執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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これネタバレかわかりませんけど、コミュ障化してても潜在的におっぱいに何かしらの気持ちがあるとか無いとか。


近すぎて気持ち悪い距離感

 僕達はリアス・グレモリー様の眷属である。

 なった理由は其々複雑だけど、その事情を知った上で気に掛けてくれるリアス様――いや、今はリアス部長を僕を含めた皆は慕ってる。

 

 そしてそんなリアス部長なんだけど、部長には女王(クイーン)であり、今はオカルト研究部の副部長でもある姫島朱乃より更に前からずっと一緒だった人間の男の人がいる。

 歳は僕と同い年で、悪魔には転生していない男の人。

 だけど並みの上級悪魔――いや、既に悪魔史に於いて史上最強とまで吟われている現・ルシファー様と互角に戦える程の笑えない強さを持っている凄い人。

 

 名前は一誠。

 僕達が其々複雑な理由で悪魔に転生した様に、彼もまた複雑な理由があって苗字と名前を失ったらしい彼は、一誠という名前すら『失う前に唯一与えられた個人を証明する為の証』として名乗ってるだけらしい。

 

 何でそんな複雑な事になってるのかは、普段は一切僕達を話をしてくれないのでイマイチ解らないが、最近何と無く読めてきた気がした。

 

 

「なぁ木場、リアス部長はまだ会ってくれねぇのかよ?」

 

 

 それがこの……一誠くんと性格と強さ以外の全てが瓜二つの、ちょっと色々と不審な言動と行動が目立つ人……兵藤イッセーという人にひょっとして関係があるのかなと僕なりに考えてみた。

 

 

「なぁ……リアス部長はまだ眷属が揃ってない人手不足状態なんだろ? 俺なら力に――」

 

「確かに人数はまだ揃ってないけど、だからと言って無関係なキミに心配して貰う必要はないよ。

それにうちの部長がキミに歓迎する気は無いともう何度も言ったよね?」

 

「そ……それはそうだが……」

 

「撤回もするつもりも無いみたいだし、キミは人間のまま生きて行った方が良い。

聞けばキミは自分の力に大層な自信もあるらしいけど……」

 

 

 何処で知ったのか、一目で僕達を悪魔と見抜き、そして眷属にしろと売り込んでくる兵藤イッセー君は、最初見た時は驚くほど一誠くんに似ており、あの日初めてこの兵藤イッセーくんを見た時の一誠くんは、無表情だった顔を僕達が恐怖する程に『殺意が込められた』ソレだった。

 

 兵藤イッセーくんも兵藤イッセーくんで一誠くんを『ありえない』といった驚愕の表情を見せてたし、それを考えると『単なるそっくりさん同士』という訳では無い様な気がした……少なくとも一誠くんを知ってるようでまるで知らない僕達眷属は思ったが、結局一誠くんは当然として、兵藤イッセー君を見て警戒心を示したリアス部長も教えてはくれなかった。

 

 

「でも俺は……!」

 

「じゃあハッキリ言うよ兵藤イッセー君。

好奇心や生半可な覚悟で僕達に関わろうとしないでくれ。部長はそういう輩が一番嫌いなタイプなんだ」

 

「うっ……!」

 

「じゃあそういう訳だから……僕は行くよ」

 

 

 今日もしつこく自分を悪魔に転生させろと、窓口係りか何かだと勘違いされてる僕は、いっそ非情に徹して兵藤イッセー君にキッパリ断りの言葉を入れると、顔を歪めながら狼狽える彼を背にさっさと去った。

 

 僕達の事情を知り、自分は強力な神器を持ってるし監視目的で構わないから転生させて欲しいと宣う兵藤イッセー君は正直、僕でも信用でるかと言われたら首をひねってしまう。

 

 何せ聞こえてないと思ってるか知らないけど――

 

 

「クソッ……。

黙って転生させてハーレム要員になってりゃ良いのによ……木場と匙とリアス・グレモリー以外はな」

 

 

 こんな事言ってるのを聴いて信用できるかい? 悪いけど僕はそこまで人が良い訳じゃないのさ。

 それにハーレムっていうのが転生させて欲しい理由なら、部長達に言ったあの言葉の数々は全部建前じゃないか……ますます無理だよそんなの。

 

 

「只今戻りました」

 

「あ、祐斗先輩……」

 

「待っててね、今お茶を……」

 

 

 そんな訳で本日もしつこい兵藤イッセー君を一蹴した僕は悪魔としての隠れ蓑として使ってる旧校舎の部室に入ると、待っていたのは部長以外のメンバーと――

 

 

「…………………………………………………………………」

 

 

 

 やっぱり鍛練の時しか声を発せず、仲介してくれるリアス部長も居ない今、部室の隅で一人無表情で知恵の輪をしている一誠くんだった。

 

 

「部長は何処に……?」

 

「今シトリー様と話し合いに出ましたよ」

 

「もきゅもきゅ」

 

「…………」

 

 

 部長が席を外してる理由を椅子に座る僕にお茶とお菓子を出しながら副部長が微笑みながら答える。

 なるほど……うん……。

 

 

「……………」

 

「あ、あの一誠くん? もし宜しければ一誠くんもお茶に……」

 

 

 ……。前にも何度かあったけど、こうもリアス部長が間に入ってくれないと変に緊張しちゃうし、変に話を盛り上げようも上手く行かない……。

 

 カチャカチャと知恵の輪で遊んでるだけで何にも話さない一誠くんは、普段無言のせいか妙な威圧感があるというか……副部長が遠慮がちに話し掛けても一誠くんは知恵の輪を動かす手を止めてから僕達を一瞥するだけで……。

 

 

「………………………」

 

「あ……ぅ……」

 

「ふ、副部長……」

 

 

 またカチャカチャと知恵の輪に没頭してしまうだけ。

 これじゃあ副部長もしょんぼりしてしまうのも無理も無いと思うよ、僕だってあんな反応しかされなかったら凹むと思うし。

 基本物静かな塔城さんだってこれには何とも言えない表情だ。

 

 

「………」

 

 

 思うのだけど、どうやってリアス部長は一誠くんとあんなに仲良しになれたんだろうと今でも不思議でしょうがない。

 曰く、『折れない根気のまま、一誠の負けん気を刺激すれば懐いてくれるわ』との事らしいけど……。

 

 

「………………………………………チッ」

 

「一誠先輩、知恵の輪はそうやって引き千切る玩具じゃ――」

 

「…………………………………………」

 

「いえ……何でもありません……」

 

 

 正直、毎回の鍛練はそこら辺に落ちてる小枝で叩きのめされてる僕としては自信が無さすぎる。

 知恵の輪が外れずにイライラしたのか、脆い紐の様に引きちぎる一誠くんに塔城さんが意を決したように突っ込みを入れるも、返ってくる無言とどこまでも感情が読めない透明な色の瞳に、僕達三人はそれ以上何も言えずに押し黙ってしまう。

 

 これも部長談なんだけど、決して睨んでる訳じゃあ無いらしいし確かに殺気やら怒気を今の一誠くんからは感じ無い。

 感じやしないけど……その何の感情が感じられない視線を受けるとどうしても尻込みしてしまうというか……やっぱり僕達は一誠くんと会話出来るなんて夢のまた夢なのかな……。 

 

 

 閑話休題……眷属達の憂鬱。

 

 

 

 コミュ障のままだけど、一誠の背丈は既に私やソーナを追い越し、ガッチリと見苦しさを感じない筋肉が付いた男らしい青年に成長したものだと思う。

 まぁ、精神的には負けん気の強さのせいで昔と変わらない気はするけど……いや変わってないわね確実に。

 ソーナも同じ事を言ってるもの……間違いないわ。

 間違いないのだけど――

 

 

「っ……はぁ、はぁ……」

 

「ぜ、全然当たらない……」

 

 

 いくら戦い以外の勝負事でソーナや私に負けるからってそんな悪逆宜しくな顔付きで見下ろさないでよ……と小並に私は思うわけよ――多分ソーナもね。

 

 

「クックックッ、どうしたおじょーさま共? もうへばったか? あ?」

 

「み、水を獲た魚みたいに生き生きしちゃって……」

 

「普段の仕返しをここぞとばかりに晴らしてるわねコレ……」

 

 

 一誠は強い。

 お兄様と同質であるというのと、強くなることでしか己を誇示しようとせず、向上心がそのまま服着て成長した様な性格をしているせいで、その強さは一日単位で際限無く進化を続けている。

 

 お兄様曰く、その性格と性質故に一誠は人として初めて神器とは似て非なる力……能力保持者(スキルホルダー)という存在なのだが、その能力というのがまた反則じみたソレでね。

 お陰様で一誠の背中を追い掛け、一誠に倣ってずっと自分を鍛えてきた私とソーナの二人掛かりでもこの有り様よ。

 

 

「も、もうダメっ……! う、動けない……」

 

「わ、私も……はぁ、はぁ……」

 

「……。ふん、黒神ファントムばっか使うから直ぐへばるんだよ」

 

 

 広めの公園に人避けの障壁を張り、夕方から夜中になる今までずっとソーナと二人で一誠にしごいて貰ったのだけど、まんま文字通り一方的に叩きのめされてばかりだった。

 汚れるとかそんな事も考えられずに地面にひっくり返る私とソーナを呆れた表情で見下ろす一誠にはトドメのダメ出しを貰うし……ふふ、ホントまだまだ未熟ね私達は。

 

 

「おら立てって。

女が地面にひっくり返るのは見苦しいぜ」

 

「そ、そうは言うけど……あ、足に力が……」

 

「ガクガクしてて思うように……」

 

「だから、まだ未完成の黒神ファントムを『二人して』あんだけムキに使い続けてればそうもなるだろ。

……。まあ、前に気紛れで適当に教えたそれをものの数週間でそこまで使えるようになったのは真面目に驚いたが……ほら、手ェ貸すから立てや。世話の掛かる」

 

 

 そうぶっきらぼうに顔を横に向けながら両手を差し出す一誠に、私とソーナは手を取り、ガタガタとなって上手く動かせない自分の身体を何とか立たせる。

 

 

「ぅ……その手を離されたらまた倒れちゃうかも」

 

「わ、私も……動かしたくても動いてくれない」

 

「だから忠告したのに……手間の掛かる」

 

 

 自分の許容した以上に負担を掛けたせいで歩きたくても歩けない。

 一誠に唯一教えられた技……黒神ファントムなる音速移動技術を私とソーナも使えるのだが、一誠曰くまだまだ未完成との事らしく、その証拠に長時間使用すると身体がガタガタになってしまう。

 

 

「そら、リアスは背中乗れや。それくらいの腕力はまだあんだろ?」

 

「え、えぇ……いたたた……よいしょ」

 

 

 お兄様と3日3晩ずっと黒神ファントムを使い続けたまま殴り合った事すらある一誠はそれだけで凄いのだが、やっぱり未熟な私達じゃこれがまだ限界。

 

 嫌そうに私を背中に背負い、続いてソーナを横抱きにした一誠た共に公園を出て家路に着く最中、まったく疲れた様子の無く軽々と私達二人を抱える姿に悔しさすら感じてしまう。

 

 

「私が背中でソーナがお姫様抱っこって、差別を感じるのだけど……」

 

「あぁ? 知るかんなもん。文句言ってると捨てるぞ」

 

「んー……また逞しい身体つきになってますね一誠……」

 

「触んなコラ……ドブ川に捨てるぞ……!」

 

 

 加えて私は一誠の首回りにしがみつき、ソーナは両手で抱えて貰う。

 何故か妙な差別感を覚えて思わず介抱されてる身なのに不満を漏らしてしまう私に一誠は無愛想に返すだけだった……良いなぁソーナ。

 

 

「あぁ……星が綺麗よ一誠」

 

「本当ね……アナタは興味ないでしょうけど」

 

「興味はある……。

星一つぶち壊すのにどれくらいのパワーが必要なのか、とかな」

 

 

 

 

 

 こと戦闘に関して私は全く一誠には勝てません。

 触れることすら出来ず、男女平等に殴り付けられ、蹴り飛ばされるだけで一矢すら報えない。

 今日だって数時間以上戦ったのに、ボロボロとなってる私とリアスとは対照的に一誠は学園制服のズボンにTシャツ姿の何処にも汚れは無く、更に言えば汗すら殆どかいてない。

 

 昔からS級……SS級クラスの危険なはぐれ悪魔を修行の片手間で討伐してるだけあって、戦闘能力は悔しいけど今の私とリアスでは到底立てない程の高次元だ。

 

 

「ほら着いたぞ。

さっさと降りて二人纏めて風呂でも入るんだな」

 

「ん……ふぅ、やっと歩けるくらいには回復できたわ」

 

 

 そんな一誠に文字通り『おんぶに抱っこ』をされる事数分、リアスが今住んでいるマンションの部屋に連れてこられた私はリビングの所までで下ろされ、土やら何やらで汚れた身体を洗い流せとぶっきらぼうに言われてしまった。

 

 

「随分と汚れちゃったわねお互い……」

 

「ええ、容赦なく何度も殴り飛ばされてればこうもなるわ」

 

「ふん」

 

 

 確かに一誠とは真逆にジャージ姿の私とリアスは早急にお風呂に入らないといけない状況だったのと同時に……汗もかなりかいた事と今の今までおんぶに抱っこという密着体勢だった事を思い出してちょっと恥ずかしくなった。

 

 

「面白いのが何もやってないな……」

 

 

 まあ、ソファに腰を深く下ろして詰まらなそうにTVを見てる姿的にあまり気にした様子は無さそうだけど……なんて思いながらお風呂に入るため、リアスの部屋に常備させていた自分用の着替えを準備をしようとしたのだが……。

 

 

「どうせなら髪洗って欲しいんだけどなー……」

 

 

 つまらなそうにチャンネルをザッピングしてる一誠にリアスが小さく呟いたのだ。

 それも普通に……息をするかの如く頼むように。

 

 

「はぁ? 何時まで餓鬼のつもりだお前は……」

 

「良いじゃん。自分でやるより上手なんだもん一誠のが」

 

「………」

 

 

 期待するような眼差しをするリアスに一誠はチャンネルを動かす手を止め、嫌々と誰が見ても分かるような表情をしながら此方に顔を向ける。

 そりゃそうだ、いくら律儀とはいえ入浴の世話までさせるなんて年頃に成長した男女としては一般モラル的に宜しくない……と、人間基準で考えれば止めた方がいい訳であり、私だってそう思う。

 

 

「チッ、じゃあ二人ともさっさと準備しろよ……ったく」

 

 

 だが人間である一誠はこれまでの人生の多くを我等悪魔の住まう冥界……それもグレモリー家で生きてきた。

 そのせいなのか、それとも単純にリアスやついでに私を異性としてまるで意識しちゃいないのか、TVを消しながら気だるげに立ち上がった一誠はリアスと私に準備――先に入ってろと促すではないか。

 

 やはりこの反応的にどれだけ日常的な行動なのかがよく分かるし、最早揃って異性としては論外レベルの認識しかされてないと分かってしまって微妙に寂しい様な気持ちになるが、リアスはそうでは無いらしく、パァっと表情を明るくするや否や――

 

 

「ん、直ぐに準備するわ! 行くわよソーナ!」

 

「え、あ? は、はい……?」

 

 

 サッと私の手を取り、『あ』も言う暇すら無く着替えを準備し、お風呂場に連れていかれてしまった…………あれ?

 

 

 

 

 おふろば!

 

 

「やっぱり一誠に洗って貰うのが一番丁寧だし好きだわ♪」

 

「言ってろ勝手に……ハァ」

 

「……………」

 

 

 あれ?

 

 

「終わったぞ。

おら次はお前だソーナ、早く此処座れ」

 

「え、あ……は、はい……」

 

 

 あ、あれー……?

 

 

「? 何緊張してるのよソーナ?」

 

「え、べ、別に……き、緊張してなんか無いんだからね!!」

 

「してるだろ、口調が目茶苦茶だぞお前。

なんだよ、自分でやるなら俺は――」

 

「嫌だなんて言ってないわ! やりたかったらさっさとやりなさいよ!」

 

 

 あまりにも自然過ぎて今になって気付いたけど……私、文字通り全部見られてる……他ならぬ一誠に。

 だから思わずテンパって指摘された通りおかしな口調で言い返してしまう。

 いや、当然ですよ……だって此処お風呂場だし、タオルも何もリアスと揃って巻いてないし、文句は言うのに私の髪を洗う一誠の手は凄い優しい。

 あ、頭の中がグチャグチャしてしまうのも無理無いと思いませんか?

 

 

「ふーん、髪質はリアスと同じだな……。

へ、餓鬼の頃からのイメージでそこら辺はガサツだと思ってたがそうでも無いらしい」

 

「ひっどいわねぇ一誠は。

ソーナだってきちんと私と同じ女の子なのよ?」

 

「ケッ!」

 

 

 さっきまで公園で笑いながら殴り掛かってくる一誠とは思えない優しい手付きで私の髪を丁寧に洗ってくれる。

 そのギャップがまた余計に意識してしまい、身体が硬直してしまってオマケに上手く声が出せずに居ると、一足早く湯船に使っていたリアスが不思議そうな声で私を見ていた。

 

 

「さっきからそうだけど、何でそんなに緊張してるのよソーナ? 小さいときはよく三人一緒に入ってたじゃない?」

 

「え……? だ、だってそれは……」

 

 

 心の底から不思議そうにするリアスの方が逆に不思議だ。

 言われてみれば確かに、小さい頃によくグレモリー家にお邪魔した時はよくそうだったけれど、そんな頻繁じゃなかったし、何より小さい頃と今とじゃあ話が違う。

 キョトンとしているリアス見るに、かなり頻繁にこういう事を頼んでるだと思うと微妙に複雑だけど。

 

 

「ケッ、変に身構えんでも襲いやしねーっつーの」

 

「む!」

 

 

 固まる私を見て何かを思ったのか、一誠まで私の後ろにから髪を洗いつつ小バカにした声で言ってきたお陰で若干は解れたものの、その言い方にこれにはちょっとだけムッとしてしまう。

 入る前のリアクションで一誠が私達をどう思ってるかは予想してたけど、あまりにも予想通りすぎると今度は悔しいと思ってしまう訳で……。

 まあ、変に緊張する必要はないと理解する事が出来たので良しとすることにした。

 実のところ本当にマッサージ並みに髪を洗うのが上手くて気分が良いし……。

 

 

「そら終わりだ」

 

「ありがとう……」

 

 

 そうこうしてる内に洗髪が終わる。

 本当にビックリする程丁寧に洗ってくれた一誠にお礼を言うと、それでもやっぱりタオルも巻いてないのが恥ずかしいと思うので素早くリアスの隣に浸かり、シャンプーボトルを片付けてる一誠を見て今気付いた。

 どうやら服をちゃんと着ており、私達と入るつもりは無かったらしく、手早くボトルの片付けを終える一誠を見ている私達には一瞥すらくれずに、さっさと出ていこうとしているではないか。

 

 

「ちゃんと肩まで浸かれよ? 風邪でも引かれて、その尻拭いまでやらされてはたまらんからな」

 

「む……む……はい……」

 

 

 ……。なんだ、リアスに言われて誤解してたけど入る訳じゃないのね……ホッとしたような――

 

 

「何よ? ついでだし一誠も入りなさいよ。身体も洗って欲しいし。ね、ソーナ?」

 

 

 残念な様な――へ?

 

 

「えっ!?」

 

 

 あまりにも普通のトーンで言うからまた思考が飛んでしまったが、リアスは確かにとんでもないことを出て行こうとする一誠に切り出したのだ。

 これには流石に私も驚いてリアスと一誠を交互に見てしまう。

 

 

「はぁ?

お前な……グレモリーの家の無駄にだだっ広い風呂だったらアレだが、こんな狭い浴室に仲良くすし詰めになれってのかよ? 嫌だよそんなの鬱陶しい」

 

 

 思わぬリアスの提案の筈なのに、一誠はまたも動揺せずのズレた返答をしてる。

 な、何かしら……知らない間にそんな仲に? いやリアスはそんな事言ってないし……。

 

 

「でも折角三人きりなのよ? 洗えなんて言わないから良いじゃない? ねぇソーナ?」

 

「え、えぇ……?」

 

「コイツ戸惑ってんじゃねぇか……巻き込んでやるなよ……」

 

 

 ど、どうしよう……マッサージでアレなのに身体を洗って貰うなんて……ど、どうしよう……!

 やり取りからしてリアスは経験済みみたいだし……小さい頃は確かにそんな事等私だって意識してなかったし――よしっ!

 

 

「良いでしょう! このソーナ・シトリー……一誠に身体を洗わせてあげることを許可しようじゃありませんか!」

 

 

 二人の当然ですな空気を纏ったやり取りに取り残された気分となった私は、悔しさ半分に意を決して浴槽から立ち上がり、出ていこうとする一誠に洗って貰う事を頼む――いや許可してあげました!

 あははは! 考えてみればある意味チャンスでもありますからね! 女は度胸って奴だわ!

 

 

「……。と、あからさまにテンパっちゃったソーナはご所望みたいだけど?」

 

「め、めんどくせぇな……。

俺はお前等のコマ使いじゃねーっつーのに……」

 

「早くしなさい、私の身体全部に触れる許可をする言ってるのよ!? Hurry up!!!」

 

「何コイツ? すげぇ偉そうに言われるとやる気失せるんだけど……」

 

「あー……多分ソーナも一杯一杯なのよ。許してあげて?」

 

 

 揉めてるリアスと一誠を無視して浴槽から再び上がった私は一誠の前で堂々と両手を前に突き出しながら待機する。

 

 

「お、怖じ気付いたのかしら? レディとなったこの私の姿に!」

 

「アホか、全裸晒してテンパる奴がレディな訳ねーだろ、馬鹿らしい」

 

 

 ぬぐ……! た、確かにタオルで隠さず一誠の真ん前に立ってるけど、この戦闘マニアが鈍くて無反応なのが悪いのであって私は悪くないわ!

 とにかく早くして欲しい!

 

 

「……。で、タオルネットと手のどっちが良いんだ?」

 

「て、てててて、手!? そ、そんなプレイまでしてたのリアスと!?」

 

 

 そんなこんなで念願? いえ、どうしてもと言うから洗って貰うことにした私は、眉一つ動かす事なくど偉い事を聞いてきた一誠に面を食らう。

 だって手って……それ即ち直接という事であり、更に言えばリアスはもう何度もそんなプレイをしてると思うと……ぐぬぬ!

 

 

「は? プレイ?? 何を言ってんのコイツ? 脳が壊れたか?」

 

「あ、そういえばソーナは経験無かったわね……。

だからこんなテンパってたのか……これは盲点だったわ」

 

「高々身体を洗うのにテンパるのか? テメーで洗うか他人に洗わせるかの違いじゃんこんなの」

 

「いやー……冷静に考えたら私達のやり取りって凄い特殊なのかも。

だって一誠にしかやらせるつもりは無いとはいえ、男の子であるアナタに肌を見せてるし……」

 

「あぁ……じゃあもうやめるべき――」

 

「手! 手よ!! 手でお願いします! 出来れば優しくと激しくを両立させながらです!」

 

 

 決まりね、タオルネットなどに私は誤魔化されないわ。

 手、手よ手! 手ったら手よ! 出来れば今言った通りが何と無く良い!

 

 

「…………。ですって一誠。

案外この子も私と同じで好き者ね」

 

「…………………。やっぱりサーゼクスとセラフォルーの妹だけあるわお前等……。

全然折れてくれねぇし何をしても負けた気分になる」

 

「ま、まだですか? こ、これが所謂焦らしプレイという――」

 

 

 うぅ……まだなのですか? 早くしないと頭がパンクしちゃう……!

 

 

「ちげーよムッツリ。おら、背中からやるから向こう向けや」

 

「あ、はい……」

 

 

 呆れた顔の一誠に促される形で言われた通りに背を向け、ボディーソープのボトルポンプをプッシュする音に心臓がバクバクと更に大きく鼓動する。

 そして――

 

 

「手でとか絶対非効率だろ……やっといて何だけど」

 

「ひっ……ぃん……♪」

 

「チッ、しかもコイツもリアスみたいに変な声出すしよ……」

 

「そりゃあそうよ……。

アナタは全然自覚してないだろうけど、私やソーナにしてみればアナタにこんな事して貰うのは……ね?」

 

「は、はぃぃ……くすぐったい、ですぅ……い、いっせぇ……!」

 

「変な奴等……」

 

 

 ボディーソープによって少し冷たくなってる一誠の手が私の背中を蹂躙していく。

 感想としては……クセになる。それだけでした。

 

 

 

終わり




補足

でもこの二人のせいで裸体に対して相当な耐性がついてしまってる感は否めない

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