五者それぞれが愛しい者にハグをし、子ども達三人の泣き声が落ち着いた頃。涙混じりの懇願の声が嗚咽のみに置き換わり、それも落ち着き普通に呼吸ができるようになるくらい時間が経った頃だから、おそらくそれなりの時間が経った頃だろう。不意にとんとんとツリーハウスのドアが叩かれた。
「どなた?」
声を出したのはぶくぶく茶釜だ。アウラとマーレがぐずぐず泣いているから声を出させたくなかったから彼女が声を出したのである。どこから出したとか聞いてはいけない。
「俺俺」
「間に合ってます」
「詐欺じゃねーからな!?ぬーぼーだよ!」
「あ、ぬーぼーさんもこっちいたのか。アウラ、マーレ、ぬーぼーさん入れてもいい?」
ぶくぶく茶釜が腕(?)の中の双子に問うと、二人は目を擦りながらこくこくと頷いた。
「お、おすきに、なさって、ください」
「ここのすべては、至高の御方のためにありますから」
「ここはアウラとマーレのおうちだよ~私が勝手に決めたらまずいって。でもまぁ、はいぬーぼーさんどうぞ」
「お取り込み中申し訳ないですねっと」
木製のドアが開き、黒い人影が入り込む。ぬーぼーだ。彼はひょうひょうとした仕草でよっと片手を上げると、そのままの体勢でしばし固まった。
「…ぬーぼーさん?」
いつもひょうひょうとしていて少しニヒルなところのあったぬーぼーらしからぬ硬直に、ペロロンチーノが不思議に思って声をかける。彼はペロロンチーノの声を聞くとはっとして硬直を解き、ばりばりとごまかすように頭を掻いた。
「……あ、いや、ちと驚いた。
ちら、と視線をやりながら彼が問う。ペロロンチーノは彼の言いたいことがぴんときた。
「そうです。
「そうか…」
ぬーぼーの目に、刹那、哀れむような色が浮かぶ。ここまで会話すれば外側にいると思しきぶくぶく茶釜にもなんとなく思いつくものがある。彼女はそれとなくアウラとマーレを自分の体に押しつけてその耳からこの会話を遠ざけつつ、それでも聞いてみた。
「みんな話したの?」
「まだだ。認識のすりあわせをしてからの方がいいとぷにっとさんが言ってる」
「ぷにっとさんも来てるのか!」
「おう。こっちきたメンバーの把握もしたいから…その、なんだ」
こつりと音を立て、ぬーぼーがツリーハウスの中に遠慮がちに入り込む。彼の目が見つめているのはアウラとマーレだ。ピンクのスライム粘液を若干頭髪に付けつつ彼らが振り返ってぬーぼーを見つめ返す。
「…?」
「アー…すまんが、ちょっと俺等で話したいことあるから、ぶくぶく茶釜さんと…ペロロンチーノ、さん、も、連れてっていいか」
ペロロンチーノ、のところでシャルティアにも視線をやる。すると三人は案の定この世の終わりのような顔をして、返事の代わりに抱きついている存在を掴む手に力を入れた。
けど、そうしても居られない。ぬーぼーは理由があって今日来たらしいギルドメンバーを呼びに来たのだ。遅くなって困ることはないが、連れてこられないとなると困る。
うーん、と困り顔でぬーぼーが唸る。そんな彼を見てぶくぶく茶釜とペロロンチーノは顔を見合わせ、そしてゆっくりと自分の腕をほどいた。
「アウラ、マーレ」
「シャルティア」
「…っ!」
いかないで、と。三人の唇が言葉を作る。声にならない、声にしないことが、彼らの忠誠心の表れなのかもしれない。そんな彼らにぶくぶく茶釜は両手を双子のそれぞれの頭に、ペロロンチーノはシャルティアの頭に片手を当ててわしわしと撫で回す。
「わぷっ!?」
「ちょっと仲間に会ってくるだけだ。大丈夫、俺達はもうリアルには帰らない。つーか、正確に言うと帰れないんだ。うん。帰る気も無いしな」
「そうそう。あ、そうだ。後で久しぶりにお茶しない?シャルティアちゃんも」
「わ、わらわもでありんすか!?」
ご指名を受けたシャルティアが飛び上がる。わ、わ、と白い頬を赤くしてわたわたする彼女にぶくぶく茶釜は雰囲気で笑い、そのまますうと(おそらくは)視線を上げて弟の方に顔(と思われる部分)を向けた。
「弟もだ。姉弟の家族団欒と洒落込むぞ」
「俺もかよ!?くそーマーレと俺で男の数少ない…ぬーぼーさん一緒にどう?」
「こんなメルヘン世界に俺が居られるか。話がまとまったらブループラネットのログハウスに来てくれ。マーレが知ってるから案内してもらえ。なるべく早く来いよ」
ペロロンチーノの誘いをすらりとかわすとぬーぼーは滑らかな動きでペロロンチーノの手を逃れツリーハウスから出て行った。すた、と着地するような音がして気配が遠ざかっていく。それを感じ取ってから、ぶくぶく茶釜は「さて」と声を出して双子を見た。
「そういうわけで私はちょっと仲間と話してくるね。アウラ、マーレ。私も弟もお茶期待していいかな?私ね、モモンガくんからナザリックの食べ物が超ォオ――――――美味しいって聞いてるから期待してるんだけど…」
かわいい声でぶくぶく茶釜が首(らしき場所)をかしげると、アウラとマーレの顔にぱっと使命感という光と炎が灯り、途端赤々囂々と燃え上がった。
「お任せ下さい!ぶくぶく茶釜様にご満足頂けるよう最高のお茶会を準備してみせます!」
「ぼ、ぼくも!がんばります!」
「おお~ここでの初めての食事が二人と一緒になるのかぁ。嬉しいな」
それは本心だ。ふわふわと声に喜びをのせてぶくぶく茶釜はアウラとマーレをきゅっと抱きしめた。
「あ、それ俺もだわ。シャルティア、アウラとマーレと一緒に準備してくれるか?姉の指名じゃ避けられんからなぁ」
「お任せ下さいまし、ペロロンチーノさま。シェフに掛け合い今すぐ最高のお茶菓子を準備しんす!」
「シャルティア~私らと協力するんだから一人で突っ走るのは無しだよ」
「わ、わかっているでありんすよ!」
きぃっ!と頬を羞恥で赤くしてシャルティアが噛みつく。ペロロンチーノは内心「ちょっと間違ってる郭言葉設定とかマジで生きてるのかすげーなめっちゃかわいい」とか思いつつシャルティアの頭をわしわし撫でた。
「じゃ、頼んだわ。期待してる!」
「同じく!おら、弟。さっさと行くぞ。ドア開けろ」
「ったくもう人使い荒いな~」
ぶちぶち言いつつペロロンチーノはドアを開け、そのまま下にぴょんと飛び降りた。飛び降りる際にごく自然に翼を使って落下速度を落とした己の行動に僅かに目を見開いた。それと同時に思いつく。
「やっべマーレに聞かないと場所わからん」
「聞いてきたわよ。もうちょっと考えなさいよ」
べちゃ、というペロロンチーノの体にスライムがぶちまけられる音とともに、ぶくぶく茶釜は呆れ声で答えたのだった。
ぬーぼーさんはなんとなく全身影とかそんな感じの人形モンスターイメージして書いてます。索敵諜報能力要員です。性格は能力を踏まえてFGOのロビン的な感じで書いてます。たぶんセイレムやったからやコレ。アビーほしいです。