自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第3話

 事は千年よりもさらに前という古代に遡る。『翼持つ人々』がこの異世界に転移してきた頃だ。サーバーダウンで強制的に視界が現実に戻るはずの自分達が戻らなかったことに、最後だからとログインしてるメンバー全員で天空城に集まって終わりの空を眺めていたギルドメンバーは当然のように驚き困惑し狂乱した。当たり前だ。ゲームの世界に取り残されたとなったらビビらない人間の方が頭がおかしいのだから。

 だがいつまでも驚き困惑し狂乱していられるわけでもない。その精神混乱から一番最初に戻ってきたのはギルドマスターであるリュウズだった。彼女は皆を落ち着け、まずはこの世界の情報を収集した。何があって何がないか。何ができて何ができないか。翼持つものばかりのギルドなだけあって半月あれば世界を一周してみせた彼らが得た結論は、自分達が転移してきたのは人類の文明の黎明期頃の世界であるというものだった。これに異世界転移という単語に覚えがあったギルメンは叫んだ。なんという中途半端な時代に転移してんだよコレ、と。その言葉に別のギルメンが顔を上気させて叫んだ。じゃあここは誰にも荒らされてない新天地ってことか!と。

 そのギルメンの言葉が彼らの行動方針を決定したといっても過言では無かった。さらに半月経つ間にギルメン総出で拠点を修繕し、空に浮かぶ己等の本物の巣を作り上げ、そうして彼らは夢の世界ではなく現実の世界で飛び立った。心の奥にある「空を飛びたい」「自由でありたい」「未知をみつけたい」そんな願望のままに飛んでいった。巣に心優しいギルドマスターを残して。彼女の微笑みに見送られて。

 それをきっかけにして、ギルドマスターはどう考えても呪いのアイテム的効果の強い世界級アイテムと長い時を過ごすことになった。ユグドラシル時代は装着者は魔法も特殊技術も使えなくなるというゲームシステムに喧嘩売ってるんじゃないかと問いたくなるような効果のあるアイテムは、この世界でも問題なく力を発揮し、彼女から楽しみを奪っていたのだ。実はちょこちょこ装備を外してあちこち遊びに行ってたとしても結構長い時間それを装着して居なければならなくなった彼女は、だから世界級アイテムを通してこの世界の考察を行った。

 世界級アイテムはユグドラシルでは「世界そのもの」とか「世界の可能性」という位置づけだった。詳しいことが知りたい人は本編を読んでほしい。大事なことはこれが「可能性」であることだ。ともすると<流れ星の指輪>以上の。彼女はそれに気づき、気づいたから世界級アイテムを使って検証してみた。この『替えの効かないアイテムだろうと気になったことがあったら使っちゃう』というこらえ性の無さというか自由なところが彼女の『翼持つ人々』のギルマスらしいところである。

 とにかく、彼女は試してみた。この世界一つの葉っぱの具現は、果たして自分達が生きていたくそったれなリアルと等価なのか、と。同じエネルギーがあるのならアクセスできるのかな、と。

 そしてその検証の結果、彼女は知った。その予想は正しかったと。そして彼女は知った。彼女の持つ、装備者の楽しみ全部を奪うようなアイテムの本当の力を。『観察者の目』とは、装備者をありとあらゆる攻撃から守るのではなく、『世界を観察する者』という上位次元の存在に装備者を押し上げ、その副次的効果としてありとあらゆる攻撃が効かなくなるものなのだと。パーフェクトアクアリウムとそれを観察する人間を想像してみたらわかりやすいだろうか。人間はアクアリウムの中に一切の影響を及ぼせないが、逆にアクアリウムの中のいかなる魚も人間に危害を加えられないのだ。ガラスという壁が両者を分け、世界を分けるのだ。

 そしてこの世界において、『観察者の目』はユグドラシルという木とそこに繁る葉の一枚一枚を見つめられる位置に装着者を正しく押し上げた。リュウズがどきどきしながら脳内に広がる世界級アイテムのスイッチを押した時、彼女は見た。見てしまった。何百何千何万何億何兆何京それ以上に広がる無数の世界の可能性を。食い荒らされた九つの葉っぱだけではなかった。三次元の人間が見るべきではないものを彼女は視認した。その視認に少し前まではただの人間であった小娘が耐えられたのは彼女が「神」と成っていたからだ。もしも彼女が「神」でなければ、彼女はきっと発狂していただろう。精神構造が耐えられなかっただろう。けれど彼女は耐えた。

 それが幸せなことだったのか、知った後に己が続くことが彼女にとって幸いなことなのか。彼女と彼女以外の正常な精神を持つ者はきっとそれを不幸と言うだろう。自分がちっぽけな世界の限定された存在であると自覚することは人の心を再現のない不安に陥れるのだから。けれど彼女は違う。彼女は幸せなことに狂っていた。それは彼女が電脳化手術の時に手術ミスで脳と全身のリンクが切れて全身不随になる障害を負ってしまい、電脳世界でしか自由に在れなくなったことが原因かもしれないし、彼女の実家が政治的理由で安楽死を認められず、卵子を採って跡取りを残すためだけに生かされることになったことが原因かもしれない。現実で配給食料の選択どころか踏み出す足の右左さえも選べない生活が彼女にいっそ狂気的ともえる可能性への希求を植え付けたのかもしれない。なんであれ彼女は奪われたことで狂っており、その狂気に、恐ろしい奇跡が噛み合った。

 

 彼女はずっと飛び続けた。覚醒の合間のまどろみの時、彼女の魂を一個の目にして高次の世界を飛び続けた。たまに仲間とこの世界を冒険し、寿命ある種族を選んだために命を燃やして死んでいった仲間達を弔ってきた。長い時やら久遠の時やら持つ者も寿命や不慮の事故のもたらす死には抗えない。そうして彼女は一人になった。『リアル』ではできない生き方をして満足そうに死んでいった仲間達が羨ましくないかと言われれば嘘になる。あんな風に生きてみたいと思わなくも無い。けれど彼女はそれ以上にこの世界を飛びたかった。この世界がある世界を飛びたくてたまらなかった。だから飛び続けた。

 そして全くの偶然、豪運、奇跡、そういった稀事の例えをいくつ重ねても足りないような天文学的かつ絶望的確率の末、彼女は見つけた。今自分がいる世界と、元自分がいた世界を。そして観察者としてのぞき込んだ。眼に映した。万物を。もしも彼女がオフ会というものに参加できる身であればその時彼女が探したのは最後の日に来なかった仲間だったかもしれない。けれど彼女はそんな機会には恵まれなかった。だから彼女は別のものを探した。即ち自分だ。そして驚くべき事を発見した。なんと自分は死んでいた!ユグドラシルのサービス最終日の終わりに眠るように息を引き取ったらしい。見れば一族は慌てていた。大事な胎が無くなったのだ。いい気味である。

 そして彼女はさらに見た。この世界とかの世界のつながりを。観察者の視点で、世界と世界の間に繋がる細い紐を観察し、見抜いた。人間の言葉で説明できるのは結果だけなのでここでは結果のみを書き記そう。即ち「ユグドラシル(ゆめのせかい)に未練や思い入れが強い人はリアル(くそせかい)で死ねばそのままこちら(このげんじつ)に来る」ということだ。夢見た表現をするならばこの世界はあのくそったれなリアルにおける理想の楽園(えらばれたもののてんごく)といえる。

 だったらそれを向こうの人間に教えたらどうなるだろうか?彼女は試した。彼女の身にとって懐かしい古代アステカの時代にまで遡り(高次元世界にとって時間を遡るのは来た道を戻るように簡単なことだった!)向こうの世界の人間にこうこうこれこれこんな楽園があるのよと教えてあげたら、簡単にこちらに来た。実はその行為こそが「ケツァルコアトル」という神の伝説の切っ掛けで彼女はタイムパラドクスを起こしたことになるのだが、そこらへんの難しいことは彼女は流した。だってそんな些事はどうでもいい。捨てた世界のタイムパラドクスなんてどうでもいい。

 

 どうでもいいからこれで遊びたいなぁ。

 

 ただよう蛇と鳥のばけものは願った。狂気のままに行動することは破滅だろう、でももう自分は破綻しているのだ。わけのわからない偶然の連続の末、己を構成する全てが人間から乖離した。ならばもう、行き着くところまでいってしまおうじゃないか。

 自由を求めた末の神は世界を見つめ続けてずっと獲物を待ち続けた。その時間約千年。この世界の彼女の楔たる仲間の最後の一人が亡くなってからは、約六百年。そうしてやっと見つけた。この世界に居ながらあちらの世界にも未練を残すもの。内側に燃えるような炎があるもの。その身の奥に小さくとも輝く愛のある存在。仲間に見つけてほしいから、仲間の名前を世界に轟かせようとするおろかもの(愛あるひと)

 その名前はモモンガ。アインズ・ウール・ゴウンのギルドリーダー。だから彼女は姿を現した。起動停止させた自動人形のバードマン兄弟をすり抜けて目隠し用のアイテムを操作し、ほんの少しだけ人間にこの城が見えるように。そうして城は見つかった。彼は城を知った。彼はひっかかった。上手くいく可能性なんて正直そんなに高くないこの奇跡を、彼は掴んでみせた。

(彼はもう、奇跡を掴んだ。その手は離さない。君みたいな子、私は大好きなんだ)

 博打の城の主として、そして同時に神として、彼を博徒と神の遊びに巻き込んでしまおうじゃないか。チップは命。報酬は仲間。きっと彼は断らない、断れない。何が見られるか、神はとても楽しみで仕方ない。

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