自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第33話

 ナザリックを拠点としていながらも、ナザリックを「作り込む」ことにそこまで力を入れなかった者、あるいは作り込むこと以上の魅力を他所に見つけた者は、それがナザリック内に無い場合、円卓の間のど真ん中にぼたりと落ちるようにして現れる。例えばたっち・みーとウルベルトがそれだ。たっち・みーは正義という無形の概念にこだわっており、自分の担当NPCであるセバスに対しての思い入れは浅い故の円卓という答えだった。ウルベルトは第七階層の作り込みを頑張ったが、彼にとってアインズ・ウール・ゴウンという組織を思い浮かべた時に一番最初に出てくるのはそこではなく、己が嫌いことあるごとに対立する白銀の甲冑だった。だから彼もまた円卓の間のど真ん中にぼたりと落ちるようにして現れた。ちなみにこの二人、イイ感じに重なって落ちたのだが、当人達の記憶からはそのシーンは意図的に消されている。一体どういう『体勢』で落ちてきたのかは、想像してやらないのが情けというものだろう。

 そして今日もまた一人、そんな人が現れた。ナーベラルの創造者にして紙装甲大火力の弐式炎雷である。情報共有会議により中々のっぴきならない状況であるという認識が共有された彼らは、守護者以下シモベ達を排し、連日会議を重ねていた。そのど真ん中にぼたりと現れた弐式炎雷は驚きと安堵で迎えられ、その場で早口気味に伝えられた情報に面の下の顔を青褪めさせた。

「も、モモンガさんは、そんなことは一言も…」

「言ってどうにかなることでもありませんからね。それはそうと、そろそろいい時間ですね。一度解散としましょうか」

「もう夜か。気づいたら眠くなってきた」

「俺はバーに行きたい」

 くぁ、とあくびしたたっちの隣で、胸元のスカーフを直しつつウルベルトが言うと、ペロロンチーノが彼の言葉に乗ってきた。

「バーか。ウルベルトさん、一緒に行くか。たまには男同士で飲むのもいいだろ」

「いいとも。しかし俺の方には連れがいるんだが」

 それが誰かなど考えずともわかる。金色の嘴をかちりと鳴らし──おそらく笑ったのだろう──ペロロンチーノは頷いた。

「デミウルゴスだって男だろ」

「よし。では繰り出そう!」

 二人がこうも楽しげにバーに行く理由は単純だ。彼らにとって酒は高価な希少品であり、リアルでは縁がなかったからである。付け加えるならかの店で出される酒が一級品どころか超級品でありその美味さで口をつけた者全てを虜にするから、というものだろうか。

 男二人が連れ立って円卓の間から出ていく後を、メイドを愛する三人衆が追いかけるようにして出ていく。彼らの行き先はもちろんそれぞれの自室だ。なぜならばそこには己が作り出した最高のメイドたちが控え、お使えする主すなわち自分たちを待っているからである。メイドをメイドたらしめる使命のためにいそいそと退出していった彼らは、しっかりナザリックを堪能していると言えるだろう。

 彼らが出ていった後、それでも何人かが円卓の間で会話を続けている。それはギルドメンバーとしての会話ではなく友人としての会話だ。例えるなら学校の休み時間の会話というのが一番近いだろうか。言葉と言うには意味がなく、雑音と言うには言語すぎるそれが、深刻な空気で満ちていた空間を気安いものへと変えていく。

 そんな仲間たちの会話を聞くともなしに耳にしながら己の席に座っていたぶくぶく茶釜が、しばらくしてピクリと揺れた。目のない頭部をぐるりと向けるのは開け放たれた円卓の間の扉だ。長い廊下が広がるそこを、金髪の子どもが二人、足取りも軽く駆けている。

「お迎えに上がりました、ぶくぶく茶釜様!」

「お、えと、お迎えに、あがりました…!」

「ありがと、アウラ、マーレ。みんなじゃあねー」

 円卓の間に入る一歩手前で足を止めた双子に頷き、ぶくぶく茶釜は椅子から降りてアウラとマーレを横に並ばせ自室に帰っていった。ゆったりとした移動速度は双子の歩幅に合わせてか、それとも双子がぶくぶく茶釜に合わせている故か。どちらにしろ互いに思い合っていることは、背中越しにでも聞こえてくる彼らの和やかな会話からよくわかる。

 暫くするとセバスが現れ、ぶくぶく茶釜と同じように己の創造主をエスコートして帰っていった。厳格そうなその顔に歓喜の色が浮かんでいたとわかるのは聡くあれと命じられた守護者くらいだろう。例えば、セバスとともに現れたデミウルゴスとか。

「ウルベルト様…?」

 円卓の間に入らないようにして入り口から室内を伺ったデミウルゴスの口から小さく声が漏れる。それを耳ざとく聞いたのは建御雷との再会を喜ぶ弐式炎雷を微笑みとともに見守っていたブルー・プラネットだった。

「ウルベルトさんならバーに行ったよ。デミウルゴスに迎え頼んでたの忘れてたんだなあの人。僕が注意しとくよ」

 からから笑ったブルー・プラネットにデミウルゴスは慌てて頭を下げなが首を横に振った。器用な男である。

「至高の御方のお手を煩わせるなど!己の創造主であるウルベルト様のお望みを察せなかった私が至らぬだけでございます!どうかそのようなことは…」

「そう?じゃあやめとくけど……でも、あんまりそうやって自分卑下しちゃだめだよ」

「はい」

 デミウルゴスは深々と礼をし、ひとしきり至高の御方の心がいかに広く慈悲深いかを感謝とともに語った後、踵を返して去っていった。心なしか早歩きなのは彼が内心の興奮を抑えきれないからだろう。見た目に反して高い忠誠心を持つ彼は、守護者たちの中ではかなり『純粋』な方なのだ。

 その後もぱらぱらと会話の切れ目とともにギルドメンバーは円卓の間から退出していった。最後の二人となったのは会話が盛り上がりすぎた建御雷と弐式炎雷だ。彼らは睡眠耐性を得られるアイテムまでつけて会話していたのだ。そして、その積もる話の続きをもう少し狭い空間、すなわち建御雷の部屋でやろうと言って円卓の間から出てきた彼らは、部屋から出てすぐ部屋の扉のすぐ外にNPCが二体控えていたことに気がついた。

 それが誰かを言う必要はないだろう。弐式炎雷の姿を見て白磁の頬を涙に濡らした彼女は、喉を引きつらせながら己の創造主の名を呼んだ。

「弐式、炎雷、様…!」

 この気が狂いそうな奇跡が始まる前、その言葉に返ってくる言葉は「それは至高の御方のお名前だね」という仲間からの応えだけだった。だが、今この瞬間、それは正しい受け手を得た。

 受け手である弐式炎雷は、己が見下ろす先にいる絶世の美女をまじまじ見つめ、感嘆のため息とともに彼女の名を呟いた。

「ナーベラル……ほんとに、生きて動いてるんだな……」

「はい。あなた様に創造され、私は生まれました」

「触っても?」

「どうぞ!!」

 弐式炎雷が右手を僅かに持ち上げて尋ねると、ナーベラルは大きく頷いて背筋を伸ばした。白い頬を伝っていた涙はそのままだが、もう新しい涙は流れていない。代わりにその頬を赤く染め、呼吸を荒くしている。

 そんな彼女の頬に、手甲で覆われた弐式炎雷の手が伸びる。彼は触れる寸前で僅かに躊躇いを見せたが、その躊躇いを振り払い、ナーベラルの頬に指先を触れさせた。

「あ……」

 僅かに沈んだ頬の感覚に、ナーベラルの唇から熱い声が漏れた。世の男共が聞けば思わず前屈みになってしまいそうな声である。どちらかというと冷め気味な態度を取ることの多いナーベラルがそういう顔をするとギャップというスパイスもあって非常に蠱惑的なのだ。

 しかし、今現在それを見て居るのは弐式炎雷という彼女の創造主、言ってしまえば親である。父親である。パパである。故に彼は股間を押さえて前屈みになるのではなく、「自分の趣味を詰め込んだNPCがこんな美人になるなんて」という感動と、彼女に対する関心でぐいと体を前に傾けた。詰め寄った。

「モモンガさんからちょっと聞いたが、お前さん、モモンガさんと外を冒険してたんだって?」

「は、はい。仰る通りでございます」

「モモンガさん、お前に感謝してたよ。こっち来てからちょっとの俺でもこっちが楽しいだけじゃないってのがわかった。そんな中でよくやった。えらいぞ、ナーベラル」

 この発言は半分が本心で半分が下心だ。下心というのはもちろん性的な意味ではなく、「娘のポイント稼ぎをする父親」的な意味でである。モモンガからNPCは創造主からの言葉を好むという情報を、建御雷からどういう言葉が具体的によいのかを、それぞれしっかり聞いていた弐式炎雷はそれらを適切に盛り込んだ言葉をナーベラルに贈ったのだ。

 彼は一撃必殺を好む紙装甲大火力NINJAである。一撃必殺に関しては右に出る者のいない男である。そんな彼が組み立てたこの態度とこの言葉、刺さらぬ道理がどこにあろう。刺さらぬ現実がいったいどうして成立しよう。

 どこにもない。成立するわけがない。正しくNPCの心を撃ち抜き射貫き貫き通したその言葉はナーベラルの思考回路を瞬時に焼き切り……そして、彼女から全ての力を蒸発させた。

 端的に言うと、感動でナーベラルは気絶した。

「おっと」

 ふ、と目が虚ろになり倒れ込んできた彼女の体を、弐式炎雷は真正面から受け止めた。力の抜けた女の体は軽いようで重く、重いようで軽い。リアルでは女というものにあまり縁がなかった弐式炎雷はそんなナーベラルをどうしたものかとほんの少しだけ悩んだが、すぐに彼女を抱き上げた。

 そんな彼に、ナーベラルに付き添っていたコキュートスが白い吐息をふしゅふしゅ吐きながら四本の手を振った。

「弐式炎雷様!御身ノ手ヲ患ワセルナドシモベノ恥!ドウカ斯様ナ事ハナサラズニ……!」

「俺は自分に会えて感動で気絶したような女をほっとく趣味はないよ」

「それでこそ弐式だ」

 弐式炎雷の言葉に、建御雷が深く頷いて肯定の意を示す。そんなことをされてしまえばこれ以上何を言うこともできなくなり、コキュートスは四本の腕を所在なさげに下げた。

「所でさ、コキュートス。俺はこのまま弐式と一緒に俺の部屋で酒を飲みながら話したいんだけど、お前もどうだ?」

「!?」

「ナーベラルが起きたら、四人で」

「!!?」

 言葉にならない、という顔をしているのだろうか。コキュートスの複数ある目が激しく輝き、冷たい排気がぱきぱきと辺りを凍らせていく。それを見ながらナーベラルを心持ち胸に引き寄せた弐式炎雷は少し笑った。

「興奮するのはいいけど、ナーベラルみたいに気絶はやめてくれよ。建やんだって流石にお前背負って動くのは大変なんだから。で、どうよ。嫌?」

「嫌ナモノデスカ!同席ヲ許シテイタダケルノナラ、是非……!」

「おっしゃ決まり。じゃあさ、適当にメイドさん捕まえて、酒見繕って持ってきてくれ。なんか美味そうなやつあればいいわ」

「畏マリマシタ!」

 答えた途端にコキュートスは徒歩の中で出せる最大速度で廊下を歩いていった。今現在メイド達は己の創造主達に仕えることに熱を上げているが、ちゃんと連絡すればメイドとして他の至高の方の世話もしてくれる。何故ならば、彼女らはそうあれかしと願われて生み出された者たちだし、彼女らを生み出した三人のギルメンはそうやって働く彼女達を愛しているからだ。

 遠くなっていく青っぽい白さを持つ背中を見ながら、建御雷は声に笑みを含ませて言った。

「こうも直球で好かれると、正直嬉しくなっちゃうよな」

「ああ。今俺、こっち来て良かったって思ったわ」

 たぶんそれは、このナザリックの全てが、彼らを心から愛しているからだ。




(ロール結果を付けるの忘れてました)

モモンガによる説得ロール、1d100で50以下で成功、51以上で失敗

弐式炎雷 38 成功
名無しの誰か 54 失敗
名無しの誰か 88 失敗
エンシェントワン 81 失敗

成功18、失敗18

うそだろジョニー
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