自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第7話

 マチュピチュ天空城は、ナザリックのように一個の都市機能を入れるような形はしていない。玉座の間なんてものもないし、エンタメ系の施設だってない。ギルドメンバーの殆どがギルド拠点を文字通りの止まり木のようなものとしか見ていなかったため、ナザリックほどの設備がそも必要ないし作ろうと思う者もいなかったからだ。だから王を迎えるに相応しい応接室なんてものも当然なく、リュウズはベッドからずるりと降りると「クッションがありますから適当に座ってくださいまし」とアインズ達に言ってきた。すいと指した手の先にはクッションを抱えたバードマンがいた。

「いろいろありますよー」

「どれもお日様に干してありますからフカフカですよ!」

 えへん、と胸を張るバードマン。そうじゃない、そうじゃない、と思わず首を振るデミウルゴス。アウラとマーレはクッションがあるとはいえ至高の存在を床に座らせてよいものかと悩んでいる。そんな中、一番最初に動いたのはリュウズを除くとアインズだった。

「どれ」

「アインズ様!?地べたに座るようなマネを御身がなさることは…!」

「郷に入りては郷に従えと言うだろう。それに、今の発言はこの地の主に対して失礼だ。取り消せ」

 アインズが視線で示すのは、ベッドの上からお気に入りらしいクッションを引っ張り腰の下やら腹の前やらに置いたり抱え込んだりして楽な姿勢を取っているギルドマスターだ。

「そうねぇ」

 アインズの言葉に、この場では一応一番えらい存在が、一番下から立ったままのデミウルゴス達を見上げて微笑む。

「予約も何もなしにここに来た以上、ここの流儀には合わせていただきたいわ。従いたくないのであれば、出て行って頂いても私は構いません」

「かしこまりました」

「予約があったとしても椅子を用意しているとは限らないけれどね?」

 冗談めかして笑うリュウズは、細く長い首を少しだけ伸ばし「タン、その上から三つ目のえんじ色のやつ。金の飾り付き。それをデミウルゴスさんに」と指示した。頷いたタンがずいとクッションを差し出し、デミウルゴスが思わずぽすりと受け取ってしまう。そんな炎の悪魔の姿を見たからか、アウラとマーレはすぐにチョウの手の中からそれぞれ青色と緑色のクッションを引き出し、さらに一番大きなクッションをチョウから取り上げてアインズに差し出した。

「どうぞ!アインズ様!」

「うむ」

 差し出されたのはベルベット生地を思わせる柔らかな手触りの布で作られたクッションだった。色は黒で、よく見ると生地全体に植物的な紋様が描かれているのが見える。一見するとシンプルなようだが、端の処理に使われた金色の糸の手触りといい、クッション自体の柔らかさといい、それはこのクッションの山達の中で一番いいものだろう。白い骨の手で数度クッションを撫でたアインズは、床に座って下半身とクッションに体を預けるようにして待っているギルドマスターの真正面にクッションを置き、その上に座った。そんなアインズを、真正面にいるリュウズは興味深そうに、かつ面白いものでも見るような目で見つめている。

「頭が柔軟なのは良いことね」

 アインズが見つめる先にある目は人とは思えぬ色をしていた。白のような、銀のような、桃色のような、水色のような。例えるならばオパールという宝石が相応しいか。宝石の真ん中に、蛇の目を思わせる縦の瞳孔が浮いている。アルベドのそれと同じ形をしている。けれど彼女の目よりもずっと穏やかな色をたたえていることは誰の目にも明らかだった。

「褒めて頂き、感謝する」

「いえいえ。さて、プレイヤー同士の他愛ないチャットをしたい所だけど、残念ながらそういう雰囲気では無さそうね。モモンガくんは一体いつこちらに来たの?」

「数ヶ月ほど前だな」

「その魔王役もその時から?」

「……以前から、要所要所でやっていましたけど、こちらに来たときにはこれを標準としました」

「そう…」

 リュウズは何かを見極めるようにすいと目を細め、数秒考え込む。やがて諦めたような溜息をついた。

「こちらの世界に来たプレイヤーは種族の特徴に意識が引っ張られる。それがあなたにも適用されているというのは間違いないようね」

「そういうリュウズさんはどうだったんですか」

「私はもう、前からこんな感じでしたねぇ。でも」

 ううん、と。彼女はそこで初めて顔を顰めた。不快そうに。それは僅かな接触でも彼女を評する表現に最適なものが「穏やか」であると悟った者達にとって違和感のある表情だ。

 言葉を切ったアインズに、リュウズはもう一度、今度は困ったように「でも」と続けた後、白く傷の無い指をさらりと頬に当てて呟いた。

「こっちに来てから生の心臓を食べたくなってしまいましたわ」

「……は?」

 なまのしんぞうをたべたくなる。光の中で穏やかに佇む人には酷く不似合いな言葉だ。デミウルゴスやアルベド、それからアインズといったカルマ値がマイナスに傾きまくりの連中が言うならまだしも、光の中に佇む女神が言うべき言葉ではない。思わず言葉を失ったアインズは、数秒して、ケツァルコアトルという神の在り方を思い出し、ああ、と合点が言った。

「古代アステカ文明では人身御供があったっけ…」

 確か、タブラ・スマラグディナが垂れ流していた蘊蓄のうちにあった知識だ。埃を被りかけた設定用の知識を引っ張ってきたアインズにリュウズは頷いた。

「人身御供を好んだのはテスカトリポカだと言われているけど、どうやらケツァルコアトルも好んだらしいというのがこの身になってわかったわ。難儀なものです」

「マスター、残念ながら今ここにマスターに捧げられる生きた生物は…」

「わかっています」

 タンの申し訳なさそうな言葉を、リュウズは強い口調で切った。そしてそのままくるりと表情を変え、アインズに向き直る。

「ごめんなさいね。そういうわけでお茶の一つも出せませんのよ。今じゃものを口にするのは私くらいで、私が口にするのがアレだから。

 それで、ゴーレムから聞いた仰る『緊急事態』とは何でしょうか?」

 だいぶ無理のある話題の転換の仕方だ。けれど、本人は違和感を気にしていないらしい。割と深刻というかグロい話を適当にぶった切り、まるで昨日見たテレビの内容を聞くような気安さで、リュウズは微笑みながらアインズに来訪の意図を尋ねた。

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