基本的に日之影一誠はミリキャスに対して何処と無く甘い部分が多い。
本人は決してそんな事は無いと言うが、周りから見れば相当甘い。
軽く騙されてたというのに、一誠はそんなミリキャスを別に咎める事はしないのだ。
「うぅ、ごめんなさい兄さま」
「母ちゃんに相当怒られたんだろ? 俺から言うことは特に無いよ」
「甘いわよ一誠は! ミリキャスの為にならないでしょう!?」
「おーおー、煩いカミナリオバハンなこって。
ほらミリキャス、とっとと逃げるぜ」
「あ、ちょっと待ちなさい! オバハンとはどういう――くっ!」
グレイフィアにしこたま怒られたミリキャスに対してこれ以上何を言うつもりはない。
危うくお医者さんごっこのせいで大変な方向に誘導されかけていたというのに、一誠はそんなミリキャスを抱えてさっさと逃げてしまった。
「オバハンと呼ばれる歳じゃないわよ私は……!」
娘に優しくしてくれる事自体は歓迎するも、どことなく甘やかしてる気がしてならないグレイフィアは納得できない表情を浮かべると、ヴェネラナみたいにオバハン呼ばわりされた事を軽く憤慨していると、横で聞いていたサーゼクスが宥める様に口を開いた。
「良いじゃないかグレイフィア、本人も気にしてないみたいだし」
「そういう問題ではありません。ミリキャスが一誠を騙そうとしていたことが駄目なのです」
「まあ確かにそうかもしれないけどさぁ」
愛娘のある意味な押しの強さは寧ろ褒めてあげるべきだと思ってるサーゼクスは、まだぷりぷりと怒るグレイフィアにそれ以上は何も言わなかった。
ましてや、『キミにかなり似たんじゃないかな?』と言った日には大変な事になってしまう。
「そういえば、まだ結婚する前はよくグレイフィアも――」
「何か?」
「――いや、何でもないよ」
口は災いのもと。
独身時代、しょっちゅう逢い引きしたグレイフィアが色んな格好をして気を引こうとしてたな。
例えば今で言うナースコスプレとかしてたことは多分言わない方が火に油は注がないのだ。
こうして始まった夏休みだが、リアスもソーナも単に実家で遊んで過ごせる訳ではない。
どちらも名家の跡取りとして色々な席に顔を出さなければならないし、直近に行われる大きなイベントは若手悪魔の会合だろう。
もっとも、二人はその会合に対して特に大事だとは思ってない様子だが。
「カテレア・レヴィアタン?」
「ええ、この前の三大勢力の会談時に襲撃してきた禍の団の一派のリーダー格の事よ」
「そのリーダー格がなんだってんだ?」
それよりも大変なのが、先日の事件で捕獲したカテレア・レヴィアタンの事だった。
「今シトリー家で抑えてるのだけど、出された食事に全く手を付けようとしないのよ」
「はぁ……それで?」
そのまま公に出したら間違いなく裏切り者として処刑しろという声が出てくる為、暫くはシトリー家預かりになってるカテレア・レヴィアタンの現状をソーナから聞かされてる一誠は、シトリー家の書斎内の清掃をしながら耳を傾けるが、正味そのカテレア・レヴィアタンの事を一切知らないので、聞かされた所でどう返して良いのかに困る。
「禍の団の情報を得る為に彼女は生かさないといけないのよ。
だから良い手はないかと思ってね」
「無理矢理口を開かせて食い物をねじこむか、栄養剤の点滴をぶちこむとかが良いんじゃないのか? てか俺知らねーもん、そのカテレア・レヴィアタンってのは」
「やっぱりそういう手に出るしか無いのかしら……」
「どうしても生かしたいのならな」
パタパタとハタキを使って本棚の埃を落としながら話す一誠にソーナは腕を組ながら考える仕草をする。
セラフォルーに敗北していこう、完全に心が折れてるせいで何を問い掛けても返答が全くないか、殺せと叫ぶだけで情報が引き出せない。
こう、セラフォルーに対する復讐心をうまい具合に作用させられたらどうにでもなりそうだが、彼女の場合はその仲間にすら見捨てられてしまってるのだ。
「彼女の仲間は彼女を用無しとしてるみたいでね、お姉さまとサーゼクスさんが旧魔王血族の者達に伝えたら、煮るなり焼くなり好きにしろと言われたらしくて……」
「じゃあ煮て焼いてしまえばいいだろ」
「いや、さすがに憐れで……」
「悪魔の癖に甘いことだ」
それを聞いたら流石に同情してしまうというか、実際カテレアが聞いた時のショックと絶望の表情を見たら追い討ちをする気にもなれなかった。
とはいえ、このまま放置する訳にはいかないのもまた現実な訳で、何か良い手は無いものかと考えてるのが最近のシトリー家の面々だった。
「そろそろ食事の時間だけど、多分食べないわね……。今食事を運ばせてるけど」
敵だけど、どこか同情してしまう。
こう、昔の一誠を見てる気がしてしまうから……と、声には出さないが今日はシトリー家の執事副長として黙々と掃除をする一誠を見つめながらソーナは思う。
「何かが変わるかと思って私の眷属達にも日替わりで彼女の食事を運ぶ様にしてるけど、変化は無いし」
「? じゃあ今誰が運んでるんだ?」
「今日は匙よ。
最近木場君に言われて剣の修行を開始してるのよ」
「ふーん………案外変化があるかもな」
「え?」
「いや、何でもない……」
「これも眷属の仕事だと思えば苦じゃないけどよ……」
朝っぱらからシトリー家の敷地内を掃除していた一誠に軽い修行を頼めず、仕方なく一人で黙々と修行をしていた匙は、厨房のコック悪魔から渡された食事の皿が乗せられたトレーを運びながら、シトリー家の薄暗い地下を気の進まない面持ちで歩いていた。
この先に、三大勢力会談の襲撃に失敗して捕らえられた旧魔王血族の悪魔が居て、その食事を運ぶ。
簡単なお使いみたいな仕事に見えて、実はとても難易度が高い事を既に言伝てに聞いていた匙自身はとても気が進まない気持ちのまま、その者が居る牢というよりは部屋に到着する。
「ノックしてもしもーし、食事を持ってきましたー」
特殊な何かで力を分散させられる仕掛けが施されてる部屋は、牢とは思えないくらいに小綺麗な部屋であり、強いて言うなら陽の光は一切当たらない湿っぽさを感じる部屋だった。
一応のノックと共に入ってみると、中には体育座りしながら顔を伏せてる褐色肌の金髪女性が居る。
(わぁお、聞いた通りだな。完全に生きる意思が感じられない)
これが本当に旧魔王の血族者なのかと疑いたくなる程に小さく、覇気も何もない姿をしたカテレア・レヴィアタンを前に、匙は何とも言えない微妙な気持ちを抱きながら彼女に近づき、その横にそっと食事の乗せられたトレーを置いてみる。
「食事なんですけどー……」
「……………………」
返事が無い、ただの屍だ。
…………………では無く、一瞬だけ顔を上げたカテレアがチラッとトレーに目を向けてる辺りは生きてるのはわかるが、その表情も目も絶望一色だった。
「………………」
そしてそのまま再び顔を伏せる。
とてもお腹の虫を騒がせる匂いを前にしてもカテレアは微動だにしない。
なんでもかれこれ捕まってからずっとこの調子らしく、助けが来ないばかりか見捨てられたと知って以降は完全に心を閉ざしてしまって言葉すらも発しなくなったのだとか。
「あの、すいません。食うまでここを出るなって言われてしまってる以上、早く食べて頂きたいんですけど」
「……………………」
事情はわかるが、匙としては少しでも修行に打ち込んでレベルアップをしたい為、質素な服で体育座り状態のカテレアに向かって早く食えと言ってみる。
が、やはり返事は無い。
(腹減ってないのか? もしくは何かの力で空腹を感じてない様にしてるとか?)
あまりにも反応無しなので、そう匙は推測する。
だが……。
くー……
「………………………………」
「なんだ、腹は減ってるんですね」
普通にカテレアのお腹から空腹を訴える虫の音が聞こえたので、決して食べなくても平気ではないことはんかった。
しかし本人がこんな調子では……と、そろそろ困ってきた匙に腹の虫を聞かれたのが嫌だったのか、それまで言葉を発する事がなかったカテレアが不意に俯いたまま口を開いた。
「さっさと消えなさい。お望み通り、私はこのまま餓死してやるわ」
明確な拒絶の言葉を放つカテレア。
「餓死されたら困るんだけど……」
そんなカテレアに対して匙は頬を掻きながら困った表情を浮かべる。
何故なら彼は知ってるのだ、セラフォルーやサーゼクスがカテレアを普通に生かそうと周りに働きかけているという事を。
捨て駒扱いされて心身共に打ちのめされてると知りつつもまた、何となく人生がうまく行かなくて荒れていた時期の自分を思い出させるのだ。
「ふー、貴女――あーいいや、アンタの事は大体聞いたよ。
セラフォルー様に負けたんだろ?」
「……!」
別に同情はしないけど、何となくこの姿を見てると放っておけなくなってきた匙が説得しようとセラフォルーの名前を口に出した瞬間、ビクンとカテレアの身体が揺れた。
「で、捕まった挙げ句、アンタの仲間からは用無し扱いされて放置と。
なんていうかさ、運が悪かったよな」
「…………」
「別に同情はしないけどさ、そこで心折ってしまうのは勿体無くないか?」
「だ……まれ……」
その瞬間だった。
顔を伏せていたカテレアが僅かに顔をあげて、匙を殺意の篭った形相で睨み始めたのは。
「え?」
「黙れ……! 転生悪魔風情が知った様な口を叩くな……!」
窶れても損なわれない美貌が故に、結構な迫力があるカテレアに睨まれた匙。
しかし臆した様子は無く、匙は口を開いた。
「何だよ、悔しいって気持ちはまだ残ってるじゃん。だったら再起したらよ? これ食って」
「五月蝿い!! 消えろ! 私はどうせ生きた所で意味なんて無い!」
多分久々の大声を放ったカテレア。
こんな転生悪魔の子供にすら同情される程に落ち込んだ己が情けない。
安い同情なんて要らないとカテレアは匙にそう言い放つと、匙はちょっとムッとした。
「消えて欲しいなら早く食べてくれます? 俺も暇じゃあないんで」
「誰が食べるか……私はこのまま死ぬのよ……!」
「良いから食えよ!!」
同情はしたけど、別に深入りする気もなく、暇でもない匙がついにカテレアに無理矢理食わせてやろうと肩を掴んで無理矢理顔をあげさせようとする。
「こ、の……転生悪魔風情が私に触れるな!」
当然突然触れてきた事にビックリはしたものの、抵抗するカテレアに匙は叫ぶ様に言った。
「じゃあ食えや! 捨て駒扱いされて凹んで自暴自棄になってんだか何だか知らねーけどよ! そこで腐るんだから這い上がって見捨てた連中に仕返ししてやれば良いだろうが!!」
「子供が! そんな簡単に出来たら苦労は無いわよ!!」
「簡単じゃないからって死のうとする今のアンタよりはマシに思えるがな! ほら食え!」
「ぐっ、そ、そんな太いものを口に入れようとするな……!」
「だったら大人しく食いやがれ」
「や、やめ……! ん、んむぅ!? ん……あむ……ぅ!!!」
若干如何わしい様に聞こえるが、やってるのは無理矢理パンとスープをカテレアの口の中に捩じ込もうとする匙とそれに抵抗しようとしても抑えられてるという光景だった。
「く、ぜぇ、ぜぇ……さ、流石に先代魔王の血族者なだけあって……つ、強いぜ」
とはいえ、終わる頃には匙も大幅に体力を消費しており、肩で息をしながら空になった皿をトレーに乗せ、カテレアは体力が大幅に減少しているとはいえ、転生悪魔にされるがままになってしまったことにまた落ち込んでいた。
「転生悪魔の身分で手こずらせるなんて……やっぱり私はこの程度なの……?」
「そら碌に食わずに力を衰えさせてるだけのアンタにむざむざと返り討ちにされてたらこの先生きて行けないしな、こちとら毎日必死に修行してるんだぜ」
「……。無駄な努力を……」
持って生まれた才能と血筋ですべては決まると思ってるカテレアは、修行をしてるという匙を鼻で笑う。
しかし匙はそれに怒る訳ではなく、寧ろ上等だといった挑戦的な顔だった。
「無駄なのかどうかはその時までにならないとわからないぜ」
「…………」
挫折を知らない子供だ。
カテレアは口には出さないものの匙を見て思った。
どうせその内努力だけではどうにもなら無い壁に当たって心を折るに決まってる。
自分がそうである様に……。
「ふー……取り敢えずまた持ってくるけど、今度はちゃんと自分で食えよな。
まぁ、食べないならまた今みたいに無理矢理食わせてやるがな」
「敵である私を生かした所で意味は無いのに、何で……」
「目覚めが悪いだろ。単にそれだけだ」
しかしこの出会いが後にカテレア・レヴィアタンの運命を大きく変える事になるとは、この時はまだ知らない。
「どうだったの匙? 彼女は食べた?」
「あぁ、食べる気がなくてウジウジしてたんで無理矢理食わせてやりましたよ」
「む、無理矢理って元ちゃん……。割りと思いきるのね……」
「ああいうのは優しくするよりはある程度厳しくしないと駄目だって気付いたからな。
あぁ、夕食も俺が持っていきますよ、多分他の人達だとまた食わないでしょうし」
「え? 良いの……?」
「ええ、逆にあんな腑抜けた人を無理矢理生かして『生きててよかった!』と言わせてやりたくなりましたので」
「……凄い、一誠の勘が当たってる」
「へ?」
こうして専属食事係りになった匙元士郎は、この日の夕飯も運んだ。
「……! な、何でまたアナタが……」
「他の人達は優しすぎるからな。ある程度言える俺が適任だと思いましてね。 はい、今度は自分で食ってくださいよ? 食わなかったらまたねじ込む」
「笑わせないでちょうだい、さっきは油断してただけでアナタごときが私を御せる訳が――」
「あ、そう……じゃあ無理にでも食って貰おうか」
「っ! 嘗めるな!!」
夕飯時、まだ抵抗するカテレアと取っ組み合いになりながらも無理矢理食わせた。
「くっ、確かに言うだけあって強いなアンタ……」
「あ、当たり前です。そう何度も転生悪魔ごときに遅れを取るわけがありません……! それと! 無理矢理ソーセージを口に入れようとするのはやめて! 喉に引っ掛かって苦しいわ!」
「あ、すんません」
結果はギリギリ成功。
二日目……。
「ノックしてもしもーし、食わなきゃまた無理矢理ねじ込みまーす」
「チッ、やれるものなら……」
再び取っ組み合いになりながらも食わせることに成功。
そして三日目……。
「ノックしてもしもーし」
「チッ、来ましたね。今日こそ私は食べな………っ!? ど、どうしたのですかその傷は……」
「修行での傷ですよ。
それより、割りとしんどいんで食べて貰いたいんですけどね」
「あ、あぁ……はい……」
「? 何だよ急に素直――」
「なーんてバカですね! 満身創痍で来たのが間違いよ! 今日こそ私は食べないわ!」
「……………………」
勝ち誇るカテレアにイラッとして満身創痍でも取っ組み合いになる。
「がっ!?」
「! ちょ、ど、どうしたのよ?」
「な、なんでもねぇ……! ちょっと肋にヒビが入ってるだけだ……! そんな事より食えや……ぐっ!?」
「あ……」
その際、苦悶の表情を浮かべた匙にちょっと悪いことをしたのかもしれないと思ったらしい。
四日目……
「ノックしてもしもーし」
「来ましたね……はぁ、今日は抵抗しませんし、一応仕方なく食べてあげるからそこに置いてちょうだい」
「……。罠じゃないでしょうね?」
「どう見ても重症人の姿をしたアナタに勝ち誇ってもしょうがないですからね。
今日だけですよ……明日から餓死の為に食べてやりませんけど」
どう見ても痛そうな顔しながら持ってきた匙に抵抗しても意味がないと思って、今日だけは素直に食べてやると宣言する。
「へー? 確かに先代血族者を名乗るだけあって、気品? ってのは感じる食べ方だ……」
「フッ、当たり前でしょう? あのおちゃらけセラフォルーよりよっぽど私の方がレヴィアタンに相応しいのよ」
その際、セラフォルーに対する対抗心すら失せていた筈のカテレアからこんな台詞が飛び出た。
「でも私はセラフォルーに敗北した。そして仲間と思っていた者からは捨て駒と見放された。
最早レヴィアタンの称号を取り戻す意味も、生きる意味なんか無い」
「だったら今度は見放した連中を見返す為に這い上がれば良いじゃないか。
アンタ悔しくないのか? 俺なら絶対に一発ぶん殴るまで死ぬ気にはならねーぜ」
「子供の考えよそれは。
今の私の立場を考えればそれが不可能なのはわかりきった話……」
「そうやって何かにつけて現状を理由にするなっての。 レヴィアタンなんだろアンタは? 今はどん底でも上を見てれば頑張れるだろ?」
「……。不思議ねアナタは、敵で捕虜の私を激励するなんて」
「アンタ見てると放っておけないんだよなんか……自分でも不思議なくらいだぜ」
「おかげで食事を食べさせられるし、餓死も遠退くで最悪ですけどね私は」
「じゃあ今後も最悪になってやんよ」
六日目
「若手悪魔同士の会合? 暇な事をするのね現政権は」
「会長……っと、ソーナ様の兵士として俺も出席するんですよ。
なのでとっとと食べて貰わないと困るんですよね」
「へぇ? じゃあ嫌がらせに抵抗してやろうかしら?」
「ほら来た……じゃあ何時も通りだなぁ!!」
再び取っ組み合いへと発展する。
しかしこの日はちょっとしたトラブルが発生。
「クソ、飯を食って力を取り戻してきてるせいか、一筋縄ではいかないようだぜ……」
「フッ、だから言ったでしょう? 私は由緒正しきレヴィアタン。本来ならアナタみたいな身分がこうして向かい合える相手じゃあないのよ」
「最初の頃と比べたら随分と軽口が叩けるようになったもんだぜ……。が、俺も遊んでる訳じゃないぜ!」
「っ!? 速い……!」
「しゃあ! 取ったぁ!!!」
「っ!? きゃあ!?」
少し力を取り戻してきたカテレアに対して後ろから飛び掛かった匙はそのままカテレアと共に床にひっくり返った。
食事は遠くの机においておいたので無事だったが、二人はして床にひっくり返った際に匙は……。
「あ……」
「う……」
カテレアの胸に顔を突っ込んでいた。
「………すいません」
「いえ……別に……」
妙な沈黙が部屋を支配する。
「殴らないんですか?」
「別に……そこまで初じゃありませんし私。
ひゃ、百戦錬磨だし」
「いや、目を逸らしながら言っても説得力が……」
「う、うるさいうるさい!! こ、子供の分際でこ、この私を! このスケベ!」
「すいません……」
「ぜ、ぜぇぜぇ……。(ぐっ、こ、この私がこんな子供に……!)」
微妙な空気のまま終了。
徐々にカテレアは匙に対してだけは調子を取り戻していくのだった。
「…………」
「どうしたの元ちゃん? ぼーっとしちゃって?」
「べつに……。(良い匂いだったなカテレアさん……)」
終わり。
こうして変な関係になっていくカテレアと元士郎。
「へぇ、恋人が」
「ええ、もっとも……向こうは私を利用する対象としてしか見てなかったみたいだけど」
「ふーん?」
「……? 何よその顔?」
「あ……いや……」
恋人が居たらしいと聞いて何かモヤモヤする元士郎。
「元ちゃん? ……そこの彼女にそう呼ばれてるの?」
「ええまあ……」
「ふーん……」
「? 何か?」
「ふん、別になんでもないわ」
「? ? ?」
逆に仲間の眷属女子から愛称で呼ばれてると知ったカテレアは、面白くない気分になって。
「「…………」」
何時しか食事が終わっても暫く一緒に居る事が多くなった。
深い意味は無い。ただ、この時間が気付けば落ち着くのだ。お互いに。
「zZZ……」
「!? ちょ、ちょっと突然何を……って、寝てる……。
そういえば今日は色々あって疲れたと言ってたわね。
しょうがない……この私の膝の上で眠れる事を光栄に――」
「すー……すー……」
「光栄に……」
眠る元士郎に膝を貸し、寝顔を見ている内にカテレアは顔を近付かせ――
「何してんのカテレアちゃん?」
「うわっちゃあ!?!? せ、せせせ、セラフォルー!?」
「あ、元士郎くんに膝枕してあげてるんだ? へー? 優しいね?」
「こ、こここ、これは別に仕方なく! そ、それより急に何よ!?」
「いや、元士郎君の戻りが遅いってソーナちゃんが言ってたから様子を見に来ただけだけど……うんうん、心配の必要はないみたいだね?」
「こ、この……」
失敗してテンパるのだった。
終わり
補足
妙な組み合わせというか、このシリーズ系統でのお約束だね。