自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第30話

「すまん、少し目を離した隙に暴走してしまった」

 そう言って円卓の間で頭を下げたのはタブラである。彼が頭を下げた先にいるのはつい先日この世界にやってきた白銀甲冑の男たっち・みーだ。

 たっちは円卓の上で緩く組んでいた指を解き、右手を少し持ち上げて横に振った。

「気にしないでくれ」

「そうだぞタブラさん。こういう時に使わなきゃいつ使うんだこんな物理馬鹿」

「よく言うな魔法馬鹿」

「はいはい仲が良いのはいいことですねっと。しかし今はあんたらのじゃれあいに付き合ってる場合じゃないんですよね」

 険のある声でそう言ったのはぬーぼーである。それに口を閉じていたメンバーが頷くと、たっちとウルベルトは顔を引き攣らせて肩をすぼめた。

「す、すまない」

「わかりゃーいいんですよ。つーわけで緊急会議始めますよ。暫定議長お願いします」

「では僕が」

 ぬーぼーの言葉を引き継ぎ立ち上がったのは全身植物人間といった姿のぷにっと萌えだ。どこに目があるのか、いやそもそも目という器官があるのかわからない彼は頭をぐるりと回してまばらに埋まり始めた円卓を見渡し、手元にモニター画面を立ち上げた。

「建御雷さんとるし★ふぁーさんは来たばかりでしたね」

「ああ」

「そうだよー」

 こくりと二つの人外が頷く。応えを聞いてぷにっと萌えも頷いた。

「では現時点で我我が置かれている状況を説明します。シモベ達にも聞かせられない話が混じるので、シモベにはこの場に近寄らないように話し、盗聴防止魔法を上乗せしています。これだけ言えばわかると思うんですけど、他言無用でお願いしますよ。特にるし★ふぁーさん」

「おっけおっけ」

 るし★ふぁーは複数ある腕の全てを円卓の上に持ち上げ、全ての手で親指をぐっと上げてぷにっと萌えに向けた。了解した、というポーズなのだろうが、当人のこれまでの戦歴があるので信用できない。リアクションが軽薄過ぎるというのも信用できない理由の一つだ。

「心配だなぁ」

 内心がぷにっと萌えの口からぽろりと零れ落ちる。皆大なり小なり似た思いなのだろう、ことあるごとに反目するたっちとウルベルトの二人でさえぷにっと萌えの言葉に深く頷いた。

「流石にマジで命が危険になるような悪戯はしないよ。状況がわからないうちは」

「状況解ったらするのかよ……」

「うん、それはね、俺の生きる理由だからね。どーしよーもないよね。

 つーか俺のことはどうでもいーんだよ。さっさと説明説明よろよろ」

 今度は六本の腕をぴろぴろ動かして先を促す。何をしても滑稽で軽薄な彼にぷにっと萌えはまだ何か言いたそうにしていたが、るし★ふぁーの信用の無さは語り出したら終わらせない限り終わらないのでぐっと飲み込み終わらせた。ぷにっと萌えは出来る大人なのである。

「じゃ、ま、説明していきますね。

 まず、モモンガさんが教えてくれた概要の確認から。ここは私達が生きていた現実(リアル)とは違う世界です。科学が無くて魔法がある。自然があって汚染がない。そういう世界です。異世界って言っちゃっていいですね。

 ここに来られたのはモモンガさんが縁を紡いで私達の魂とやらをあちらの世界からこちらの世界に呼んでくれたから。で、私達がアバター姿なのは、ナザリックに残る私達の存在残滓とでもいうべきものが私達の魂を核として再形成されたから。能力に関しては各のアバターごとに違いますので詳細は省きます。ただ、飛べる人は飛べるようになったし、食事が水と光で済ませられるようになったりもしました。

 それに伴い精神構造も変化しました。モモンガさん曰く、種族設定に応じた意識になるらしく、顕著なものは人間に対する同族意識が欠落していくことだそうです。この点に関しては後から説明することと被る点が多いので後で言いますね。

 はい、この時点で何か言いたいことがある人はいますか」

 ぷにっと萌えが言葉を句切って見渡すと、十五人は各「無いです」と返事してきた。

「よろしい。では続けます。

 この世界に来てからのナザリックの行動方針は私達を捜す、というものでした。まずは最寄りの村と接触し、信頼獲得。その後モモンガさんは全身鎧の冒険者『モモン』として、不死者であることを隠し、人間としてリ・エスティーゼ王国の都市だったエ・ランテルに出向。そこでいくつかの冒険者の仕事をこなす傍ら、何故か世界征服に向けた行動を開始しました」

「いや、待て。なんでだよ」

 ぷにっと萌えのさらっとした説明に建御雷が手を上げて突っ込んだ。それはそうだろう。冒険者として行動していたと言われた次に世界征服を開始したと言われれば誰だってそうなる。

 建御雷の言葉にぷにっと萌えは深く頷いた。

「なんでも、モモンガさんが『この世界綺麗だなー世界征服なんていいかもなー』って冗談で言ったのをデミウルゴスが真に受けて世界征服計画を立てたらしいです。しかも、モモンガさんはそれを聞いて『世界征服したらアインズ・ウール・ゴウンの名前をこの世界の人皆が知るってことか。そしたらギルメンがこっちに居たら気付いてくれるかも!よし、世界征服しよっか!』みたいな発想で事後承諾したらしく」

「モモンガさん、ギルドのことになるとすげーからなぁ……」

 しみじみと呟くのはペロロンチーノだ。腕を組んで顔を上げた彼の目線は虚空に向けられていた。きっと在りし日のアインズ・ウール・ゴウンの姿を思い出しているのだろう。もしかするとそれは大侵攻を迎撃した時の光景かもしれない。

「話を続けるね。具体的に言うと、まずは戦力強化のために蜥蜴人の村を制圧。次にリ・エスティーゼ王国王都で情報収集に当たっていたセバスが王国の裏組織に接触し、王国の闇を暴くような形でこれと対立。同時にデミウルゴスが悪魔軍勢として王国に襲来。モモンガさんはモモンとして王国の救援にはせ参じこれと戦闘、退ける形で勝利を収めた。その際のごたごたで王国から物資という物資をかっさらい、この下手人を悪魔軍勢と説明し、さらに悪魔軍勢が来た原因が王国裏組織が悪魔の求めるアイテムを手に入れて引き寄せられたためだとして表からもこれを抑圧。こんな感じでリ・エスティーゼ王国は裏組織経由で秘密裏に掌握した。

 次にあったのはバハルス帝国との接触だ。バハルス帝国は突如出現した墳墓に警戒心を抱き、これを探索する『ワーカー』なるチームをここに派遣した。で、ナザリックが返り討ちにしてさらに帝国にちょっとだけお礼参りした。帝国は慌てて謝罪し、モモンガさんはこれを許した。で、さらに帝国と同盟を組むことになった。

 その後がまたすごいぞ。この帝国と王国は毎年小競り合いをしているんだが、今年の小競り合いにはモモンガさんが帝国側に付くことになった。理由はナザリックの領土主張だね。ナザリックの出現ポイントが王国領土内だったから『ここには昔から自分が住んでいたここは自分の領地だ』『ついては近くのエ・ランテルをよこせ』って主張したんだ。

 で、その上で戦争の開幕で<黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)>を発動して王国兵七万を即死させ、黒い仔山羊を五体も召喚。王国兵を蹂躙し、王国を完膚なきまでにたたきのめした。で、勝った上での建国宣言をして、先日晴れてアインズ・ウール・ゴウン魔導国が建国されたそうだよ」

「えげつねえ」

「さすがモモンガさんだ」

「人がたくさん死んだのか……」

「お前の娘さんはいねえだろうから安心しな」

「ああ、それはわかる。わかるんだが……」

 むむう、とたっちが唸る。どした?と首を傾げて彼を見つめたペロロンチーノにたっちは顎に手を当てて答えた。

「以前の私なら、七万の人間を殺したと言われたら憤っただろう。だが、何故だ、そこまで心が乱されん」

「そりゃ種族特性に引っ張られてるんだよ。さっきぷにっとさんが言ってただろ」

「それなんだよね」

 ぷにっと萌えが大きく頷く。それ、とは?と聞き返したたっちに、彼は触手じみた蔓の腕をわさわさを揺らしながら答えた。

「私たち異形種にとって、人間の死は動物の死と大差なくなってるんだ。ブルー・プラネットさんみたいな博愛主義者くらいしか人間の死を『同族の死』くらい重く認識できなくなっているんだ」

「これは俺の考察なんだが」

 ぬーぼーが手を上げる。ぞる、と音を立てて彼を見た皆を見回し、ぬーぼーは己の胸に手を当てた。

「たぶん、俺達にとって人間っていうのはユグドラシルにおける人間種みたいな認識になってるんじゃないのか」

PK(ころ)してくる相手ってことか」

「そうだ。だったらその防衛反応として人間を敵対種族……とまではいかないものの、同族として見ないことの理由は説明がつく」

「私なんて人間に見られたら真っ先に討伐されそうですもんね」

「私もね」

 ぬるぬるぞるぞるコンビであるヘロヘロとぶくぶく茶釜が体を揺らしながら言うと、ペロロンチーノは「だろうな」と頷いた。

「てことは、だ。世界征服(人間の制圧)はこれ以上やる必要の有無は置いておいて、強硬に反対する理由はない。そうだね、皆」

「そういうことになるな」

「つまりはこれまでのモモンガさんの行動に否の意識を持つことはないわけだ」

「そうだな。って、なんでそこ強く確認するんだ?」

「この世界征服っていう行動に否を唱えるとNPC達と対立関係に陥る可能性があるからだよ」

 怖いことを言い出したぷにっと萌えに、来たばかりの建御雷とるし★ふぁーはぎょっとした。

「それは本当か」

「本当だ。NPCにとって人間は明確に下等生物なんだ。退けてもいいどころか虐待して玩具にしていい存在とまで思っている者もいる。幸せな生活を壊すのが楽しい、とかね。そういう設定にしたNPCに心当たりの多い人はいると思うよ」

 ぷにっと萌えの言葉で何人かが目をそらした。るし★ふぁーなどどうやっているのかへたくそな口笛まで吹いている。プピーという間抜けな音を出した彼に、ウルベルトが「やかましい」と呟いてデコピンを打つような仕草をした。

「その上で言わせてもらうと、NPCとの対立はナザリックの分裂を招きかねない。最たるものはアルベドの反乱だろうか。アルベドはモモンガさんへの愛情を拗らせてモモンガさんが常に気をかけている僕たちを彼が発見するのに先んじて殺そうとしていた。それはたっちが助けたパンドラズ・アクターからも確認が取れている」

「アルベドの暴走は単に私の設定のせいだ。モモンガ君は自分が設定を弄ったからだと猛省していたが、私の設定文章のうちたった十文字を換えただけでああもこじらせなどするか」

「それは置いといて、とにかく、アルベドほど私達に憎悪を拗らせたものはいないと思うんだけど、モモンガさんに反対しすぎたり、人間種に対して愛情を持ちすぎるとNPC達との認識の齟齬が生まれ、それが巨大な分裂に繋がりかねない。各位そこには十分に注意してくれ」

「了解」

「わかった」

 念を押すぷにっと萌えの言葉にそれぞれが了解の返事をする。ペロロンチーノは隣の姉に「結局俺はどうすればいいわけ?」と聞いて姉に「要はモモンガさんを立ててあんまり人間に肩入れしないでナザリックを大事にすればいいの」とおおざっぱな説明をされていた。大体合っているからいいだろう。

「アルベドの行動はそんな感じだ。今は彼女を第五階層の氷結地獄に幽閉してある。これは魔導王の任をこなしているパンドラズ・アクターの許可を出してもらってのことだから、モモンガさんが帰ってきた後でも怒られないと思う。怒られたら皆でごめんなさいをしよう」

「戻ってこられたら、だけどな」

 ぬーぼーの呟きで皆の雰囲気ががくりと暗くなった。

 そう、そこが一番の問題なのだ。他のいかなる問題を合わせたよりももっと大きな問題なのだ。

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