特にねーけど。
コカビエルを抑えた――というかコカビエルがこの街で起こした騒動を理由に悪魔・天使・堕天使を一纏めに三大勢力の会談が行われる事になった。
場所は私達が通う駒王学園内であり、必然的に我々がその会談の警護に当たる。
それは別に良い。今回の騒動は悪魔内部で片付けられる様なものではない当たり前の事なのだから。
問題はその直ぐ前に始まる授業参観日についてだ。
授業参観――つまりそれは父兄が子の学園風景を間近で見る日であり、当然私とソーナの父兄も来る。
それが一誠的にはとても嫌な様で……。
「具合が悪い、気持ち悪い、頭痛い、熱がある、身体が全然動かない。
だから今日は学校休む」
どう見てもバリバリの健康体なのに、思い付く限りの体調不良を訴えて布団から全く出ようとしなかった。
「見事なまでに健康に見えるわね」
「熱も計る限り平熱よ」
熱があるんだと言いながら掛け布団に丸まる一誠と額を合わせるソーナも、横で見ている私も完全に仮病だというのがわかる。
しかしそれでも一誠は心底嫌だとまるで小児の様に駄々をこねて布団から出ようとしない。
「とにかく気力的に無理だからお前らだけで行ってくれ。俺は絶対に今日だけは行かないったら行かないんだ!」
これ程までに休むと言い張る理由を私もソーナもわかっている。
そう、私のお母様とソーナのお母様が間違いなく今日の参観日に来るからだ。
「そんなにお母様に見られるのが嫌なの?」
「別に悪いことをしてる訳じゃないのだし、何時もの通り授業を受けていれば良いじゃないの?」
「あのババァ共が大人しく見てるだけとは思えねぇんだよ。ただでさえ今回はサーゼクスやグレイフィアやセラフォルーまで来るって話らしいし、ろくでもない展開にしかなりゃしないに決まってるんだ。
とにかく俺は行かない!」
確かにお母様達辺りは一誠が授業を受けている所を大人しく見ているとは思えない。
いや流石に授業中に騒ぐ常識知らずな方では無いにせよ、一日がかりの授業参観なので休み時間になったら間違いなく構い倒そうとするのは――娘である私から見ても想像しやすい。
だから一誠は頑なに行かないと言い張ってる様だけど―――仕方ないわね、魔法の言葉を使わせて貰う。
「休むなら休むで構わないけど、その理由が病気だとお母様が知ったら間違いなく来るわよ? 下手したらそのままずっと一緒だなんて事に……」
「ぅ……」
「直るまで看病は勿論のこと、子守唄に添い寝等々が加わってしまうでしょうね?」
「そ、そいね……だと……?」
ソーナのわざとらしい言い方に一誠の顔色が悪くなる。
何度と無くほぼ強引にさせられてきた事があるからこそ簡単に想像できてしまったらしい。
無言で立ち上がった一誠は言った。
「やっぱり行く」
罰が悪くなった子供みたいな言い方に私とソーナな思わずキュンとしてしまう。
至近距離で構い倒されるよりは授業参観日で構い倒される方がまだマシ――一誠的にはそう判断したのだろう。
のそのそと着替えた一誠を連れ、私とソーナはある意味長くなりそうな一日へと飛び込んだ。
一誠の予感は完全に的中した。
本日行われた授業参観日においてやって来た多くの生徒の父兄の中にシレッと混ざってやって来たリアスとソーナの父兄である筈の悪魔達が、ただ小さく空気に徹しようとせんとする日之影一誠の学生生活っぷりをこれでもかと見てくるのだから。
「本日は沢山の父兄の皆様の前での授業となりますので真剣に―――おやどうしました日之影君? お腹が痛いのでしょうか?」
「……………………………………」
仮病使って学校を休んでも、それを聞き付けたヴェネラナ達が間違いなく来る。
だから一誠は覚悟して来たのだけど、その前に抱いていた授業参観における嫌な予感は見事に的中しており、ヴェネラナやジオティクス、そしてサーゼクスとグレイフィアとミリキャスまでもが終始下を向いて身を縮めていた一誠をこれでもかと楽しそうに眺めていた。
しかも途中でソーナの両親までもが、合流するのだから胃薬が欲しくて堪らない胃痛になるのは云うまでもなかった。
それ故、兵藤イッセーだのアーシア・アルジェントだの、何故か居るゼノヴィアだのだのだのの事などどうでも良かった。
そしてお昼休み……。
授業参観も兼ねた特別なお昼休みの風習の為なのか、父兄達と過ごす流れにされたせいで一誠の感情は此処で限界だった。
「離せババァ!! リアス達の所に行けば良いだろうが!!」
「ババァとは何ですか、全く悪い子ね。ほら一緒に行きましょう」
「嫌だ! 絶対に嫌だぁぁぁっ!!」
日之影一誠は基本的に学園内では物凄く目立たず、そして全くといっても良いほど声を出さない。
それ故にこれ程までに感情的になって、凄まじく若々しい父兄と思われる女性に後ろから羽交い締めにされながら喚き散らす姿はレア通り越して初めての事であり、多くの生徒達が驚きの表情を浮かべていた。
それは多くを色々と知る兵藤イッセー一派も同じであったが、一誠本人はとにかくヴェネラナ達から逃げたくて仕方なかったので、そんな視線に気付く事無く、虚しくもヴェネラナに連れていかれ――
「離せよ! 離せ……は、離せよぉ――――ヴェネラナ母さん……」
「…………え?」
る直前、それまで暴れていた一誠が突然しおらしい声でババァ呼ばわりしていたヴェネラナに向かって捨てられた子犬的な眼差しを向けながら『母』と言ったのだ。
その瞬間、ヴェネラナは思わず固まり羽交い締めにする力を緩めてしまう。
「い、今なんと――」
とてつもなく嬉しい言葉が聞こえた気がしたヴェネラナが動揺しながらももう一度聞こうと一誠に問おうとする。
しかしその瞬間……。
「引っ掛かったなババァが! じゃーな!!」
ニタァと嗤った一誠は脱兎の如く人混みの間を器用に縫いながら逃げてしまった。
ヴェネラナを大人しくさせる最大の切り札の一つとも言えるこの行動に暫し呆然としていたヴェネラナは、サーゼクスが『あーぁ、僕しーらね』と遠くない未来に一誠が何をされるかを悟りながら呟くのを背に……。
「…………」
何かしらの――多分押してはならないスイッチが入った。
「チッ、思った通りになるなんて最悪だぜ」
スイッチを完全に入れてしまった等思ってない逃亡した一誠は、とにかく見つからない様にと誰も居ない場所を探して一人校内をさ迷っていた。
「……」
予想をした通りにヴェネラナ達から構われてしまった――というのが仮病を使った最大の理由なのだが、一誠が最も行きたくなかった理由はもう一つあった。
それは一誠の実の両親――つまり今は兵藤イッセーの両親との鉢合わせだった。
「………チッ」
先程の授業の時に居た他の父兄の中に居た実の両親。
向こうは自分の存在自体が記憶に無く、兵藤イッセーを子として認識しているのだろうけど、一誠にしてみれば忘れたくても忘れる事のできないトラウマのひとつなのだ。
誰も居ない体育館裏の縁石に腰を下ろしながら頭を何度も振って最後に見た時よりも歳を重ねた両親の事を頭の中から消そうとしても、中々消えずに舌打ちをしてしまう。
「俺とはもうなんの関係もないんだ。
関係ない……関係ない……」
今更会った所で何かが変わる訳じゃない。
両親にとって自分は関係無い赤の他人なのだ……いくら訴えてもそれが無駄なのはあの時嫌という程分かった筈じゃないか。
だから関係ない……この先は誰に裏切られても動じない精神と誰だろうとぶちのめせる力を手に入れれば良いのだ――そう、少し落ち着かない気持ちに言い聞かせながら暫く腰を下ろしていた一誠だが、ふと体育館こ中が騒がしい事に気が付く。
「さっきからうるさいな……」
ちょっとセンチな気持ちになっていただけに、中で何やら騒がしいのに少しだけムッとなる一誠は、それが単なる八つ当たりに近い感情だと理解しつつも、どこのどいつが一体騒いでいるのかと横扉を少しだけ開けて中を覗いてみる。
部活の昼練習にしては騒ぎ方がおかしいのだ。
それはまるでかつて関西の某球団に舞い降りた史上最強にて現人神の如くその界隈ではうたわれている某助っ人外国人を発見した地元人が群がる様な……。
「皆~! 私がレヴィアタンだよ~☆」
『うぉぉぉっ! レヴィアたーん!』
―――等という事は当然縁も存在しないこの学園にありえる訳も無く、騒ぎの正体は壇上に立って妙なポーズを決めまくる有名人どころか普通に知った顔の女が群がるほぼ男子達に愛嬌振りまくる姿だった。
「………………」
見なかった事にしておこう。
自分は何も知らないし何も見ていない。
騒ぎの中心に居る者――つまりセラフォルーを視認した瞬間、見事なまでのお手本になりえそうな所謂『そっ閉じ』をしようと僅かに開けていた扉を閉めようとしたその瞬間だった。
「あ、いーちゃんだ!!」
「!」
びっくりなタイミングでまさにそっと閉じようとした一誠とセラフォルーの目がバッチリ合ってしまった。
距離にして約数十メートルなのだが、生憎すこぶる視力の良いセラフォルーにはそれが一誠である事を一発で看破し、また誤解でもされかねない愛称でこれでもかとデカい声で呼ぶ。
お陰で一瞬にして群がる軍勢達の視線が僅かに扉を開けていた一誠に対して向けられ、本人の顔色はみるみる内に真っ青になっていく。
「いーちゃん? おい、あそこで覗いてる奴の事か?」
「一体誰だ、妙に親しげな呼び方をされる奴は? あ? アイツ兵藤じゃね?」
「それか日之影って奴だな。顔が異常にソックリな」
まずい、めっちゃ見てくる。
コミュ障が拗れて他人に注目されると吐き気を催すまでになっている一誠にしてみれば、訝しげにおかしいこちらを見てくる他人達の視線はとても辛いものだった。
思わず腹部を抑えつつ逆流してきそうな胃液の不快感に口を反対の手で覆っていると、セラフォルーは軽々と壇上から飛び降りると、真っ直ぐ――しかも妙に乗ってる速度で逃げ遅れた一誠へと近づくと、待ってたぜと云わんばかりに中へと引きずり込んでしまう。
「やっほー☆ 探しる途中で良い感じのステージを発見しちゃったからつい遊んじゃったけど、ちょうどいーちゃんも見つかったし結果オーライだぜ☆」
「だ、誰ですかアナタ? 俺は兵藤イッセーというものであっていーちゃんなんて名前は知らない……」
こんなのと知り合いだなんて思われたくないし、さっきから妙に群がる者達からの視線に敵意的なものが込められているのを察知した一誠は青い顔をしながら咄嗟に自分は兵藤イッセーだと嘘をつく。
しかしセラフォルーにしてみれば日之影一誠と兵藤イッセーは顔が同じだけの中身は全くの別物である事をしっかり認識しているのでその嘘は無意味に終わってしまう。
「いくら何でも私にその嘘は通用しないよいーちゃん? 確かにびっくりする程顔は似てたけど、中身がちゃんと違うし、見抜けない程盲目なつもりでもないもん☆」
「………チッ」
自信満々に言い切ったセラフォルーに一誠は何故か敗けた気分になってしまう。
それならば無理矢理振りきってしまうかと考えるも、セラフォルーは既にそれも予想していたのか、しっかりと逃がさんと腕を絡めてきたのでそれも難しい。
劇的にレベルを上げて扉を完全に開けてこちら側に来てしまった今のセラフォルーを振り切るのは容易ではないのだ。
「日之影かアイツ?」
「生徒会といい、オカルト研究部といい、何であんな奴ばかり美少女達と仲良くやれてんだよ」
「無口で何考えてるかわかんない薄気味悪い奴の癖に……」
そんなやり取りを見ていた生徒達は彼の挙動を見て日之影の方だと確信すると、嫉妬も混ざっていたのか、何度か目にした一誠の立ち位置と印象についての悪口を言っていた。
「むっ、ちょっとそこのキミ達? いーちゃんは――」
「よせ」
それを聞いたセラフォルーが珍しく本気でムッとなって言い返そうとするが、一誠に止められてしまう。
「他人にどう思われてようが関係ないから放っておけ」
「でも……」
「良いんだよ、殆ど当たってるんだから」
寧ろよくお分かりでと拍手でもしたくなるぜと、皮肉に笑ってみせる一誠に、口の悪さは天下一品ながら、その小さい優しさを知るセラフォルーは微妙に納得できなかった。
「というか、ソーナの事は見たのかよ?」
「うん。本当はいーちゃんがお勉強をしている所も見ようと思っていたんだけど……」
「他人の俺を見てどうするんだよ……ったく。あぁ、ソーナなら今生徒会室にでも居るんだろうし、顔ぐらい出してやったらどうだ? んじゃな」
「あ、待ってよ! お昼休みなんだしせっかくだから一緒にいようよ?」
「いやお前、そこで見てる連中にワケわからんポーズ決め大会してたんじゃないのか?」
「そうだけど、もう良いかなって」
だからそのまま何処かへ行こうとする一誠に付いて回る事にしたセラフォルーは、先程一誠を見て悪口を言ってた複数人に向かってベーっと舌を出すと、これでもかと言うくらい嫌がってる一誠の腕に絡み付いて密着しながら体育館を後にするのだった。
「この今日だけでどんだけ俺の存在が認識されてしまったんだろう。
空気に同化するような生活を心がけていたのに……」
「それは多分その内破綻してたと思うよ?」
「お前らのせいでな……!」
再びヴェネラナに引っ掛からない為に人気の無い場所を今度は付いてきたセラフォルーを横にさ迷う一誠。
最近何だか色々と甘くなってきてる気がしてならないのだが、引くことを全く覚える気の無い周囲のせいだと自分に言い聞かせて納得する他なかった。
「それにしても何で他の人が居ない様な所ばっかり歩いてるの?」
「ババァに今捕まったら何をされるかわからないのと……」
「のと?」
「……………。いや、何でもない」
セラフォルーの疑問に律儀に答えてしまってるのもきっと、うざいくらい構い倒してくるからだと思い込む。
結局どう足掻こうが誰かしらに捕まる運命だった一誠は諦めた様にせめてヴェネラナには捕まらない様にしないとと慎重に人気の少ない場所を何故か駒王学園の女子制服に着替えていたセラフォルーとテクテク歩いていく。
やがてたどり着いた場所は旧校舎裏にある小さな森林地帯みたいな場所であり、奥まった場所に佇む大木を背に腰掛ける。
「この場所なら暫く時間も稼げる
オラ、俺の事はほっといてさっさとソーナの所にでもいっちまえ」
そしてセラフォルーに向かって犬を追っ払う様な感じでシッシッと手を振る。
だけどセラフォルーが去る事は無く、そのまま一誠の隣に一緒になって座り始めた。
「何だよ……」
「いーちゃんを一人にして来たなんてソーナちゃんやリアスちゃんが聞いたら逆に怒られちゃうもん」
そう言って腰掛けたセラフォルーが一誠の肩に頭を乗せて身体を預けた。
最近のセラフォルーは――というか、間違って泥酔した一誠にアレをされて以降、こういった行動が多くなった。
それまでは妹のソーナよりも更に年が下の小僧に終始小バカにされてムキになってた行動ばかりだったのにだ。
「ねぇ、今も居るんだよね? レイヴェルちゃん」
「あ? あぁ……顔を合わせちゃいないけど多分居る」
「そっか……」
最近色々とセラフォルーに対して事故をやらかしてるというのもあってか、自分の肩に頭を寄せてきた時点で若干ビクッとしてしまう一誠は平静を装いながら答える。
雀達の鳴き声が聞こえる中、レイヴェル・フェニックスについて聞いて以降何も語らずにただ身を寄せてくるセラフォルーに若干のやりづらさを感じ始めるも、逆にこのパターンの対応がわからないので無言となってしまう。
「……………」
何か喋れよコイツ……。と、少し様子の違うセラフォルーに段々と落ち着かなくなってくる一誠。
一体何なんだと、そろそろ口を開こうとしたその時、セラフォルーが唐突に口を開いた。
「さっきのでやっぱり思った」
「え?」
一体何のこっちゃ……との言葉の意図がわからなあ一誠にセラフォルーは続ける。
「いーちゃんがさっき色々言われてた時の事」
「さっき? ……あぁ、アレの事か。
まだ一々気にしていたのかよ? アレは殆ど当たって――」
「聞いて!」
何時に無く真剣な表情と声にびっくりする一誠。
「凄く嫌だった。でもそれと同時にやっぱりそうなんだって自覚できたんだ」
「……?」
そしてセラフォルーは言った。
「私きっと、いーちゃんの事が好き。皆やソーナちゃんに向ける好きとは違う意味で……」
「ふーん……………は!?」
確信が持てなかった想いを……。
ただ言われた本人は驚きを通り越して唖然としているのだが。
「だから……ね?」
「ね? って言われても――っ!?」
意味がわからない。服を消し飛ばして笑われたり、蹴り飛ばされたりした奴のどこにそう思う要素があったのか、とやってた本人は混乱する中、セラフォルーの唇が頬に当たる。
「ふふん、酔っ払ったいーちゃんにもうされちゃったけど、次は私からだよ? 口じゃないのは――フェアじゃないから☆」
「な、なに言ってんだお前……! よせよ、変な事言って俺に仕返ししたいならそう言え」
「これは本気の本気だもんね☆」
執事の憂鬱になるのか……それはまだわからなかった。
補足
セラフォルーさんF-1カーで爆走しちまうよー!
その2
よくわからんマジックでゼノヴィアさんが学校に転校してました。
ただ、皆にしてみたら『ふーん? で?』って感じでしたけど。