執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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一誠くんが留守にしてるそんな頃、ゲーム以降鳴りを潜めていたあの子が……。




人外不死鳥ちゃん

 一誠が徐々に変わりつつある。

 それが果たして一誠の目標にとって良いものかは正直云うと私達にはわからない。

 

 けれど少なくとも仲間として、友として、親愛としては良いと思っている。

 

 力を示す事でしか自己を確立出来ない哀しい男の子だけど、然り気無い優しさはちゃんと持っているのを私達は知っているのだから……。

 

 

「学園に編入するという形で通いたい……貴女はそう言いたいのね?」

 

 

 そんな一誠と同じ領域に立ちたいという意思を持つ者達が私達を始め、徐々に増えているこの日。

 一誠が朱乃を鍛え上げて留守にしているというタイミングでこの駒王学園へとやって来た一人の少女に対し、確認するように問うと、対面に座るその少女は自信満々に頷いた。

 

 

「はい、両親と兄達を()()させるのに少しばかり時間が掛かってしまいましたが、人間界に滞在する許可を頂けましたので」

 

 

 金髪に勝ち気そうな碧眼。

 造形は見事に整っていて間違いなく美少女と認められる美貌を持つこの少女の名前はレイヴェル・フェニックス。

 先日婚約破棄を賭けたレーティングゲームを行った際、対戦相手であったライザー・フェニックスの僧侶として参加していた――――いや、恐らくは私達を品定めしていただろうこの少女はこの駒王学園に編入する為に私達の前に現れたと言っているけど……。

 

 

「貴女程の者が今更人間界の学校で学ぶ事など無いと思うのだけど……?」

 

「有るとか無いとかのお話ではありませんわ。

日之影一誠様と同じ学舎に所属し、色々な思い出を共有する事が私の目的ですから」

 

「そんな所だと思ったわ……」

 

 

 あのゲームで一誠と打ち合い、挙げ句色々とぶちまけた時の様子を知っていれば、このレイヴェル・フェニックスが真面目にお勉強目的に編入するだなんてありえないと分かってる。

 現に彼女は平然と一誠を様付けで呼びながら楽しげに微笑んでいる。

 

 

「最終目標として私をあの方のモノにして貰う事ですけど」

 

「……それ、一誠の性格を知ってる上で言ってるのよね?」

 

「勿論、そう簡単に行かない事も承知です。

しかしだからこそ燃えるのですわ……ふふん」

 

 

 お兄様と同質の存在で、一誠の本質を理解する者の一人。

 そして何よりも――

 

 

「ところで、一誠様のお姿が見えませんがどちらへ?」

 

「あの子なら今私の女王を個人的に鍛えてるわ……」

 

「女王? 鍛える? なるほど、一誠様もお忙しいのですね」

 

 

 この少女は既に誰よりも一誠の居る領域に君臨している。

 種族を越えた力の更に先の――人外の領域に。

 

 

「女王の方の他にも何人か手解きをされてる様ですわね。

特にそこの白髪の方は……………ふーん、アナタが安心院さんが言ってた……」

 

「何ですか、意味深な顔してこっち見ないでくれます? ムカつくんですよその顔」

 

「あらまあ何て短気な方。

短足でおチビで貧相なものだから心にもゆとりが無いのかしら?」

 

「上等だよお前、表出ろよ?」

 

「お、落ち着いて小猫ちゃん……!」

 

 

 一誠の進んだ道の第一歩を踏み込んだだけに過ぎない私やソーナ……そして小猫とは違い、既にその更に先の道を進んでるのは見ただけてわかってしまう。

 悔しいけど彼女は私達ではまるで歯が立たないくらいに――強い。

 

 

「何人かが少しばかり我々の領域に踏み込んだ程度で気が大きくなられてる様ですわね。

フッ、片腹痛しとはまさにこの事だわ」

 

「何が言いたいの?」

 

「沢山ありますわよ? 勿論不満と文句という意味でね」

 

 

 思えば初めから気が合わなそうにしていた小猫の殺気を半笑いで流していたレイヴェル・フェニックスから冷たい威圧が放たれる。

 

 

「アナタ達が一誠様の枷になっているという意味でね」

 

 

 私達の存在が一誠にとって枷になる。

 レイヴェル・フェニックスは私達を見据えながら責めるようにして言葉を続ける。

 

 

「サーゼクス君の親族並びにご友人という立場上、一誠様との関わりが多くなっているのはわかりますが、だからと云ってあの方におんぶに抱っこというのは如何なものかしら? ハッキリ言ってしまえば、アナタ達がモタモタしてるせいで一誠様は今本来なら更なる領域に進化ができているのに停滞してしまわれてるのよ? その自覚が貴女方にありますの?」

 

「……………。耳の痛い話だわ」

 

 

 お前達のせいで一誠が強くなれない。

 レイヴェル・フェニックスの言葉に私は思い当たる節がありすぎて反論ができない。

 

 

「一誠様は他人を――それも一定の信用に値する人物の進化を促す特性をお持ちです。

だからこそアナタ様も、ソーナ様も、そこで睨んでる白い方は我々の領域への条件を手にすることができた。

思い当たる節はあるでしょう?」

 

「そうね。これは確かに一誠を見たり鍛えてくれなければ死ぬまで気づくことは無かったわ」

 

「だというのに、アナタ達は何時まで経っても一誠様を拘束しようとする。

それが一誠様の枷となることを知ってか知らずか、特にアナタ様の母上はね」

 

「……………」

 

「一誠様は完璧では無い。寧ろ最も完全や完璧という言葉から程遠く、この先に永遠にその言葉を体現することは出来ない。

何故なら一誠様の持つスキル……無神臓(インフィニットヒーロー)は完成する事の無い永久の進化を促すスキルなのだから……。

だというのにアナタ方は要らぬものを背負わせ、あまつさえ甘える。

安心院さんやサーゼクス君はそれもまた彼の進化への道だと言ってますが、私からしてみればお荷物のアナタ達にそんな価値があるとは到底思えない」

 

「テメェ……! さっきから――」

 

「小猫……下がりなさい」

 

「で、ですが……」

 

「良いから。フェニックスさん、私の眷属が失礼したわ、それでアナタは私達にどうして欲しいの?」

 

 

 荷物、枷、邪魔等々、私達という存在が一誠にとって不純物であると断じるレイヴェル・フェニックスに、スキルを覚醒させてから妙にキレた一誠みたいな口調になる小猫を止めながら、彼女が私達に何を言いたいのかを知るために続きを促す。

 

 

「別に一誠様を解放しろ等とは言いません。ですがこれ以上の重荷を背負わせないでください。

それでもし一誠様の進化が止まれば、私はアナタ達を本気で殺します」

 

『……』

 

 

 ライザー・フェニックスの妹とは思えない程の覇気と威圧感。

 それは魔王としてでは無くなる兄が放つ人外の領域に酷似しており、私達は動けなくなる。

 本当の人外は一見すると『無害な存在』に感じるけど、なまじその領域に少し踏み込んでいる私達にとっては凶悪ともいえる圧力だわ。

 

 

「スキルを持った程度で私達に追い付いたとは思うな。

安心院なじみ(ぼく)達はそんな甘くないのでしてよ?」

 

 兄や一誠以外に初めて見る本物の『壁の向こう側に立つ人外』の威圧とそれだけで悟ってしまう差に私達は為す術が無い。

 これがもし脅しでは無く本気で始めから殺しに来ていたとしたら私達全員は何も出来ずにレイヴェル・フェニックスに首を刎ね飛ばされてしまっているだろう……。

 

 

「さ……い……」

 

 

 私を含め誰しもがそんな彼女の威圧に飲み込まれたと思っていたその時だった。

 

 

「? なにか?」

 

 

 最近一誠との修行により異常性を持った私の戦車が、真上から大きな手で押さえつけられる様な重圧で身体を震わせながらも小さな声を出し、反応をしたレイヴェルを思いきり睨んだのだ。

 

 

「うるさいって言ったんだよこの焼き鳥女……! 最初から持ってる様な奴に私達の気持ちがわかってたまるか! 食い殺すぞ!!!!!」

 

 

 内に宿すその異常性を剥き出しに重圧をはね除け、歯を食い縛りながらふんばり、目を丸くしているレイヴェル・フェニックスに啖呵を切った瞬間、のし掛かっていたプレッシャーが消え失せる。

 

 

「やっぱり気に入らない。

先輩と同じだか何だか知らないけど、それだけで先輩の近くに居られると勘違いしてるのが!」

 

「それはある意味事実ですもの。

逆に進化の邪魔をするアナタ達にその資格があるとでも?」

 

「資格があるとか無いとかじゃないんだよ! 好きで居たいか居たくないか……愛だろ!!!」

 

 

 私達を庇う様にして前に出て座って余裕を見せるレイヴェル・フェニックスと相対する小さかった小猫の背中が大きく見えた。

 そしてそれと同時にこの子はそれほどまでに一誠を慕っているのかと嬉しく思ってしまう。

 

 

「少し前まで何も知らなかったおチビさんにしては大きく出ましたわね」

 

「黙れこのステレオお嬢様が。古くさいんだよ」

 

 

 強くなったわね小猫。

 ホント、うかうかしてられないくらいに。

 

 

「ソーナがこの場に居たら多分同じことを言うと思うからまとめて言うわ。

アナタにそんな事を言われずとも今はまだ一誠の邪魔になってる自覚はある。

我儘ばっかり言ってる自覚もあるし、それにどっぷり甘えてる自覚もね、でも確実に私達はアナタ達に追い付いてみせる。

お母様も、グレイフィアも、ミリキャスも、セラフォルー様も……一誠をきっと独りにはしない」

 

「…………」

 

 

 だから私とソーナはこの領域へと踏み込んだ。

 どうしようもなく弱いなんて指摘されずとも分かってる。

 毎日毎日一誠に『進歩の無い奴等が』と呆れられてるんだし、嫌でもわかってる。

 

 でもだから諦めるなんて物わかりの良い性格をしてる者なんてこの中には居ない。

 

 私達は一誠にすら呆れられる程の変人なのだから。

 

 

「……。今ので心が折れたら鼻で笑ってやるつもりでしたが、少しは骨があった様ですわね。

一誠様による後天的な能力保持者であるだけの事はある……という事ですか」

 

 

 私達全員の覚悟を見せつけ、それを受けたレイヴェル・フェニックスはそれでも余裕を崩さない笑みを静かに目を閉じながら浮かべる。

 この様子からいってほんの少しは認めてくれた……と思うのはまだ早いかもしれないけど、少なくとも脅しに屈したりはしないという意思だけは伝わったと思う。

 

 けれど――

 

 

「私は昔からすぐに熱くなる――なんて指摘されていましたが、全く以て否定できませんわね」

 

 

 小さく肩を震わせ、笑っている様な声でそう話したレイヴェル・フェニックスの額から橙色の炎が浮かび上がる。

 

 

「誰かに嫉妬したのはこれで二度目。

一度目はサーゼクス君経由で一誠様のお側に居られるアナタ達という存在。

もうひとつは――」

 

 

 その炎を見た瞬間、閉じていた目を再び開けたその瞳を見た瞬間、私は――いや、恐らくは全員が同じ事を思ったと思う。

 

 

「――――安心院さんですら心底信じなかった一誠様からそこまでアナタ達が思われていると知った、今この瞬間(とき)

 

 

 空の様だった蒼い瞳が、額に灯る炎と同じ朝焼けを思わせる橙色に変化させたレイヴェル・フェニックスがフェニックス家という血筋のみの力すら超越させていた事。

 

 

「さっきそこの白猫さんからの挑発の返事がまだでしたわね……? ふふ、お前等こそ全員表に出ろ、"死ぬ気"で遊んでやりましょう」

 

 

 本当の不死鳥と炎を操りし、本当の人外による認めさせる試練が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当の人外の領域。

 それはサーゼクスと一誠の喧嘩を見て知ったつもりでいたリアス達に重くのし掛かる。

 

 

「は、速っ――ぐほっ?!」

 

「逆にアナタ達は欠伸が出る程に遅いですわね」

 

「ぶ、部長! このっステレオがぁぁっ!!」

 

 

 しゃ――

 

 

「な、あ……!?」

 

「食べるスキルでしたっけ? とあるお方の喰い改める正喰者(リアルイーター)とは真逆に悪食の如く喰い尽くすスキルは確かに驚異。

しかし、ふふ……だったら食べさせなければ良いだけの話だって事ぐらいわかるでしょう?」

 

「がはっ!?」

 

 

 その悉くを叩き潰していく人外。

 それは奇しくもサーゼクスや一誠のやり方にすら酷似する。

 

 

「さぁて、次は私の番ですが……一撃で死んだら嫌ですよ?」

 

 

 額に灯る炎と連動して灯る左右の手の炎が太陽の様な輝きを放つ。

 それはレイヴェル・フェニックスが持つ本質にも似た破壊的パワー。

 

 

決別の一撃(コルポ・ダッディオ)……!!!」

 

 

 全てを塵に帰す憤怒の炎。

 

 

「な、なんて炎!? まともに喰らってたら蒸発じゃ済まないわ!」

 

「全力で相殺するわよ皆!!」

 

「く、くそ……あの鳥女め……!」

 

 

 一誠にとっての壁であるのがサーゼクスである様に、リアス達の壁。

 

 

「あら、ソーナ様のスキルの事を忘れてましたわ……。

ふふ、私にとっては恐らく一番厄介なスキルでしたのについつい熱くなってしまって……クフフフ♪」

 

「くぅ……な、何とか致命的な力はゼロに戻したけど……も、もう一度やれと言われても無理だわ」

 

「そ、ソーナ……! ありがとう、お陰で今あの子の炎を『モノ』にしたわ!」

 

「? あら、私の炎を模倣したのですね? まるで完成(ジ・エンド)を彷彿とさせますが、しかしまだアナタはスキルを完全に自分の手足にしていない。そして一度防いだだけで終わったと思わないことですわね……。 ―――――――オペレーションXX」

 

 

 レイヴェル・フェニックスという、安心院なじみ直々に教えられることで手にした彼女以外が使えない七色の不思議な炎を扱う人外なのかもしれない。

 

 

 

「XX BURNERオーバーエクスプロージョン!!!」

 

 

 

次回・本物の領域の差

 

 




補足

領域といってもその中でもやはり格差はある。

リアスさんやソーナさんがざっくばらんに5として、なりたてのネオ白音たん1。
サーゼクスさんクラス破格の20オーバー、しかし一誠は停滞中の為に10。








そしてレイヴェルたんは15という、安心院さん分身の中での単純戦闘力は安心院さんとこの時代の反転院も兼ねているサーゼクスさんを抜かせば文句なく最強という。

つまり正真正銘にレイヴェルたんは強いです。


ちなみに瞬間風速でギャスパーきゅんだのミリキャスたんだのヴェネラナさん辺りは11になったりならなかったり。


その2
メタだらけの安心院さんがとあるジャンプコミックを読ませた結果、レイヴェルたんは某マフィアの炎が扱えてしまってます。

しかも到達点レベルにまで……。


その4
ある種本当のIFですね生徒会シリーズの。

もしもサーゼクス様がガチだったら。
もしも安心院さんが預けた先がグレモリー家なら。
もしも一誠がツンギレだったら。

みたいな。


あぁ、ちなみに三大勢力とは名ばかりでサーゼクスさんのせいで完全にパワーバランスが狂ってて、ぶっちゃけ堕天使と天使が徒党を組んでもサーゼクス様一人でオーバーキルらしい。


なので日本の地を原作では間借りという感じですが、この世界では完全に向こうが『サーゼクスのご機嫌を伺う』的な意味合いで献上してる感じです。

弱点としては純血が減ってしまってる辺りですが、 他勢力にとってすればどこぞのザ・マン的な意味で『サーゼクスが悪魔として例え一人となってしまっても悪魔は永久に不滅』と、本人の知らないところでエラくビクビクされてしまってるくらい、思春期の頃はヤンチャしちゃってたらしい。


 本人はグレイフィアさんに毎度毎度求愛してただけなんですけど。

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