執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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始まります。




執事と皆
絶対愛のミリキャス・グレモリー


 リアスとソーナの夏休みの予定は基本的に冥界への帰省で、その期間は全て冥界で過ごす事になる。

 ともなれば当然その二人の執事をやらされてる日之影一誠もまた冥界へと行く事になる。

 

 もっとも、彼にしてみれば人間界よりも冥界で過ごした年数が最早勝っているので新鮮味も何も無いし、サーゼクスに挑めるチャンスが増えるので抵抗感なんてものは皆無だ。

 

 

「例年通り今年の夏休みの間も冥界で過ごすわ」

 

「宿題もやるのできちんと勉強道具を忘れずに持ってきましたね?」

 

 

 この期に及んで本人はサーゼクスをぶちのめし次第リアスやソーナ達と即座に縁を切れると思い込んでる――という話はさておき、リアスとソーナは夏休み初日となった本日、各々の眷属達を自宅に招いて夏休み期間の予定を公表する。

 古参の眷属達にしてみれば慣れたものであり、また新参眷属もゴールデンウィーク中に一度滞在した事もあったので特に緊張するという様子も無く、持参した荷物を片手にリアスとソーナの言葉に頷くと、当たり前の様に小猫が挙手しながら質問した。

 

 

「一誠先輩は以前と同じく一足先に冥界へ?」

 

 

 共に居る筈の一誠の姿が無い理由は分かってるものの、やはり聞いては置きたい小猫の質問にソーナとリアスは頷いた。

 

 

「そうよ、先に帰って皆が来るおもてなしの準備をしているわ。

まあ、私達の母とグレイフィアに呼び出されたからというのもあるけどね」

 

「ここ最近で皆とも少しはコミュニケーションが可能になってるし、前みたいに吐きそうになることは多分無い筈だからそこは安心してちょうだい」

 

 

 かなり他人行儀とはいえ、話す事だけは可能になったというソーナの言葉に、特に古参眷属たる朱乃は『長かった……』と苦節の日々を思い返している。

 後は先んじてその扉を開けた小猫の様に自らも一誠達が立つ世界へと踏み込められさえすれば……。

 

 割りと情熱の炎を燃やしていた朱乃はこの夏休みを利用してのレベルアップにとても意欲的だった。

 

 

「間違ってもお酒だけは飲ませないようにしないといけませんよね」

 

「……確かに。無差別キス大魔王さんになっちゃうしねー?」

 

「あの時の日之影君はねー……。この前偶々見てたんだけど、さくらんぼの茎を口の中で蝶結びしてたし、あんなのもう一回貰ったら多分もう普通のキスとかできなくなりそうだもん」

 

「俺はそんな奴と初めてだったんだが……」

 

「偶然だね、僕もだよ匙君……」

 

 

 他の者達は絶対に酒を間違えて飲まさない様にしないとと、いつか泥酔して大暴れした一誠を思い返して少し複雑に笑っている。

 もっとも、内何人かは悪くない気分だったようだが……。

 

 

「この夏休みの間になんとしてでも胸のサイズアップを果たさないと……」

 

「一誠さんって女の人の胸が好きだなんて言ってないのに、何で小猫ちゃんはそこまで……」

 

「あ? 周り見れば皆大きいからなんだけど? ギャー君ですら周期で女の子になったら私より大きいからだけど? ていうか嫌味?」

 

「そ、そんな事言ってないよ!?」

 

「チッ……シトリー先輩になら勝てるかもしれないけど、それじゃあ全然足りないし……」

 

「塔城さん? それは私の胸が平らだと言いたいのかしら?」

「いえ、他の人と比べたらの話ですので他意はございません」

 

 

 ともかくリアスとソーナ達の夏休みは今この時を以て始まったのだ。

 

 

 

 

 そんなリアス達よりも先んじて冥界に戻った一誠はというと、戻るや否や挨拶代わりだと云わんばかりにサーゼクスに喧嘩を吹っ掛け――そして負けていた。

 

 

「チッ……クソが」

 

「戻ってきた時は挨拶のハグでもして欲しいんだけどな?」

 

 

 冥界のとある山岳地をフィールドに、最初から全開で挑んだ一誠は、ほんの少しの打撲跡を頬に作るサーゼクスのおちょくった言い方に、全身傷だらけの姿で片膝を付きながら悪態をついている。

 

 

 

「黙れ能天気野郎……テメーにさえ勝てればこんな場所からとっとと出ていけるのに」

 

「この期に及んでまだそんな事を? 多分無理だぜ? 出ていったとしても皆が総力上げてお前を探し当てて捕まえてしまうだろうしね。

リアスやソーナさんやセラフォルーも最早僕とお前に近付いてるしさ」

 

「…………」

 

 

 コイツに勝てさえすればと思うイッセーに対してサーゼクスはそのままその場にしゃがみこんだイッセーの隣に腰掛けながらクスクスと笑う。

 

 

「それにあの母達が気持ちよく送り出すと思うかい? 寧ろ捕まった後の方がより厄介だろうぜ?」

 

「それは……否定できないかもしれない」

 

「だろ?」

 

 

 周囲を破壊しまくりながらの決闘後とは思えない会話だが、サーゼクスと一誠にとってはそれが自然なのだ。

 

 

「でも割りと驚いてるよ。

リアスやソーナさんに加えて既に成熟してしまってたセラフォルーまで引き上げちゃうなんて。

僕には到底無理な才能だ」

 

「俺は別に何もやっちゃいない……」

 

「自覚をしてないだけさ。

流石……彼女がその昔提唱したフラスコ計画をただ一人で可能にさせる子だけあるぜ」

 

「……。無かったら俺は――」

 

「『そもそもお前等は構いすらしない』……かい? 何度も聞いた台詞だなそれは。

確かにそうかもしれないけど、その才を磨き続けるからこそだろう? お前が仮に胡座をかいてるだけなら皆誰も見やしないさ」

 

「…………」

 

「もう少しそのネガティブさを何とかできたら一皮剥ける事ができるんだけどねぇ?」

 

 

 ボロボロの一誠とは対照的に所々傷はあれど余裕そうなサーゼクス。

 どちらが勝者なのかは誰が見ても明らかだが、サーゼクスにとって一誠との決闘は勝ちとか負け等はどうでも良い。

 

 あるのはただ、殻に綴じ込もって全てに攻撃的だった小さな子供がよくぞ此処まで這い上がってくれた……という嬉しさだけだった。

 

 

「例えばさ、大事な僕の妹であるリーアたんと結婚したくば兄であるこの僕を倒してみせろ!! 的なやり取りとかしたいじゃん」

 

「心配しなくても要らねーよ。てか、純血悪魔なんだから純血の男とでも結婚さけとけや」

 

「あぁ、それは無理だし嫌だね。

僕より弱い男とだなんてマジで反対するつもりだし」

 

「じゃあ一生無理だろ。リアスも可哀想に……」

 

「だからこそ一誠には僕を超えて欲しい訳なのさ。あ、年下が良いならミリキャスでも良いぜ?」

 

「親や兄の台詞としては史上最低だな」

 

 

 幸いこの少年が本来歩む筈だった運命を横から奪って歩もうとして勝手に失敗し続けてる物好きも居る。

 だからもう兵藤イッセーではなく日之影一誠としての自分を見つけて歩いて欲しい。

 

 安心院なじみから託された数奇な運命の果てに覚醒させた才能を持つ少年の非難めいた視線を貰いながらサーゼクスは笑っていた。

 

 

「さて帰ろうか。そろそろ僕達の母が待ち兼ねてるからね」

 

「……この状態で戻ったら何されるかわからんから帰りたくないんだけど」

 

「そこはまぁ諦めようぜ。

精一杯の愛情を受けてあげなさい」

 

「……チッ」

 

 

 結局サーゼクスにまた負けてしまい執事に戻った一誠だが、戻るなり傷だらけの姿をヴェネラナに見られてしまったせいで取っ捕まってしまい、予想した通りに無理矢理治療を受ける羽目になった。

 

 

「サーゼクスと戦う事自体は否定しませんが、もう少し自分を大切なさい。

ほら、こんな所まで傷を作って! 跡になったらどうするのですか!」

 

「どうせ半日経てば勝手に治るんだから放っておけや! いででで!? 引っ張るなこのババァ!!」

 

 

 血の繋がりはおろか、そもそも種族からして全く違う他人なのに、最早自分の子だぜと云わんばかりにお節介なヴェネラナの小言に反抗する一誠。

 すぐ近くでジオティクスやグレイフィア……それからグレモリー家に仕える使用人達がそれはそれは微笑ましそうに見るものだから、一誠にしてみたら勘弁して欲しいのだ。

 

 

「これからリアス達が戻ってくるというのに……」

 

「何かあったかぐらい、アイツ等なら直ぐに察するよ。

もう良いだろう? いい加減離れろ」

 

 

 視線もそうだが、ヴェネラナにあれこれ世話を焼かれるのがとても恥ずかしいので、少し乱暴な調子でヴェネラナから離れると、グレモリーとシトリーの紋章が胸元に刻まれた燕尾服に袖を通す。

 

 

「俺はもう餓鬼じゃあない」

 

「親にとって、自分の子供は何時でも子供なのよ」

 

「……………」

 

 

 俺はお前等の子供じゃないんだよ。

 嫌々やらされてるこの仕事も気付いたら慣れてしまい、今や着なれてしまった燕尾服と髪型を整えた一誠はヴェネラナのその言葉に何も返さず、不貞腐れた様に仕事へと取り掛かった。

 

 

(どいつもこいつも……)

 

 

 最近の自分の甘さに苛立ちながら。

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠として生きる事になった男は、死んでいる筈のオリジナルが生存しているばかりか、どんな手を使ったのか、彼が悪魔達と既に親密な仲である事を知ったのは高校の入学式の時だった。

 原作のオリジナルとは似ても似つかない、どこまでも冷たい眼と表情と共に、彼がリアスだけでなくソーナとまで共に居る時は何かの間違いだと思いたかった。

 

 当然、これから先起こる事を知っているので、先手を打ち続けたと思っていた。

 アーシアの事しかり――等々を。

 

 だが一度だけオリジナルと相対した時、その力はハッキリ言って異常だった。

 

 抵抗する間も無く殴り倒され、アーシアの前で両足をへし折られた。

 泣き叫んでも彼は顔色ひとつ変えず、どこまでも冷たい眼で自分を見下ろしていた。

 

 

『知った上でやってるのか、それとも知らないでやってるのか……。

いや、テメーの場合は全部計算ずくなんだろうが、一応一度だけは言ってやる――この地で余計な真似をしたらその瞬間次はその両足だけじゃすまなくなる』

 

 

 間違いなくコイツは自分に復讐しに来たのだと恐怖した。

 けれどオリジナルは自分を殺す事はせず、忠告だけをして帰っていった。

 傷の方はアーシアの神器でなおったけど、それ以降兵藤一誠は悪魔達に関わるのを完全にやめた。

 

 今度こそ確実にオリジナルに殺されるという恐怖が完全にトラウマとなって。

 だから彼は様々な手を考えた結果、後に悪魔側の敵となる戦力に加わり、彼を間接的に始末できないかを考えた。

 

 その第一歩が禍の団であり、運の良いことにオリジナルは周囲に対する関心が薄いせいか、本来なら仲間となる者達を取り込む事に成功した。

 

 お陰で組織内でのチームが完成し、オーフィスとの接触にも成功できた。

 特に黒歌というはぐれ悪魔が仲間になってくれたのは大きかった。

 彼は妹がオリジナルに唆されたと知って大分恨んでいるからだ。

 

(時が来たら必ず殺す。

俺が兵藤一誠なんだ……)

 

 

 その黒歌とはアーシアと同じ様に親密な仲へと発展させる事にも成功した。

 後は自分を殺そうと思ってるオリジナルさえこの世から消えてなくなれば怖いものなど無くなる。

 転生したこの世界に兵藤一誠は二人も要らないのだ。

 

 

 仲間となった女性達と蜜月な時を過ごしながら兵藤一誠はオリジナルを殺す機会を待っている。

 

 もっとも、最早彼を仮に始末できたとしても、後ろに控えてる者達が黙ってる訳もないし、その者達もまた彼お得意の知識から逸脱した存在である事をまだ知らない。

 

 

 

 特に――

 

 

「イッセー兄さま~! お姉ちゃん達が来るまで僕だけと遊んで?」

 

 

 兵藤一誠が大好きな原作知識と剥離した性別である悪魔幼女なんかが……。

 

 

「遊ぶ? 何をしてだよ?」

 

 

 物心ついたその時から、血は繋がらないが、絶対的に慕う兄を持つミリキャス・グレモリーは、もう少しすれば帰ってくるリアス達を前に、存分に兄を独り占めしてやろうと、それはそれは無垢な少女そのまんまな笑顔を浮かべながらとことこと床掃除をしていたイッセーにおねだりをしている。

 

 一通り掃除や帰還するリアス達やソーナ達に合わせてやって来るシトリー家達の出迎えの準備を終わらせていたイッセーは、ねーねーと甘えてくるミリキャスに付き合いながら、何をして遊びたいのかと訪ねる。

 

 

「えへへ、えっとね、お医者さんごっこがしたいなぁ?」

 

「は?」

 

 

 ぶっきらぼうだけど優しい兄。

 種族だって違うけど、間違いなく兄。

 そして最早子供癖に成熟した愛情を感じてしまう兄。

 

 だから最近そんな兄にリアスやソーナやセラフォルーといった自分よりイッセーと付き合いの長い者達以外の一部女性が親しげにしてるのは――言葉は悪いがミリキャスはとても気にくわない気持ちだった。

 

 兄の良さを解ってくれる人が増えるのは歓迎だが、それとこれとは別であり、あくまでミリキャスはこの年齢にして既にイッセーをそういう対象として認識しているのだ。

 もっとも、本人は完全に子供と見なして気付いてすら居ない様子だが。

 

 

「何だその遊びは?」

 

「えっとね、兄さまがお医者さんになって、僕が患者さんになるの。

そして兄さまが患者さんの僕を診察するの」

 

「……。それのどこが面白いんだ?」

 

 

 それ程の、絶対的な愛情を示すミリキャスがもし兄であるイッセーが何者かの手で傷つけられたと知ったらどうなるか。

 イッセーに認められたい。イッセーに見てもらいたい。イッセーに振り向いてもらいたい。イッセーの傍に永遠に居続けたい。イッセーが望むならなんでもやれる。

 

 等々と、至極真面目に考えてる彼女が既に覚醒させた異常性はまさに一点特化の異常であるが故に極端だ。

 つまりイッセーを傷つけるものは皆敵であり、破壊する対象なのだ。

 見た目はサーゼクスとグレイフィアという美男美女の血をよーく受け継いだ可愛らしい幼女だが、その血からは既に数多の純血貴族坊っちゃん嬢ちゃんを超越してしるレベルにまで達している事を考えたら容易に想像できる話だろう。

 

 

「僕は面白いと思うんだけどな……だめ?」

 

「時間はまだあるから別に良いけど……」

 

「ホント!? やった! じゃあ今すぐ兄さまのお部屋に行こうよ! こっち! 早く!!」

 

「あ、あぁ?」

 

 

 それがミリキャス・グレモリーの持つ絶対愛(アブソリュートラヴ)

 愛するイッセーの為に、概念を超えた力を引き出すシンプル過ぎる異常性。

 

 

「じゃあ、僕が患者さんになって今から兄さまのお部屋――えっと、診察室に入るから、兄さまはお医者さん役をやってね?」

 

「………あぁ」

 

 

 その異常性のせいなのか、イッセーに対して猫を被りつつもマセてしまったのは皮肉なのか。

 

 

「……次の患者さんどーぞ」

 

「はーい」

 

「……。今日はどうされましたか」

 

「えっと、ずっと昔から胸が痛くて身体が熱くなるんです」

 

「なるほど、えーっとじゃあ――」

 

「はい、先生まずは聴診器で僕の胸の中を調べてください……!」

 

「………………。フリだろこれ? お前何で脱いで……」

 

「り、リアリティの為だよ兄さま! は、早く……! ほら兄さま!」

 

「あ、あぁ……じゃあ心音を……」

 

「あぅ……は……ぁ……! はぁ……はぁ……!」

 

(心音がやべーな……)

 

 

 人間界に何度か行ってる内に、そして周りの状況を見てる内にそんな知識ばかり吸収してしまってるミリキャスは今完全にイッセーをまんまと自分の遊びに付き合わせてご満悦だった。

 具体的にはお医者さんごっこと託つけてイッセーに胸を聴診されてる時点でミリキャスはもうアレだった。

 

 

「せ、先生ぇ……僕変だよぉ……! 先生にそんな見つめられてるだけでお股がじわってしちゃうよぉ……!」

 

「……………………おい」

 

 

 まあ、この時点で流石に意図が理解できたイッセーはハァハァと上着を巻くって胸をさらけ出しながらど偉い事を宣うミリキャスをひっぱたいて中止したのは云うまでもない。

 

 そして後に母親にめっちゃ怒られたのも云うまでもない。

 

 つまり、この少女からイッセーを奪うものから大変な事になるのだ。

 

終わり




補足

とにかく好きすぎて、お医者さんごっこを騙してやらせようとする。

でも所詮はまだ子供なのか、変な所でボロを出してしまう。

とはいえ、執事も執事ですぐに騙されてしまうが……。


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