執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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親しくない人と話そうとすると、目の前がグルグル回って気持ち悪くなるらしい。


アドリブ下手な執事

 強くなる。

 

 誰も頼りにする事もなく、全てを自力で乗り越える為に只ひたすら強くあれ。

 

 

 裏切られても揺れない精神力を――

 

 奪われても何も感じない無の心を――

 

 あらゆる存在を超越する無限の進化を――

 

 魔王を超え、聖書を超え、神話を超え――

 

 

 理不尽を――

 

 言い逃れを――

 

 偽善を――

 

 裏切りを――

 

 嫉妬を――

 

 冤罪を――

 

 

 全てをぶちのめす……圧倒的な力へ飛翔しろ。

 

 

『消えな。お役ごめんだぜお前は――』

 

『っ!?』

 

 

 弱いまま朽ち果てるのは――もう嫌だ。

 

 

 

 

 リアスの眷属達よりも、ソーナの眷属達の誰よりも二人との関わりが古くから在る少年は無口だ。

 本人は『話しても意味がない』と頑なにコミュ障を否定しているが、それに対して現状人間界で突っ込めるのはリアスとソーナだけであり、眷属達はただ閉口してしまう。

 理由は単に二人の少女と関わりが古くて深い只の人間――とは余りにも逸脱した力を持ち、転生悪魔となった眷属達全員と戦っても刹那で沈められる程の圧倒さがあるからなのと、『頼むから俺に構わないでくれ、じゃないと胃液をぶちまけるぞ』的な寄せ付けませんオーラを放っているからだ。

 

 故に眷属達は彼に関わりたくても関われず、当然一般人である普通の人間もそうであり、悪いことにこの無愛想さのせいとソーナとリアス達からひっつかれてるといった理由からの嫉妬で、一誠少年自身の評価は著しく悪かった。

 

 

『今日も居るぜ、あの無口野郎』

 

『グレモリー先輩と支取先輩としか話さないんだろう? 何かムカつくよな』

 

「………………」

 

 

 リアス達の尽力により、人間界の学校に通っている一誠少年の学園生活はこんな感じであり、教室の一番端の席で窓の外の見飽きた景色を眺めているその姿を忌々しげに見ながらヒソヒソと学園五指確定美少女と異様に仲が良い一誠少年に嫉妬念をぶつけているクラスメート達。

 

 これでも最初の方は直接的な嫌がらせをしていたのだが、何をしても無反応かつ自分達を『真上からゴミを見るような目で見下す』目で見るだけで言い返しもやり返しもしなかった為、リアス達からの抑止力も加わって陰口を叩くしか出来なくなった。

 

 しかしそれでも一誠少年は無口のままだし、自分達を相手にもしない為、クラスメート(特に男子)からますます恨めし嫉妬光線を浴びるのであったとか。

 

 

「よぉイッセー! デートはどうだっだんだよ? この羨ま馬鹿野郎!」

 

 

 同名の少年はその逆だったりするが、一誠少年にしてみれば関係の無い話だった――というか『邪魔になる真似をした途端刹那で殺す』つもり満々なのだが。

 

 

「い、いや……と、特に何にも……」

 

「……」

 

 

 いや、既に余計な真似をしたので半殺しにしたと言うべきか……。

 グレモリー管轄の領土に侵入した下級堕天使集団の様子を探っていた際に、狙い済ませたかの如く『金髪の少女に近付いて』引っ掻き回そうとした同名の神器使いが窓の外をボーッと眺めている一誠少年を『恐怖した』面持ちで一瞬視線を向けてから、クラスメート達と話しているのが耳に入った一誠は――――

 

 

(…………。あんなのに俺は引っ掻き回されたかと思うと殺したくなるぜ)

 

 

 今のところ余計な事をしてばかりな転生者に苛立ちを孕ませるのであったとか。

 

 

 

 

 不審な動きを見せる下級堕天使の集団が居る。

 その情報を元に動いたのは『人間』である一誠くんだった。

 

 三勢力の睨み合いがあるが故に、私達悪魔が必要以上に介入してしまえば政治問題になってしまう為とはいえ一誠くん一人に任せるのは私達としてはかなり気が引けてしまうのだが……。

 

 

「――以上の事があり、兵藤イッセーが余計な真似をしようとしたんで、適当に手足をへし折って脅しておいた。

それと、あの堕天使共は神器使いの女を騙くらかして何かをしようとしてる節があった」

 

 

 潜入工作員の経験でもあるのかと聞きたくなってしまうほどの仕事人っぷりを、リアスの眷属である私達が情けなく思えてしまうほどに見せ付けられてしまうと地味に自信が喪失してしまう。

 

 淡々とした声で私達にも聞こえる様に報告をしてくれた一誠くんにリアスは『ご苦労様』と笑い掛けつつ、神器使いの女について気になったのか、そこら辺についての詳しい説明をして欲しいと促した。

 

 

「神器使いの女の子と言ってたわね? その子は?」

 

「見た感じ外国人でございますな、日本語もロクに喋れないひ弱な女だ。

デコピンで首がすっ飛ばせそうなんだが、神器は他人の傷を回復させるものらしく、兵藤イッセーと仲睦まじくしていたな」

 

「あら、やっぱりそこで彼の登場か……よく出てくるわねぇ」

 

「どうもその女が現れるのを『解っていた』としか思えない先回りっぷりで接触してたぞ。

まあ、邪魔にさえならなければ誰をナンパしてようが知ったこっちゃ無いんで暫くは様子を見てたんだが――」

 

「? どうしたの?」

 

 

 何時もながら、何故か私達の事情を知り、かつ色々としつこい兵藤イッセーのお話をする時の一誠くんは実に嫌そうなお顔です。

 同名に加えて容姿すら若干似てるからなのでしょうか――一誠くんは一旦間を置くと、吐き捨てる様に言った。

 

 

「あのクソ野郎……尻尾を出す前の堕天使の女に『アーシアの神器を抜き取る気だろう! 俺はお前を知ってるぞレイナーレ!』とまた知ったようにほざいて、赤い龍の力を使おうとしやがった」

 

「………。一応聞くけど、何処でその神器を使って戦闘しようとしたのかしら?」

 

「極々普通の公園。幸い一般人はそのレイナーレって堕天使女が人払いをしていたから見られては無かったが、あの考えなしの馬鹿は、そんな状況も省みず赤龍帝の力をぶっぱなして堕天使女を殺ろうとしたんで、嫌々止めて半殺しにした」

 

 

 『危うく、グレモリー領で野放しにしている赤龍帝を暴れさせたという事態に発展しそうになったから脅し込みでぶちのめした』と未熟とはいえ自覚している赤龍帝を当たり前の様に倒したと話す一誠くん。

 

 神をも滅する器として数えられてる赤龍帝の籠手を何処まで使えてるかは把握出来ていないけれど、そんな危険な力を街中の公園で使おうとしたらどうなるか……最悪災害レベルの被害が出てしまうこと請け合いであり、それを苦もなく止めた一誠くんの仕事人っぷりにただただ感心をしてしまった。

 

 一誠くんが敵だったらと思うとゾッとしない。

 

 

「それはそれはご苦労様ね。それで?」

 

「黙らせた後、奴と似たツラの俺を見て驚いてる堕天使女に『何をするのも知ったこっちゃないが、グレモリー家の管轄で余計な真似をしたら刹那で消す』と脅しておいたよ――兵藤イッセーを演出に使ってな」

 

 

 『尤も、奴等がそれを聞くかは知らんが』……そう締めくくった一誠くんは部室の一番隅にポツリと置いてあるパイプ椅子に座り、そこからは一切喋ること無く何処から途もなく取り出したルービックキューブで遊び始めた。

 

 まとめて聞いてみると、今回はかなり珍しく一誠くんが直接的な介入をしたみたいらしい。

 

 

「その後、神器使いの女の子はどうしたの?」

 

「俺のツラを見て驚きつつも慌てて兵藤イッセーを神器で治療した後、奴と一緒に俺から逃げるようにしてどっかに行ったぞ。あの表情からして俺に嫌悪感丸出しだったっけ……クソどうでも良いが」

 

 

 リアスの質問にだけはちゃんと返事をする一誠くんに、私達は何とも言えない気分になるけど、それを押し込んでカチャカチャとルービックキューブに夢中になる姿を見つめる。

 

 

「えー? アレとだなんて大丈夫なのかしら……? 朱乃や小猫とかソーナ達を見る目が正直アレだから果てしなく不安なのだけど……」

 

 

 主に貞操とか……。

 会ったことも無い女の子を心配するリアスの言葉に内心私と小猫ちゃんは頷いた。

 確かにというか、本人は隠してるつもりなんでしょうけど彼の目は本気で身の危険を感じるソレであり、シスターらしきその女の子が食べられちゃうのではないかと思ってしまう。

 逆に男の子である祐斗君と一誠くんに対しては邪魔者を見るような目なので、よーく分かってしまうし、補足すると一誠くんという男の子があまりにも私や小猫ちゃんに対しての目が『興味無い』という目なので本当によーく分かってしまうのよね…………悲しいことに。

 

 

「そこまで割って入る資格は誰にも無いからな。

まあ、本人同士が納得したんなら良いんじゃねーの?

見るからに『人生お手て繋いで幸せになれる』的な思考をしてそうな餓鬼の処女膜が、何処の誰にぶち破られようが俺の人生に何の影響もねーし」

 

「あのね……女の子が三人も居る場所で言うものじゃないわよ一誠……」

 

「知るかよ。ほぼ事実だろう事をそのまま俺なりに喋っただけだ」

 

 

 カチャカチャと中々揃わないルービックキューブを回しながらシレッと乱暴に女の子の純潔について言ってしまってる一誠くんにリアスが苦笑いしながら咎めている。

 いえ、そこまで子供じゃないし別に良いというか――処女……。

 

 

『今度負けたらお前等を【ピーッ!】してから【ピーッ!】するから』

 

 

 悪魔より悪魔らしく嗤い、圧倒的な力で叩き潰した一誠くんは私達に背筋が擽られる様な妖しい声色で囁くと、私の服を乱暴に引き裂いて――――

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「朱乃? 小猫? どうしたの? 顔が赤いけど……」

 

「「っ!? な、何でもありません!!」」

 

 

 ……。ハッ!? い、一体今のは……? 別の意味で凄く激しい一誠くんに無理矢理アレされてしまった映像が頭の中に……って小猫ちゃんも?

 ……。つ、疲れているのかしら……特に何もしてないのに。

 

 

「……。一誠が何時までも構わないせいねこれは」

 

「………は?」

 

「ぅ……」

 

「……。別にそんな訳じゃ……」

 

「……。(ルービックキューブ……僕得意なんだけどな…)」

 

 

 

 

 

 

 普段はリアス部長の付き人をしている一誠先輩。

 聞けばシトリー先輩の付き人も兼任しているみたいで、先輩は二人かそのご家族としか会話をしない。

 それは過去にあった事が原因だとリアス部長は言っていたけど、その原因の詳細は私達眷属は知らない。

 

 けれど一誠先輩は決して意地悪だからという訳じゃ無く、私達眷属に対するフォローも影ながらちゃんとしてくれる。

 

 だから嫌いになれない。

 こう、不良が小動物にだけ優しく接してる面を見てしまった的な心境というべきでしょうか……。

 私や朱乃先輩や祐斗先輩はそんな一誠先輩とちゃんと向き合いたいと思っています――――全く進展はありませんけどね。

 

 

「一誠先輩……これあげます。

だから……その……よろしければ私達と一緒に食べませんか?」

 

「……………。」

 

 

 何度も朱乃先輩と祐斗先輩と話し合って一誠先輩と普通にお話しできる機会を探り、今日もまたお菓子で釣ろうと思ったのですが、一誠先輩はルービックキューブから最近販売された『無限プチプチくん』なる玩具でプチプチやってて私達は一切見てくれない。

 最早何度もされた態度なので今更これで傷付く程軟ではありませんが、仲間とすら思われてない現実にやっぱり寂しいと感じてしまう。

 

 

「一誠。

可愛い女の子からのお茶のお誘いを無視するのは良くないわよ? お母様が聞いたら――」

 

「(ビクッ!?)」

 

 

 リアス部長の助け船が無いと全く儘ならない。

 今だってヴェネラナ様の話が出た途端、急に言うことを聞き始めたし……。

 一誠先輩はヴェネラナ様にどうも頭が上がらないみたいで、そういえば前に部長の里帰りにお供した時もヴェネラナ様に服をひん剥かれてお風呂に連行された時の一誠先輩の態度は『反抗期の子供』そのものでしたっけ。

 

 

『な、な、何しやがる!?』

 

『何って決まっているでしょう? 可愛い息子と裸の付き合いをする――何処も可笑しくないでしょう?』

 

『ざけんなゴラ!! 誰がテメーなんぞと……』

 

『あらあら? もしかして恥ずかしいのかしら? うふふ、私もまだ捨てたものじゃ――』

 

『寝言は寝て言えこのクソババァ!!

テメーの見苦しい真っ裸を見たところでたたね――――』

 

『………。言ったわね? じゃあ試すわ……全力で』

 

『ふざけんな離せこのババァ……やめっ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーッ!!!!!!

 

 

 

『一誠先輩の貞操が危険的な悲鳴が……』

 

 

 ニャメロン! ドコサワッテンダババァ!?

 

 

『あーうん……。そういえば直接見るのは初めてだったわね?

多分お母様は暫く一誠に構えなかったから溜まってたんでしょう……そっとしてあげなさい』

 

 

 ド,ドコカラソンナチカラガ……ヒィ!?

 

 

『そっとと言われましても、あの一誠くんが此所まで聞こえる悲鳴をあげるなんて一体何を――いえ、この際だから聞きますけど、この状況に対してはジオティクス様は何と……?』

 

『ん、特に何も言わないわよ?

というか言えないというべきか……。お母様って私達以上に一誠に過保護だから……』

 

 

 ニュルニュルハヤメロー!! オレノソバニチカヨルナァァァァ!!!!!

 

 

『お母様ったら張り切り過ぎよ……。私ですらまだ出来ないのに……』

 

『(((い、一体お風呂場で何が……)))』

 

 

 多分、良い意味での一誠先輩の弱点がヴェネラナ様で、詳しく聞いてみるとリアス先輩とほぼ同時期に先輩の心をこじ開けた猛者だった

 そして――

 

 

『はぁ……良かったですよ一誠……。大きくなって母は嬉しいわ♪』

 

『……。…………………。……………………』

 

 

 妙に艶々お肌なヴェネラナ様の後ろで、妙に窶れた一誠先輩を見た時の衝撃は色々と忘れられない。

 本気ならとっくに一誠先輩はヴェネラナ様を殺してしまってるとの事で大丈夫とリアス部長は苦笑いしながら言うが、『若さを奪い取られた』様にしか見えない先輩の窶れっぷりは、新たな一面を私達に見せてくれた……気がした。

 

 

「な、何でババァが出てくるんだよ……! ババァは関係ないだろ……!」

 

「敵意も何もない……寧ろ好意的な子達を蔑ろにするだけでもお母様は怒るわよ」

 

「ぐっ……な、何が好意だくだらねぇ」

 

 

 

 そんな訳で一誠先輩は本気で嫌っては無いけど、ヴェネラナ様を苦手としているので、話題に出されると借りてきた猫(私が言うのもなんだが)の様に大人しくなります。

 ブツブツ文句は言いつつも従います。

 

 

「あの……これどうぞ」

 

「……………………………。ド,ドウモ」

 

 

 多分ですが、一誠先輩が完全にグレなかった原因の大半がヴェネラナ様とリアス部長とシトリー先輩かなと、私が差し出したお菓子を小声で返事をして受け取る姿を見ると思う。

 そして思うのと同時に――

 

 

「どう一誠? お母様達以外の皆と囲ってお茶するのも楽しいでしょう?」

 

「ふ、ふん……知るかよそんなこと」

 

(………。どうしよう、一誠先輩を思いっきり膝枕して頭を撫でて甘やかしてあげたいです)」

 

 

 冷徹な仕事人の仮面が剥がれて時折見える『子供っぽさ』に堪らない気分になる私は、変な方向に目覚めてしまったのでしょうか?

 いえ……直すつもりは無いというか……。

 

 

「あら?」

 

「っ!? ご、ごほっごほっ!?」

 

「あ、すいません……今の先輩を見てるとつい」

 

「あ……良いな小猫ちゃん。然り気無く一誠くんに触れられて」

 

「男の僕には出来ない進展方法で羨ましいや……」

 

 

 直したくないですねこれは。

 

 

「…………………。な……な……!」

 

「あ、無理に喋ろうとしなくて良いですよ? 寧ろごめんなさい……。急に頭を……」

 

「………。……………。………………………」

 

「そんな苦虫を噛み潰した顔しなくても良いじゃない……」




補足

カーチャンが強すぎる件

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