Fate/Grand Order -Overlap control-   作:外山紡司

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遅くなってすいません。忙しかったのと、ろくにプロット立ててないのが問題ですね。


11話:撤退

 未来は一つになった。

 あらゆる可能性は消え去り、残ったものは一つだけ。

 不幸な人間を出したくないという願いは48番目にもよく分かった。その願いを抱くだけの機会はいくらでもあった。

 人理修復の為に、多くの世界を旅してきた。その過程で、多くの消えていった者達がいた。あの旅は正史には残らないだろう。それでも、そういった人間がいたのだという事実は変わらない。

 Sの願いは48番目の祈りに通じる所がある。

 だが、48番目の介入でどれだけのものを変えられただろうか。努力したことで、結末が書き換わっただろうか。不可能だろう。

 それを可能にするのがSの作戦だった。一人の力で皆を幸福にする。それが、どれほどの奇跡なのか48番目には知る由もない。

 だが、それで皆が幸せになったとして、どうなるのだろう。

 48番目は自分自身に問いかける。

 今はもうない世界。歪みを正す前の、もう人類史の中には存在しない世界。そこにだって、確かに意味はあった。どんな不幸に終わったとしても、それは、きっと尊いものだった。

 だからこそ、48番目はここにいる。

 

 

 

 

 マシュの目には何が起きていのかなど、知りようもなかった。

 ただ、世界の全ての演算が終了したという事実、すべての世界線は一つになり、可能性などないという事実は分かった。

 魔神柱の計画通りに進んだというのに、もしも魔神柱に顔があったのなら、翳りが窺えただろう。何かを恐れているような、強張った声だった。

 唯一、48番目というファクターだけがイレギュラーな動きを見せていたのだ。消失するべきものが、まだ存在している。

 全てはマナという少女に原因があるのだと知っていた。だが、能力を知らなければ対処のしようがない。

 魔人柱でさえ、計測することができない能力。それは一体何なのか、知る者はいない。

 

「お前は誰だ?」

 

 その問いが藤丸に対して発せられたものなのか、マナに対して発せられたものなのか、誰にも分からなかった。魔人柱本人ですら分からないのかもしれない。それほどに、48番目が確固たる形をもって統合されたことに困惑しているのだ。

 

「俺に名前なんてないよ。あえて名乗るなら48、だ」

 

 48番目は答える。

 信じられないことに霊気があった。ほんの僅かにだが、サーヴァントしか持ちえない反応を48番目は持っている。

 マシュの体は束縛から放たれ動くようになっていたにも関わらず、動かすことなどできなかった。

 

「なんとかして力を手に入れたようだが、分かっているのか?  貴様は継ぎはぎだらけだ。少し触れただけで崩壊するだろう。まだ、私の計画は進んでいるよ」

「ああ、知っているさ。お前に、俺を殺すことなど容易いだろう」

「良く理解しているようだ。逃げようと思っても無駄だ。ここは私の体内なのだからな」

 

 48番目は軽く周囲を見渡して、状況がどうなっているのかを確認した後、微笑を浮かべた。

 

「うん」

 

 穏やかな表情のまま、48番目は右手を前に突き出した。

 

「何をするつもりだ?」

 

 突き出された右手の甲には令呪があった。それを起動しようとしているのだろうか。

 そして48番目は「アルトリア」と一言告げた。

 刹那、空間に輝く粒子がやって来て、48番目の目の前に収束していく。どこからやって来たのか、魔力は増大していき、人型に収束を始まる。

 

「貴様、何を!?」

 

 それはまるで「英霊召喚」のように。しかし何の術式も用いられずに行われた。

 光は強くなり、周囲の物の形すらはっきりと見えなくなる。大きな光の柱が立ち上がり、そして張りつめた緊張が解けるように、四散した。

 光の中から、一つの影がのっそりと立ち上がった。黄金の髪をもった、美しい少女の王様がそこにいた。鎧の上に熱いマントをはためかせ、頭には大きな王冠が乗せられている。

 状況を呑み込めているのか、たちまち48番目に振り向く。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」

「ありがとう」

 

 さも当然のように、48番目は一騎の英霊を召喚して見せた。何もない空間に、なんの代償もなく、ただ告げただけで。どんな魔法を使ったのかも分からない。

 

「先輩?」

 

 48番目がこの場に姿を現してから、マシュはその一言をようやく口にすることができた。言葉にするのが怖かった。自分の知らない物事が進行しているようで、遠い所にいるような感覚を覚えていた。

 48番目は、マシュの方を向いた。

 しかし、返答を返すわけでもなく、マシュの表情だけを見て笑みを浮かべるとすぐに視線を戻した。

 

「縁か。お前の宝具はサーヴァントたちとの"縁"を具現化させたものだ。ああ、そうか。英霊が混じった時点で気付くべきだった」

 

 傍ら、魔神柱は一人納得するように呟いた。しかし、魔神柱の話に48番目は耳を貸さない。

 

「セイバー。退路を確保して」

「はい」

 

 その応対があった後、たちまちアルトリアの手元に聖剣が姿を現し、黄金の光を放った。途方もない魔力が空間に放出されはじめ、マシュは押しつぶす程の圧力を感じた。

 その輝きをマシュはかつて体験したことがある。旅の始まり、冬木の大聖杯の前でその宝具を受け止めた。

 しかし、何かが決定的に違う。あの時の光は、黒く冷たかった。

 それが、今はどうだ。この温かな金色の光は紛れもなく、穢れなきアーサー王そのものが持つ光だ。

 アルトリアが静かに聖剣を振り上げると、世界から現れた光が収束を始めた。全てに祝福を受けるように、48番目とアルトリアは、輝きに包まれていく。

 

「退路の確保、と言ったか。懸命だ。今、我を倒したところで元の世界になど戻らない」

 

 魔神柱は言う。

 まるで耳になど届いていないように、「やれ」と48番目は一言告げる。

 

約束されし勝利の剣(エクスカリバー)

 

 アルトリアは剣を振り下ろす。

 瞬間、光の奔流が電撃のように迸り、壁を突き破り、外へと駆けだした。部屋の中はその強大な力によって風が荒れ狂い、必然的に皆の視界は閉ざされる。マシュの頬を一粒の石が掠めていき、小さく血が流れた。

 真横ではなく、やや上向きに放たれた対軍宝具は、地下と地上とを繋ぐトンネルを形作った。

 温かな威圧感は莫大な魔力の奔流の消失と共になくなり、地下の部屋に外界の光が差し込む。できた穴の向こうは外に繋がっており、光の残滓が祝福するように満ちている。

 

「行こう、早く!」

 

 48番目が叫んだことで、マシュはようやく我に返った。隣を向くとミツルも同様である。

 

「早く!」

 

 48番目は大きく手を振って、こっちに来いと言っていた。その後ろにはマナの姿もある。どちらも、影になって表情が読み取れない。

 

「マシュくん、いくよ」

 

 ミツルは状況を飲み込めていないようだったが、自分を奮い立たせ、走り出した。マシュもそれに追随して駆けていく。

 

「ハハハハハハ。面白い。抗ってみせよ」

 

 魔神柱は言っている。

 

「我にすべきことなど、一つもない。その体、次期に崩壊するだろう。その時がこの世界の終わりで、新たな世界の始まりとなる」

 

 48番目は背にそんな予言を受けながら、光に向かって走っている。それが真実ならば、48番目の状況は芳しいものではなく、もうじき消えるのだと誰にでも理解できた。

 

「先輩......」

 

 マシュは走りながら、その身を案じて呟いたが誰も聞き取るものはいなかった。先輩を守れず、状況についていけない無力感を振り払うように、マシュは走った。

 

 誰もが立ち去った空間に、Sは呆然と立ち尽くしている。手の平にあったはずの未来は、水のように指の隙間から零れ落ちた。

 それは魔神柱だって同じだ。

 これは、誰が目指した未来でもない。

 

 

 

 

 D社から逃げ出してきたミツルたちは、いつもの廃ビルへと逃げ込んだ。ビルの中は普段よりも、一層くらい雰囲気に包まれていた。

 夜の冷えた空気が満ちて、透き通っている。そんな中、一つの悲鳴が木霊した。

 

「ああぁぁあ!」

 

 余りに痛々しい叫びは夜のビルの中に響きわたる。

 

「先輩!」

 

 ベットに横たわる48番目の顔をマシュは濡らしたタオル拭いた。

 逃げて来てからというもの、48番目はうめき声を上げ続けた。症状が酷いときと軽いときとが交互にはやって来ていたが、いづれにしても今にも消えてしまいそうな叫びを上げる。意識があるのかないのかも分からない。たまに何かを話すことがあっても、文脈が分からない独り言のようだった。

 原因としては、48番目という存在の不確実さに加えて、宝具の使用が大きいだろう。召喚したアルトリアはマスターの負担になるから、と言ってD社から脱出した後すぐに消えてしまった。

 

「先輩......私、どうしたらいいのか分かりません」

 

 悲鳴を聞き続けるというのも、決して精神的に良いものではない。そんなのは当然だ。人間の共感の能力は、痛みを分かち合わせることが出来てしまう。誰かが苦しんでいたら、自分だって苦しんでしまう。

 だから、少しだけマシュにもSの気持ちが分かった。

 

「マシュ......」

 

 48番目は呻きながら、その名を呼んだ。声につられて、ふとマシュが顔を上げると、再び48番目の表情は苦く歪み、口から悲鳴を上げる。

 

「う、あぁぁ!」

 

 その表情を見て、マシュは思わず顔をそらした。直視することなど、できるはずもない。

 ここに居ても役に立てないだろうから、マシュは何度か部屋から出て行こうとも考えた。しかし、それだけは出来なかった。エミヤ戦の前に先輩を見捨ててしまったあの感触を、もう二度と味わたくなどなかった。

 だが叫びは、マシュの心を摩耗させていく。

 

「......マシュ」

 

 叫びが途絶え、48番目はもう一度その名を呼んだ。マシュは一度戸惑ったが、顔を向ける。

 

「先輩......」

 

 48番目は痛みに耐えかね、心が消えかかっているはずなのに、その表情はとても柔らかかった。マシュに「すまない」と言うかのように、眉を顰めながら笑っている。しかしその裏にある、苦々しい表情さえも透けて見えるほどの作り笑い。

 

「マシュ......ごめん」

「先輩! どうしてっ! どうしてですか! 東京に来てから......私は先輩の辛い顔しか見ていません」

 

 一瞬、48番目の表情が歪んだ。崩れた笑みの向こうから、その痛みが露わになる。しかし、すぐに戻った。

 

「ごめん。俺がマスターとして未熟だから」

「私は先輩が傷つく未来なんて、もう見たくないです。私は先輩の笑った顔が見たいです......。どうして、そこまで頑張るのですか」

「だって、頑張る以外にできることなんてないから。それに可能性は......なくしちゃいけないよ。間違ったとしても、不幸が待ち受けていたとしても......。そうだよね?」

 

 マシュは頷くことが出来なかった。

 

「だから、先輩は辛い選択をなさるのですか。その先が地獄だったとしても」

「......ああ、そうだ。例えそれが歴史に残らなくても、どんな不幸が待ち受けているとしても、それは間違ってなんかいないんだ。人類史を遡りながら、俺たちはそれを見て来たんだ。だから、否定しちゃいけない」

 

 何を言って言いのか分からず、マシュは顔を伏せた。知らぬ間に目から涙がこぼれていた。

 

「......はい」

 

 それがマシュの精一杯の返答だった。肯定するしかないのに48番目がこれ以上傷つくのは、やはり嫌だった。

 

 その後少しの間、少女の泣き声がビルの中に響いた。

 体の痛みに逆らいながら、48番目は手を少女の頭において、撫でた。




 空の境界コラボ始まって、藤乃が実装されましたね。待てよ、藤乃がサーヴァントになれる程の強さを誇っているのなら、別に出して戦わせてしまっても。
 というような気分になってる外山です。
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