自由人のための天空城【完結】   作:おへび

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第9話

「殺すべきです!アインズ様!あれほどコケにされたのに放置とは、アインズ様とナザリックを愚弄した者を野放しにすることは、許せません!!」

 激高するデミウルゴスというのは珍しい。悪魔の本性をさらけ出し大きな声で声高に進言するデミウルゴスに、アインズは頭を押さえて首を振る。先程似たようなことをアウラとマーレにも言われ、かつ話を聞いた守護者達も同じことを言われている。控えているメイドも、セバスも、アルベドも、皆似たようなことを口々に言っている。だが、その言葉を、アインズは彼にしては珍しく根気よく諫め続けた。

「よいか。ナザリックを愛する気持ちはよくわかる。コケにされたと感じる気持ちも…まあ、わからなくもない。だが、先にあちらの領域に入ったのは我々の方なのだ。あの時我々が取るべき行動は向こうの掟に従い行動し最大の利益を出すことで、ナザリックの掟を押しつけるべきではなかったのだ。

 あの者達は戦うことを放棄することで絶対の防御を手に入れている。アルベド、あの地の防御力は、お前よりも遙かに高い…というか、文字通り完全に次元が違うのだ。なんせ世界級アイテムを使っているからな」

「ならばそれを奪い取ればよいのでは」

「それができれば苦労はしない。そのために悪意を持って近づけば…否、あのアイテムは悪意があろうと無かろうと、「観察者」の任を解かんとする流れには逆らう。アイテムの名を犯す者には徹底的に抵抗する。例え無垢な幼子を操作して差し向けても、奪うことは敵わない」

 例えどんな状況であろうともユグドラシルの語りには熱が入る。アイテムの話をしているためか段々早口になるのをなんとなく自覚しつつ、アインズは遠い昔に見たリュウズのステータスと個人的印象、それから噂をかき集めてPVPの相手として計算してみる。

「そして仮に奪えたとしても、ギルド同士の戦いになる。おそらくナザリックが向こうに行くことになろうだろうが、世界級アイテムを使えなくなると同時に全魔法と特殊技術が開放されるだろう。その内容は完全に未知だ。実力的に格下という可能性もあるが、同じくらい格上という可能性もある。そしてギルドマスターのリュウズさんは…リュウズさんは確か、魔力系魔法詠唱者だったはずだ。私と同類だな。だが向こうは特殊種族を開放していて、異形であっても神の名を頂いている。自身を神と考えた場合、信仰系の魔法を使える可能性があるかもしれないと考えると、私にとっては非常に不利だ。以前の戦いと違って完全に相手の手の内がわからない。私のPVP戦術では、今の時点ではどう足掻いても負けしか見えない」

 アインズのPVPにとって一番大切なのは情報だ。それが、今回は微塵もわからない。元々そこまで注目していなかった無干渉系ギルドだったから情報を集めていないというのもあるし、さらに言えばこちらの世界の千年という期間で向こうが予想もできない研鑽を積んでいる可能性があるのだ。そんな相手、絶対に敵にはできない。守護者というカードを切るか?とも考えたが、あちらにも守護者がいる口ぶりだった。あの二体だけが稼働している守護者であってほしいと願うが、アインズはその願いには蓋をする。なんだかとても嫌な予感がするからだ。

(こうあってほしい、と願ってそうあったことなどあっただろうか。楽観は厳禁だ)

 うなじの辺りの骨をじりじりと焼かれるような危機感を感じる。遠隔透視されている気配はないし、あの天空城の中では魔法は使えないからこちらの話は一切聞かれていないだろう。けれど、アインズは感じるのだ。

(一度目は見逃された。けれど、二度目はない)

 あのギルドマスターは優しい。叡智を思わせる深いオパール色の目が、穏やかなな人柄が、アインズの印象は事実だと告げている。けれどいつまでもそうだとは限らない。噂で聞いたように、自らに刃を叩き込む者には苛烈極まりない攻撃をするギルドでもある可能性があるのだ。よく言うだろう、優しい人は怒ると超怖いと。

 アインズはそこまで考え、決めた。

「守護者達よ。全ナザリックのシモベに伝えよ」

「はっ」

 自分が思う支配者っぽい声を空間一杯に響かせる。怒気を顔に漲らせた守護者達をはじめとするこの場の全てのシモベ達はアインズの一言でざっと傅いた。

「アインズ・ウール・ゴウンが命ずる。今後一切『翼持つ人々』への攻撃は禁止する」

 下された命に、空気が動揺する。その動揺を押さえつけ、アインズは宣告を続けた。

「友好関係の構築は目指す。おそらくだが年月相応の情報を溜め込んでいるようだからな。私は人間の国におそらくは存在しないそれを得たいのだ。もちろん、得た後で向こうをどうこうするつもりはない。

 今回はこちらが不用意に接触したためにこのようなことになっただけだ。非はこちらにある」

 ナザリックが一番えらい、と思っているシモベ達には理解できないだろう。だが、アインズはナザリックが最高であることは肯定するが、それは全てを支配することとはイコールではないと思っている。

 文字通り、アレは次元が違うのだ。であれば刃向かうだけ無駄というものだろう。今アインズ達がいるこの世界から鈴木悟のリアルの世界に向かって労基がどうの環境破壊がどうのと声高にデモを起こして届くだろうか?届かないだろう。そういうことである。そして次元の違うものに手を出しても、出すだけ無駄なのはわかりきっている。

 だが、今の思考をシモベにいってもたぶん皆全く納得してくれないだろう。アインズは少なからぬ強制的共同生活で嫌というほどそれを思い知ったので、ダメ押しの一手を打っておくことにした。

「そして何より!『翼持つ人々』のギルドマスター・リュウズは!過去に私を助けてくれた恩人だ!私は恩には恩で返すと決めている!そのような人物に害を為すことは、この私が許さない!」

(だからリュウズさん、頼むからそっとしておいてくださいね…)

 アインズの声高で堂々とした宣言の裏で、モモンガは地下からは全く見えない天空城に拝み倒してた。

 

 

 

 その後、天空城の存在と、天空城におわす者の価値はナザリックの守護者の口がうっかり(マジでうっかり)滑ったことで世界に知られることになる。どこかの皇帝は目の力を取り戻し、法国をはじめとする異形敵対国は頭をかかえ、魔導国を目の上のたんこぶ的に思っている者達は気勢を上げるのだが、まさか雷鳴り響く積乱雲の中の城に、この世界の技術で突っ込めるわけもなく。結局この世界の存在がたどり着けるようになったのは、この接触からずっと後のことである。

 

 

 

第一部 完




あとがき

天空城ギルドええな!と思って書き始めたらめっちゃ長くなりました。どうしてこうなった。ここまで読んで頂きありがとうございました。
この後アインズさんはなんだかんだでこの後何度も天空城に赴きます。情報が欲しいってのはもちろん、向こうもこちらも魔法も特殊技術も使えない、かつ向こうは絶対に攻撃してこない、かつギルマスはユグドラシルの話がプレイヤー視点できる、という、アインズが精神的にモモンガとか鈴木悟に戻れる場所なので、安らぎに行きます。
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