モモンガとリュウズが次に現れたのはアインズ・ウール・ゴウンで脳筋解答を愛する女教師やまいこの所だった。だが、たどり着いたのは今までとは毛色の違う世界だった。
世界、という言い方をしたのは辺りの光景が広い範囲でおかしかったからだ。モモンガの知っているこちらのリアル世界は空にはスモッグが垂れ込め、人々は不格好な呼吸器を背負わなければ屋外を歩けず、ただぽつりぽつりと存在するアーコロジーが世界全体の幸福度のバランスを取ろうとしているかのように財を集めて理想郷を作っている、というものだ。
けれどここには何もなかった。疲れ切った人々が働くための会社も、生活するための住居も、少し富める人が住む中級住宅も、何もなかった。
「ここ、本当にリアルなんですか」
「そのはずよ。荒廃しまくりだけど」
荒廃。その言葉が相応しい。アスファルトで覆われていた地面は殆どが大きく割れている。クレパスのように広がった割れ目の奥には地下空間が広がっているが、のぞき込めばそこもそこで大なり小なりの破壊の跡があった。
「こんなところにやまいこさんが…?」
「ええと…あ、あったあった。何々…ほう」
「何一人で納得してるんですか」
「これをご覧なさいな」
リュウズがモモンガに差し出したのはくしゃりと皺の入った紙だった。見たところ新聞紙だ。どうやら風に流れて転がっていたものを捕まえて開いたものらしい。
モモンガが受け取って新聞紙を開くと、そこには「アーコロジー戦争勃発」「ニューヨークアーコロジー壊滅」という文字が踊っていた。驚いて日付欄を見れば、そこに書いてあるのは2184年という文字だった。
「ゆ、ゆぐどらしるがおわってから、ごじゅうねんご!?」
「やまいこさんって方ずいぶん長生きなさったのね…あの方かしら」
すっとリュウズが指さした先には壁にもたれるようにして数人の人間がいた。皆死んだような顔をしている。いや、正確な表現をすると一人を残して死んでいる。状況を考えればその一人がやまいこなのだろう。けれど、モモンガには信じられなかった。
だって彼の知っているやまいこは快活に笑う女教師だったのだ。「とりあえず殴ってから考える」をモットーにした、気持ちのよい女性だったのだ。なのに、目の前にいるのはまるで動死体のような生気のなさと濁った目をしていた。
「やまいこさん」
呼びかける。けど、彼女は反応しない。手を伸ばし、その肩に手をかけても、彼女は何の反応も示さない。一体どういうことかとモモンガがリュウズを振り返ると、彼女は少し考えた後やまいこの頬に手を当てた。
「あー…」
じいと顔を見て、リュウズが大きく顔を顰める。白い指を顔から離すと、彼女は「処置無し」とばかりに首を振った。
「どうしたんですか」
「この人は無理。生きているうちに魂が砕けてる」
「はっ!?」
「魂が壊れたけど体が動いているから生きてるってこと。簡単に言うと心が壊れたというべきか…」
おそらくそれのせいねとリュウズは呟いた。それ、と言いつつ指さしたのはモモンガの手の中の新聞だ。モモンガが情報の収集のためにそれを開くと、そこには恐るべきことが書いてあった。
「核戦争…」
「ついにやらかした感じねー」
今から五年前、ついに資源枯渇までの現実的な日付が出た。そのためついにアーコロジー間の全面的な資源争奪戦争が勃発。多数のアーコロジーの戦いに外界の貧民層のみならずアーコロジーの富裕層そのものも巻き込まれ、人類はその生命の多くを失った。新聞の中記事、おそらくは記事の量の嵩ましのためのコラムにここ最近の出来事がわかりやすく書いてあった。
得た情報からわかることはもはやこの星にあるのは残骸のみということだ。そんな状況だ、確かに心の一つ二つや魂の一つ二つは砕け散ってしまうだろう。
その言葉の示す通り、リュウズが諦めの溜息をともに指を一つ振ると、女性の体はくらりと傾ぎ、ぱたり、というおよそ人が倒れたとは思えぬ音とともに地面に倒れこんだ。その体から、今までみてきた半透明の魂やら霊体やらが出てくる気配は、ない。
「やまいこさん…」
「もう少し早くに亡くなっていれば魂が壊れきることもなかったんでしょうけど」
―――ああ、なんて運の悪い人。
純粋な憐れみのみで構成された声をかけられたのは、おそらくはアインス・ウール・ゴウンにおいて一番その言葉が似合わぬ女性だ。だというのに、モモンガにはどうすることもできなかった。
モモンガによる説得ロール、1d100で50以下で成功、51以上で失敗
やまいこ 56 失敗
ぷにっと萌えのクリティカル報酬を使用し再ロールします
やまいこ 99 ファンブル
出目を工夫しろとは言ったがここまで工夫しろとは言ってない。
成功11、失敗9