自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第15話

 ナザリック地下大墳墓第六階層、巨大樹。そこに誂えられた大きなツリーハウスの中で、今三人の階層守護者が涙と鼻水で顔をぼろぼろのぐちゃぐちゃにしながら泣いている。

 うち二人はアウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ。この階層の守護者である闇妖精の双子だ。二人は見るからにR18案件なピンクの肉棒的スライムに、それがまるで生き別れた愛しの母であるかのような表情をしてひっしと抱きついている。

「ぶ、ぶく、ちゃが、ぇ、ひぐ」

「お゛あい゛、じ、おが、ぇぐ」

「よしよし、ごめんね、二人とも」

 ぎゅうぎゅうと抱きつく彼らの身がピンクのどろどろに沈み、そこから伸びた触手のような形をしたどろどろが必死に二人の金の頭を撫でている。ぶくぶく茶釜は二人のこの泣き面に最初「やっぱりスライム種で会うのはダメだったんじゃないの!?」と動揺したが、彼らが泣きながら必死に抱きついてくる様で幼い頃の弟を思い出し、自分の思考が間違っていることを悟った。

 お会いしたかった。いとしのそうぞうしゅさま。ぼくたちのたいせつなおかた。そんな言葉が、かつてデパートで見失った弟を迷子センターまで迎えに行ったときに言われた涙混じりの「おね゛ぇぢゃんっ」という声と重なったのだ。そんな重なり方をされてしまえば、弟と同じゲームをして同じギルドに入り同じクエストに行くほど仲のいい彼女が彼らを引き離せるわけもなく。そして何より、彼らの純粋な愛情に、子が母を慕う無垢で絶対的な愛情に、絆されざるをえなかった。

「あ゛、あや゛まらな゛いで、くだひゃい」

「かえって、きて、いただけた、それ、だけで、ぼくたちは」

 紅葉の手が、何度も何度もぶくぶく茶釜の体にめり込む。服が汚れるよと言っても彼らはいやいやと首を振るばかり。じゃあ暫くこのままでいようか、と提案すれば、双子はどろどろの顔に幸せそうな表情を浮かべて笑った。

 

 先程も述べたが階層守護者は彼女らだけではない。もう一人いる。シャルティア・ブラッドフォールンだ。彼女は自室で今かいまかとペロロンチーノの到来を待っているとアウラにいきなり<伝言>で呼びつけられてここに来た。最初シャルティアは「なんでありんすか!いま私は忙しいでありんすよ!」と若干の苛立ちを声にのせて応えたが、アウラの「ペロロンチーノ様が来た」という言葉を聞いた瞬間<転移門>を開いて第六階層にスライディングお邪魔しますをぶちかました。ちなみにペロロンチ、辺りで<転移門>を開いていた。

 開いた先に身を投げるようにして飛び込んだ瞬間、彼女の目は見た。耳はきいた。鼻は香りを感じた。愛しい愛しい創造主が目の前にいることを、全身で知覚した。

「おお、シャルティア」

 太陽のように明るい声。陽光のように暖かな体。会ったら何を言おう。これを言おう。何をしよう。これをしよう―――今まで考えたものは全て綺麗に吹き飛び、シャルティアはぐしゃりと顔を歪ませてペロロンチーノの柔らかな体に抱きついた。不敬?恐れ多い?そんな言葉は嬉しいという感情の前に吹き飛んだ。

 対するペロロンチーノはというと、事故で押しつぶされた体を炎で焼かれてすさまじく痛い死に方をしたと思ったら自分の理想を詰め込んだ少女と会えるという幸福に出会い、あまりの人生乱高下っぷりにちょっと正気を失いかけていた。SANチェック失敗というやつだ。けれど自分の腰の辺りにしっかと抱きつき、はらはら流れる涙を拭いもせずに必死に離すまいとしがみつくシャルティアを見てすうっと混乱した思考がほどけるのを感じた。

 何か言おう。何か言わなければ。名前以外の何かを。けれど、到着してすぐに見せつけられた怒濤の親愛は、身のうちを満たす混乱をからりと晴らしただけで、指針など提示してはくれない。何をすればいい?何を言えばシャルティアは喜んでくれる?―――わからない。ペロロンチーノは適切な言葉を見つけられず、抱きしめ返すという行動を返答とした。

 ぎゅう、と。圧迫感を感じる抱擁を、しがみつくシャルティアに返す。羽毛の中に包み込むように抱きしめ返せばシャルティアの腕はますます力を増した。

「もう、もう、もう!どこにも!行かないでくんなまし!」

 柔らかな羽毛を白い指が握りしめ、シャルティアが羽毛の中にねじ込むように悲痛な叫び声を上げる。

 

 ―――はなさないで、いかないで、いってしまうあなたを見るのはさみしかった。

 

 ―――おいていかれるのは、さみしいの。

 

 ぐずぐずと見目相応の幼い叫びが、渾身の力を持って放たれる。アウラとマーレも呼応するように叫んだ。

 

「行かないでください、ぶくぶく茶釜様」

「行くとしても、一緒に。僕たちも、連れていってください」

 

 いやだ、あなたと離れるのはいやだ。そんな言葉を、壊れたレコーダーのように繰り返す。そんな子ども三人の様子にぶくぶく茶釜とペロロンチーノは思わず顔を見合わせ、二人はお互い表情の見えない顔に同じ思考を読み取った。

(やばい姉ちゃん俺気づいたら子持ちになってた)

(私もだ。どうしよう。とりあえずマーレの格好どうにかするべき?)

(今それいう!?いや確かに男の娘はリアルだといずれ悲しい人生を送りかねないことになるんだけどさ!!)

 いきなり子持ちになったどうしよう育児なんてしたことない―――そんな、数時間前に肺腑を焼く熱気を吸い込み生きたまま火だるまになり焼け死んだ人間とは思えぬ平和ボケした思考だった。

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