Fate/Grand Order -Overlap control-   作:外山紡司

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14話:ボイスメッセージ

『あー、あー。よし。

 これを聞く者がいるとも思えないが、万が一ということもある。本当に万が一、誰かの耳にこのメッセージが届くとして、それが48番目なのならば幸いだ。

 いや、48番目ではないか。48番目は記号の名だった。だから、48番目として存在している、そして存在していた君に届けばいいと思う。

 

 私は"瓶倉光溜"だ。

 こういったメッセージを残すというのは、本来私の性分ではないのだが、たまにはこういうのも悪くない。君は無意識だっただろうが、君には多くの場面で助けられた。このメッセージは、その礼と少しの好奇心によるものだ。

 

 現在、可能性は失われてしまった。未来へ続く道の枝分かれが消失し、ただの一本道が完成してしまっている。世界線が全て"統合"されてしまった。

 ちょっとした見解だと、私は他の世界線の私との平均値として存在しているのだろう。多くの世界線の私が持っていた要素ほど強くミツルとして統合されている。

 

 だが、君は違う。君は"カルデア48番目のマスター"という概念だけで統合された。名前も違う、性別も違う、あらゆる要素が異なった状態の人間たちの平均として、48番目という概念は具現化した。

 だから、48番目という記号の名前でしか呼ぶことができなかった。君は名前を失ったようなものだった。自分自身の存在を表す名前を君は失ったのだ。正確には、全ての名前が重なり合わさっていたと述べるのが正しいかもしれないが、全てを持つということは全てを所持していないことと同意である。

 

 君は自身の存在を失っていたに等しい。人生が一つの物語であるとするならば、君は自らの物語を失っていたのだ。

 48番目に統合された一つの意識を取り上げて考えてみれば、それは得体の知れないどこかの誰かによって、勝手に物語を記述されているといった感覚だっただろう。自分の意識の与り知らぬ所で、自動的に物語が与えられる。

 

 統合後の君は色んな記憶が飛んでいる。特にカルデアに来る前の記憶について尋ねても、口籠るばかりでまともな返事は返って来ない。

 しかし、カルデア後の記憶については覚えているようだ。冬木にオルレアン、セプテムにロンドン。果てはバビロニアときた。世界旅行に加えて壮大な歴史の逆行だ。

 辛そうにしていたので、詳しくは訊けなかったが、記憶ははっきりしているようだ。

 

 しかし、どうしてその部分の記憶が消えていないのか。カルデア以前の記憶はすべて異なるから、消えてしまったのだろう。ではカルデア以後が消えないのは、何故なのか。

 私の推理だと、世界を救ったという君たちは、少なからずカルデアに足を踏み入れてから、同じ旅路を歩んで来たのではないか、ということだ。

 もしかしたら、得た体験は同じものだ、という可能性だってある。同じ順序で、同じ旅路を進み、同じ人物に出会って、同じ経験をした。

 

 この仮定が正しいならば、同じ旅路になった原因は二つの内どちらかだ。

 一つ目の可能性。それは君が体験してきた旅路と同じ旅路を歩んできたものしか、世界を救うことはできなかった、という可能性だ。つまり、この旅路を外れた世界線は人理焼却がなされたため、統合されなかった。

 もう一つは、そうならざるを得なかったのだという可能性。世界線の分岐は粒子の位置の不確定性が引き起こすものだ。もしかしたら座標Aにいるのかも知れないし、座標Bにいるのかも知れない。そういった曖昧さによって世界は枝分かれする。

 しかし、粒子一個がマクロな世界に与える影響がどれほどなのだろうか。もしも、限りなく少ないのだとしたら、世界は分岐するだけ分岐して、そのほとんどは同じような世界線であるだろう。大きく変わることのない世界線ばかりが存在する。

 つまり君の選択の余地なく、48番目のマスターなる存在は、その旅路を選ばなければならなかった可能性。

 

 そんな原因を追究するには、私は力不足だから、ダ・ヴィンチ氏にでも聞くといい。私はそんなことを議論したいのではない。

 ここで私が言いたいのは、全ての48番目がそんな風に同じ体験をしてきたのだとしたら、それは誰かに未来を与えられているようではないか、ということだ。

 まるで神様のような世界を決める人物がいて、そのシナリオに沿って君は行動していく。

 

 だったら、今の状況と変わるところはないのかも知れない。48番目という存在の一部として統合されている君は、統合されていなくとも同じような道を歩み、同じような体験をするだろう。

 

 たった一つ違いがあるとするならば、起こった体験を記述できるかどうか、である。

 たとえ同じ体験をだったとしても、それを解釈し、君は自分の物語を記述することができる。それはきっと誰に与えられたのでもない、自分自身の物語であるはずだ。

 統合されていてはそんな物語の記述はできないだろう。

 

 だから私に、君の物語を聞かせて欲しい。

 これから我々は魔人柱の討伐に向かう。その後で、もしも我々が勝利し、可能性を手にすることができたのなら、君は48番目から引き剥がされるだろう。そのとき、この事件で君が何を思っていたのか、これまでの旅路がどうだったのか、君の物語を聞かせて欲しい。

 可能性を取り返すということは、君自身の物語を取り返すということでもある。

 

 

 と、まぁ。こんなことを言ってはみたものの、状況は絶望的だ。このメッセージを残しているのだって、きっと不安で仕方ないからだ。可能性を取り戻せるかは分からない。

 

 おそらく最終決戦の間、君はベッドで眠り、サーヴァントを使役したことで増幅した痛みに耐える他なかっただろう。しかし、どうかそのことを嘆かないでほしい。君は協力できなかったと後悔するだろうが、これまで君から貰ったものは多かった。マナにしても、私にしても。

 だから、眠ったままで良い。悔いる必要などないのだ。これは我々からの恩返しなのだから。

 

 どうか、このメッセージが君に届くことを願う』

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