Fate/Grand Order -Overlap control-   作:外山紡司

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16話:再び現れた男

「48番目、いいかい?」

「ああ、大丈夫」

 

 ミツルが問いかけると、間を置かずに48番目は答える。

 ミツルの事務所に二人は向かい合っていた。脇にはマシュも立って、48番目の様子を窺っている。

 48番目はふら付いて今にも倒れてしまいそうなのに、やり通すという意思だけは強かった。

 

「今からサーヴァントを召喚してもらう。本当はそれさえも辛いだろうけど」

「やります。大丈夫です」

「ああ、知っている。君がそう答えることは」

「……そうですか」

「ああ、()()()()()さ」

 

 ミツルはそう言って苦々しい笑みを浮かべた。安静にしていろ、と言えたならどんなに良かっただろうか。しかし、魔神柱との決戦はそろそろ始まる。そしてもう、作戦には48番目がサーヴァントを召喚することが組み込まれている。在り得ないだろうが、例え48番目がどんなに嫌がったとしても召喚をさせなければならなかった。

 48番目は急に胸を押さえて、呼吸を荒げた。痛みに襲われたのだ。

 昨日からこういうことが度々起こった。

 

「先輩っ!」

 

 マシュが駆け寄って、倒れないように体を支える。昨日からこんな光景が幾度となく展開された。その度に48番目は手の平をマシュに向けて静止させた上で、「大丈夫」と言った。

 何度見ても慣れなかった。ミツルは動揺してないように装うため助けることをしなかった。でも傍観しているのも辛くなって、気付かれないように目を逸した。

 

「48番目、そろそろ始めようか」

 

 48番目の痛みが和らいだ頃、ミツルは言った。

 

「はい」

 

 48番目は右手を前にかざした。その手の甲には赤い文様の令呪が存在している。48番目が目を閉じると、その令呪が発光を始めた。

 それが、英霊として存在する48番目が持つ力だった。今までの人理修復の中で、様々なサーヴァントに出会い、絆を結んだ。その"縁"が48番目の持つ宝具。武器ではなく、その他のサーヴァントとの縁を引き寄せて、契約を結ぶ宝具。

 統合によってその力は弱まっていたものの、十分にその力を発揮することができた。

 誰が召喚されるのかは、本人にすら分からないという。

 しかし、ミツルにはもう分かっていた。

 霧のような白い煙が48番目を中心に、円形に発生する。どこからともなく、風が吹き机の上に重なった書類がヒラヒラと音を立てる。

 そして、稲妻のような輝きが生まれ、窓の外に光が漏れた。窓ガラスが地震にでも襲われたような音をたてた。

 そして、部屋の中に一体のサーヴァントが現界した。

 

 

 

 襲い来るビームの嵐を、式はナイフ一本で消し去る。この世のものとは思えない熱量が、瞬く間にこの世から消え去る。

 

「何をした。お前は何者だ」

 

 魔神柱は不思議なものでも見ているように言った。

 その間も式は駆けた。まるで豹でも見ているようだった。500m程の距離を僅か10秒で半分に縮めてしまう。着物を着ている人間にできる動きではない。

 

「誰だって……いいだろ」

 

 その驚異的な速度を保ちながら飛んでくるビームを次々に消し去っていく。

 万物は発生と同時に死を内包している。"直死の魔眼"はそのモノの"死"を、"線"として視界に浮かび上がらせる。式はそこにナイフを通すだけで、対象を殺すことができた。

 対象を殺す、という能力自体はそれまで突出した能力ではない。それなら代替できる魔術がそこかしこに存在する。

 式の"直死の魔眼"が優れているのは対象が生物でなくとも通用する点だ。存在する物体、現象、概念、そのすべてが持つ死を視てしまう。そして殺すことができる。

 だから、魔術に対してめっぽう相性が良かった。敵の行使する魔術がどれほどのものであれ、一瞬で殺すことができた。

 

 魔神柱は冷静に状況を分析しようと努めた。相手がどれほど人間離れしていようと、人間であることには変わりない。例えそれがどんなに死神に類似していようとも。

 魔神柱は迫り来る相手の武器を見た。右手で振るわれているナイフが一本。それだけである。先程の歪曲の魔眼のような遠距離攻撃は一切ない。ならば近寄らせなければ問題ないのだ。

 ナイフが一本しかないということはビームを消し去れる範囲も、僅か片腕分の距離の範囲内でなければならない。

 だったら、二次攻撃でいい。直接相手を狙うのではなく、敢えて外してみせることで爆発を引き起こし、そのときに発生する爆風などで相手体勢を崩す。

 考えてみれば簡単なことだった。だから、相手は全てのビームを消していたのだ。狙いが正確過ぎたことが問題だったのだ。

 魔神柱の全ての眼が式をとらえる。そして同時に発射する。強大な魔力によって発生した熱が奔流が式の周囲を焼き払う。

 その時に弾け飛んだ建物の残骸と巻き起こった熱風が式に襲いかかる。当然、そのすべてを殺しきれるわけがない。

 しかし、式は綿毛のようにふわりとそのすべてを回避してみせ、尚且つその爆風で加速してみせた。そんな情報処理ができるわけがない。少なくとも、攻撃方針を変えたことを悟っていなければ不可能だ。それは直観か、それとも初めから知っていたのか。はたまた、両方なのか。

 魔神柱は攻撃の手を緩めることはない。むしろさらに増やすことによって、手数で勝負しようとした。それが人間と肉の塊のような魔神柱の決定的な差異だった。

 式の進行方向に奔流が飛んできて火柱が上がる。式は火柱の影に隠れてしまうが、他の眼は、その火柱の両脇に向かって構えられていた。回避しようとしたところを、狙い撃つ算段だった。

 だが、式は迷うことなく直進し、火柱を自体を殺した。

 一本のビルをなぎ倒しそれで行く手を阻む。式は今まさに倒れかけているビルに飛び乗り、カエルのように張り付いたかと思うと、跳ねた。

 150m。

 その着地する地面にビームを放ち、火柱を上げるも、発生と同時にナイフにかき消される。さらに倒れたビルのから送り出される風を利用して加速する。

 止まることを知らないバケモノだった。人間でありながら、生まれ持った野性の感覚に身をゆだねて、駆けている。

 100m。

 在り得ない。在り得ない。

 人間が魔神柱の攻撃をかいくぐり、その体に傷を負わせるなど在ってはならない。

 もはや恐怖は自尊心に姿を変えて、魔神柱は躍起になって式を殺そうとした。その度に放たれる奔流は増加していく。そして、貯蔵された魔力が減少していく。

 50m。

 魔神柱は何故人間相手にこうも苦戦を強いられているのか、納得できなかった。その不満をぶつけるべく、大きく眼を開く。

 式はどんな攻撃さえもくぐり抜けてしまう。ならば、完全に退路を消すことしか方法は残されてない。それを実行するだけの目が、魔神柱には取り付けられている。

 だが、それは余りにも美しくない。それは更に魔神柱の中に怒りの炎を灯した。

 式の駆ける方向と直角にビームで薙ぎ払い、式の行く先に炎の壁が形成された。さらに、その時に発生した風が旋風を巻き起こし、式の体を襲った。

 魔神柱の怒りが、外界を侵食した。

 

 式はもう限界だった。何食わぬ顔で走ってはいたが、額には多くの汗が浮かんでいる。瓦礫にぶつけた足に僅かな痛みを覚えていた。それでも痛みを押し殺していたのだ。かばい続けながら走るのにも、体力を消費させられた。

 だから、目の前で巻き起こる炎と爆風を回避する術を式は持っていなかった。疲れも、足の痛みもなかったとしても、この攻撃には屈していただろう。それだけ、魔神柱渾身の一撃でもあった。いくら今までの砲火をくぐり抜けてきた式であっても、逃げ場がなければどうしようもなかった。

 地面の塵と砂が風に流されて、茶色い壁となって道路を埋め尽くすように雪崩れ込んでくる。まるで津波でもやってくるようだった。それを回避する手段を式は持っていなかった。

 式の体を砂嵐が襲う。ついに、式の疾走を止め、体勢を崩させた。

 風に流され、式は来た道を押し戻される。

 その時に、飛んできた来た石ころが式の全身を殴りつけた。額をかすめ血が流れ、左大腿の服が千切れ、腹にぶつかって肺を圧迫し咳き込んだ。

 何より、手首をやられ、そのナイフが宙に弾き飛ばされた。式にはもはや攻撃をする術も、攻撃を受ける術も残されてはいなかった。その隙を、魔神柱の良すぎる目が捉えていない筈がない。

 それは紛れもない死を意味した。そのことに気付かない式でない。目が大きく見開かれる。

 それでも、式は冷静を保った。猫のような身のこなしで着地し、体を低くして風圧に耐えた。

 そのとき既に、魔神柱のすべての(ほうもん)が式の体を捉えていた。おぞましい瞳孔の開いた数多の眼のすべてが一挙に自身に向けられるのは恐怖でしかない。ぬるりとして眼球の動きが、人間でないことをはっきりと強調する。こいつは人知を遥かに超えた存在なのだと。

 だが、式は、魔神柱を見ようとはしなかった。類まれな直観によって、式に向かって天から降ってくる銀の刃があることを理解していた。また、それを放った人物についても。

 

「焼却式・ロノウェ」

 

 (ほうもん)から一斉に魔力の奔流が流れ出した。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 突如、魔神柱の体に爆発が起こった。

 魔神柱には何が起こったのか分からなかった。ただ、第三者の介入があったのだと理解することができた。

 爆発に巻き込まれながらも、魔神柱は意地で式を捉え続けた。だから、その射線を捻じ曲げられることはなかった。

 焼却式と呼ばれる、すべてを消し炭にするための地獄の炎。

 自身の名をその後に続けるあたりは、サーヴァントの宝具に共通するところがある。ロノウェ。それが魔神柱の名だった。

 名を晒してまで放った熱量は、今までの砲撃以上に魔力が込められていた。人間に神としての威厳を見せつけるための一撃。幾つものビームが束になり、総熱量はおよそ核弾頭に匹敵するレベルだった。それが式に、一直線に向かっていく。

 魔神柱は確信することができた。

 これならば防ぎようがない、と。必ず塵となる、と。

 

 しかし、予想はまたもや裏切られた。

 驚異的なまでの熱量が、一瞬にして消失した。そこには初めから何もなかったかのような、(から)が残された。

 

「何……!」

 

 目を剥いた。驚きよりも怒りが勝った。それは人間に対して覚えた恐怖を隠すための怒りでもあった。

 

「思っていたより、遅かったな」

 

 あらかじめ、援護が来ることを知っていたようだった。

 焼却式によって焼き払われるはずだった地点の中心に式は立っていた。

 その手には一本の日本刀が握られている。天から降ってきた刃は、日本刀だったのだ。武器が供給され、式は焼却式を消し去る力を手に入れた。

 

「いや、余りにも人間離れしているのでね。どこまで行けるのか見てみたくなったのだよ。悪く思わないでくれ」

 

 そしてサーヴァントが一人舞い降りた。赤い外套の、自分が使用した聖杯によって呼び出されたサーヴァントだった。そして、もう座に戻ったはずだった。

 

「エミヤ。何故だ。何故、そこにいる」

 

 魔神柱は訊いたものの、答えは既に頭の中に存在していた。48番目が召喚したのだ。

 48番目の中に、エミヤの意思は根付いていた。48番目の正義の中に。それが召喚するための縁になったのだ。

 エミヤも魔神柱が理解していると分かっていたのか、なんの返事もなかった。

 

「こいつ、相当な代物だな」

 

 チラチラと刃の輝きを確かめながら式は言った。

 

「ああ、そうだろう。三条宗近によって作られた名刀、三日月宗近。その贋作だ」

「そうか。それなら千年を超えるな」

「日本刀としては最高級のものだよ。それなら、殺せるか?」

 

 式は薄く笑った。返事など要らない。刃をカチャリ、と震わせて式は刀を構えた。

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