三人は飛び上がったことで数メートルほど上空に吹っ飛び、びょーんと離れた後、慌てて戻ってきた。あまりに滑稽なリアクションにアインズが笑いそうになっていると、デミウルゴスがふっとびかけた眼鏡を押さえつつ一番最初に戻ってきた。
「そ、それは本当ですか!?」
デミウルゴスがカッと目を見開く。マーレとアウラもだ。三人の言葉に、アインズは頷いた。
「私がまだ弱かった頃、たっち・みーさんに助けて頂いたように、一度だけ助けて頂いたことがある。もっともその後会うことが無かったし、向こうは当時からギルドマスターをやっていたから私のことなど覚えているかわからないが…」
アインズは思い出す。不干渉の掟があるにも関わらず、大きな翼を揺らして指先から放った魔法で助けてくれたかのギルドマスターの姿を。
―――PKは好きでは無いのだけど。
涼やかで、穏やかで、おっとりとした声だった。ロールプレイか素なのかわからないおっとりとした口調で呟き、口調の割にあっさりと敵をなぎ払ってくれた。後から<伝言>で通信していたたっち・みーが現れる前に彼女はPKでドロップしたアイテムを全て放置し、倒れたままのアインズに笑顔のエモートを残して去って行った。HPもMPも赤ゲージのまま放置されたが、それはアインズがアンデッドであるために水薬では回復できないのと、おそらくは彼女がアンデッドを回復する術を持っていなかったのが理由だろう。
懐かしい記憶に浸りつつ、アインズは内心でほうと安堵の息を吐いた。
(ユグドラシルプレイヤーを見つけたらどうするか戦々恐々していたが、最初に会ったのがこのギルドでよかった…敵対さえしなければここはどこに対しても無干渉だからな。もちろん変わっていた時のために用心はしておくが、世界級アイテムの効果を考えても、ここで敵対行動を取るのが悪手なのははっきりしている)
『翼持つ人々』は先程アインズが説明した理由もあって昔から他のギルドに対して無干渉を貫いてきた。ナザリックへの大侵攻の時、このギルドも世界級アイテムを持っているということで中堅にもかかわらず誘われたらしいが、不干渉のルールに基づき全てのギルドメンバーが断ったと聞いている。さらに、噂によると、このギルドは攻撃してくる者に対しては至極過敏に反応するらしい。通りすがりに驚いて攻撃する程度ならギルドマスターの性格から考えて世界級アイテムの防衛もあるから見逃してくれるだろうが、牙を剥けばどこまで追いかけてくるかわかったものではない。
アインズ・ウール・ゴウンは確かに多大な戦力を持つギルドだが、所詮はため込んだアイテムとNPCの力のおかげだ。防御系世界級アイテムという先手を持ち、もしかするとプレイヤーが複数人いるギルドに正面切って相対して勝ちに行けるかと問われると首を横に振らざるを得ない。少なくとも、今アインズ・ウール・ゴウンが持ついかなるアイテム―――世界級アイテムを含めても―――でも、かの防御を突破できない。打つ手無し、お手上げピョンピョンだ。
(それでも…)
それでも、よくよく考えれば安心しきるのがまずい状況とわかっても、懐かしいなぁ、と空に浮かびながらアインズは声に出して呟く。その横で守護者三人はお互いに顔を見合わせていた。まだ弱かった頃の偉大なる御方。それはそれでそそられる文字だ。だが、待って欲しい。その後に続いた言葉を復唱してみよう。「たっち・みーさんに助けて頂いたように助けて頂いた」。それが示すのは、つまり、
「ここのギルドマスターは、アインズ様の…い、命の、恩人、ということでよろしいでしょうか…?」
「うん?そうだな」
恐る恐る確認したデミウルゴスに、アインズはモモンガ的ノリで答えてしまった。そんなアインズの後ろで、デミウルゴスとアウラとマーレはまだ見ぬギルドマスターを簡単に殺してはいけない人物だ、と脳内に刻み込んだ。