魔導国冒険者組合史   作:塩梅少年

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やっと書けたー!地味に長いです
そうでもないかな?

時系列は前話の少し後の話です!では!


組合指導員の募集

 

 ◆

 

 

 世にも名高い鮮血帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの居城。その帝城の通路を帝国でも限られた者しか着用できない鎧を着用し、ランスを背負った一人の女性騎士が歩いていた。

 彼女はこの帝国に今や三人しかいない帝国最強騎士の一角〝重爆〟レイナース・ロックブルズであり、そんな彼女の顔色はやや暗く機嫌が悪そうに見える。それもそのはず、彼女は昨晩行きつけの街の酒場が閉まるまで一人酒を飲み続けていたのだ。

 そんな体調不良(バッドステータス)を抱え重装備を着ながらもまっすぐと歩くその姿は、さすが四騎士と言えるのだろうか。そんな二日酔い真っ只中の彼女は今、彼女が仕える皇帝に突然の呼び出しを受けて頭痛を抑えながらも皇帝執務室へと向かっているのだった。

 

 帝国四騎士という比較的高い立場にいる彼女だが、今現在は微妙な立ち位置に立っている。数百の兵よりも個人の武勇が勝る世界においてその力量から帝国の軍事力の一端を担っている彼女だが、皇帝に忠誠を誓っているわけではない。

 彼女にとってメリット(願いが叶う可能性)が高かったから四騎士の地位にいるのであって、もし他に願いを叶えられる相手が現れれば即座に地位を投げ捨てるだろう、と周囲から認知されているほどだ。

 帝国で最も忠誠心の低い騎士であると同時に、最も周囲から信用されていない騎士でもあった。

 

 そんな折、帝国のすぐ側に強大なアンデッドが支配する魑魅魍魎溢れる墳墓が現れて彼女の生活は変わった。

 正確には、彼女に対する周囲の対応が変わったのだ。そのアンデッド、アインズ・ウール・ゴウンは帝国最強の大魔法詠唱者(マジックキャスター)が支配できないアンデッドを容易く作製し、皇帝の策略で行われた王国と帝国の戦争では魔法一つで二十万という兵力を蹂躙する圧倒的な力を周辺国家に示して魔導国を建国した。

 恐らく彼女の長年の願いを容易く叶えることができるほどの力を示し、いずれ寝返るかもしれないという立場だった彼女は、いつ寝返るのだろうかという立場になり周囲からの信用が完全になくなったのだ。

 

 しかし、周囲の予想通り「呪いが解けるのであれば、陛下にだって剣を向ける」と公言していたとおりに魔導国へと寝返る心づもりであった彼女であったが、未だ帝国を出ていない。

 なぜなら魔導国が戦争に連れてきたアンデッド兵の一体にさえ彼女の力は及ばず、呪いのおかげで女として売り込むことすらできず、魔導国が帝国四騎士であるレイナースに対して願いを叶えるほどの価値を見出せるとは思えなかったからだ。

 

 魔導国に有能性を示して願いを叶えてもらうために、四騎士の立場を利用し売り渡す価値のある帝国の機密情報を探る彼女であったが、皇帝も彼女が帝国の情報を手土産に魔導国へと乗り換えようとしていることに気づいており、ここ暫く帝国の重要機密に触れるどころか関わることもできなかった。

 さらに帝国が魔導国の属国になることを決めたことにより、帝国の重要機密を探ること(その行動)にも意味がなくなってしまった。

 

 帝国が魔導国の属国になることによって、帝国の機密情報を得られるかもしれなかった四騎士の立場も価値を無くし、魔導国の中枢に近づく手段も思いつかず、居続ける理由も離れる理由も掴めずに今もなお彼女は帝国四騎士の座にいたのだった。

 

 また魔導国が冒険者を集めているという噂を聞き、コネを使い知り合いの実力のある冒険者に魔導国へと行かせたのだが結果は全滅。魔導国の冒険者になるための試験で全員落とされ、その採用基準は実力ではなく志望動機ということがわかった。

 未知を求める心がある者だけが受かることができ、そこに実力は関係ない。つまり、そのような動機でない(未知を求めていない)彼女が冒険者として魔導国の中枢に近づくことも不可能ということだった。

 

 王国との戦争から帝国騎士達の間で皇帝としての立場が揺らぎ、四人いた四騎士も三人に減っている今、文字通りに自分の首を切り落としたりはしないだろう、とは考えている。

 しかし、鮮血帝という異名の由来の一部を自らが行使した経験もあり、例え帝城内であっても暗殺される可能性がないとは言い切れないので帝城内でも常に完全武装した状態で動いていたのであった。

 

 そんな彼女が、今回皇帝に呼ばれた理由について考えを巡らせながら執務室の扉へとたどり着く。懐からハンカチを取り出し髪に隠れた顔を拭ってからノックをする。万が一を考えてランスをすぐ取り出せるよう握りなおすのも忘れない。

 

 

「呼ばれて参りました、陛下。レイナースです」

 

 

 帝国の属国化を決めてから、ジルクニフは寝る暇もないほど忙しいとの噂である。そんな中わざわざ時間を割いて呼び出すということは何があるのだろうか。属国化の前に、危険因子を切り捨てるという意味でついに四騎士をクビにされるのかもしれない。

 その場合今持つ唯一のアドバンテージも失うことになるが、今やそれが惜しいのかどうかも分からない。むしろ魔導国へ行く良いきっかけになる可能性もあった。

 

 入室を許可されて部屋に入る。部屋に入り目に入ったのは、書類が山のように積まれた机と若干疲れた顔をした皇帝ジルクニフ、そして同僚である四騎士の〝雷光〟バジウッド・ペシュメルと〝激風〟ニンブル・アーク・デイル・アノックであった。これでこの部屋に全ての四騎士が集まっていることになる。

 皇帝のもとに信用のない四騎士の〝重爆〟が訪れるのだから、同格の力を持つ他の四騎士がいるのは可笑しくないのだが、彼ら二人の表情が気にかかる。気のせいでなければそれは、和やかな、そして優しい雰囲気を持つ微笑であった。そんな彼らが気になる中、皇帝が口火を切り出した。

 

 

「さて、君をここに呼んだのは他でもない、レイナース・ロックブルズ。今日限りをもって君との取引──君の帝国四騎士としての座を解約する。一言でいうならクビだ」

 

 

 その可能性は既に想定していたので驚きはない。しかしこの後の展開は予想だにしていないものであった。

 

 

「しかし、これまで帝国に長く仕え貢献してくれた君を突然クビにして、次の職場も紹介しないほど私は鬼ではない」

 

 

 そういってジルクニフは軽く首を動かし、横にいたニンブルが一通の封筒を丁寧にもって歩き出す。レイナースはその封筒を受け取り目を通した。

 

 

「それを持って魔導国にでも行きたまえ、あとは君の好きにすればいい」

 

 

 封筒の中に入っていたのは帝国でも滅多にお目にかかれない、上質な紙であった。そしてそこには【魔導国冒険者組合、指導員推薦状】と書かれてあった。

 青白く魔導国の紋章が浮かび、そこに書かれた文を読んで思わず目を見開く。そこには【この書状をもって採用された者、アインズ・ウール・ゴウンの名のもとに良識のある願いであるならどんな願いでも叶えよう】と書いてあった。

 その意味を咀嚼し理解したとき、たった一枚の紙がとてつもなく重いものへと変わっていく。

 

 

「陛下! こ、ここに書かれてることは本当なのでしょうか?!」

 

「じいに調べさせたが、その紙には保存の魔法がかけられており、それは今の魔法の常識を壊すものらしい。そんな芸当ができるのは魔導王──魔導王陛下を置いて他にいないだろうな。そしてあの魔導王陛下が、自らの名のもとに書いたことを守らないとも思えんな」

 

 

 上ずった声で質問し、返ってきた答えを頭の中で逡巡する。そして顔を上げた先にいた同僚達の先程からの表情(笑顔)の意味にようやく気がついた。

 顔が見えないよう頭を下げ、普段使わない綺麗なハンカチを取り出して目を拭い言葉を紡ぎ出す。

 

 

「ご好意感謝いたします、陛下」

 

「よい。これまでの忠勤、こちらこそ感謝する。達者にやれ」

 

「本当に、本当にありがとうございますわ」

 

 

 そう言い残し、部屋から出て行く。その後ろ姿は、やるべきことをやっと見つけた人間が走り出したかのようであった。去って行った彼女を見送り、後に残された男達が話し出す。

 

 

「……これで誉れある四騎士もとうとう二人になってしまいましたね。彼女、上手くいくといいですが」

 

「全くだ。しかし、お別れ会ぐらい開いてもよかったんじゃないか? それに涙の一つでも見せるかと思っていたが、感謝だけ言ってさっさと行っちまうとは、全く淡白な女ですな。陛下もそう思いません?」

 

「お前……、気づかなかったのか? どう見ても泣き顔を俺たちに見られないよう隠していただろ……、しかし」

 

 ジルクニフが昨晩も呟いたセリフを再び呟く。あのアンデッド(化け物)にはこのセリフを言うことも全てお見通しなんだろうな、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 時は少し遡る。ここは魔導国の都市エ・ランテルに存在するアインズ・ウール・ゴウンの部屋。

 都市長の住居を改造したその部屋でイスに座るアインズの前に立つのは壮年の男──組合長のプルトン・アインザックであった。その顔は難しそうな顔をしており、対するアインズも腕を組んでいる。

 

 

「なるほど、冒険者たちを指導するに値する人材がいない……か」

 

 

 アインズが今までとは全く違う新たな冒険者組合を作ることを決めてから少しばかりの時が過ぎたが、本格的な活動は始まっておらず未だ組織の形を作る準備期間の最中である。

 そんな彼らが冒険者組合を作っていく中でぶつかった問題、それは人材を育成するための人材がいないことであった。

 

 例えばナザリックのモンスターを召喚し、それを倒させることで経験値を積ませることはできるが、それでは弱い者が強者を倒すための技術を鍛えることができないのだ。

 

 以前ペットであるハムスケに戦士職を取らせ武技を持たせることができるかという実験を行った際に、コキュートスが支配する蜥蜴人(リザードマン)を使って様々な実験を行ったのだが、格上とのモンスターを倒すことで確かに彼らは強くなった。

 しかし、詳しく調べた結果彼らが成長したのは主に種族レベルであり職業(クラス)レベルは成長していないことが分かった。

 これらが指し示すこと。それはつまりモンスターを倒して経験値を得ても、自分が望んでいるレベルに経験値を与えたり新しい職業(クラス)を得ることは難しいということだ。

 それを踏まえてナザリックに侵入して捕らえた人間を再利用して実験してみたところ、モンスターをどのように倒すかが重要であり、特殊な職業(クラス)レベルを鍛えるには、(クラス)に対する深い理解とその(クラス)を使って敵を倒すことが求められた。

 また人間に技術を使わせずに、ただモンスターを殺す作業をさせた場合、どれだけモンスターを倒しても能力が伸びることはなかった。そして途中から技術を用いて殺しても能力は変わることがなかった。

 

 これらが指し示すこと、それは種族レベルのある亜人種は、ただモンスターを倒すだけでも種族レベルをあげることができる。しかし種族レベルのない人間では経験値を稼いでもそれが反映される種族レベルがなく、最終的には得られる経験値の限界(才能の壁)に達し、途中で職業に適した倒し方をしてもレベルが上がらない、ということだ。

 この世界では一生のうちに得られる経験値が決まっており、尚且つ得た経験値がレベルとして昇華されるかはまた別の話ということだ。冒険者という世界の中で、努力しても頭角を表さない人間がいる理由がこれだろう。何も考えずモンスターを倒す人間は例え経験値を得たとしても、それが注ぎ込まれる器がないのだ。

 逆に言えば、種族レベルがない人間が、経験値を職業(クラス)レベルのみに当てて亜人種と同じレベルまで成長した場合、より多くの技術が結果的に使えるようになる。その結果だけ見ればユグドラシルと同じものであった。

 大国が数十年、数百年単位で研究と実践をすれば適切な鍛え方(レベル上げ)が分かるだろうが、魔導国はそのノウハウを持っていない。

 ゲーム(ユグドラシル)と違って調べるには多大な時間と労力がかかってしまう。

 

 

 ゲームの世界(ユグドラシル)では何も考えず経験値を稼いでいれば、それが今伸ばしてるレベルに注ぎ込まれていたが、この世界ではその職業にあった訓練をしないとレベルが上がらない。

 この世界で亜人種が人間種より強い理由も、亜人種たちの方が何も考えなくともレベルが上がり、人間種たちは技術を習得しなければレベルが上がらないことに起因するのだろう。

 

 つまりナザリックには強き者たちはいるが、彼らと戦って実践訓練をいくら積んでも、それによって伸ばす技術を教えられなければ意味がないのだ。

 特にこの世界における技術、〈武技〉と呼ばれる存在。ナザリックの中にはそれらを使える存在がおらず死の騎士(デスナイト)も〈武技〉を習得できなかった。例外としてコキュートスが配下に治めている蜥蜴人(リザードマン)達がいる。ナザリックの実験によってレベルが上がった彼らだが、技術面が伸びたわけではないしさほど強いわけでもない。しかし一人か二人は他者に教えられる強者がいるかもしれないので、コキュートスに相談してみるべきだろう。

 

 

「私の方で、一人か二人は見つけられるかもしれないが、それだけでは足りないだろうな……」

 

「それでしたら、モモン殿に頼むのはいかがでしょう? あの方なら実力も人格も申し分ないと思うのですが……」

 

「……え? いや、それは困る。モモンには別に頼みたいことがあるからそれは却下だ。おそらく彼も引き受けないだろう」

 

 

 アインザックがモモン──アインズの仮の姿に頼むことを提案したが当然の如く却下する。モモン、いやアインズがコキュートスに習ったのは武器の使い方と体の動かし方がメインだ。武器の技術は覚えたが、それはアンデッドとしての特性に任せた戦い方だ。人間に教えようとしても体の動かし方が根本から違う。

 できの悪い息子(パンドラズアクター)に任せても何が起こるかわかったものではない。そもそもユグドラシル由来のナザリックには武技を教えられる存在がいない。

 

 

「魔導国に冒険者になりに来た者を使うのもな……、彼らは冒険者になるために来たのであって、他の冒険者を鍛えるために来たのではない。そんなことをしたら求人詐欺になってしまう」

 

 

 この場合一番理想的な手段は、他国からのスカウトである。しかし指導することのできる実力者を他国が手放すとも思えないし、本人が魔導国に来るメリットがない。

 魔導国が求めている人材とは、【冒険者になりたいわけでなく】【この世界で技術的な実力と経験があり】【魔導国に来ても問題のない人物】で【魔導国がメリットを与えられる】人材である。

 

 

「試験で実力のある者達を帰すべきではなかったな……、組合の指導員としてスカウトするべきだったかもしれん。私の方で少し考えておくが、アインザックの方でも有能な者がいたら声をかけてくれ。勧誘の交渉材料として私の方で紙にでも一筆書いておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 かつて冒険者組合が存在していたその場所は、周囲の建物が取り壊され、新たな施設へと改築中であった。そんな工事の音が鳴り響く建物の一室、講堂のような部屋の中で二人の少年が書類に埋もれながら作業していた。

 たくさんの書類と薬草が入った壺が並んであり、そこで作業する前髪で目が隠れている少年の名は、かつてこのエ・ランテルでポーション店を営んでいた、薬師ンフィーレアである。そして彼を手伝って書類に文字を書き込んでいるもう一人の少年は、魔導国へと冒険者の拠点を変えた帝国から来た若手の冒険者であった。

 

 ンフィーレア・バレアレは先日、魔導国が開く新たな冒険者組合で錬金術や医療に使われる薬草の知識を教えるための教師として雇われ、今はその際に使う教材作りに追われている。

 薬師としてたくさんの知識が頭の中にある彼だが、それがどこで、いつ、どのような効果を持っており、何に使われているか、どうやって採取して、どういう生態系に生えているか。それらを他人にわかりやすく伝えるために情報を纏め上げる作業というのは非常に時間のかかることであった。

 間違いがないように様々な図鑑を引用して調べているのだが、遅々として進まないその作業に疲労を感じているようだった。ポーションの開発や研究の際に三徹もいとわない彼にとって、肉体を酷使することは慣れていたが、今回は慣れていない作業ともあり精神的な疲労を感じている。

 

 そんな彼のいる部屋にノックの音が響き二人の人物が入ってくる。入室を許可して部屋に入って来たのは同じ職場の同僚のプルトン・アインザックと、彼の後ろからランチボックスを持った少女、エンリ・バレアレが入ってきた。

 

「やぁ作業は順調かい、ンフィーレア先生。君の奥さんが愛妻弁当を持ってきてたので連れて来たよ」

 

「お疲れンフィーレア、昼食持って来たよ」

 

「エンリ! 来てくれたんだ、ありがとう、嬉しいよ!」

 

 愛妻弁当という言葉に顔を赤くしながらも、立ち上がって感謝の言葉を述べる。彼ら新婚夫婦は、ある騒動が起こったことをきっかけにカルネ村から都市のエ・ランテルへと引越ししていたのだった。

 

 第一王子率いる王国軍と戦い滅びるところであったカルネ村であったが、魔導王から貰った二つ目の角笛を吹くことで5000ものゴブリン達が現れ、王国軍を追い払うことに成功した。

 しかし、100人にも満たない人数であったカルネ村の人数が一気に増えたことにより食糧難の危機に陥ったのだ。王国軍が置いていった食糧により一時的に食いつないだが、水不足が致命的な問題として彼らに襲いかかった。当面の問題を解決するために彼らは、トブの大森林の生き物を狩って食糧を得て、モンスターを追い出して水場を確保したのだった。

 

 そんな頃、王国との戦争に勝利したことによりエ・ランテル周辺が魔導国の領地になり、結果的にカルネ村も魔導国の領地へと譲渡された情報と共にメイドのルプスレギナを引き連れたアインズ・ウール・ゴウン魔導王が村を訪ねて来た。恐れていた王国からの報復という脅威はなくなり、気にかかっていた恩人と王国との戦争の結果を聞き喜ぶカルネ村であったが、肝心の魔導王がカルネ村に来た理由は情報の伝達ではなくカルネ村への詰問であったのだ。

 

 曰く、王としてトブの大森林から追い出されたモンスターを安寧のために殺したのだが、調べてみるとカルネ村周辺の生態系が乱れに乱れまくっていたことがわかりカルネ村が原因であったこと。故にその詳細を知るためにカルネ村に来たのだった。カルネ村は王族との戦闘があり、急激に人口が増えて食糧難と水不足に陥ったというあらましを伝えた。それを聞いた魔導王は納得すると同時にカルネ村への注意を伝えた。

 

 曰く、森が王国の管轄外であったのは王国が森に住むモンスターを管理する力がなかったからである。

 しかし此度の戦争によりエ・ランテル一帯が魔導国の領地となった。

 そして魔導国の管理する土地はモンスターの住む森も例外ではない。

 故に国に無断で森を荒らすことは、これからは違法になるということであった。

 

 しかし森からの恵みがなくなればカルネ村は生きていけなくなる。そんな心配をするカルネ村に魔導国から支援をする代わりとして、ゴブリン軍団に仕事を与えンフィーレア・バレアレにある仕事を頼みたいと魔導王から申し出があったのだ。

 恩人であり新たな王である魔導王からの頼み、慈悲を断るわけもなく二つ返事で承諾してカルネ村の問題は解決した。それらの理由により現在、バレアレ夫婦は少しのゴブリン達と一緒にエ・ランテルへと移住してきたのであった。

 

 若い冒険者が書類をどかしてンフィーレアが新妻(エンリ)からランチボックスを受けとって二人を迎え入れる。

 

 

「エンリの案内ありがとうございます、アインザックさん。お忙しい中わざわざ連れて来てもらって」

 

「いや、感謝されるほどのことでもないさ。それに私もそこの()に用事があったからね。ちょっと借りてもいいかい?」

 

「? ええ、簡単な事務作業を手伝ってもらってただけなので問題ないですよ。あ、君もありがとうね手伝ってくれて」

 

 そうして帝国から来た新米冒険者を連れて、アインザックは部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 そして時は少し進み、場所は帝都アーウィンタル。成り行きで魔導国の冒険者となった少年は、帝国の拠点に置きっ放しにしてある彼の荷物を魔導国へと持って来るために、再び彼の故国へと戻って来たのであった。

 

 そして彼が帝国へ戻って来た理由はもう一つあり、彼は懐にしまった魔導王直々の書類が入った封筒を服の上から触って確認する。魔導国の冒険者組合長から、帝国までの往復の交通費と「魔導国の冒険者組合への紹介状」を渡されていたのだ。

 実質的な魔導国の冒険者組合はまだ始動していないが、魔導国冒険者の真の目的に〈魔導国を世界に広める〉というのは既に聞いている。組合長からは「魔導国に来てもいいという優秀な人材がいたら是非勧誘してくれ」と頼まれた。

 正式ではないが、これも一つの魔導国の冒険者としての仕事なのだろう。少年は()()()()()()()()()()人物を見極めて魔導国に勧誘するという使命を胸に、かつて通っていた冒険者組合へと足を向けるのであった。

 

 そう意気込んでから既に数刻が経過し、住宅街が鳴りを潜め、飲み屋が立ち並ぶ屋台が賑わい始めた頃。酒場のカウンターで彼は酒を飲んでいた。

 隣には綺麗な長髪の女性が顔を伏せながらチビチビと酒を飲んでおり、おそらく冒険者なのだろう、その足元には槍が置いてあった。そして反対側の隣では二人組の男達が酒を飲んでいて、彼らに挟まれる形で少年は酒を飲んでいる。

 彼は先ほどまで、別の酒場で帝国の冒険者達による彼の魔導国への送別会に参加していた。しかし、それは送別会という名の情報収集であり、歴戦の冒険者たちが落ちた試験に彼がなぜ受かったのか? 魔導国は人類にとって危険なのか? 等を少年から探るためのものなのは明白であった。

 そしてそんな彼らの中には、少年が求めている、未知を知りたいという欲求を持った実力者は存在しなかった。求める人材がいなかったことによる不満を解消するべく、この酒場で飲み直しているのであった。

 

 そんな彼の耳へ酒場の喧騒に紛れて、酒場の主人に向かって零す女性の愚痴が聞こえてくる。

 

 

 

 

「帝国も魔導国もほんとうに最悪、こんなに頑張ってるのに、皆、私の願いを知ってるのに、誰も助けてくれないんだから。世の中ってのは本当に、残酷よね」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 貴族として民のために戦い、モンスターから呪いを受けた。その結果、家族からは勘当され、婚約者には逃げられた。呪いからの解放を目指し帝国の四騎士という地位まで上り詰めたが、歴史に残るあのフールーダに頼んでも叶わなかった。

 そして今、それを叶えられる存在が近くに現れたというのにその超越者に渡す、願いを叶えてもらうに値する何かを私は持っていない。それどころか、願いを叶えてもらう見返り(帝国の機密情報)を探ることを、周りから邪魔される状態だ。

 

 今まで鍛えた力も、モンスターを屠った経験も、女としての魅力も、全てに意味がないのだ。異形の化け物に目をつけられるには何があればいいのだろうか。毎晩それを考えるが何も思いつかない。

 思考の迷路に囚われる度に店主に愚痴をこぼして酒を浴びる日々。彼女が酒を飲む時は常に顔を伏せている。なぜなら酒で体が熱くなる度に膿が滲み出るからだ。故に顔の下に布を引いて誰にも顔を見られないように少しずつ飲む。酒で気分は紛れるが、その度に最悪な現実が突きつけられる。

 女性が一人で顔を伏せていたとしても、彼女は自分が危険だとは思っていない。なぜなら彼女は人間として圧倒的に強いからだ。見なくても気配で周囲の状況がわかるほどに。それは紛れもなく一流の戦士が辿り着く境地であり、そして彼女の願いにとっては今や無用の長者な技術であった。

 

 欲しいものが見つからない時はいつか手が届くと信じていていた。

 欲しいものが見つかったら、そこは手の届かない場所にあると知った。

 

 家族も友情も全てを叩き潰してここまで来た。しかし結局、その掌には何も残っていない。目的地が見えたのに、そこに辿り着くまでの道のりが見えやしない。

 少し前の、ただがむしゃらに信じて戦ってきた頃の方が幾分かマシと思えるほどに、彼女の心境は荒んでいた。努力しなければ夢は叶わないと人はいう。ならば努力の方法が分からなければ一生夢は叶わないのだろうか。

 

 そうして酒を飲んでいると、隣に座っていた少年が立ち去るのが気配でわかる。そして暫くして少年の隣で飲んでいた男達が立ち上がるのも。どうやら彼らもこの店を出るようであった。

 しかし例え勤務中じゃなくても、飲酒中であっても、一部始終を気づいている彼女にとって、帝国の騎士という職業柄、見過ごせないこともある。

 

 

「そこのあなた達は待ちなさい」

 

 

 そう男達の耳に聞こえた瞬間、彼女の足元に置いていた槍が消えた。そして槍が空中を綺麗に舞ったと誰かが気づいた時には既に男達が地に叩きつけられていたのだった。

 

 

「全く、わたしの前でくだらない真似(スリ)ができるとは心外ですわね。マスター、いつも通りそこの盗人と盗品は騎士達に引き渡してくださいな。それと……」

 

 そう言って顔を伏せたまま空中で回転する槍を片手で掴んだ彼女は、飲み干したジョッキを店主へと突き出したのであった。

 

 

「もう一杯、おかわり」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ここは皇帝ジルクニフの執務室。深夜と呼ばれる時間を過ぎたこの時間でも彼は悩み故に寝れずに執務室にいるのであった。

 悩みは星の数ほどあるけれど、今直近の彼の悩みは主に二つ。属国になることが決まっても、従属の印として魔導国に何を献上すればいいのかが決まらないのだ。ここ数日帝国の優秀な臣下達と白熱した議論を重ねても、納得のいく答えが出なかった。

 そして部下の一人、四騎士の一人である重爆の今後の扱い方にも頭を悩ませる。

 彼女が魔導国にいく前に、帝国が魔導国の属国になったことにより恨まれてるのが分かっているからだ。しかし帝国としては彼女の強さ故に動くことができず、早く自分から魔導国に行ってくれないかと願う日々が続く。しかしそんな終わりのない思考の渦も終わりの時が来るのであった

 

 

「陛下! 緊急の報告に参りました!」

 

 

 その言葉と共に臣下が執務室の外から叫ぶ声が聞こえてくる。夜中にも関わらず来るということは魔導国関連のことだろう。むしろ現状で緊急なことなんて魔導国以外に何もないと言える。そう気づいたジルクニフは己の疲れた顔を手で叩く。どんな突拍子のない事柄でも驚かないように。

 

 

「入れ!」

 

 

 そうして入ってきたのは夜間警備の責任者である騎士であった。その手には一通の封筒が握られており、彼の額に流れる汗から急いでここまで来たことが伺える。

 

 

「……何事だ」

 

「はっ! 本日街の盗人から押収した盗品の中に魔導王からの書状があり、急いで持ってきた次第であります!」

 

「何ィ!」

 

 

 急いで騎士の手にある封筒を半ば奪い取り、丁寧にそれを開く。付傭国の王からの手紙が属国で盗品として出て来るなど紛れもなく外交上の失態である。封筒は一見普通だったが中に入っていたその紙は一目で普通のものとは違うことがわかり、何かしらの魔法がかかっていることもわかった。

 そしてその文書を読み、あの魔導王の思惑がジルクニフの優秀な脳内で繋がり、一つの結論が導き出された。

 

 

「……おい、この封筒の存在を知っている者はお前と他に誰がいる?」

 

「はっ! その文書を発見した警邏の者が直接私に届けたので、私とその者しかおりません!」

 

「……なるほど。ふっ、つまりは属国の王の悩みなど全てお見通しというわけか」

 

 

 騎士の頭に疑問が浮かんでいるようだが努めて無視する。おそらく奴は最初からこうやってジルクニフに手紙を渡す気であったのだろう。

 

 

「すぐにその騎士の口を封じろ。そして明日の朝、すぐに重爆に帝城に来るように伝えにいけ。それで全てが解決する。ああ、一応フールーダも呼び出せ。魔導王の名を出せば飛んで来るだろう」

 

「はっ!」

 

 

 厄介な問題にならないことを悟り安堵の顔をした騎士が走り出すのを尻目にジルクニフは椅子に座る。問題が一気に解決したことによる解放感によって椅子に身体を預けたくなったのだ。

 魔導王は帝国が魔導国に送る貢ぎ物に悩んでいることも、四騎士の一人である重爆が魔導国に行きたいことも、重爆の願いが帝国では叶えられないことも全て知っていたのだ。どうやって知ったかなどあのアンデッドには今更なことだ。魔法で知ったのかもしれないし、綿密な計算によってかもしれない。

 

 魔導王は非公式にジルクニフに対して、属国としての贈り物に悩まなくていいこと。そしてその代わりとして帝国にとって大事な四騎士の一人を差し出せと伝えているのだ。

 動くことのできなかった重爆の願いを叶え、帝国にとっての悩みの種を解消し、対外的に四騎士という帝国にとって巨大な戦力を魔導国へと差し出すという構図をとらせることで帝国の面子を立たせているのだ。誰もが損をせずに皆が得をする構図である。

 

 なぜなら常識的に考えて、魔導王直筆の手紙が帝国の騎士が捕まえられる程度の盗人に盗まれる筈もなく、そんな警戒心のない人物に渡されるはずがない。つまりは最初から手紙が盗まれて、それがジルクニフの元に最低限の人間を通って渡ることが計算されているのだ。

 

 ジルクニフは天を仰ぐ。奴にとってはこの世の全てが手のひらの上でしかないと気づいて。そして自嘲気味に呟いた。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン……、奴の智謀は本当に、本当に果てしがないな……」

 

 

 

 




書いてから思ったけど今回の主人公って誰だ?
一話完結の話なのに一万文字超えてることに気づいてから、この数週間前後篇に分けようと試行錯誤したけど無理でした、そういう才能はなかった!

レイナース関連って、原作だとサラって解決しそうなんで書きました!そして探せばこういう話が既にありそうだと今気づいた


↓以下細かい設定
エンリはンフィーレアと結婚してエンリ・バレアレに進化しました。
原作で出たら新婚のイチャイチャありそうですよね。末長く爆発したらいいと思います

ゴブリンはトブの大森林の地図作成、及び地下道の作成に使われてると妄想
冒険者用の実地訓練用に、自然そのままを残した超巨大訓練場みたいな?

そして戦争後のカルネ村、戦争終わってすぐにカルネ村に行くのもなんだかな?って思ったので
きっと時間あけて困らせてから行くのかなーと妄想しました。
時間経ってから見ると環境破壊しててブループラネットさんに怒られる!みたいな


やっと次の話にいける!元々一番書きたかったのは次なのに起承転結しか書けてねえ、今回時間かけすぎた

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