………。ここは?」

 

 

 ギャーくんと先輩の姿だった。

 

 

「大丈夫小猫ちゃん? 一誠さんが秘薬を使って傷の治療を――あいた!?」

 

「余計な事言ってんじゃねぇ。…………………。塔城様、お加減は?」

 

「だ、大丈夫……です……。治療、してくれたんですね?」

 

「ええ、しないと次の修行が行えませんから」

 

 

 涙目で頭を擦るギャーくんからの視線を無視し、背を向けてキッチンの奥へと行ってしまった先輩。

 全身の痛みも顔の痛みも無い……触れてみても傷の痕跡も確かに無い。

 

 そっか……治療してくれんだ先輩……。

 

 

「夕飯後に再び再開します。宜しいですね?」

 

「はい、勿論……。治療して頂きありがとうございます先輩」

 

「……。礼には及びません。それより起きたばかりで申し訳ありませんが、ひとつ質問しても……?」

 

 

 胸の奥がポカポカする気分でお礼を言ったけど、素っ気なく返す先輩が、ジッと私の目を見ながら言うので黙って頷く。

 何か気になる事でもあるのかな? とぼんやり考えながら先輩が作ってると思われるご飯の美味しそうな匂いがリビングに漂い始めたその瞬間、私はそれまで気付かなかった先輩の何かを今生まれて初めて感じた。

 

 

「その前に先輩……。先輩の事が今私、何となく『解る』気がします」

 

「……!」

 

「小猫ちゃん……?」

 

「比喩とかじゃなくて……こう、言葉には表せない……先輩の中身というか、先輩が先輩である理由というか……あれ、私何言ってるんだろ……?」

 

「……………………………………………………………………………………………………」

 

「先輩……? 私どうかしちゃった――――にゃ!?」

 

 

 何故かわからないし、根拠なんて無いけど、それまで全くわからなかった『日之影一誠』が見ただけで理解できるという確信めいたものが私の頭の中に展開されてしまう。

 それが何故なのかイマイチ思い出せ無いというか、ふと自分の中にそれまで感じなかった一面がある事にも気付けてさっきから不思議だらけな事ばかり。

 

 そんな私の言葉に先輩は何かを察したのか、物凄い顔付きで私の肩を掴み、グイッと鼻頭が接触する程の距離まで顔を近づかせて来た。

 

 思わず変な声が出てしまったけどこれは多分しかたないと思う。

 

 

「せ、せんぱい……?」

 

「一誠さん……ち、近くないですか? 小猫ちゃんに……」

「…………………………」

 

 

 私とギャーくんの声も聞いてないのか、このまま私から行けばキスでもできそうな位に近い先輩の目に吸い込まれそうになる。

 というより、さっきからドキドキし過ぎてお腹がきゅんきゅんとする……。

 

 

「………………………………………………。飯が終わったら即表に出ろ、早急に確かめる事が出来た」

 

「へ?」

 

「確かめるとは?」

 

「リアスとソーナがスキルを自覚する前の状態に今このガキは意識が戻った瞬間なりやがった。

さっきまでこのガキの成長率についてどう対処しようかと思ってたが……クククッ、理由なんざどうでも良い。

いきなり過ぎて意味がわからないが、この分じゃもしかしたら――クックックッ!」

 

 

 素になってる先輩がクスクス笑って私から離れる。

 

 

「俺も中々現金な奴だと自覚したぜ。

なぁ塔城? お前、俺が何を抱えてるかわかるんだろ?」

 

「はい……一際巨大で――いや、無限? 先輩の中に大きな宇宙がある様な……」

 

「宇宙ね……。

リアスには全域に広がる大空と言われ、ソーナからは永遠に流れる激流と言われたが宇宙なんて言われたのはこれが初めてだな」

 

「はぁ……あの、先輩さっきから素ですけど大丈夫なんですか?」

 

「これが大丈夫に見えるか? さっきから笑い堪えるのに必死だぜこっちは? 寝て起きたら急に『手前』に居やがるんだ。

しかも俺に物凄く近い『永久的ななにか』を感じるんだ……これが笑わずに居られるか?」

 

「ま、待ってくださいよ一誠さん! と、ということは今小猫ちゃんは……!?」

 

「あぁ、コイツは今スキルを発現する手前に居る。

そしてその性質はもしかしたら今まで覚醒した中でも――それこそ俺を『食い殺す』レベルの巨大さを感じる。何にも感じなかっただけに、さっきから気分が高揚しちまうくらいのな」

 

「そ、そんな……小猫ちゃんにそんな大きな……」

 

「あの、スキルとは?」

 

「飯食ってから全てを教えてやる。

ここで腐らせる訳にはいかねぇ……くくく、もし発現させたら明日にでも奴等を潰しに行けるな」

 

 

 まるでサーゼクス様と殴りあってる時を思い起こさせる先輩の様子。

 一体何が私にあるのだろう……? 確かにそれまで感じなかった何かを今ハッキリと自分の中に感じるけど……。

 

 

「ご飯食べる前にひとつだけ良いですか?」

 

「何だ? 今なら可能な限り聞くぜ」

 

 

 徐々に頭の中がハッキリし、先輩が私に対して素で接してくれるせいでちょっとだけ困った事になってしまった。

 それを一応伝えるべく、然り気無く可能な限り聞くとか言っちゃってるせいで余計に押さえ付けられなくなったこの症状について私は正直に話してみた。

 

 

「我慢してたけど、先輩が欲しくて欲しくてたまらないにゃあ……」

 

 

 そう、修行という名目があって何とか押さえつけられていた――所謂発情期が……。

 

 

「……………………は?」

 

「え、嘘!? 小猫ちゃんまさか『アレ』が来てたの!?」

 

「待て待て、何の話――おっと……?」

 

 

 ダメだ……全身が熱いし、胸も苦しい。

 さっき先輩にいきなり迫られる様に肩を掴まれたせいで我慢の限界に達してしまったらしい。

 意思とは裏腹に、ソファから降りた私は先輩に飛び付いてしまった。

 

 

「せんぱい……せんぱぁい……欲しい……せんぱいが欲しいにゃあ……」

 

「何だコイツ……?

めちゃくちゃ体温が高くなってるんだけど……」

 

「よ、よく猫さんは盛りがある時期があると言われるでしょう? 小猫ちゃんは猫妖怪の種族ですので……」

 

「……本能だってか?」

 

「そ、そうです。まさか今そうなっちゃうとは思わなかったけど……」

 

 

 背の関係で先輩の鍛えられた胸板とか腹筋に顔を埋め、先輩の匂いにますます頭の中が湯だっていくのを抑えられない。

 

 

「はぁ、はぁ……あぁ……せんぱい、触って……私のここ……熱いにゃあ……」

 

「……………………。どうしたら良いんだよこの場合?」

 

「えっと、多分解消させるべきなんでしょうけど、その場合ってその……い、一誠さんが小猫ちゃんを……」

 

「あ? このまま一発ヤれってか?」

 

「いっぱ……!? え、えっと平たく言っちゃうとそうですけど、僕が嫌だというか……随分と冷静ですね……?」

 

「ケッ、要するに本能でこうなっちまったんだろ? だったら一々慌てる事でもねーだろ。

普通の猫がこうなった場合の対処法は何だ? ええっとネットだと………………あぁ、直接刺激するのか………………………………………いや無理だろ。完全にセクハラの範疇越えてるわこれ」

 

 

 先輩の匂い……先輩の体温……先輩の……あぁ、先輩の……。

 

 

「んっ……うぅ……せんぱい……切ないです……辛いです……」

 

「…………。俺のズボンのベルト緩めだしたぞこのガキ」

 

「な、なんでそんな冷静なんですか!?」

 

「何でだろうな……ババァやグレイフィアに服ひん剥かれる屈辱と恥ずかしさに比べたら、何でも平気な気がしてよ……前にセラフォルーに似た真似もされたし」

 

「ええっ!? だ、だから最近のセラフォルー様が妙に一誠さんに……」

 

 

 先輩の……先輩のぉ……!

 

 

「しょうがない。

おいギャスパー、お前今男だろ? このガキの相手でもしてやれ」

 

「い、嫌ですよ!? そんな事したら僕が小猫ちゃんに殺されますぅぅ!!」

 

「冗談だよ。流石にそれは悪いしな。

だが俺だって無理っつーか、このガキだって嫌だろ」

 

「え……あ、いや……寧ろ小猫ちゃん的にはそっちの方が…………って、駄目ですからね!?」

 

「言われなくてもそんな気もねーよ。

取り敢えずもう一つの手段として、無理矢理寝かせて腹をポンポコ叩いて刺激してやるか……おい手伝えギャスパー」

 

「はぅぅ……」

 

 

 頭の中が全部一誠先輩の事で埋め尽くされて、何をされてるのかもわからない。

 先輩の匂いが一瞬遠退いた様な気がしたし、何かの上に寝かされてる気もするけど私にはわからない……。

 

 

「こ、これで本当に大丈夫なんですか?」

 

「知らん、Googleに聞け……ええっと、お腹を優しく叩けば多少は誤魔化せる……と。

こんなもんか?」

 

「はぅぅ!? んあぁっ!?!?」

 

「う、打ち上げられたお魚さんみたいに暴れてますけど……」

 

「ガセ情報なのかこれ? まあ最初だけかもしれないし暫く続けるか……」

 

 

 わからないけど、先輩の手が私のお腹を直接触れたり叩いたりするのが果てしなく気持ちよくて…………………。

 

 

「……………一誠さんの鬼畜」

 

「………………。いや、うん、よく調子こかれてムカついた時に尻ひっぱいたリアスやらソーナがたまにこうなるし、セーフだろ」

 

「そんな事してたんですね。スケベ……」

 

「流石に逆ギレできない正論だわお前の……。

このガキの予備の下着と着替え持ってこい」

 

「はひ……あひぃ……いっせーせんぱぁい……♡」

 

 

 あは、あははは……先輩に貰われちゃった……♪

 

 

終わり




補足

一誠くん、思わず素で話せるくらいの衝撃。

実の所内心リアスさんやソーナさんが覚醒した時並みにテンション上がってる。


その2
何で急に盛り始めたのか……? 理由は理解をし始めた事で一誠の抱えるそれと共鳴し、より一誠に対しての色んなものが増幅したから。

何せ似た者同士候補の最有力者ですからねぇ。


その3
何でこんな冷静なのか……? 割りと慣れてるから。

じゃあ何でセラフォルーさんの時は取り乱したのか? ………………………とやかくと言ってる割には年上好み疑惑があるかもしれないから?


その4
小猫たんは幸せそうにビクンビクンしてましたとさ。

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