執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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レヴィアタンたんのせいで余計コンプレックスがね……


コンプレックス爆発な小猫たん

 正味な話、その気にならずともミリキャスは既にこの年齢でありながら戦える。

 名前も種族も所属もどうでも良いぺドの変態が拉致ろうものなら刹那でこの世から消え失せている程度には。

 

 しかし今回は一誠が最初から動くことでミリキャスの実力が知られることは無かった。

 

 何せ珍しく何時も以上に相手に対して容赦が無かったのだから。

 

 

「ゴブァ!?」

 

「………………」

 

 

 感情の無い機械を思わせる冷徹な雰囲気を漂わせた燕尾服姿の男が返り血を一滴も浴びる事無く次々と学園を襲撃する謎の存在達を始末していく様は恐怖を掻き立てるに十分だった。

 

 それにその彼と共に戦う者達もまた、聞いていた実力から大きく逸脱したものなのだから。

 

 

「所謂口と数だけのトーシローって奴ですか。

そろそろ飽きましたし、終わりにしてあげましょうか」

 

 

 特に金髪碧眼の軽い巻き髪の悪魔の少女――レイヴェル・フェニックスが放つ業火は襲撃者達が近づく事すら叶わず灰となる程であり、両の手から灯る炎は有象無象を無に帰す一撃となる。

 

 

炎の鉄槌(アルテーロ・ディ・フィアンマ)……!」

 

 

 レイヴェルの両の手から放たれた、普通の炎とは何か違う波動を感じる炎の塊が房のような形となって焼き尽くす。

 これが決定打となり、襲撃者は完全に全滅する事となる。

 

 

「はぁ、こんなところでしょうか。

割りと呆気無さすぎて拍子抜けでしたが」

 

 

 レイヴェル・フェニックスの領域を知る者達から見れば、その力は確かに種族としての力を完全に逸脱している。

 前に一誠が自ら『自分より上』だと言っていた通りに……。

 

 

「強いですねあの方……」

 

「…………」

 

 

 初めて見たミリキャスは片手間にやってのけたと言わんばかりのレイヴェルの様子を見てその強さを察知し、一誠はそれに返事をする事は無くとも降りてきたレイヴェルを見据えていた。

 

 

「チッ……」

 

 

 そして眷属の中では一番襲撃者を撃退していた小猫はそんなレイヴェルに対して軽く悪態をついていた。

 

 

「別に来なくても良かったのに」

 

「ま、まぁまぁ……」

 

 

 犬猿の仲ならぬ鳥猫の仲と言うべき関係であるがせいか、毒づく小猫を他の眷属達が宥めていると一誠の前に着地したレイヴェルが、まぁこれでもかと嬉しそうに駆け寄って来るのだ。

 

 

「一誠様~♪」

 

「……………………」

 

 

 どう見ても笑顔なレイヴェルに駆け寄られ、表情こそ変えなかったものの目が一気に死に始めた一誠。

 有り体に言えば一誠は実力はともかくレイヴェルが何となく苦手だった。

 

 

「中途半端に暴れたせいで身体が火照ってしまいました、ですのでこの火照りを冷ます為に一誠様と夜のバトルを――キャ! 言っちゃいましたわ!」

 

「………………………………」

 

 

 セラフォルーやヴェネラナとはまた微妙に違う強引さというのか……。

 これで自分よりも上の領域に立っているのだから、一誠としても複雑な気分だ。

 

 

「あの、やめてください……一誠兄さまが困ってます」

 

「あっち行け」

 

 

 そんなレイヴェルへの苦手意識として、無視でもしてやろうかと思っていた時だったか。

 ミリキャスと小猫がレイヴェルの前に立って啖呵を切り出したのは。

 

 

「? あら寸胴猫さんに……貴女はサーゼクス君の娘さんでしたわね?」

 

 

 あの輪に入れる勇気は無いと、他の眷属達が遠巻きに一誠に軽く同情しながら見てるのを背に小猫がミリキャスと即席タッグを組んでレイヴェルへと対抗する。

 ミリキャスにとってはまだレイヴェルがどんな存在なのかを掴めてないものの、彼女が一誠に向ける感情が何なのかは直ぐに察していた。

 

 

「へぇ?」

 

 

 幼いながらも芯のある真っ直ぐとした眼にレイヴェルは思わず笑みを溢す。

 

 

「なるほど、サーゼクス君の娘さんなだけはありますね。

ふふ、その歳で既に……サーゼクス君から教えられましたの?」

 

「違います、一誠にいさまです」

 

「ふーん? 流石というべきか……まぁどちらにせよ長いお付き合いになりそうですわ」

 

 

 そう意味深に微笑むレイヴェルに負けじとミリキャスは一切目を逸らす事無く見据える。

 そんな時だったか……上空に白い輝きを放つ全身鎧姿の誰かが現れたのは。

 

 

「少し場を離れて見ていたが驚いたよ、まさかキミ達が雑魚とはいえ禍の団の構成員を全滅させるなんてね」

 

 

 その正体は戦闘直後に姿を消した白龍皇のヴァーリであり、どうやら一誠達の戦闘を観察していたらしい。

 何の力も感じない連中が雑魚とはいえ蹴散らしたのは少しばかりに過ぎないものの興味を抱いたらしく、上空から話しかける。

 

 

「で、これからどうすれば?」

 

「部長と会長の元へと向かうべきでしょうか?」

 

「……。先程ミリキャスを狙った変態をサーゼクス達の所へと投げ捨てた際に様子を伺いましたが、特に問題は無いと思います。

リーダー格の女悪魔が居ましたが、すぐに黙らせてしまうと思いますし、取り敢えず警備を引き続き行うべきかと」

 

「そういう事なら大丈夫そうだな。

しかしちょっと腹減らね?」

 

「確かにちょっと運動したからお腹減ったかもしれないな」

 

「どいつもコイツも不味い味をした連中でしたしね」

 

 

 

「…………」

 

 

 しかし無視された。ものの見事に誰もが上空で分かりやすいくらい白く発光してるヴァーリに一瞥すらくれる事無く話し込んでいる。

 これには微妙にムッとなるヴァーリが脅かすつもりで力を解放するも……。

 

 

「家庭科調理室に行ってカレー程度なら作れますが……」

 

「え!? 一誠君が作ってくれるのかい!?」

 

「は? は、はぁ……ただのカレーですけど」

 

「食べます食べます! 絶対食べます!!」

 

「そういや地味に日之影が作る飯って食べたこと無かったな」

 

「会長は、自分は毎日食べてるみたいな事を言ってたわね……」

 

「リアスも基本的に人間界(こっち)での食事は一誠君が用意してると言ってましたが……まさかこんな形で私達も食べられるとは……」

 

 

 

「………………………」

 

 

 やっぱり誰も振り向く事も無く、勝手に盛り上がり始めていた。

 単に相手の力量を感じる事のできない間抜けなのか……ヴァーリもそろそろカチンとし始めてきたそんな時だったか。

 

 

「白音ぇぇぇっ!!」

 

 

 耳を塞ぎたくなるような大きな女の声が今居る場所全体に響き渡る。

 一体何だとヴァーリがその方向へと視線を切り替えると、人影が物凄い勢いで悪魔団体の方へと接近していた。

 

 

「誰か来ましたわよ? 白音ってなんですの?」

 

「…………それ、私の真名に相当する名前」

 

 

 それに対しても呑気さを崩さず、レイヴェルの言葉に白音こと小猫が死ぬほどめんどくさそうな顔をしながら猛スピードで此方に接近する人影に目を向けた。

 するとその人影は手前で砂煙を撒き散らしながら急停止をすると、漸くその者の容姿が確認できた。

 

 長い黒髪に小猫と同じ金色の猫目。

 隠すつもりがないらしい猫耳に着崩した着物……何よりその巨大な胸。

 

 

「白音……!」

 

 

 つい最近胸をもぎそこねた小猫の姉である黒歌だった。

 何やら血相かえた顔で嫌そうな顔をしてた小猫を見てるが、一体どうしたのかどいうのか……。

 

 

「ま、待て黒歌! そこに奴が居る!」

 

 

 遅れて登場した一誠に酷似した容姿の赤龍帝が何か黒歌に教えでもしたのか――と、察するにはさして時間は掛からなかった。

 

 

「っ……!」

 

 

 後ろから走ってやってきた兵藤イッセーの声に黒歌が途端に殺意を剥き出しにした顔で燕尾服姿の日之影一誠を睨む。

 

 

「…………」

 

「? 何ですかアレは? 何故一誠様を……?」

 

 

 そんな黒歌の殺気を前に無視を決め込んでる一誠を見てレイヴェルが首を傾げていると、小猫が口を開く。

 

 

「何しに来たの姉様? 姿を見せたらまずいんじゃないの?」

 

「そんな事を言ってる場合じゃないよ! だって禍の団が……」

 

「禍の団? ……あぁ、さっきまで居たクッソ不味い連中共の事か。

アレならとっくにこの世から消え失せたけど?」

 

 

 だから早くそこの人と帰れば? と、蚊帳の外だったヴァーリと邂逅して何やら互いの神器を交えて会話し始めた兵藤イッセーに目配せする小猫。

 だが黒歌は帰ろうとせず、ずっと殺意を一誠に向けている。

 

 

「帰らないよ。そろそろ白音をこんな連中から解放しなくちゃいけないし」

 

「……………あ?」

 

 

 そう言いながら殺意を一誠のみならずその場に居た全員に向け始めた黒歌に、鬱陶しがっていた小猫の声が低くなった。

 

 

「解放って何? まだそんな訳のわからない事を言ってるわけ?」

 

「だってイッセーから聞いたんだにゃん! アイツが白音に性的な目を向けてるって!」

 

「…………………は?」

 

 

 それに気付いてないのか、黒歌は一誠に向かって指を指しながら訳のわからない事を宣い始める。

 これには流石の一誠も無表情を崩してポカンとしてしまう。

 

 

「俺が彼女をそんな目……? ……あの、私ってそんな目を彼女にしてたように見えたのでしょうか?」

 

「いやぁ……多分塔城さんにとっては残念だろうけど、一度も無かったと思うよ?」

 

「寧ろお前って取り敢えず警戒しようとするしなぁ。

第一、会話だって成立し始めたのもここ最近だしよ」

 

「セラフォルー様やヴェネラナ様とのやり取りを見てるとそれ所じゃないってのがわかるしねー?」

 

「会長も常日頃愚痴ってたもん『例え全裸で迫っても今の一誠じゃあ間違いなく鼻で笑うだけだ』って。

ねぇねぇ、試しに聞くけど、会長やグレモリー先輩の事とかどう思うの?」

 

 

 思わず自分の他人に対する見方がおかしいのかと周りに聞いてみれば、普段の行いが余程なお陰なのか、変な信用のされ方を感じる答えが満場一致で返ってくると、それを背に聞いていた小猫が段々と低くなるトーン声で黒歌に言った。

 

 

「何を吹き込まれたかは知らないけど、残念な事に今の私は先輩にそんな目で見られちゃいないよ。

寧ろアナタが彼にそう見られてるんじゃないの? あ、もしかしてもう合体でもしたのかな?」

 

「それは昨日も確かに――じゃなくてにゃ! 白音がそう感じてないだけで絶対にアイツはそう思ってるのよ!」

 

「へー? だとしたらこれ程嬉しいことはないけどね私は」

 

「な、なんでよ!? そんな乱暴で複数の女侍らしてる様な奴のどこが……!!」

 

「ブーメランって知ってる?」

 

 

 威嚇した猫みたいな顔で名指し非難をしまくる黒歌に怒りよりも呆れが勝ったのか、アホらしいと跳ね返す小猫。

 

 

 

「………………………………」

 

「確かに塔城さんの姉貴っぽい人の言うとおりに見えなくもないけどよ……そんな露骨に凹むなって?」

 

「わかる人にはわかるしさ。ね?」

 

「そうだよ、一誠にいさま以外なんて嫌だし」

 

「あらまぁ、随分とマセてますわねぇ。サーゼクス君のお子さんなだけありますわ。同意ですけど」

 

 

 黒歌の非難の言葉に割りと真面目に凹む一誠を周囲があまりフォローになってるとは思えないフォローをする。

 

 

「別に端から見たらそう思われてもしょうがないって自覚はあったし、そんなつもりだって無いから気にしなかったつもりでしたけど、どうも奴等に言われるのだけは嫌みたいです」

 

 

 フッと遠い目をしながら軽く笑みまで溢してる一誠。

 向こうでは兵藤イッセーとヴァーリが何やら話ながら勝手に戦いだしてるが、どうでも良すぎて視界にすら入れる気にもなれなかった。

 

 

「ここで明言でもしときましょうか――『自分は100%結婚も何もしないで生きる』って」

 

「それはマズイだろ!!?」

 

「そ、そうだよ! キミが本気でその決意を固めちゃったら部長や会長さんから始まって、皆の魂がある意味昇天してしまうんだよ!?」

 

「現に今ミリキャスちゃんが……!」

 

「そ、そんな……兄さまが……嫌だよ、イヤだぁ!!」

 

「……。何でそこまで……」

 

 

 自分にとっては軽いつもりで言ってみたら大泣きし始めたミリキャスに思いきり抱き着かれてしまう一誠。

 祐斗や元士郎達の言うとおり、そんな明言をされたらある意味内部紛争的な事が勃発しそうなのだからそれだけは思って欲しくなかった。

 

 

「黒歌姉さまよォ……! 今余計な事ほざいたお陰で先輩に対する僅かなチャンスが潰れかかってんじゃねーかァ………!!!!」

 

「うっ!? 私はそれで安心――いだい!?!?」

 

 

 現に前で聞いてた小猫が一瞬にして気性が変化し、異常性を剥き出しにして黒歌の乳房を引きちぎらんとばかりに掴み始めてるのだから、全員が今聞いてたらマズイのは間違いなかった。

 

 

「なんで私ばっかり無いんだよぉ……!」

 

「いだだだだだだだ!?!? 痛いって白音! お、おっぱいが取れちゃうにゃぁぁぁっ!!!」

 

「取れちまえよ、取れて私の気持ちを知れば良いだろうが……! クソが、興味なんざ無いけど、これで愛しの彼のもんでも挟んだのか? あーゴラ!?」

 

 

 

 

「小猫ちゃんのお姉さんの胸が大変な事に。

あ、あの……自惚れるつもりとかじゃなくて私は大丈夫なのでしょうか……?」

 

「挑発とかしなければ大丈夫なんじゃありませんか……た、多分だけど」

 

「本気だったら引きちぎれてるでしょうし、大丈夫でしょう。

まったく、自分が無いからと八つ当たりするなんてなってませんわねぇ……」

 

「………」

 

 

 結局小猫に蹴散らされた黒歌は、ヴァーリと戦い終えた兵藤イッセーを連れて何処かへと去った。

 結局何をしに来たのか……全員どうでも良かったので考える事はなかったらしい。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全鎮圧を完了させた……のは良いが、後々聞いてみるとどうやら白龍皇は禍の団に行ったらしい。

 ………が、それを聞いた所でどうでも良かったので誰もが聞き流していたらしい。

 

 そんな事よりも、リアスとソーナの数少ない男子眷属たる祐斗と元士郎は、夏休みに突入する事もあって余計に自己鍛練に没頭していた。

 

 

「思ったのだけど、もしかして匙君は剣の才能があるのかもしれない」

 

「俺がか……?」

 

 

 その過程で共に競い合いながら、ふと祐斗に言われて剣の才能があると知った元士郎はスタイルチェンジを試みる。

 

 所変わってセラフォルーに一瞬で氷付けにされて敗北したカテレア・レヴィアタンは死ぬことはなかったものの、捕らえられて禍の団についての尋問をされていた。

 

 

「話すつもりはありませんよ。仲間を売るくらいなら今すぐにでも殺された方がマシ」

 

 

 当然何も吐くつもりは無いと啖呵を切るカテレアなのだが……。

 

 

「キミがそう思ってても向こうはそうじゃないみたいだぞ? カテレアを捕らえたとクルゼレイ辺りに送ったら『煮るなり焼くなり好きにしろ、最早用無しだ』――だってさ」

 

「! 嘘を言うな! 私を切り捨てる訳が……!!」

 

「ほら、これが返事の書状。

……最初からキミは捨て駒だったみたいだぜ? 白龍皇と赤龍帝を組織に引き入れる為のね」

 

「そ、そんな……」

 

 

 現実はカテレアを天から地の底へと陥れた。

 

 

「……………」

 

 

 捨て駒扱いだった。

 自分こそが至高なる存在だと思っていただけにショックは計り知れず、自暴自棄にすらなって牢獄での日々を過ごしていく。

 

「ここか? すんませーん、食事持ってきましたー」

 

 

 そんな時だった、何時もの見張りでは無くまだ成人も迎えてないと思われる少年と邂逅したのは。

 

 

「すいません、早く食べて貰えません? 修行を控えてるんで」

 

「このまま餓死してやるわ」

 

「餓死されたら困るんだけど……」

 

 

 最初は勿論、最早生きる意味を失ったカテレアは死ぬつもりだった。

 しかし本人は知らないが、セラフォルーやサーゼクスがカテレアを普通に生かそうと周りに働きかけているという事を知っていた少年は、捨て駒扱いされて心身共に打ちのめされてると知りつつも、死なす訳にはいかないと無理矢理食わそうとする。

 

 

「良いから食べろって!」

 

「こ、の……転生悪魔風情が私に触れるな!」

 

「じゃあ食えや! 捨て駒扱いされて凹んで自暴自棄になってんだか何だか知らねーけどよ! そこで腐るんだから這い上がって見捨てた連中に仕返ししてやれば良いだろうが!!」

 

 

 言ってることが乱暴な少年に対して、当初めちゃくちゃ嫌いだったカテレア。

 だがどういう訳かこの日以降、食事を運んでくるのが彼になり、その都度取っ組み合いになりながらも無理矢理食べさせられていく。

 

 

「ぜ、ぜぇ、ぜぇ……さ、流石に先代魔王の血族者なだけあって……つ、強いぜ」

 

「転生悪魔の身分で手こずらせるなんて……やっぱり私はこの程度なの……?」

 

「そら碌に食わずに力を衰えさせてるだけのアンタにむざむざと返り討ちにされてたらこの先生きて行けないしな、こちとら毎日必死に修行してるんだぜ」

 

「……。無駄な努力を……」

 

「無駄なのかどうかは、アンタが一番わかるんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 

 日に日に力を増していく少年に対して渋々ながらも食べ始めたカテレア。

 それは閉鎖的な空間に閉じ込められてるストレスを唯一解消できる運動の様なものなのかもしれない。

 

 

「確かに先代血族者を名乗るだけあって、気品? ってのは感じるかもしれないけど……」

 

「当たり前でしょう? あのおちゃらけセラフォルーよりよっぽど私の方がレヴィアタンに相応しいのよ」

 

 

 やがて取っ組み合いから話し合いとなり。

 

 

「でも私はセラフォルーに敗北した。そして仲間と思っていた者からは捨て駒と見放された。

最早レヴィアタンの称号を取り戻す意味も、生きる意味なんか無い」

 

「だったら今度は見放した連中を見返す為に這い上がれば良いじゃないか! アンタ悔しくないのか? 俺なら絶対に一発ぶん殴るまで死ぬ気にはならねーぜ!」

 

「子供の考えよそれは。

今の私の立場を考えればそれが不可能なのはわかりきった話……」

 

「だぁぁぁっ! そうやって何かにつけて現状を理由にするなっての! レヴィアタンなんだろアンタは!」

 

「………」

 

 

 口は悪いが励まされて……。

 

 

「え、あの少年は……?」

 

「匙様なら人間界へと戻られましたよ? 元々アナタ様に食事を持って来れたのも夏期の長期休暇で冥界に来ていたからですので……」

 

「そ、そう……。ま、まぁあんな五月蝿い子供が居たところでどうって訳じゃないし、寧ろ清々したわ……」

 

「そうですか……。匙様はお帰り際に、週二回は学校が休みなのでその時は自分がここに来て運ぶ――と、仰っておりましたが……」

 

「……え?」

 

「あの人を放っておけないとも……。ですがアナタ様がそう望まれるのであるなら連絡して――」

 

「ま、待った!! し……しょうがないわね、何だかんだ言ってあの少年はどうやら私の美貌に惹かれたって訳ね。

フッ、素直じゃないのだから」

 

「いえ、そんな様子は――」

 

「ふふふっ! そういう事なら仕方ないわ! この私へ食事を運ばせる名誉を与えてあげようではありませんか! そう伝えて貰えますか!?」

 

「は……はぁ」

 

 

 居なくなって寂しいと感じて……。

 

 

「アンタの美貌に俺が惚れたからどうとかって――何の話だよ?」

 

「あら、そうじゃないのかしら? だからわざわざ人間界からコッチに来て私に会いに来るのでしょう?」

 

「目を離したらまた餓死するとか言い出して食わなくなると思ったからなんだけ――」

 

「そうでしょう!? ねぇ、そうだと言いなさい!」

 

「ア,ハイソッス。 カテレアサンサイコーッス」

 

「ほら見なさい! ふふっ、素直じゃないですねぇ? まぁ、そんな気概に免じて私と食事をする名誉を与えてやりましょうか? 光栄に思いなさい」

 

「…………。なぁ一誠。

今初めてお前の気持ちが分かった気がするぜ」

 

 

 姿を見たらあからさまに気分が回復し、でも強がって偉そうにしちゃったりして……。

 

 

「カテレアさん、アンタを見捨てた連中が血の保存の為にアンタを寄越せと言ってるらしい。

アンタがその気なら言われた通り身柄を向こうに渡すつもりらしいが、どうしたいんだ?」

 

「え……それは……」

 

「禍の団の大体の情報は既に手にしたし、自由になっても誰も責めやしない。

どうする? ここから出られるんだぜ?」

 

「私は……」

 

 

 そんな少年との関わりがカテレア・レヴィアタンの運命を変える。

 

 

「嫌だってさ。だから死んでもこの人をアンタ等には渡さねぇ……!」

 

 

 今更になって自分を取り返しに来た元同胞とその軍勢から守る様に立つ少年。

 既に互いを名前で呼び合う程度の仲にはなれたけど、カテレアからしたらかつての同胞達を前に彼は成す術もも無く殺されてしまうと思って恐怖した。

 

 彼が死んでしまうのは嫌だという恐怖が。

 

 

「くそっ、考えやがって。俺の仲間を他の場所に散り散りに引き付ける隙にってか……!」

 

「フッ、勿論残りの奴等も殺してすぐに後を追わせるさ。

だがまずはお前だ転生悪魔……カテレアは返して貰う」

 

「けっ! 自分から見捨てておきながら今更ムシが良いなぁ! 気に入らねぇからお断りだバカ野郎!!」

 

 

 いくら強くなったといってもまだ彼はその領域には立っていない。

 孤軍奮闘でカテレアを守りながらひたすら戦う彼は傷だらけだ。

 

 

「どうしてそこまで……私なんかさっさと渡してしまえば良いのに!!」

 

 

 しかし決して倒れる事はせず、修行の末に才能が開花した剣を杖がわりに立ち上がる傷だらけの少年はカテレアの叫びに答えた。

 

 

「さぁな……。俺より年食ってる癖に、ネガティブなアンタ見てたら放っておけなかったのさ。

ふふ……俺もよくわっかんねーや」

 

 

 それはきっと燻っていた彼の精神の表れなのかもしれない。

 未だ牙を剥く軍勢を前に――何よりこの極限の最中自覚した覚悟が少年――匙元士郎を引き上げた。

 

 

「!? な、なんだ神器の力が成長したのか?」

 

「元士郎……アナタ……」

 

『……………』

 

 

 どうなっても良い。

 生き抜け。

 そして守り抜け。

 

 その覚悟が遂に進化を与えた。

 

 

『俺は匙元士郎……否! 我が名は呀――暗黒騎士!』

 

 

 漆黒の狼となりて。

 

 

 

…………嘘だよ




補足

黒歌さんに言われて自己嫌悪に陥る程度にはダメージがあったらしい。
もっとも、周囲が基本的に押しが強すぎるから……。

その2
イラッとしてそのデカ乳に怒りをぶつけてしまう小猫たんを見て無意識に胸を庇いながら戦慄する持つもの達だった。


その3
嘘だし、仮に実現させるとするなら、基本的にお互いに対等なやり取りをする二人になるかなぁと。

……って、ホント謎過ぎる組み合わせよ。

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