今日は主であるリアス部長の里帰り。
当然私達眷属も部長に付いて行きます。
…………。まあ、ギャー君は行きませんので厳密には全員ではありませんけど。
「一誠先輩はどこへ?」
集合場所である部室には朱乃先輩と祐斗先輩とリアス部長……そして私達をグレモリー家のお城まで案内してくれるグレイフィア様が既に居ました。
しかしよくよく部室を見渡してみれば、眷属では無く、転生悪魔じゃないけど紛れもなく私達の仲間である日之影一誠先輩の姿が見えず、思わずリアス部長に聞いてみる。
すると部長はグレイフィア様に淹れて頂いた紅茶に口を付け、カップを受け皿に乗せると、気になる私――いや私達に笑いかけながら言った。
「一誠なら一足早く実家に帰ってるわ」
「あの子には皆様のおもてなしをして頂く準備をして貰っております故」
「「「……」」」
リアス部長に続いて、弟の様に可愛がっているグレイフィア様も表情を緩ませながら一誠先輩の行方を話すのを聞いて、私達は成る程と声には出さず心の中で納得しました。
「おもてなしすると云っても、何時も通りの無愛想顔でしょうけど」
「ええ、今朝もあの子の機嫌はあまりよくありませんでしたからね……」
グレモリー家唯一の純人間……。
しかしグレモリー家の――いや、正確にはリアス部長とソーナ様の専属ボディーガード兼執事という、並みの上級悪魔ですら、例え話『やりたい』と訴えてもやらせて貰えない大きな任を、両家から絶大な信頼を寄せられつつ頼まれている一誠先輩の在り方は、こうして改めて聞かされるとやはり凄いと思ってしまう。
いや、任かされるだけの絶大な力を持つと云った方がより正しいのか。
サーゼクス様との戦いを一度だけ直接見せて戴いた事があったが、あの動きは人間を遥かに――いや並み居る種族の最上級クラスですら超越している。
サーゼクス様の数千万の軍勢の進軍を思わせる滅びの魔力の弾幕を掻い潜り、近付ける事すら並みの存在では許されないと云われている話を嘲笑うかの様に肉薄し、殴り抜ける。
冥界内では『単なる作り話』と見てない多くの悪魔の人達は信じず笑い飛ばしているけど、サーゼクス様が居なければ一誠先輩は冥界を――――
「今頃は私達が帰るまで、ミリキャスと遊んでるんじゃないかしら?」
「ミリキャスはあの子に一番懐いてますからね」
……。いや、そんな仮定の話を考えても仕方無い。
私には何と無く解るのだ、いくら口が悪くて無愛想な態度であろうとも、あの人は決して部長とソーナ様を裏切る事はしない。
あの人は良くも悪くも『恩も恨みも忘れない人』……ですからね。
「運が良ければちゃんとお話をしてくれるかもしれないし、頑張ってみる?」
「お話を……?
よ、よーし、僕頑張ってみようかな……」
この前はついついという出来心でヴェネラナ様の名前を出されて狼狽えていた先輩を見て、こう……何とも言えない気持ちになってしまい、頭を撫でてしまいましたが、後悔はありません。
だって、撫でてみたらもっと変な気持ちになりましたからね………朱乃先輩にしつこく『ど、どうだったの?』と質問攻めをされてアレでしたけど。
「修行の相手をしてくださいと言ったら付き合ってくれるかしら? いえそれとも――」
朱乃先輩がブツブツと一誠先輩との距離をどう縮めようかと考えている。
私達眷属の中では最古参なのに未だに壁を作られてますからね……そのお気持ちは解りますよ。
「それではご案内致します」
「「「はい!」」」
ですが、私もまた今回こそは会話して貰うんだ。
その気持ちを朱乃先輩と同じように固めた私は、グレイフィア様先導のもと、リアス部長のご実家――そしてそこに居る一誠先輩の元へと向かうのだった。
リアス部長の里帰りは何時も緊張する。
するんだけど……。
「お、ぉ……お、……おかえりなさいませっ……!
うぶっ!?」
「い、一誠兄さま頑張って!!」
「そうよ一誠! 落ち着いて言えば大丈夫だから!」
「ヴェネラナよ……。あまり一誠に無理強いをさせるのは――」
「発言権が皆無なアナタは黙ってなさい!!」
「あ、は、はい……」
「くっ……ふふふ! あはははは!!」
リアス部長とグレイフィア様先導のもとやって来たグレモリー城。
相変わらず大きなお城だなぁ……とぼんやり考える暇もなく門を開けた先には、何時もの大コーラスも無く、僕達の目に映るは、グレモリー家に遣える全執事・メイドに見守られる中、口を押さえてその場で吐きそうな顔をしている燕尾服姿の一誠君と、その背中を擦りながら勇気付けているグレモリー家の皆様だった。
「だ、ダメだ無理だ不可能だぁ……!
あ、頭の中がグルグルして……ぐぐっ……クソが……!」
「ちょっと言うだけだから、もう少しだから兄さま!(ぅ……? い、今の一誠兄さまを見てるとドキドキする……?)」
「言ったら今日はこの母が子守唄を歌いますから!」
『イッセー副長! ファイト!!』
「あーっははははは!!! ひーっひひひひひ!!!」
「サ、サーゼクスよ。毎度毎度一誠が可哀想だろ、笑ってくれるのは……」
「も、申し訳ございません父上……で、で、でも、グフッ!」
『………』
うん。いやうん……。
グレモリー卿のおっしゃる通りだと僕は思う。
元々一誠君はその……悪い言い方をしてしまえばコミュ障って奴だし、無理強いは良くないというか……お手伝いさん総出で一誠君を応援しても逆効果にしか見えないと思うんだけどな。
「実は今朝、あそこで笑い転げてるお兄様に挑発されたのよ……『僕が全力で戦えるに価する一誠がよもや、客人に対しての挨拶もできないなんて言わないよね~?』って」
「大人しく引き下がれば良いものを、ご存じの通りの『負けず嫌い』が災いして、こんな事に……」
「「「あー……」」」
実に想像しやすい光景が目に浮かんで、思わず目頭が熱くなったのは気のせいじゃないかもしれない。
けどこんな一面を見せてくれるからこそ、僕達眷属は一誠くんが例え『グレモリー家とシトリー家に口先だけで寵愛を受けてる人間ごとき』と陰口を叩かれても真正面から否定できるし、親しみを感じるんだ。
「クソが……クソが、クソがクソがクソがクソがクソがぁぁっ!! 何で雑魚共相手にこんな目に遇わなければならないんだ! つーかサーゼクスは何時まで笑ってんだゴラ!! ぶっ殺してやらぁぁぁぁっ!!!」
「あはは! あひゃひゃひゃ――痛っ!? ふくらはぎにローキックは痛ってば一誠!」
「うるせぇ死ねっ!! 苦しんでから死ね!」
「兄さま落ち着いて!!」
「サーゼクスも挑発をやめなさい!!」
結局……多分僕達に対する出迎えの言葉が言えなかった一誠くんは、サーゼクス様と取っ組み合いとなってしまい、ちょっと言って欲しいなとか期待していた僕達は残念の気持ちを吐き出す様にしてため息を漏らすのであった。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした、木場様、塔城様、姫島様」
取っ組み合いになっていた二人の間に入り、サーゼクス様にヘッドバッドをしてKOという快挙にも近い止め方をしたグレイフィア様により収まった騒動。
泡吹いて気絶をしているサーゼクス様の襟首を掴んで引き摺りながら僕たちを中へと案内する姿にちょっと怖いものを感じたりはしたのは内緒だ。
「い、いえ……それより一誠くんは?」
「一誠なら自分の部屋に一旦戻ったわ。
夕食の時間になるまでは出てこないわね」
それよりも心配なのは、取っ組み合いをしていたとはいえ真っ青な顔をしていた一誠君だ。
副部長が気絶したサーゼクス様を引き摺りながら先頭を歩くグレイフィア様に恐る恐る質問し、リアス部長が代わりに答えたのを想像するに、精神的にはかなり堪えたみたいだ。
まさかのミリキャス様にお姫様だっこされるという光景にビックリしたけど、グッタリしていた一誠君は抵抗する気力も無く連れていかれたんだもんな……。
「ミリキャス様がお姫様抱っこを出来るということは、私にもワンチャンあるかもしれません……」
塔城さんがブツブツ言ってるのが聞こえてしまった僕も実はちょっとミリキャス様が羨ましい。
いや、決してお姫様抱っこじゃなくて、僕の場合は男の友情みたいに肩を貸して一緒に歩いてみたいというか……さ。
「お部屋は此方になりますので、2時間後の夕飯までは各自自由にお過ごし下さい。それでは私はこのアホを成敗しますので……」
「「「あ、はい……」」」
そんなこんなでお部屋まで案内された僕達は、クールな表情で怖い一言を残して去っていったグレイフィア様に言われた通り、客室に荷物を置いて廊下へと出る。
あ、当然お部屋は皆別々だよ。
「私は一誠の様子でも見に行こうかしら……。人間界の報告は昨日一誠を連れて来た時に全部やっちゃったし」
「あ、それなら私も一緒に良いでしょうか? その……心配ですし」
「私も……」
「それなら僕だって」
やっぱりあんな姿を見てしまえば皆心配になる訳で。
リアス部長が一緒なら押し掛けても大丈夫だと思うし、何より僕達は一誠君と普通にお話が出来る仲になりたいんだ。
その……弱ってたし、意地が悪いかもしれないけどチャンスだし。
「フフッ、一誠も贅沢な子になったわね。なら皆でお見舞いに行きましょう!」
「「「はい!」」」
男同士という意味でのアドバンテージは多少ある。
僕はそう信じながら、一誠君のお部屋へと皆で向かうのだった。
この前の小猫ちゃんの行動。
あの行動によって私は一種の焦りを覚えてしまった。
その焦りの理由は勿論、王・リアスに遣えてから8年近くになっても、未だに会話が成り立たない、リアスの幼馴染みにて専属ボディーガード兼執事さんの一誠くんだ。
頭を撫でた。
グレモリー家の方々、ソーナ様とセラフォルー様以外でその行為は拒絶される恐れがあるというのに、小猫ちゃんは『つい』と一誠くんの頭を撫でたのだ。
そのショックは私の中で思っていた以上に大きかったのは記憶に新しい。
「調子はどうかしら一誠?」
「あ、リアスお姉様!」
「あ? どうも何も俺は調子なんか――――げっ」
どんな感触だったんだろう? どんな気持ちになるんだろう?
時折見せられる人間らしさに心が疼いて彼を本気で甘やかしてみたいと思ってしまう私としては、私達三人の中で小猫ちゃんが先に行ったのは悔しい。
そして自分達の姿を見るや露骨に視線を逸らされるのはもっと悲しい。
「あの……その……一誠君の様子が気になってリアス部長に無理を言って――」
「大丈夫でしたから先輩? お加減は? 何かして欲しい事とかはありますか?」
「!?」
「あら」
祐斗君の言葉を押し潰すかの様にグイグイとミリキャス様とボードゲームをしてたらしい一誠くんに近付いていく小猫ちゃんに、私は『やはり』という予感と共に羨ましさがより膨れ上がる。
「っ……!? ……っっ!!?!?」
「ふむ……お熱は無いですね……」
「な、な……なっ!?」
リアスが微笑ましそうに見ている中を……ミリキャス様が急に『無表情』で見ている中、自身の額を一誠くんの額にくっつける小猫ちゃんに私と祐斗君は悔しさを感じてしまう。
どうもこの前の事である程度吹っ切ってしまったのか、無視を覚悟で小猫ちゃんは一誠くんへ積極的になる様になっていた。
「………。リアスお姉様の眷属様……? 一誠兄さまは大丈夫ですから離れた方が良いですよ」
「そう……みたいですね。出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした一誠センパイ」
「……………。…………………。…………………。」
その選択は恐らく間違いじゃない。
現に一誠くんは苦虫を噛み潰した表情をするだけで、小猫ちゃんを投げ飛ばす素振りはない。
「リアス――いや、ミリキャスで良い……耳」
「!? はい兄さま!」
だけどやはり直接的な会話はせず、丁度近くに居られたミリキャス様に、何時もリアスに対してしているように耳打ちをしているのを見せられた小猫ちゃんは、ちょっと悲しそうな目をしていた。
いえ、それよりも――
「―――。―――――。――――――。」
「ぁ……一誠兄さまの息がくすぐったいよぉ……えへへ♪ うん、うん……『頼むから揃って俺を見ないでくれ、本気でリバースするから』………ですって皆様?」
…………………。ミリキャス様って。
「あ、はい………ごめんなさい」
「ご、ごめんよ?」
「心配してくれてるのに……もう」
「――――。―――――――。―――。」
「うん……『別に心配しろなんて言ってない。そんな暇があるなら、足手まといにならないぐらいには強くなってろ』………と、一誠兄様は言ってますけど?」
私達に対する態度と一誠君に対する態度があまりにも違うというか……。言葉は畏まっているけど言葉の一つ一つに敵意を感じるのは気のせいじゃないわよね。
ミリキャス様って異様な程に一誠くんに懐いていましたし……。
「「「……」」」
「―――――。―――――――。」
「うん……。『後でみっちり"遊んで"やるから用意してろ』……………………………。一誠兄さまは言ってます……」
私達三人に修行を付けてくれる話を言わされた時は……殺気すら感じるし。
「や、やった! ありがとう一誠くん!」
「頑張ります……!」
「今日こそがっかりさせませんから!」
「それなら私も加わるけど、良いわよね?」
「あ? そりゃ別に……。(チッ、最初は何も感じなかったけど、何でこの三人とあのハーフ吸血鬼は一々俺に――)」
うん、それでも一誠くんと仲良くなりたい気持ちに変わりは無いし、圧力に屈するつもりはありませんわよ。
「一誠兄さま……僕もだめ?」
「あ? ……………。ハッ、別に構わないけどつまんねーぞ? この三人とやるのとお前とやるのとじゃレベル差がありすぎて、緩く感じてしまうが……」
「別に良い……。
早く僕も一誠兄さまと一緒になれるくらい強くなりたいもん」
「ほーう? 言うようになったじゃねーかチビが。
良いぜ……オメーとリアスには昨日よりレベル上げて遊んでやるよ」
「あら、それならちゃんと気持ちを入れておかないとね」
一日中膝枕して頭を撫でる。
それか乱暴にメチャメチャ……な、なんて。うふふ。
僕は一誠兄さまが大好きです。
血の繋がりや種族は違うけど、僕にとっては絶対唯一の兄さま。
リアスお姉様は良い。ソーナお姉様やセラフォルー様もまだ我慢できる。
「…………。負けない、兄さまは渡さない」
「ん、何か言ったか?」
「!? う、ううん、何でもないよ一誠兄さま!!」
でも他の……兄さまを知りもしない人達が仲よくなるのは嫌だ。
お母様とお父様に言われて理解したけど、僕はまだ兄さまが人間界に行っていることに納得できない。
リアスお姉様の眷属の方々だし、兄さまは話す価値無しと相手にもしてないからと無理矢理解釈してるけど、今日の姿を……確か小猫って人の行動を見て確信した。
「もう弱音は吐きませんから、一誠先輩……」
「……………………………………………。ア,ッソウ」
「!? い、今先輩っ……!」
「う、今小猫ちゃんに対して絶対喋った……」
「ま、また一歩先に行かれちゃったよ……」
「ふふふ、良い傾向ね」
「…………………………」
危ない。
僕だけの兄さまじゃなくなる。
このままじゃ兄さまが遠くに……。
「おいミリキャス?」
「っ!? な、なぁに一誠兄さま?」
「いや、ボーッとしてるからよ? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
あぁ……やっぱり兄さまは優しい。
何も知らない冥界の方は、人間の癖にと兄さまを馬鹿にするし、兄さまはそんな人達の言葉に『雑魚共の遠吠え』と相手にしない。
でも僕は許せない。
僕の兄さまを……僕のヒーローを馬鹿にする声に堪えられない。
だから強くなる。
誰にも文句を言わせない程の強さを手にして、魔王の息子だからという声も壊せる程の強さを……ふふふ。
そうすれば兄さまだって……。
「えへへ、兄さま~」
「おい一々引っ付くなよサイコロが振れないだろ。
つーか、お前ももうそこまで餓鬼じゃねーんだから」
「あぅ!? デコピンするなんて酷いよ兄さま……えへへ」
僕だけを……見テくレル。
「………。ミリキャス様って凄いですね」
「うん……流石家族……」
「…………。ただ、単なる家族としての目じゃないような気がするのですが」
「あー……ミリキャスって一誠に依存してるからねー……」
僕だけの一誠兄さま……。
ミリキャス・グレモリー
一誠に根性を見せた事により認められ、一誠に力を叩き込まれているお陰で既に冥界に蔓延る最上級クラスの悪魔を叩き潰せる程の強さを持つ未来の大魔王候補。
備考……