なんだろ、別に特にない。
前回までのあらすじ。
人外悪魔っ娘ことレイヴェル・フェニックス一人に対してリアス・グレモリーは仲間達共に戦いを挑み、そして負けた。
「それでそのザマか」
「面目ないわ……」
強い強いと聞いてたけど、まさかかすり傷ひとつ負わすこと無く負けるだなんて……。
しかもタイミングよく一旦朱乃と……何故かセラフォルー様を連れて戻ってきた一誠に見られるし、レイヴェルはその瞬間鳥なのに犬の耳と尻尾が幻視するくらいに一誠にすり寄って嫌がられてたし。
ええそうよ、多対一で挑んだ癖にものの見事に返り討ちにされたわよ。悪い?
「編入って、この学園に毎日来るのか?」
「ええ、アナタ目当てにね。
よかったわね、私達を片手間に返り討ちにできる強くて可愛い女の子に想われて」
「なにこいつ、なんでこんな不機嫌なわけ?」
不機嫌にもなるわよ。
こっちは全力だったのに、向こうは遊び感覚に加えて延々と一誠について話してたんだから。
一誠が悪い訳じゃないし小猫の啖呵の言葉を借りる様だけど、必死になって入り込めた領域に平然と居るのはいい気分じゃないわ。
「手も足も出なかったです。皆で一斉に挑んだのにかすり傷すら負わせられなくて……」
「………」
「生憎私は生徒会の活動中だったから参加しなかったけど、私一人が加わった所で結果は変わらなかったでしょうね」
ソーナ達に介抱されながらのレイヴェル・フェニックスと相対した時に抱いた印象を粗方話終えた私達は疲れた様に戻っていた部室の椅子に腰掛け、唯一一誠から直接指導を受けていて参加していなかった朱乃にお茶を入れてもらっている。
「サーゼクス君呼びの時点でアレだなとは思っていたけど、まさかここまでだなんてね……というか何でセラフォルーお姉様が居るんですか?」
「いーちゃんとイチャイチャしたくなったから来たんだけど、そっちは大変だったんだねー……」
「あのレーティングゲームの時の僧侶さんが……ですか」
「……………」
何気に混ざってるセラフォルー様をジト目で睨むソーナに内心同意しつつ私は無言となる一誠を見つめる。
その胸中は恐らくお兄様と同質であるレイヴェル・フェニックスについてで埋まってるのだと思うと複雑だなと思う。
これがソーナとかセラフォルー様とかなら昔からというのもあってまるで悔しくはないのだけど。
「全員で掛かろうが、現状あのガキに勝てる奴なんてこの中に誰も居ないし、こんなものだとは思う」
そんな私の気持ちを多分察してもない一誠が、朱乃を手伝いながらある意味で予想外な事を言い出し、思わず私達全員が信じられない眼差しを一誠に向けてしまう。
「えっと、その言い方だと先輩も含まれちゃいますけど……?」
地雷かもしれないと思って誰も口にできない中、意を決した顔で一誠に問い掛ける小猫に我々は何度も頷きながら渋い顔となってるのを見る。
「あの小娘は……といっても歳なんて変わりませんが、彼女は私より上です。だからこの中と表現したまでです」
『!?』
認めたくは無いがといった様子を隠そうともせずに、しかしハッキリと自分より上の領域と断言した一誠の言葉に私達は暫く完全に言葉を失ってしまった。
まさかまさかとは思ってたけど、それでも一誠と完全に並んでるのだと下から見上げた形に居る私達には思えなかったのに、当の本人が認めてしまってる。
この負けず嫌いの一誠が……。
「嘘でしょう?」
「そんな嘘言っても何にもならないだろう? あのガキともしあの茶番ゲームの時続けていたらやられてたのは俺だ」
忌々しげにそれでも認めた一誠に再び絶句してしまう。
「あのガキは確かに強い。サーゼクスより少し下だが、それでも俺の上を行く程度には強い…………今はな」
「せ、先輩が認めるなんて……」
「その現実に目を逸らして強くなれたら苦労はしませんから」
「で、でもそこまで言うあの子って今のいーちゃんとどれくらいの差があるの? 僅差?」
「………………………。物凄く大雑把に表現するなら、まずサーゼクスが20だとする。
それに対して俺は甘く見積もってその半分程度の10、あの鳥ガキは――――15くらいだな」
お兄様の半分を自己採点して付け、レイヴェル・フェニックスは更にその上の数字を付ける一誠は、もっと分かりやすく説明したいのか、部室にあったホワイトボードを引っ張り出し、私達も漠然と表現している領域のレベルについて話始めた。
「俺やリアスやソーナ、それから塔城は一応種族としての壁を越えた位置にいる。
この前その壁を越えたばかりの塔城は1。ある程度何度か壁を越えられたリアスとソーナは5、俺はまあさっきも言った通り10としよう」
小猫の名前の後に5本の縦線を引いて壁に見立て、私とソーナの名前の後に更に5本の線を引いてから俺と書いて差の表現をする一誠の説明はざっくばらんながらも割りと分かりやすく、全員が頷きながら聞き入っていた。
「この間にも一応ギャスパーや………瞬間風速等を考慮すればグレイフィアやヴェネラナのババァやジオティクスのおっさん……後はセラフォルーも入る訳だが、そこは割愛することにして、この10という数値の上――つまり11からは完全に人外の領域だ。
リアスやソーナなんかはわかるだろう? 1という数値の壁を乗り越えるのにどれだけの力が必要なのかが」
「そうね……」
「文字通り死の手前まで追い込んでやっと乗り越えられるってばかりだもの。嫌でもわかるわ」
ひとつの壁を乗り越える事がどれだけ大変かなのかはよくわかってる。
わかってるからこそ一誠の居る位置は凄まじいものだと理解してたつもりだったのに、お兄様もあのレイヴェル・フェニックスもそんな一誠を越えた先に立ってるなんて、理不尽にも程があると思ってしまうのは仕方ないと思う。
「俺のスキルはその壁を永久に越えられる――あくまで可能性を秘めたもの。
リアスやソーナも磨けば光るし、塔城に至っては潜在的なものはこの中の誰よりもある。
だがサーゼクスやあのガキはそれを真上から平然と笑って蟻か何かを踏み潰せる本当の化け物領域に居やがるって訳だ……わかったか?」
『………』
『なじみの分身位置の奴等は決まってそんなんばっかりだ。悪平等って概念を根底から作り直して完全な少数派にしてからは更にな……』と、呟きながらホワイトボードに書いた文字を消していく一誠の説明が何度も頭の中でリピートする。
現状、お兄様以外の魔王すら凌駕してると言われる一誠ですらまだ到達していない本当の領域に、私やソーナよりも年下で小猫と同じ学年年齢の女の子が立ってる。
「む、むかつく、やっぱり腹立つあの鳥女……」
「そのお気持ちは死ぬほどわかりますよ塔城様。
私もこれまで何度あのサーゼクス・グレモリーにその気持ちを抱いたか……」
「で、でも僕みたいな者から見てると、一誠くんとフェニックスさんに違いなんて無いように見えるんだけど……」
「それはまだ木場様があの小娘の本気を見てないからですよ。
見れば多分嫌でもわかりますよ……化け物だって―――だろ、ギャスパー?」
「は、はい……最後まであの子は僕達を前にして遊んでましたから……」
「オメーは完全に潜在パワーを引き出せたら12は固いんだがな……チッ」
「ちょ!? し、舌打ちしないでくださいよぉ……!」
「うるせーフィジカルエリートが……グレイフィアといいババァといい、今に見てやがれ」
「普段僕一誠さんにボコボコなのに……」
世の中はやっぱり広すぎる。
お兄様曰く、並みの神々すら殴り飛ばせる領域に生息する一誠の更に上には上が存在するだなんて……。
心が折れるより寧ろ笑ってしまう………。
「じゃあもう越えて見せるしかないじゃない、そんな事言われたら……」
「ええ、というか然り気無く一誠に褒められたし、それで満足してはいけないでしょ」
「良いなー……私はスキルとか持ってないから仲間外れだよ……」
より高い目標を超越してやろうという気持ちが芽生えてしまうから。
「あの、ちなみに私や祐斗君なんかはどれくらいなんでしょうか?」
「え? あー……無理矢理付けるとするなら木場様は0.5くらい?」
「完全にお話にならないね僕……」
「私は……?」
「姫島様は0.8くらい? 両者共今はですがね」
「と、ということは副部長に目処が立ったら今度は僕を鍛えてくれるのかい!? それもマンツーマンで!」
「アナタ様が望まれれば……まぁ。
一人だけしないのも変な話――」
「ひゃっほう!! ランニングしてきまーっす!!!!」
「――――――何なんですか急に……」
「0.8……何とかして小猫ちゃんと同じスタートラインに……」
「…………」
レイヴェル・フェニックスにだけはこの借りを利子つきで返してやるわ。絶対に。
レイヴェルが一誠よりも更に上に立つという、衝撃的事実を知ってより強さへの渇望を強めたリアス達。
その中で今現在一誠に直接叩き込まれてる姫島朱乃は1という壁の向こう側にあるスタートラインに立つ為に必死だった。
「30分時間を設けます。その間にセラフォルーに一撃与えてください」
「……え゛?」
「よーっしゃ! ステッキが火……じゃなくて氷吹くぜ!☆」
しかしその修行はセラフォルーがやって来ちゃったせいで鬼畜難易度であり、リアスやソーナが同情的視線を向けられる程度には過酷なものだった。
「お姉様に一撃か……」
「タイミングが悪いというかなんというか……」
ブンブンと撲殺ステッキを振り回して張り切るセラフォルーを見て悟った様な顔の二人をみてるだけで朱乃にしてみたら嫌な予感しかしない。
真夜中の学園の運動場を借りての修行は、気付けば一介の転生悪魔と魔王のタイマンに発展していたのだった。
「いーちゃんいーちゃん、反撃はアリなの?」
「殺すつもりでいけ」
「ちょ!?」
「よーし☆ 魔王少女レヴィアたん、出撃しまーす!」
端から見れば単なる虐めだ。
何せ相手は悪魔の長の一人で、最強の女性悪魔と吟われる魔王レヴィアタン。
サーゼクスという一人で平然とその気になったら多勢力に一人で喧嘩売りつつペンペン草すら這えない程度に殲滅できる化け物のせいで霞んでしまうかもしれないが、このセラフォルーという女性もまた一誠という存在により地味に『進化』した存在。
故に例え手加減だとしても、その一撃は殺戮クラスだった。
「魔力は使わないであげる! てい☆」
「ひぇ!?」
魔法のステッキで地面を殴れば地は砕け。
「レヴィアたんパーンチ!☆」
「きゃあ!?」
一誠の影響か寧ろ徒手空拳に強くなったその拳が空を切れば、それだけで空間が歪み。
「レヴィアたんスーパーキーック!!」
その蹴りは衣装のせいで下着丸見えの掛け声のせいで間抜けに見えても殺人級……つまり朱乃はもう泣きながらも必死にならざるを得ないのだ。
「どうしたの? 遠慮しないで魔力とかバンバン使いなさい?」
「うぅ……!!」
かするだけで死を連想させるセラフォルーの攻撃から這う這うで逃げ続けきた朱乃は、挑発の言葉を受けて必死こいて自身の身に蓄積された全てを放出するが、それでもセラフォルーは一誠の如く片手で全てを叩き落とす。
「お姉様ったら飛ばしてるわね……」
「仕方ないとはいえあの朱乃が泣きっぱなしだわ」
「レヴィアタン様って先輩が表現した数値でいうとどれくらいなんでしょうか?」
「それは一誠に聞かないとわからないけど―――どうなの一誠?」
「………………………8くらい」
「8か……たまに瞬間風速で一誠に食らいついてるし、納得の数値ね」
ニコニコしながら朱乃を追いかけ回してるセラフォルーを微妙な顔付きで8と表現する一誠にソーナとリアスは割りとあっさり納得した様に頷き、小猫やギャスパー、祐斗……それから付いてきた匙達は感覚が麻痺してるのか、逆にセラフォルーの評価の高さに驚いていた。
「魔王様だしとは思ってたけど、そんなに高いなんて。しかも先輩から……」
「そりゃそうよ、一誠が小さい時なんかはセラフォルー様が歳上としての威厳の為に小競り合いをしてね。
その都度ケタケタと一誠は笑いながらセラフォルー様をバカにしてたものよ?」
「そうそう、必要性が無いのにお姉様の服を吹き飛ばしたりね?」
「……………………」
「おまっ!? そ、そんな事までしたのかよ!?」
「わ、分かりやすく心をへし折ろうと当時無い頭で考えた結果だったのです。
あ、あんまり効果はありませんでしたし、今は流石にやって――――」
「と、言いつつ実は昨日手合わせした時にいーちゃんにおっぱい揉み揉みされちゃった☆」
「だからちげーって言ってんだろうがァァァッ!!!!」
セラフォルーに対しての扱い方について否定しようとした途端、然り気無く聞いていたセラフォルーから待ってましたの如く飛び出した言葉に全員の視線が……特にソーナ眷属女性陣は非難めいたものに変わる。
「あのさ、日之影くんってひょっとしてスケベなの?」
「普通そんなことしないわよ? 女性の服を吹き飛ばすなんて……」
「しかも笑うって。何だか小学生の低学年の子が気になる女の子をいじめるってものを感じるんだけど」
「え、そうなの!? お前実はレヴィアタン様のこと……」
「ふざけんなボケ!! 誰があんな人間から見たらミイラみたいな歳した奴に欲情すんだよ!!!!」
匙の言葉に対し、思わず全力否定になる一誠だがかえって逆効果だった。
「あ……匙達なのに思わず素になってる」
「毎日際どい写真ばっかり携帯に転送されてるし、まさか一誠実は図星で――」
「よーし、テメー等全員そこに並べ。
姫島と同じ修行をしてやるよ」
挙げ句ソーナとリアスの言葉がトドメとなり、逆ギレを開始した一誠。
ある意味セラフォルーのお陰でそんなに関わりの少ない面子に強気になれた一誠くん。
「えへ、それと昨日縛られて………えっへへへ☆」
「勝手にやってんだろうが! もう黙れ!!」
「日之影くん、そんな事まで魔王様に……」
「何であのバカばっかの言葉を鵜呑みにするんだよ!」
尊厳はぶち壊しだが。
補足
とまあ、修行中にバラされて尊厳丸潰れ気味の中、水面下で事件が発生します次回。
その2
結果だけみると割りと散々なセラフォルーさん。
ちょっとしたお返しみたいなもんです