荒廃した世界の中、無数の車が街灯で照らされた道路を満たしている。無数に連なるヘッドライトの光はそれを空から見る者に光の川という例えを与えるだろうと予想できる光景だ。
だがその川は途中で大きくうねり、澱み、ある一点で完全にぐしゃりと潰れている。潰れている地点の真ん中ではもうもうと黒煙が立っている。先程まではドラゴンの舌のようなオレンジと赤色で彩られた炎がめらめらと燃え一台の車を飲み込んでいた。
高性能消火剤により炎はもう消えている。だが、消火が遅すぎたのか、防火服を着た消防隊員により車の中から人間だったと思しき黒い塊が二つほど引っ張り出されていた。犠牲者だ。周囲の人間は皆携帯端末を手に真新しい他人の悲劇を激写しようと四苦八苦した。無事に撮れた者は奪われる前にさっそく引っ込み写真付きでネットに投稿した。「交通事故!焼死体見ちゃった!」と。
彼らは知らない。その焼死体の主達がその投稿画面を見て至近距離で「肖像権の侵害だ!」「訴えてやる!」「声優の素顔はタブーでしょうが!」「ねえちゃんはぶ」「それ以上言ってみろ死んでても殺すぞ」などというコミカルかつ物騒なやりとりをしていることを。
「お二人とも相変わらず仲良しですね」
そんな彼らを心持ち目を細めて見つめているのは(目がないのでほんとに心持ちである)骸骨顔のモモンガだ。死んだ身もしくは死の差し迫った身で合うと高確率で死に神と勘違いされる彼は、五分ほど前にこの二人の前に現れた時も同じような反応をされた。もう慣れたのでハイハイ違いますよと流したが。
「弟が全く変わらないだけですよ、モモンガさん」
「つーかモモンガさんどうしたんですか、それ。マジの死に神になったんですか」
つい、と人間の片方、男の方が片手を上げてモモンガの顔を指さす。指を指されたモモンガは白骨の指先でこつりと頬骨を叩き、苦笑した。
「半分くらいは正解です」
「ユグドラシルの事故で亡くなったことは知ってたけど、まさか
モモンガの顔をしげしげ眺めながらそう言うのは人間の片方、女の方である。平均的な女性よりも小柄な彼女は見上げるようにしてモモンガの顔を見つめていた。
「そのへんのことも含めて説明させて頂けますか」
『ああ、懐かしい』そんな言葉を飲み込み、モモンガは頷く二人の人間―――ぶくぶく茶釜とペロロンチーノに自分の身に起こったことと何故彼らの前にいるのかを説明しはじめた。
「ほほーん、つまりモモンガさんの言うことを全面的に信じればシャルティアに会えるのか」
「そういうことです」
「よしきた俺はモモンガさんについてくわ!うわー楽しみ!」
霊体のくせにぱんっ!と勢いよく膝を叩き、ペロロンチーノは快活に笑った。イケメンとは言い切れないが人に好かれそうな笑顔である。対して彼の姉の反応は微妙だった。
「えー…んー…行きたいけど…」
化粧ののった顔を歪ませて、ううん、と彼女は唸る。アウラとマーレのこともちゃんと話して尚彼女がこのような煮え切らない反応をしていることには訳があった。
「ねーちゃんのアバターはあれだもんな…」
「あれがほんとの体になるって言われるとこう……躊躇うのよね」
ピンクの肉棒。粘液盾。彼女のアバターはそう表現されることの多い肉感色をしたスライムだった。妙齢の女人の真の体として相応しいかと問われると顔をそらしたくなるモノだ。仲間と一緒に居ることを願うアインズでさえ、この時ばかりは強く出られず骸骨の顔で器用に顔を引きつらせた。
「で、ですよねー…」
「ていうか、アウラとマーレが会いたがってるって言ってたけど、それ本当なのモモンガさん。にわかには信じがたいんだけど。だって私ピンクの肉棒よ?あの子達と並んだら間違いなくR指定入るよ?」
「それは間違いなく本当です。ぶくぶく茶釜様、って茶釜さんの名前を口にするだけで幸せそうに笑うんですから」
「まーじかー」
うがぁ、と彼女は頭を抱えてうずくまった。会いたい、会いたくない、会いたいけど会えない、そんな言葉がぐるぐると彼女の周りで回っている。残念なことにぶくぶく茶釜は幻術系・変装系の魔法も特殊技術も習得していない。だから、向こうに行くという選択をした場合、彼女はずっとピンクの肉棒にならなければいけないのだ。
ギリシア神話の美の神アフロディーテは天空の神クロノスがゼウスに切り落とされた男根が海に落ち、その血と精液と海が混ざった「泡」から生まれたという伝承がある。世界で一番有名な美の神は元を辿ればナニなのだ。だが、それを踏まえてもやっぱり女人がナニみたいな姿になるのはアレである。どう考えてもアレである。
「アバター変えておけばよかったぁぁあああ」
「悔やんでもしかたねーよねーちゃん。なったらなったで案外馴染むかもよ?」
「あっそれは保証します。俺はアンデッドになりましたけど、なんか、一からアンデッドだったって感覚で違和感なくすんなり馴染めましたから」
「そうなの?じゃあ行っても……いいかな。うん。モモンガさんのお迎えなんて断ったらもったいないし」
ちら、とぶくぶく茶釜が落ちかける。もはや交渉人数何人目であるモモンガはその落ちかけの瞬間を見逃さず、「よし!」と大きな声で叫んだ。ちなみによしと書いて「言質を取った」と読むのが正解である。
「よしよしよし!じゃあ行きましょう!向こうはいいですよー色々と大変なことありますけど、こっちより断然楽しいですから!」
にこ、と笑ったモモンガは立ち上がる。そして顔を大きく上に向けて電柱の上に顔を向けた。そこに彼らを見下ろしているリュウズがいる。モモンガが呼べば彼女は蛇が木を降りるが如き滑らかさで彼らの側に降り立ち、作業感溢れる動きで彼らの魂を異世界まで送り届けたのであった。
モモンガによる説得ロール、1d100で50以下で成功、51以上で失敗
ぶくぶく茶釜 友情補正で+30 52 成功
名無しの誰か 90 失敗
ペロロンチーノ 友情補正で+30 61 成功
名無しの誰か 63 失敗
フラットフット 80 失敗
この兄弟は案外アッサリこっちに来てそうだなと思いました。故に中々どうして難産でした。たっちさんの話のがよほど書きやすかったぞオイ。出目を工夫してください。
あとこの五人の出目を見て頂くとわかるんですが、友情補正が無かったら五人全員失敗、フラットフットさんの時点で失敗オーバーでジエンドでした。ゾッとした…まあこの先まだそうなる可能性ありますけど…。友情システム明記しといてよかった…。
そういえば、この作品は作中あんまりモモンガさんが「どうしてみんな俺を置いていったんだ」とか「ナザリックに一人で居るのさみしかった」とか言うシーンないですが、理由は簡単、そのメンバーが目の前で死んだり死体になったりしているからです。恨み辛みがないわけじゃないし、もちろんあるけど、死んじゃってるんだもん言ってもしゃーないわとか思ってる。たっちさんなんて頭爆散してたし。仲のいい姉弟は焼死体になってるし。そんな人間に恨み言吐くつもりはないモモンガさんでした。
成功11、失敗8