執事一誠の憂鬱   作:超人類DX

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なんつーか、人吉くんのおかーちゃん的あれです。


執事とお母様

 定期的にサーゼクスをぶちのめす為に冥界に行く一誠はグレモリー城には顔を出す事はしないでいた。

 その理由は一誠曰く、『サーゼクスをぶちのめすんだから関係無い』との事だが、事実はそんな格好付けた話では無い。

 

 

「まあ!? 何ですかその適当な髪型は?

手入れもちゃんとしてありませんし……リアス達と一緒に居ながらなんてだらしのない! ほら、私が直してあげるからコッチに来なさい」

 

「うっせーぞババァ!!

つーか折角帰って来た実の娘の方に構えよ! 何で毎度毎度俺に――」

 

 

 苦手というか。地味に逆らえないというか。何を言っても懲りずに構い倒して来るリアスの母親ことヴェネラナに揉みくちゃにされるのが恥ずかしくて嫌だから……という反抗期の子供に有りがちな理由だった。

 

 

「もはや風物詩といっても過言じゃないわね」

 

「実を言うと三時間前から門の前でヴェネラナ様は構えておりまして……」

 

「あらそうなの? ごめんなさいねグレイフィア。

どうもお母様は髪色がそっくりな一誠を自分の子供にしたくてしたくて仕方ないみたいで……」

 

「いえいえ、グレモリー家――いえ、リアスお嬢様とソーナお嬢様専属執事としてのノウハウを叩き込んだ弟子兼大切な弟の帰りは実のところ私も楽しみでしたので……ふふふ」

 

 

 そんなやり取りをグレモリー家の人々と生暖かく見守るのが相場であり、その視線も一誠にとっては格好が付かない恥ずかしい。

 所詮は他人でしか無い自分にすら自覚できる愛情が、一誠にはむず痒かったのだった。

 

 

 

 

 俺は留守番をすると言った。

 けれどリアスはそれを許さず、帰らなかったら逆にお母様が人間界(コッチ)に来るかもね……なんて脅しやがったもんだから仕方無く付いて行ったけど、それは間違い無く不正解だった。

 このヴェネラナ・グレモリーことババァは俺を視認するなり訳のわからん駄目出しはするわ、べたべたと鬱陶しいはとロクなもんじゃねぇ。

 

 サーゼクスは笑ってこっち見てるだけで助け船すら出さないし……だから用も無いのに来るのは嫌だったんだ。

 

 

「人間界の学校はどうですかリアス?」

 

「一誠の大きな助力もあり、楽しく過ごさせて頂いてます」

 

「そう……では一誠は?」

 

「……………………」

 

 

 あんたらグレモリー家族の後で良いって言ってにるにも拘わらず、夕飯の席に無理矢理座らされて飯を食わされてる俺に、ババァがまた何か聞いてくる。

 

 昔からそうなんだが、どうもババァ含めたグレモリー家の連中は所詮は赤の他人である俺を身内同然の扱いをしてきやがる。

 

 何度も何度も『サーゼクスを倒したらこんな場所に用なぞ無い』と言ってるにも関わらずだ……。

 

 

「一誠? 聞こえてますか?」

 

「……チッ、普通だよ普通!」

 

 

 何時もならシカトか暴言で切ってやるつもりだが、生憎俺の隣ではサーゼクスとヴェネラナに次いで何かと俺に煩いグレイフィアとの間の餓鬼であるミリキャスが、大体何時も通りの意図不明の『妙に嬉しそうな笑顔』を俺に向けてくるせいで出来ない。

 

 いや、別にミリキャスがどうとかって訳じゃ無いんだが……。

 

 

「……。おい餓鬼。何だその意味深な笑みは?」

 

「何でもない……何でもないですよ一誠お兄様!! ……………………えへへ♪」

 

 

 この餓鬼。俺の中の記憶では一度たりとも俺に恐怖心を抱いた様子を見せた事がない。

 サーゼクスと殴り合いで血だるまになろうと、殺意全開で試しに凄んでも……何をしてもこの餓鬼は何故か妙に俺に懐いてやがる。

 

 

「お兄さまはやめろ。何度も言うが俺は只の他人……」

 

 

 サーゼクスとグレイフィアの餓鬼だからなのか……それとも単純に俺がヴェネラナに嘗められてるから嘗めてるのか定かじゃねーが……。

 

 

「お兄ちゃんが帰って来た……! 少しだけしか居ないけどその間に色々な事をして貰う……!

お風呂に入ったり一緒に寝たり……えへ、えへへへへ……♪」

 

「………………………。おい、おい……この餓鬼を見てると寒気がするのは何でだ? サーゼクスとグレイフィアはミリキャスに何をした?」

 

「さぁ? 僕は特に何もしてないつもりだったよ?」

 

「アナタを慕ってるんですよミリキャスは」

 

 

 ここ最近のミリキャスという餓鬼は、何か変というか……。

 聞けば俺がリアスのボディガードの罰ゲームの為に人間界に行くと知ったコイツは、死相丸出しで親指の爪噛んで血塗れにしたと聞いたが、それと関係があるのだろうか? 今はそんな奇行はしなくなったらしいが……。

 

 

 

 

 ミリキャス・グレモリーにとっての一誠は生まれた時からの兄であった。

 血の繋がりは無いけど、ミリキャスにとっては大好きな兄だった。

 

 無愛想だけど自分の我が儘を聞いてくれる。

 危なくなったら助けてくれる。

 

 理想……ミリキャスから見た一誠はまさに理想。

 故に家族と家族同然の一誠以外はどうでも良い。

 

 

「一誠兄さま遊んで!」

 

「あ? ………。ちょっと待て、お前のかーちゃんの仕事の手伝いが終わったらな」

 

「うん!」

 

 

 グレモリー城内の窓拭きを眠たそうな顔で……されど丁寧にする燕尾服姿の一誠の姿を物心がついた時から見ていたミリキャスにしてみれば血の繋がりがあるか無いかや、種族の違い等は何の弊害にもなりはしなかった。

 

 

「グレイフィア――じゃなくてかーちゃんから言われてた勉強は終わったのか?」

 

「うん! 一誠兄さまと遊びたいから直ぐに終わらせたよ」

 

「あ、そう。出来の良さは間違いなく二人の餓鬼だな……」

 

 

 声には決して出さないが、グレモリー家にもう10年以上も世話になっている借りを返す為にグレイフィアに教えを請うことで手にしたお手伝いさんスキルは、態度さえ何とかなればプロレベルまでになっている。

 この時も城内の窓を新品同様にまで磨きあげた一誠は、清掃用具をポリバケツの中に投げ込むと、ニコニコしながら飽くこと無く眺めていたミリキャスに完了したとぶっきらぼうに言う。

 

 

「で、何がしたいんだ?」

 

「えーっと……特に考えてなかった」

 

「はぁ?」

 

「一誠兄さまと一緒ってだけで良いかなって」

 

 

 あはは、と笑うミリキャスに一誠はまたかと内心辟易してしまうが、怒るつもりは無かった。

 大体予想できたからだ。

 

 

「ミリキャスと一誠、探しましたよ」

 

「あ?」

 

「あ、おばあさま!」

 

 

 なので一誠は特に怒るでも呆れるでも無く、寧ろ此処に住み着いてからはすっかり自分のテリトリーとなっていた中庭の隅っこのトレーニング場に連れていき、対サーゼクス技をミリキャスに仕込んでやろうかと、気だるそうな顔をしつつ、内心ニヤニヤとしていたぐらいだったのだが、そんな一誠のサーゼクスに対するちょっとした嫌がらせは、後ろから呼び止める聞き慣れてしまった声によって破壊されてしまう。

 

 

「グレイフィアからアナタとミリキャスが一緒に居ると聞きましてね。

どうやらお仕事も終わったみたいですし、一緒に汗を流しましょうかと……」

 

 

 一誠が帰りたがらなかった理由の一つを、嫌とも言わせず腕を引っ付かみながら笑顔で告げながら……というおまけ付きで。

 

 

「離せこのクソババァ!! 俺は嫌だぁぁぁぁっ!!」

 

「一誠兄さまとお風呂……えへへ」

 

「ミリキャスは嬉しそうですよ一誠? さ、行きましょう」

 

 

 サーゼクスよりある意味で最も苦手な存在であるヴェネラナはやはり嬉しそうだった。

 

 

「…………。クソ、何時か捻り潰してやる」

 

 

 そんな訳であれよあれよとグレモリー家ご自慢の大浴場へと引っ張られた一誠は、ヴェネラナとミリキャスによりひん剥かれてしまい、ただ今乳白色のお湯に満たされた浴槽に浸かりながらブツブツと文句を言っていた。

 

 だがその近くで一緒になって浸かっているヴェネラナとミリキャスはそんな一誠に対して気にした様子も見せず、寧ろ楽しそうに微笑んでいる。

 

 

「少し見ない間に少し逞しくなりましたね。普段はサーゼクスと戦うと顔も見せずに帰ってしまいますから、余計そう感じるわよ?」

 

「格好いいよ一誠兄さま!」

 

「…………。はぁ」

 

 

 とはいえ、ミリキャスという防波堤も一緒だし、玩具にされることは無いだろうと、心の中で多少の妥協をする事にした一誠は、駒王学園に入ることになっても欠かさなかった鍛練の証とも言える肉体の……絞り込まれたその腕を眺めながら口を開く。

 

 

「鍛えても肝心のサーゼクスには勝てないがな。

お前等の息子ないし親父はムカつくが強い」

 

「あら、そんなに自分を卑下しなくても一誠は強いと私は思うわ。

頭のお堅い貴族の方々は認めたがらないでしょうが、既にアナタの力はサーゼクスを除けば冥界最強を名乗れますし」

 

「冥界なんぞで最強と言われても、サーゼクスに勝てなきゃ意味がねーよ。それにそもそも俺は悪魔じゃない」

 

 

 強さの渇望によって覚醒させた後継者たる力をいくら研ぎ澄ませても、悪魔史上最強にて安心院なじみに一番近いあの魔王には未だ勝てないと一人拗ねている一誠に、ヴェネラナが微笑みながら大きくなった可愛い子の頭を撫でる。

 

 

「小さな頃からずっと頑張ってきた姿を私達はちゃんと知ってます、だから思い詰めた顔はやめなさい」

 

「……ふん」

 

 

 驚くべきは、自分の頭を勝手に撫でて微笑んでるヴェネラナの手を振り払おうとはせず撫でられている事だ。

 勿論、初めは気安く触るなと弾き飛ばすか、最悪その腕をへし折ろうと脅していたのだが、それでもヴェネラナは微笑みながら『やりたければやりなさい。私はそれでも止めないから』と髪の色以外はリアスソックリな笑顔で言われてしまった為、今では余程無茶な事じゃあ無いかぎりは黙認していた。

 

 親の愛情を奪い取られた挙げ句、ゴミの様に捨てられたせいで愛情に対して未だに懐疑的な一誠が僅かながらに見せる愛情に対する渇望がそうさせているのか――

 

 

「餓鬼じゃねーんだよ、何時までも鬱陶しいぜ」

 

「あら」

 

 

 それは一誠自身にもよく解らない。

 ただ、ミリキャスの横で頭を撫で続けられるのが恥ずかしくなったのか、不機嫌そうな顔でその手を振り払った一誠は、ヴェネラナから顔ごと視線を逸らしてブクブクと鼻の下辺りまで湯に浸かると、長湯がまだ苦手なミリキャスが立ち上がる。

 

 

「僕そろそろ出たいんだけど、一誠兄さまは?」

 

「あ? あぁ……じゃあ俺も」

 

 

 付き合ってやったしヴェネラナも満足だろうと、出ると告げてきたミリキャスと一緒に出ようとする一誠も立ち上がろうとする。

 だが……。

 

 

「ちょっと待ちなさい一誠。一つやり残している事がありますよ?」

 

 

 出ようとした一誠の腕を掴んで止めたヴェネラナにより、一誠は延長戦をしなければならなくなってしまった。

 やり残しているだと? とその時点で嫌な予感しかしなかった一誠は思わず身を強ばらせてしまうが、ヴェネラナはそんなの知らんとばかりにミリキャスへ先に出て待ってなさいと促すと、正真正銘二人だけとなってしまった。

 

 

「………。やり残しって何だよ?」

 

「リアスとソーナちゃんにやっている事を久々にやって貰おうとね?」

 

 

 嫌な予感を抱えながら聞いてみる一誠にヴェネラナはとても孫持ちとは思えない可愛らしいウィンクしながら言う。

 その瞬間、一誠は本能的な危機を感じ、思わず黒神ファントムを駆使して逃げ出そうとしたが……。

 

 

「あら、アナタはこの『ババァ』には何にも思わないのでしょう? それなら良いじゃないの?」

 

「うばっ!?」

 

 

 そうはさせんと逃げ出そうとしたが一誠を後ろから羽交い締めにし、弾むような声を耳元で聞かせる。

 その際ヴェネラナの身体を巻いていたタオルが取れてしまい、ダイレクトに密着している訳だが、その事に突っ込みを入れる常識人は被害者になっている一誠以外のグレモリー家には誰も居ないし二人きりだ。

 

 

「お願いよ一誠? 前にババァには反応するかって啖呵切ってたじゃないの?」

 

「離せゴラ!! ミリキャスが居るから安全だと思ってたのにぃぃぃっ!!」

 

 

 リアスで慣れきってるので、今更ソッチの意味で動揺することは無いが、こんな時になると異様に強くなるヴェネラナはある意味で怖いというか、全裸で羽交い締めにされている一誠は逃げようと暴れるが、ピッタリとくっついたままのヴェネラナはニコニコしながら浴槽から一誠ごと出ると。

 

 

「さ、洗いっこしましょう♪」

 

 

 少女みたいな弾む声で一誠をニュルニュルの世界へと連行するのであった。

 

 

「ニュルニュルは嫌だぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 一誠の断末魔を大浴場全体に響かせながら……。




補足

髪の色が一致するせいなのと、息子と娘がそんなに反抗しなかったせいか、もろに反抗期の子供みたいだと楽しくて仕方ないらしい。


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