自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第5話

 テーブルと椅子を取っ払われた部屋の真ん中にすとんとリュウズが座りこむ。クッションを抱えたアインズに手を伸ばし、「こっち、こっち」と手首の動きで呼ぶと彼は恐る恐るといった風に彼女の側に寄り、向かい合わせの位置にクッションを下ろしてその上に座った。念のために描写しておくとアインズが選択したのはあぐらだがゆったりしたローブを着ているので何もチラリしていない。ここにポロリはないのである。

「さて」

 ぱん、と音を立ててリュウズは向かい合ったアインズに微笑みながら両手を合わせる。その手を開くと、彼女の手の中にカードの束が現れた。

「魔法ですか?」

「いいえ手品です。『観察者の目』の領域では魔法は使えませんから」

 白い指がカードの束をぱらりとずらす。角に記された数字は1から40まであった。

「それでは賭けの説明をします。賭けの名前は…そうね、『天秤』にしましょ!」

「随分シンプルな名前ですね…」

 思わず漏らした呟きに、リュウズは「ルールを聞けば納得するわよ」と答えた。

「ルール説明…の前に、先にどうやってあなたの仲間を呼ぶのか教えましょうか。この『観察者の目』は簡単に言うと次元を飛び越えて別の世界を覗く力があります。それを使って私達の元の世界にアクセスする。そう、あのヘルへイムよりもどんよりした汚い空気が空を覆う世界よ。モモンガくん一人じゃ迷子になるから私と一緒にアクセスして、君は身のうちにある縁を使ってギルドメンバー達と接触する。

 アクセスするタイミングは彼らが死んだか死ぬときにしましょう。その時に魂が後腐れ無く剥がれるから。剥がれた魂、もしくは剥がれ賭けた魂に、あなたは自分の言葉で話しかけて彼らをこの世界に呼ぶ。こっちは楽しいよ、こっちにおいで、また一緒に遊びましょう。なにを言ってもいいわ。

 もしもそこで魂をこちらの世界に持ってこられれば成功。できなければ失敗。成功数が多い限りモモンガくんのチャレンジは続けてよし。失敗数が成功数を上回った時点で、チャレンジ終了」

 持っていたカードから、リュウズは1、2、3、4と書かれたカードを手にとった。

「具体的に言うとね、一人目、二人目、三人目、四人目と成功して」

 手に取ったカードをアインズ側に並べる。今度は残ったカードから5、6、7、8と書かれたカードを引く。

「五人目、六人目、七人目、八人目って失敗する」

 5から8のカードはリュウズ側に並べられた。丁度前後に四枚ずつ。天秤の上にのせればその天秤は水平を指すだろう。さらに彼女は少なくなったカードの束から9と書かれたカードを取り出す。それをまっすぐに持ち、丁度四枚ずつのカードの真ん中に置いた。白い指先が、9と書かれたカードを押さえたままだ。

「九人目に成功したらまだ天秤は成功に傾いているから続けてよし」

 指に力が入り、9のカードが滑らかな床の上をアインズ側に滑る。だが指は離れない。

「でも九人目に失敗したらその時点で失敗に天秤が傾くからそこで君の挑戦はおしまい」

 白い指が少しだけ曲がり、アインズ側に来た9がリュウズ側に引っ張られる。五枚になったカードは、人から神の側に天秤の皿を零れさせる。カードから目線を上げたアインズは、きらきら輝くオパールの中に消えぬ狂気の炎を見る。

「失敗したらモモンガくんのゲームは、おしまい。私は慈悲深いからあなたが説得した魂がこの世界で生きることは認めましょう。でも、失敗した魂とあなたの魂は別。ここじゃないどこかに行くでしょうね。もしかするとリアルの未来に転生するかも?」

 ぴらり、という音を立ててリュウズは五枚のカードを持ち上げた。美しいのに吐き気を催すような邪悪を感じる顔の、色の薄い唇が五枚のカードの裏面に触れる。聞こえるか聞こえないかの微かなリップ音を聞いてアインズはなんとなく思った。消えゆく魂の行く先はリアルでもどこかの世界でもなく、この蛇と鳥の女神の腹の中じゃないのかと。

 精神の平定が起こる。起こる。起こる。心臓があれば、肌があれば、動悸が轟き汗が滝のように噴き出しているだろう。スケルトン型のアンデッドである故にどちらもないことに、アインズは理性の端が感謝の言葉を唱えるのを聞いた。

 彼女が言っているルールは、つまりはこういうことだ。モモンガは自分の命を賭して自分の欲望(ギルメンとの再会)を求められる。だが、それは同時にギルドメンバーの魂もチップにのせるということも意味するのだ。

 話が違う。確かに彼女は最初に「チップはモモンガの命」と言った。それでギルドメンバーと会えるならお安いことだ。けれど、ギルドメンバーの命までチップにするとは聞いていない。

 話が違う。そう一言言えばいい。モモンガにはわかった。自分の前で笑う胴元は理解している。自分の言動が先程と矛盾していることを。けれど彼女はそれを気にしない。矛盾。破綻。自由。崩壊。そんなもの、彼女は気にしない。

(話が違う)

 隙間だらけの胸の中で言葉が渦巻く。けれど言葉は隙間だからけの肋骨から漏れず、無いはずの喉にひっかかって出てこない。何故だ?そんなのわかっている。モモンガの中でそれを押しとどめるものがあるからだ。

「うふ。どうします?モモンガくん」

 ぐるぐるぐるぐるばきばきばきばき音を奏でるモモンガの内側を、リュウズがぞろりと撫でてくる。少しだけカードを下げることで露わになった薄い寒色の唇から、目を見張るほど真っ赤な舌がちろりと覗く。てらてらと輝くそれは自分を押し倒すアルベドの唇から見えたものと似ている。というか同じのはずだ。けれど全く違うようにも見える。何故か?モモンガにはリュウズの舌がおぞましいものを喰らってきた物の怪の舌に見えた。

「私、とーっても優しいから、賭の始まってない今ならまだ帰らせてあげますよ?」

 彼女は笑う。ここまでモモンガを餌で釣り上げて、リスクを示して、そうして笑う。引き返せぬほどの魅力を提示したところで、とんでもないリスクを示して、笑う。

 死に行く仲間を素晴らしい世界に連れてこられるという魅力。己の命ばかりか断った仲間の命すら贄と捧げる危険性。

 両天秤にのせたそれらは今モモンガの内側で水平になっている。それくらいこの世界は素晴らしいのだ。それくらいあの世界はくそったれなのだ。それくらい仲間に会いたいのだ。それくらい仲間が愛おしいのだ。

 どうするべきか。

「降りてもいいんですよ?モモンガくん、私ほど狂ってないんでしょう」

 どうするべきか?そんなもの決まってる。降りるべきだ。今此処にぶら下げられているのはあくまで目的へのショートカットの切符であって、他に切符がないと決まったわけじゃないのだから。仮にあのリアルがリュウズの言うとおりにこことは違う異世界だとして、そこに至る方法が他にないと断言できるわけではないのだから。

「死の支配者なんて言われても、きっと君にはまだ人間の残滓がある」

 世界級アイテムはこちらにもたくさんある。しかもこちらには十を超える数ある。確かにこの世界であれを失うかもしれないというのはかなりリスクが高い実験だろう。でも、それによって仲間に会えるというのなら、世界級アイテムを使って仲間に会えるというのなら、使うに決まっている。

「その残滓が拒絶するなら拒絶すればいい。こんな気の狂ったやりとり(かみとのけいやく)なんて、結ぶ前に破棄してしまえばいい」

 どう考えてもこんな馬鹿な賭けにのる理由なんてない。これは罠だ。明確な罠だ。たっち・みーが「正義降臨」と出した文字のようにリュウズの背中に「これは罠です」と出ている。見なくてもわかる。

 アインズは自分の前に寄せられた四枚のカードを手に取った。揃えて、彼女に戻すために。

 堅くて白くて細い指先が四枚のカードを揃える。会えるかもしれない仲間を揃える。(リュウズ)に返すために。

「でもさ、モモンガくん」

 衣擦れの音とともに指しだそうとした白い手が、でも、という声で止められる。白い骸の顔は、四枚のカードを手にしたまま、いつの間にか落としていた視線を上げる。急な話題変換の内容を確認するために。

 そして彼は見た。見てしまった。五枚のカードに舌を伸ばし、けれど触れず、笑って摘まむ神の顔を。

 そして彼は聞いた。聞いてしまった。彼にとっての禁断の一言を。

 

「君と仲間の絆って、その程度なのかなぁ?」

 ―――君は、仲間との絆を、信じる?信じない?

 

 言外に問われた言葉がモモンガの精神を一瞬で燃え上がらせる。沈静化の力が何度も発生する中で、モモンガはカードをつまむ手に力を入れた。

 

「そんなわけない」

 

 カードに僅かな皺ができるのも気にせずに四枚のカードを強く持つ。そのまま空いた片手を伸ばし、モモンガはリュウズが持ったままのカードに手を伸ばす。白い指先はあまり力を入れずに持っていたのか、摘まんだ五枚はいとも簡単にモモンガの手に入った。カードが消えたことで完全に露わになったリュウズの顔には、喜悦に浸る悪魔よりも恐ろしい笑みが浮かんでいる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの仲間は、答えてくれる」

 

 計九枚のカードがモモンガの手に入る。始まりの数字。幸せな記憶の始まり。その始まりを、仲間との記憶を、思い出を、絆を、モモンガは疑うか?尻込みするか?そんなことしない。そんなことをしてしまえば、人生唯一の輝きを汚すことになる。

 アインズは目の奥の赤い炎を溶岩よりも明るく燃やし、今際の際の悪人が呪詛を吐く様よりも強烈に応えた。

 

「俺の仲間を、俺達を、愚弄するな!」

 

「よろしい!」

 

 中途半端な部屋にモモンガ(死の支配者)の声が響いた直後。それの余韻が消えぬ内に、まるでサインされた契約書を破かれぬようさっと鞄にしまうが如くリュウズ()は高い声で応えた。どろどろと、ぎらぎらと、きらきらと、そのオパールの目が輝いている。

 空っぽになった白い手が、ぱんと柏手を打つ。乾いた音はモモンガの頭蓋を揺らし、部屋を揺らし、城を揺らし、揺らして彼らを()()()()()()()()

 

「え」

 

 柏手の直後、リュウズの額に目が現れた。正確に言うと『観察者の目』の中央にある透明な宝石がまるで生物の眼球のような生々しい光を放ったのだ。ぎょろりとうごくその光にはっとして伺えば、一切の音が消えていた。まるで世界の全てが消えたかのように。

 

 聞こえていた風の音。感じていたNPCや召喚モンスターとのつながり。一切を失い、アインズは、モモンガは、鈴木悟は、一人の神の笑みの喜びの声を聞いた。

 

「うふふ、モモンガさん、その答え、大好きです。ああ大好きですとも!そうでなくちゃあ!さぁ、賭けをはじめましょう!自分と友達の命をチップに!

 

 信頼を、絆を、賭けましょう!」

 

 楽しげに嬉しげにリュウズが叫んだ直後、アインズの視界はまるで布でもかけられたかのように暗転した。




この先のストーリーの流れの決め方を書いておきます。

1.40人分の名前を書いたクジを用意する。
2.クジを引いてモモンガくんとオリ主が会う順番を決める。
3.一人につき一回1d100ダイスを振る。基本的に50以下で成功、51以上で失敗。クリティカルした場合は他の「失敗判定が出た人」に「判定ロールもう一回」という形で報酬を与える。つまりAさんで03クリティカルを出し、Bさんで78失敗を出した場合、Aさんのクリティカル報酬としてBさんがもう一回ダイスを振れるってこと。Bさんが今度は79出したら失敗、27出したら成功になる。
4.ファンブルした場合は次にクリティカルを出した人が普通成功になる。つまり、Cさんが98ファンブル、Dさんが05クリティカル、Eさんが92失敗を出した場合、CさんのファンブルはDさんのクリティカルと相殺されるためEさんに「判定ロールをもう一回」は発生しない。
5.一部の人間は自動成功する。
6.自動失敗はないものとする。
7.クリティカルは01から05、ファンブルは96から100とする。
8.GMにはクリティカル・ファンブルなどの利用方法について裁量の余地があるものとする。
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