執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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チンピラ口調のロリっ娘ってどうなんだろ……?


今回も番外はおやすみします



悪魔(ネオ)

 これは果たして夢……なのかな。

 空も地面も右も左も前も後ろも無い、ただ真っ黒な空間にポツンと立たされてるという意味では多分現実じゃ無いのだろうとは思う……。

 

 

「私はアナタ、アナタは私。

簡単に言えば私はアナタの中に居る、アナタ自身が求めた人格」

 

 

 私と全く同じ姿形をした者がこうして目の前に立ってるんだし、きっとこれは夢で間違いない。

 というより夢だからこうして向かい合ってる訳で……。

 

 

「右は黒歌姉様の妹であり続けられる扉。

左は日之影一誠やレイヴェル・フェニックス達の立つ領域への扉。

さぁ(アナタ)はどっちの扉を開くの?」

 

「…………」

 

 

 きっとこの私にそっくりな人は、紛れもなき私自身なんだろう。

 いきなり現れた二つの扉を背に私へと問い掛けるのもきっと、私がどちらを選ぶか待っているんだ。

 

 うん、問い掛けられるまでもないよ私。

 理解してしまった今、私が開ける扉は――

 

 

「そっか……それがアナタの答えなんだね? わかった、それならば私は今からアナタと完全にひとつになる。

そして目が覚めたらきっとアナタは私が何なのかを理解すると思うけど、敢えて言わせて? 私はアナタが知る筈が無かった可能性」

 

 

 無限の食欲――白音(ネオ)

 

 

 

 

 

 

 

 この日、兵藤家のポストに一通の手紙が投函されていた。

 小さな便箋の住みに小さく書かれていたその白音という名前、そして宛名が黒歌という事もあり、受け取った黒歌は早速兵藤の方の一誠と読んでみた訳だが、そこに書かれていたのはたった一言。

 

 

【本日の夕方、町外れの公園で待っています】

 

 

 近況を尋ねる訳じゃなく、たった一言書かれたその手紙に当初兵藤一誠は怪しんだ。

 しかし既に黒歌は書かれた通りの場所に行くつもりだったので、取り敢えず罠である可能性もある。

 

 

「白音から会いたいって手紙にゃ! 行くに決まってる!」

 

「大丈夫なのか……?」

 

「大丈夫! これで皆一緒になれる……!」

 

 

 既に白音――つまり小猫を連れて帰るつもりらしい黒歌に転生者の兵藤一誠――以下イッセーは疑り深そうに簡潔に書かれた手紙に目を向け、転生して成り代わる事で持つ事となった神器と化している龍と相談し、黒歌の護衛をする事を決め、夕方まで待つ事にした。

 

 

 ―――それが姉妹の岐路となる事とはまだ知らずに。

 

 

 

 そして手紙を読んでから時間はあっという間に過ぎ、日没一時間前となり、指定された通りの町外れの公園へとイッセーと黒歌はやって来た。

 

 

「アーシアには留守番してもらう事にしたけど、本当に白音は来るのか?」

 

「来るよ。絶対に来るにゃん」

 

 

 来る事を全く疑わぬ様子で白音の姿を探す為に辺りを忙しなく見渡す黒歌を横に、イッセーはイッセーで白音を……では無く、その白音側に居る男の気配が無いかを探る。

 

 

(あの手紙が本当に白音からだったとして、死に損ないが一緒になって来る可能性もあるしな……)

 

 

 未だに死に損ないと揶揄しながら気配を探るイッセーは以前その死に損ないの男に両腕両脚の骨を抵抗も反撃も出来ずにへし折られた経験があり、余計にその男……本来の一誠を憎んでいた。

 いや寧ろ生存していたと知った時から毎日の様に死を願っているくらいだ。

 

 何故かと言えば、単純に生存していた一誠の全てを成り代わる事でイッセーとなった為に、生きてて貰っては邪魔になるからであり、既に悪魔側との色々なフラグが折られていたというのもあってよりその……云ってしまえば逆恨みが根深くなっている。

 

 

「あ、白音!」

 

「! 一人……みたいだぞ」

 

 

 そんなこんなで思い出したら余計にイライラしてきたイッセーは、黒歌の歓喜の声に意識を引き戻され、彼女が指を指した先を見て一人である事を確認する。

 

 

「黒歌姉さま……」

 

「白音……!」

 

 

 気配は感じない。本当に一人で来た――とはまだ確信出来ないが、少なくともイッセーには、白音自身の様子は二度目の姉との再会に緊張した面持ちに思えた。

 

 

 

「手紙を読んで来たよ? お姉ちゃんとまた一緒に暮らすんでしょう?」

 

「………」

 

 

 挙動におかしな所はないかとじーっと見つめるイッセーを他所に、やってきた妹を抱き締める黒歌が一緒に暮らす事を話す。

 黒歌から抱き締められた白音は抵抗する様子もなく、黒歌の豊満な胸を押し付けられて若干苦しそうにしていたのだが……。

 

 

「今日は姉さまに言うことがある……」

 

「? どうしたの? リアス・グレモリー達の事なら心配ないよ? お姉ちゃんとこのイッセーが守るにゃん」

 

「いや、そうじゃないよ姉さま。

私、姉さまに一言言いたいんだ……」

 

 

 前置きと共に白音は自身を抱き締める姉の腕を掴む。

 

 

「…………え?」

 

 

 掴まれた瞬間、黒歌からそんな声が漏れた。

 

 

「姉さま、私はもう姉さまが思ってる様な子供じゃないよ?」

 

 

 抱き締めた黒歌の腕を掴み、ミシミシと骨の軋む様な音が聞こえる程に強い力で無理矢理引き剥がそうとしながら、困惑し始める黒歌に向かってにっこり笑いながら言った。

 

 

「姉さまはそこの人と一緒に生きる。

私はリアス・グレモリーの戦車として、姉さまには理解できない領域(バショ)で生きる。

この意味……いくら姉さまでもわかるよね?」

 

「っ!? 離れろ黒歌!!」

 

「うっ……!?」

 

 

 にっこりと微笑んだと同時に、それまでは無かった強大な重圧(プレッシャー)が黒歌へと襲い掛かり、その重圧を同じく感じて危険と悟ったイッセーが咄嗟に横から黒歌に飛び掛かり、物理的に白音から引き剥がした。

 

 その次の瞬間……。

 

 

 シャクッ!!!!!

 

 

「う、お……!?」

 

 

 空を切り裂く様な音が黒歌に横から飛びかかったイッセーの背中ギリギリから聞こえた。

 その音がイッセーの心に強烈なまでの本能的恐怖を抱かせたのだが、一体何があったかまでは黒歌も含めて地面に転がる様にして転んだイッセーにはわからない。

 

 

(な、なんだ……今、何をされた!?)

 

 

 わからないが、もしあのまま黒歌を助けなかったら取り返しのつかない事になっていたかもしれない……そう感じた転生者のイッセーは全身から嫌な汗がドッと吹き出る。

 

 

「しろ……ね……?」

 

 

 しかしそれ以上にショックが大きいのは黒歌の方であり、イッセーに突き飛ばされた衝撃で倒れた体勢から『何か』を咀嚼する様に口を動かす妹を見つめている。

 

 

「……チッ」

 

 

 舌打ちをする白音。

 すると突然それまで重苦しい()()だったプレッシャーが強烈な殺意へと変わると、その殺意に比例するかの如く物凄い怖い顔をした白音が、黒歌……では無くてイッセーへ言った。

 

 

「何なんだテメェは本気(マジ)でよォ……!」

 

「は、はい?」

 

「し、白音……!?」

 

 

 可憐な美少女とは全く思えないドスの利きまくりなチンピラ台詞に黒歌は石像の様に固まり、転生者のイッセーもまたギョッとしてしまう。

 

 

「折角こっちは姉さまのホルスタインの元になりそうな栄養素をしゃくしゃくしてやろうと思ったのに、本当にいい加減にしろよお前……」

 

「ホル……え?」

 

「こ、コイツ、白音に化けた偽物か!? するとやっぱり罠……!!」

 

 

 ビキビキ……と血管が浮き上がり、女の子がやっちゃいけない顔芸みたいな形相となる白音があまりにも違いすぎたせいか、外様から来た存在ゆえの知識と照らし合わせて目の前の白音を偽物と断定するイッセー。

 

 

「黒歌! コイツは偽物だ! 俺達をおびき寄せる為に白音に化けたんだ!」

 

「そ、そう……だよね? 本物の白音だったらこんな怖い顔もしないし、あんな事だって言わないもんね……うん、きっとそう……」

 

 

 イッセーの言葉に対し、黒歌もまたショック故の現実逃避気味に力無く頷いている訳なのだが、残念ながら目の前の白音は正真正銘の本物だった。

 

 

「私はリアス・グレモリーの戦車。そして姉さまははぐれ悪魔でそこの兵藤って人のもとで暮らしてる。

立場が違う以上、姉さまとは一緒に生きられないし、最早お互いそんな歳でも無いでしょう? だから今なら黙って見逃してあげるから、そこの人を連れてとっとと消え失せてくださいよ」

 

「だ、黙れ……! 本物の白音はどこなのよ!?」

 

「私がその白音ですよ姉さま。

あぁ、アナタにとって都合の良い妹で無くなったからそう言ってるのですか? 残念でしたね、アナタにとって都合の良い白音なんて最初から存在してませんよ」

 

「っ……うるさい!」

 

 

 冷たく笑う白音の表情に、激昂した黒歌が飛びかかった。

 

 

「お前みたいな奴が白音の訳が無い! この偽物! 本物の白音はどこにゃん!」

 

「奴の差し金だとしたら俺は黒歌を騙したお前を許さない……!」

 

『Boost!!』

 

 

 黒歌に続く様にして赤龍帝の籠手を纏った転生者も白音に襲いかかり、対して白音は構える事無くその場に立ち尽くすと、一度俯き――

 

 

「あ………っ、 あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!

 

「「ッッ!?!?」」

 

 

 獣の様な雄叫びを、喉が潰れるのではないかと心配になる程の声量を、周囲の全てを破壊する衝撃波を放ちながら張り上げた。

 そのあまりにも大きく、鼓膜が破ける程の声量と衝撃波に黒歌と転生者は足を止めてしまった。

 

 

「はぁ……ぁ。叫んだらお腹減っちゃった」

 

「な、何なのよ……?」

 

「わ、わからない。わからないけど、ドライグが俺に『コイツはヤバイ』と教えてくれる。

油断しない方が良い……」

 

 

 耳をつんざくような叫び声がやみ、今度はポツリと小さな白音らしい声で空腹を訴え始めるのに対して完全にどう出たら良いのかわからなくなった黒歌と転生者がジリジリと偽物と思い込んでる白音に接近する。

 

 その時だった、それまで虚ろな瞳で闇へとなりかけていた空を見上げていた白音の両目が二人を捉えると……。

 

 

「あんまり美味しくなさそうだけど、しゃくしゃくさせてくださいよ……なぁ、先輩に成り代わった転生者よォ……!」

 

「なっ!?」

 

 瞬きを許さぬ速度で転生者のイッセーの目の前まで肉薄し、その小さなお口を大きく開けながら反応しかけていた転生者を――

 

 

 シャクッ!!!!!

 

 

「うぐ……!?」

 

 

 りんごを齧った様な咀嚼音と共に転生者――では無く転生者を覆っていた赤龍帝の籠手により倍加させていた力を『喰った』。

 

 

「な、にを……?」

 

 

 肉薄された時、攻撃される事を覚悟して身構えた転生者だが、直接的なダメージを与えられず、代わりに身体にのし掛かる尋常ではない疲労感に足の力が抜けてその場に膝をつく。

 

 

「まっず!? 何ですかこのヘドロみたいな味!? これが赤龍帝の味なの!? いやそれともこの人だからこんな不味いのかな、ひっどい味ですよこれ! ペッ! ペッ!!」

 

 

 そんな転生者イッセーを暫く口をモゴモゴさせながら見ていた白音だったが、突如顔を不快に歪めたかと思ったら不味いを連呼し始める。

 

 

「い、イッセー!!」

 

 

 何が何だかわからないが、その場に崩れ落ちる転生者の事情の全てを知らない黒歌は咄嗟に助けようと偽物だと思い込みたい白音に向かって素早く接近して突き飛ばそうと腕を伸ばす。

 けれど……。

 

 

「不味いものを食べたお口直しをしたいから……と思ったけど、姉さまのその格好ってこの前の再会から思ってたけど、私への当て付け? くくく、良いよなァ? 胸が大きい女の人ってさぁ?」

 

「にゃ!?」

 

 

 ニタァと嗤った白音がカウンターとばかりに腕を伸ばし、黒歌の豊満な乳房をもぐように掴んで止めた。

 

 

「私だって思う存分先輩に好きにされる程度には大きくなりたいのにさぁ、何しても全然大きくなりゃしない。

ねぇ、なんで? 何で姉さまはもぐほどあるの?」

 

「いだだだだぁ!?!?!? 痛いにゃぁぁっ!?!?!?」

 

 

 片乳を思いきり掴まれて激痛に悶絶する黒歌に呪詛の如く問いかけ続ける白音の目がかなり怖い。

 

 

「お、おいやめっ―――」

 

「テメェは黙ってろ……!!」

 

「ひっ!?」

 

 

 それを見て転生者が力の入らない身体で黒歌を助けようとしたのだが、血走った目と鬼みたいな形相による白音の殺意に飲まれ、情けない悲鳴をあげる。

 

 別にどちらが悪という訳ではないのだが、見たイメージだと白音がただのチンピラにしか見えないし、どことなくサーゼクスと喧嘩する時の一誠に似ていた。

 

 

「何で先輩と顔が似てるのかを知らないとでも思った? いくらバカでも先輩が私達の傍に居てくれてる時点で察しはつきますよねぇ?」

 

「も、もも、もげちゃうにゃあ……!」

 

 

 そして煽り方もまたテンションの上がった一誠に似ていて、その台詞に転生者の顔つきも強張る。

 

 

「奴が話したのか……?」

 

 

 自分が別の世界から転生した存在である事を知るのは本来なら本当の一誠ですら知らない筈の事。

 にも関わらずこのあまりにも性格が変貌し過ぎてる白音は自分に対してハッキリと一誠に成り代わった存在だと宣った。

 この時点で焦った転生者は口封じをするべきなのかを迷ったのだが、少なくとも白音が知っているということは一誠に近しい悪魔達のほぼ全ては知ってると考えてしまうと迂闊に動けない。

 

 それ故に確認しようと転生者にとっての『奴』である一誠の名前を出したのだが、白音はと言えばそんな転生者をバカにする様にしてクスクス笑っていた…………半泣きになってる黒歌の豊満な乳房を思いきり掴みながら。

 

 

「先輩は口下手で、よっぽど親しい間柄でなければまともに会話もしてくれない。

私だって本当の意味で会話が成立したのは昨日がやっとでした………つまりアナタのその興味が全く沸かない正体(ナカミ)については別の人から教えて貰ったんですよ」

 

「べ、別? それは誰だ!」

 

「アナタの知らない人。

知りたかったらご自分で探してみたらどうです?」

 

「ぐっ……!」

 

 

 見下す様な言い方で煽る白音に歯を食い縛りながら睨む転生者。

 その態度を見てますます嘲笑う表情を深めた白音の嫌味は加速する。

 

 

「心配しなくてもアナタをどうこうするつもりは無いですよ? このまま黙って黒歌姉さまを連れて行って養ってくれるんだったら是非ともお願いしたいですし?」

 

「な、なに? 奴に言われて俺を殺すつもりじゃないのかよ?」

 

「だから、先輩は関係ないんですよ……今言った事をもう忘れたんですか? バカなんですか? そりゃあ先輩は視界に入れるだけでムカつくみたいですが、別に消す程の相手じゃないと割りきってますからねぇ?

それともアナタはそれほど自分が重要な存在だと思ってるんですか? 先輩が警戒する程に強いと思ってるの? そんな赤龍帝の神器を持ってるだけの、成り代わった程度の分際で?」

 

 

 煽る煽る。転生者をこれでもかとなじりまくる白音はとても楽しそうだ。

 

 

「もしかしてアナタ、前に先輩に両腕と両足の骨をへし折られた癖に、口封じとかしようとか考えてます?」

 

「っ……!」

 

「あ、図星なんだ? ふーん? どこからそんな自信が出てくるのかは知らないけど、やめてとっとと姉さまを匿い続ける事に専念した方が良いんじゃありませんかね? アナタじゃ絶対に先輩は殺せないし、今の先輩から奪う算段でも立ててるっていうのなら私達全員が黙ってませんから。

ふふ、まあ、これは単なる私の想像でしかないけど……もしそうだとするなら一言言っておきますよ―――そんなくだらねぇ話も最早叶わねぇなァ?」

 

「あひぃ! おっぱいが痛いよぉぉ!!」

 

 

 ケタケタとド三流のチンピラみたいな言い方で転生者を見下し続けた白音は、暴れる黒歌の乳を掴んでた手をやっと離すと、にっこりと微笑む。

 

 

「姉さまはその人と幸せにでもなってください。

今日姉さまと会った事はずっと黙ってますし、一緒に遠くから今私の様子を見てくれてる先輩も内緒にしてくれる筈ですから。ねっ――」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

「一誠先輩?」

 

「「!?」」

 

 

 白音が話終えたと同時に吹き上げる突風と共に燕尾服姿にオールバック姿の執事モードの一誠が登場。

 その目付きは転生者イッセーと一撃で見分けがつく程に悪く、また気配も無くその姿を現したということで特に転生者は以前受けた恐怖もあって硬直してしまう。

 

 

「些か喋り過ぎです塔城様。

というより何故私のしょうもない事情をそこまで把握してるのですか?」

 

「えへ、後で話します。

それよりどうしますか? 私としてはこのまま姉をこの先輩とそこまで似てるとは思えない人に押し付けたいんですけど」

 

「SS級はぐれ悪魔を見逃すですか……この町から去るのであればそれでも構わないのですが、この男の下に居るとなると微妙に今後面倒になりそうですね」

 

「て、テメェ! 黒歌をはぐれ悪魔と呼ぶな! 何も知らないのに――」

 

 

 敬語口調で白音と話すオールバック執事一誠を見て瞬間的に嫌悪感を露にした転生者がいきなり突っかかり出すのだが……。

 

 

「あ? ゴミは大人しく隅で勝手に震えてりゃあ良いものを、余計な真似ばかりしやがって。

そこの女はどうでも良いが、リアスの眷属であるこのガキを拐おうだなんて、テメーは見境無しか? つーかよ、テメーはどうもその女を引き込む為にリアスについて色々と貶したらしいなぁ? えーっとなんだっけ? 我儘だったか?」

 

「っ!? わ、我儘なのは本当だろうが! 違うのかよ!?」

 

「違わないが、少なくともテメーのゴミみたいな人生に何の影響もねーなぁ? にも関わらず知った様な事ばかりほざいてた様で……………いやぁ、ホント頭悪いなお前、わざわざ生き恥さらさせてやって生かしてやったにも関わらず余計な事するなんて、働き蟻の方が余程頭良いわ…………………なぁっ!」

 

「ギャアァッ!?」

 

 

 ヘラヘラと笑っていた一誠がノーモーションの脚払いで転生者の両膝の皿を破壊し、転生者は激痛で悶絶しながらその場に転げ回る。

 

 

「い、イッセー!! や、やめ――」

 

「大丈夫だよ姉さま、別に殺しはしないし、あの癒しの神器使いの人に治療して貰えたら完治する程度に留めるよきっと」

 

「そ、そんな……」

 

 

 止めようと仙術を発動させた黒歌を抑え込む白音と共に転生者の悲鳴が誰も居ない暗い公園に木霊する。

 

 

「大人しく金髪女と乳まさぐりあってりゃあ良かったものを、一々チョロチョロと鬱陶しい真似しやがって。

挙げ句散々眷属にしろとほざいてた奴が、なれないとわかった瞬間貶すだぁ? さっき頭悪いって言ったが一部

訂正してやる、お前ある意味天才だぜ……? この俺の癪に触らせる事に関してはなぁぁぁっ!!!!」

 

「ごがっ!? ぎぃ!?」

 

 

 両足があらぬ方向に曲がり、立つことを許されぬ状態でボッコボコに顔面を殴られ続ける転生者。

 反撃しようにも先の白音に何かをされたせいで力が入らず、鼻は折られ、頬骨も砕かれ、前歯もへし折られ、その拍子に舌の半分程が自分の奥歯で切断されるという悲惨な展開へと陥るのは果たして因果応報だからなのか。

 

 

「おい雌猫ォ……! テメーが禍の団だったかのくだらねぇ組織の一員であることも、はぐれ悪魔である事も黙って見逃してやるから、そのボロクズ連れてとっとと失せろ……!」

 

「かは……かひ……」

 

「な、し、白音は……」

 

「コイツから聞かなかったのか? もうガキじゃねーんだから互いに自立して生きるってよ」

 

「私は言いましたよ?」

 

 

 返り血だらけで黒歌に転生者の死に体同然の身体を投げつけ、チンピラみたいな口調で失せろと言うのだが、元々白音を拐うつもりだった黒歌は躊躇している様子だった。

 

 

「お、お前が白音の事を……!」

 

「あぁ? 俺が何だって?」

 

 

 そればかりか、白音の豹変の原因が一誠と思い込み、憎しみのこもった表情を見せる。

 声が小さく、ちょっとした興奮状態でコミュ障から三下のチンピラ化している一誠はよく聞き取れずにいたのだが………黒歌の思い込みはある意味間違いではないのかもしれない。

 

 

「許さない……! こ、このままじゃ絶対に済ませないんだから……」

 

「ほう、来るか雌猫が? 刹那でぶち殺してやるぜ、掛かってこいよ、あぁん?」

 

「先輩先輩……それじゃあちょっと小物に聞こえます」

 

 

 状況的に悪役っぽいのは間違いなく一誠と白音の即席コンビであり、現に揃ってチンピラみたいな口調で煽ってる辺り、ある種似たもの師弟に見えなくもない。

 

 ズタズタにされた転生者を連れて逃げるように去っていった黒歌は転生者に顔立ちが似ている一誠に対してちょっとした勘違いをしたまま、この日を以て毛嫌いする様になったのは云うまでもなかった。

 

 

「はぁ……これで大人しくしてくれたら良いのだけど……ごめんなさい先輩、私の我儘に付き合ってくれて」

 

「…………。別に私は流れでこういう真似事をしてますが、悪魔に与した訳ではありませんからね。

はぐれ悪魔を見逃そうが、テロ組織の構成員をほったらかしにしようが文句を言われる筋合いはありません。

尤も、次もまた同じことになればそうはいきませんがね」

 

 

 ()()()黒歌を見逃し、彼女が転生者と共に完全に去っていったのを確認した後、小さくため息を吐いた小猫はペコリとご奉仕モードに戻った一誠に頭を下げ、それを受けた一誠はさっきまでの小悪党じみたチンピラ口調が嘘みたいな抑揚の無い調子で気にするなと返す。

 

 

 

「それで良いです……ありがとうござました」

 

「いえ、それにしてもアナタが覚醒させた異常性、思っていた以上に異常たらしめた異常性でした。

コントロールしないと危険かもしれません、先程もアナタ様の様子を見てましたが半分ほど飲まれてましたし」

 

「そう……でした? 私は特に何にもありまけんけど……」

 

「いえ、口調から何から変貌されてましたよ? 何故かデジャビュを感じるくらいに……」

 

 

 姉妹関係が完全に拗れた事に関して何も感じないという訳じゃないが、こればかりは外様の出る幕じゃないと転生者とは真逆のスタンスである一誠が、先程転生者と黒歌に対して向けていた小猫の口調を微妙にしょっぱい顔をしている。

 

 

「先輩を色々と参考にしてますから――――それと、何でまたそっちの口調に? 昨日の時の気安い口調の方が私は良いんですけど……」

 

「昨日は驚きが強くて意識せずに居られただけですから……」

 

 

 やはり戦闘状態の一誠を参考にしていたらしく、妙に可愛らしく微笑む小猫に、何だか自分のせいな気がして微妙に目を逸らしてしまう一誠は、小猫からの指摘に素っ気なく返す。

 辺りは既に薄暗く、良い子は既にお家に帰る時間も過ぎてしまってる中、公園を出るため歩き始めた小猫は、一誠の横をちょこちょこと並ぼうとしながら不満げに口を開く。

 

 

「えー……? 折角先輩に気持ちいいことして貰えて距離も縮まったと思ったのに……」

 

 

 何やら如何わしい言い回しと共にポッと頬を染める小猫の言わんとしてるのは、例の周期で完全に出来上がってしまった時の事であり、その時ネットの情報を鵜呑みにした一誠にあれこれとされてアレがこうしてアレになった件だ。

 一誠はその時から微妙に後悔してるのだけど、どうにも小猫的には寧ろプラスと考えてる様で、あの行いがあったからこそ距離も縮められたと思ってたので、またしても他人行儀な口調に戻ってる一誠に寂しさを感じてるようだ。

 

 

「あの時は申し訳ありませんでした……」

 

「先輩が謝る必要は全く無いのに。

寧ろアレのお陰で私は……ふふ……♪」

 

「……」

 

 

 黒歌が一誠から白音を引き剥がして助けないとという思考に至ってるのとは裏腹に、ベクトル違いの……三体目の『無限』に目覚めたコンビになれそうなのは、恐らく皮肉なのかもしれない。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 自らの扉をこじ開け、見事に一誠側への領域に侵入した小猫たん。

 

 

「ふーん? 小猫に手取り足取りね~? 内緒にする理由がよくわからないわね」

 

「一々言うことの程じゃねーと思ったし、何となく言いたくなかったからだよ」

 

「ふーん? なんか怪しいなー?」

 

「………チッ」

 

 

 リアスとソーナは遅れて知った小猫の覚醒理由に一誠が関わってると知ってちょっと膨れ……。

 

 

「いーちゃぁぁん!!!」

 

「げっ!?」

 

「会いに来ちゃった☆」

 

 

 色々とあって一誠にとって微妙に気まずい相手である魔王少女の襲撃もあったりして。

 

 

「い、いーちゃん……手……繋いでほしいな?」

 

「ネタにされて笑われるだろこんなの……」

 

 

 押しきられて魔王少女の執事兼割りとまともなデートをしたり。

 

 

「今日は楽しかったよいーちゃん、またやろうよ?」

 

「暇で暇で暇で暇でしょうもない時だったら考えてはおく……考えてはな」

 

「ふふ、それで良いよ。それじゃそろそろ帰るね?」

 

「おう、精々溜め込んだ仕事に追われて一人で泣いてろ」

 

「うん、でも最後にひとつ――」

 

「あ? 何だよ――」

 

 

 チュ☆

 

 

「―――えへ、今度は酔ってないから覚えてられるよねいーちゃん♪」

 

「な、な……て、テメェまた俺に……何でだよ!?」

 

「あっれー? ちょっと赤くなってる?」

 

「なってねーよバカ! バーカ!!!」

 

 

 あれ? 魔王少女割りとリーチ掛かってね? とかあったり。

 

 

 

「しゃくしゃくしてやる……」

 

「こっぱ雌猫さんからよくもまぁここまで来れましたわねぇ? そこは誉めて差し上げますが……」

 

 

「っ!? あ、当たらない……?」

 

「当たらない……じゃなくて『当てられない』んですよアナタは。

アナタの中にあるほんのわずかな無意識を弄くればね……」

 

 

 龍虎ならぬ鳥猫相打つ。

 

 

「あらまぁ、あの転生者は今度はテロ組織ですって? 無限の龍神とコンタクトでも取るつもりなのかしら?」

 

「わからないけど、どうしても一誠を殺したいみたいなのよ。そして一誠の傍に居る私達も気に入らないとかなんとか」

 

「アホの考えとしか言いようがありません。折角わざわざ見逃してやったのに、先輩じゃありませんが余計な真似しかしない……」

 

 

 とうとう完璧な死亡フラグ……。

 

 

なんて展開があるのかどうかは知りません




補足

黒歌さんに対して情が残ってるから一応こんなオチな訳ですが、これで懲りて転生者も植物みたいな余生を過ごしてくれると平和になれる……(植物みたいな余生を過ごしてくれるとは言ってない)。


その2

トリコ、アカシア、チンピラ で検索すると今回小猫たんが吐いた台詞みたいなチンピラ具合が読めるよ。

その3
しゃくしゃくした概念全てを自分の糧にして成長し続ける異常。

その許容範囲はまさに無限で、一誠にとことん酷似した性質です。


その4
この日以降、小猫たんは執事くんに対して常時盛ってるのか、スリスリスリスリと猫さんの如くしているのだとか。
その都度一誠本人は距離を保とうと離れたがる。

その5
何気に、これ本当に何気に魔王少女に対して執事くんの反応が微妙に異なる。
というのも、本人から泥酔時の話を聞いたせいで妙に意識しちゃうらしい……。

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