Fate/Grand Order -Overlap control-   作:外山紡司

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18話:空白に向かって

 式は初めから、全てを知っていた。具体的な魔神柱の対応手段はその都度礼装を通じて報告されるが、それもあらかじめの報告をなぞる形の部分が多かった。どのタイミングで、どのような攻撃がやってくるのか、その全てをミツルから聞かされていたのだ。だからドローンを破壊されたところで平気だった。式のみならず、エミヤにしても鮮花にしても同様である。だから打つべき最善手をあらかじめシュミレーションすることができた。

 式はそんな予知通りに行動することに反感を覚えはしたものの、その時々に直観する最善手がミツルの述べた通りになっており驚いた。故に、一挙手一投足には未来を保障された安心と、ある種の焦燥が混じっていた。

 式は()()()()()()()()()()()()事が何を意味しているか重々理解していた。

 ミツルの眼が描いた未来は破滅だった。どんな理想を描いても、左目はそれに続く過程を描ききれない。必ずどこかで途切れてしまう。

 だから作戦は、最良の破滅への道を辿ることだった。

 ミツルの未来視は、かつてのそれ程完全な形を結ぶことはない。ならば、とこかで道を踏み間違えることだってあるはずだ。どのように踏み間違えるのかが問題になるが、もしかしたら魔神柱を討伐できる未来もあり得るかもしれない。そんな、希望的観測を元に立案された作戦だった。

 つまり、作戦は何処かの時点で崩れねばならない。作戦の通りに事が進むということは、それはそのまま人類の敗北を意味する。

 

 魔神柱ゆっくりと後退を始める。これから、D社のあった地点まで戻り霊脈から魔力の補給をするハズだ。

 それを転機にして、式達の優勢が一気に劣勢にひっくり返る。これまでの優勢の主な要因は魔力が不足してきたことによる火力不足だからである。東京を焦土にするために魔力を消費した現状の火力は、本来持ち得る魔神柱の威力の半分程度だと言っても過言ではない。

 だから、魔力の補給を始める前に倒さなければ勝ち目はない。

 

「―――UNLIMITED BLADE WORKS」

 

 エミヤが詠唱を終えると同心円状に静かな炎が広がっていき、固有結界が現実の侵食を始める。気付くと荒れ果てた大地に無数の剣が突き立てられた、エミヤの心象世界が現れる。

 太陽はないが夕暮れであることは分かる。

 ビルのような比較対象物がなくなった固有結界だが、魔神柱の巨体はさらに大きくなったように感じられる。

 

「今のうちに叩け!」

 

 式にとっては言わずもがなであった。

 魔神柱に大量の剣が雨のように降り注ぎ、多くはシールドに弾かれるものの、中には体に突き刺さったものもあり、唸る。

 その隙に式は一瞬で間合いを殺し、魔神柱の体に張り巡らされた死の線を刀でなぞるように断ち切る。それが、魔神柱が初めて死の線を切られた瞬間であった。だが、それだけで殺すことはできない。

 

「これが、死か! これが、死か!」

 

 魔神柱は狂気の声を上げる。

 

「貴様の力はあってはならない、両儀式。これは永遠さえもを終わらせる力だ!」

 

 魔神柱の眼が輝く。瞬間、式の操る日本刀が爆ぜる。

 

「チッ!」

「これで終わりだ!」

 

 続く2射目が襲いかかる。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!」

 

 透き通る七枚の花弁が魔神柱と式を隔てるように咲き、押し寄せるビームのことごとくを受け止める。魔神柱の舌打ちが大きく響いた。

 空中から舞い降りてきた一本の刃が式の目前に突き立てられる。誰から送られた刀かも確認せず、式はそれを手に取る。

 

「危なかったな」

「ああ」

 

 魔神柱の眼がギョロリとエミヤに向いた。サポートに徹しているエミヤを先に仕留めなければならない、と理解したようだ。

 魔神柱はビームの掃射を開始した。逃げ場などなく蜘蛛の巣のように張り巡らせる。だが、エミヤは剣を飛ばし、蜘蛛の糸のような光線を断ち切っていく。

 

「無駄だ。私にそんなものは通じない」

 

 式は魔神柱に切りかかるが、シールドによって防がれ、魔力を逆噴射されて、吹き飛ばされる。猫のように素早く受け身を取る式に追撃がやってくるも、剣によって逸らされる。

 エミヤと式。剣製士と剣士。その組み合わせは誰の予想をも上回る立ち振る舞いをしていた。唯一のサーヴァントであるエミヤを支援に回すことで、式が暴風のように暴れまわる。防御も可能、攻撃も可能、固有結界は矛と盾を内在した万能の武器である。世界そのものが味方なのだから負けようがない。

 しかし、攻める手立てもなかった。多くの魔力を消耗した魔神柱だが、守り始めてしまえば傷を与えるのは難しい。一進一退であったが、お互いの魔力だけがジリジリと削られていた。

 

「なるほど。確かに攻撃が通じないようだ」

「どうした。降参するのか。ここで撤退するというなら、見逃してやってもいい」

「ハハハハハ。何を人間が! 笑わせる」

「おかしか?」

「気付いているだろう。お前たちの優勢はとっくに崩れ去っているのだと。もうお前たちはネタ切れだ」

「ほう、劣勢のようにも見えないがね」

「そうだ。だが、攻め切れないなら鎧を壊せばいい。守り切れないなら武器を壊せばいい」

 

 式はその言葉の意味を瞬時に理解する。魔神柱の体から魔力が溢れ始め、さらにその核心を強めた。

 攻守の双方に驚異的な支援をもたらしているのは固有結界に他ならない。世界に内包された無限の剣は、そのすべてがエミヤの思いのまま自由自在に駆けまわる。

 ならば先に世界を切り裂いてしまえばいい。魔神柱が言ったのはそういうことだ。それが道理であった。

 しかし、それもまたミツルの予想した通りである。固有結界を形成したならば、それを先に破壊しようとする。破壊するためには膨大な魔力を消費する。

 エミヤは驚愕の表情を浮かべていたが、フェイクであろう。しかし、予想通りならば破滅へ道から外れていないことを意味する。

 式は何か別の要因が必要なのだと理解していた。これ以上先に進めば死者が出る。道を外すのなら今しかない。

 式は地面を蹴って、一気に加速する。

 

「何をしている!?」

 

 エミヤが声を発したが、もう遅い。

 魔神柱の体からは、膨大な魔力が湧き出すように流れ始める。固有結界の破壊を始めるのだろう。式の動きを気にする素振りも見せない。

 魔神柱の眼が煌めいた。すると、同心円状の爆発が一瞬にして広がっていく。何処からともなく巨大な破裂音が響いたが、音速を超えたためであろう。巨大な光が何もかもを飲み込んでいく……ように思えた。

 その爆発を式は、殺した。

 音速を超えて迫る爆発を、音速を超えた一太刀によって一掃したのだ。常軌を逸した動きだった。人間の反射速度では対応できようもないはずであった。故に、式は魔神柱が攻撃を仕掛ける前には既に刀を振るっていたことになる。ただ自分の直観のみを信じ、未来予知のような力を体現していた。

 しかし、予定外の事態になった。ミツルの予知ではここで固有結界は破壊されなければならなかったのだ。だが、実際は大きなクレーターができた程度で、固有結界は依然として存在している。

 ここからの未来は白紙だった。

 

「貴様っ!」

 

 魔神柱が怒りの声を上げる。

 

「どこまで未来が視えている!? どうして我が一撃が殺せたのだ!?」

「もう、何も視えちゃいない。そもそも、視ていたのはオレじゃない。オレはただ感じただけだ。あるべき未来を」

 

 式はエミヤが頭を抱えているのに気付いた。

 

「なんて顔するんだ。まるでオレが悪事でも働いたみたいじゃないか」

「ある意味ではそうだろう。これからどうするつもりだ」

「倒すしかないだろ。だいたい、あのまま突き進んだところで活路はなかったんだ。どの道こうするしかなかった」

「ノープランときたか。まったく、呆れたものだ。君は野性的過ぎる。もっと理性的になったらどうだ」

「うるさい」

 

 二人は魔神柱に目を戻す。

 魔神柱の魔力は今ので大幅に減少しているハズだ。それに加え、まだ固有結界内部にいる。それでは先程と同様、攻める手立てがないから魔神柱は再び固有結界を破壊しにかかるだろう。それを防げるかは分からないが、さらに魔力を消費させることが可能だ。

 魔神柱は再び、ビームを放ち始める。理性的な判断を失っているのか、まるで暴風のように襲い来る奔流の破壊力は今まで以上である。地面を抉り通り道からは煙が上がるが、それでも勢いは削がれず式とエミヤをめがけて走る。

 式もエミヤも、防戦に徹するしかない。魔神柱の攻撃方針も何も分からない現状では、身動き一つが命取りになる。

 

「チッ!」

 

 魔神柱はその間に再び、溢れんばかりの魔力の放出を始める。

 

「……まさか、こうも早く。また固有結界を破壊をするつもりか」

「だろうな」

「もう一度、あれをする余裕はあるか?」

「また爆発を殺せってか? この包囲網の中じゃ無理だ」

 

 話してはいるものの、避けることに手一杯でとても攻勢に転じることはできない。

 

「できる限り投影でバックアップする」

「……はぁ」

 

 愚痴の一つも言いたくなった式であるが、顔の横を掠めて行く奔流があり声を出せない。しかし、エミヤはその沈黙を承諾と受け取ったようだ。式はもう一度心の中で溜息をついた。

 

「わかった」

 

 そう言った途端に、式は駆けた。式に同伴して、投影された剣が何十にも展開される。その剣は、接近する攻撃の尽くを弾き飛ばし、魔神柱への道を作った。

 隣で地面に穴が開き、土が舞い上がる。剣の砕ける音がする。それでも、横目も振らず、走り抜ける。

 

「ハハハ、気が狂ったか。エミヤ、それでは貴様の守りが手薄になる!」

 

 数多の投影の一つ一つを意識し、それぞれ生き物のように動かしているのだから当然だ。神経の大半は剣の制御に回し、自分を守り切る余力など残していない。

 式はそれも承知済みだった。切るのが先か、撃たれるのが先か。これは一種の賭けなのだ。エミヤが倒れれば、それは同時に式の死をも意味する。

 魔神柱は放つ砲弾を一気にエミヤに集中させた。

 エミヤは避ける他に手がなかった。投影を少しでも防御に回せば式が手薄になり、やられる。

 降り注ぐ流星群のような砲撃の雨の間を、エミヤは巧妙にくぐり抜けていく。

 しかし、限界だった。一発が脇腹を抉り、その部分がぽっかりと消えた。血が噴き出し、地が赤く染まる。

 同時に式の周りにあった投影された剣たちも消失していく。その隙を魔神柱は見逃さない。エミヤに向かっていたビームが矛先を変えて、式に飛んでくる。

 式は足を止めて、日本刀でその攻撃を防ぐ。襲いかかるその数に、対処するだけで何もできない。

 

 瞬間、再び魔神柱から光が迸った。

 地面が割れたかのような爆発音と共に、光何もかもを飲み込み始める。防ぐためには、爆発の前に爆発を切りにかからねばならなかったのだ。だから、光を見てからではもう遅い。

 先に太陽を思わせる白い光に包まれ、その後ろから音速で熱が迫る。

 

熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

 

 式の目の前には、血まみれになったエミヤがいた。花弁を思わせる盾が広がっている。だが、盾からは既に一枚、また一枚と花が散っていく。

 

「お前……」

「私はミスをしてしまったようだ。すまないね」

 

 エミヤは口から血を零した。そのまま内蔵ごと出ていくのではないか、という勢いだった。

 

「ああ、少し休んでろ」

 

 そして、固有結界が崩壊した。

 

 

 

 

「おかしいですね」

 

 浅上藤乃は呟いた。崩壊しかかっているビルの影で、魔神柱の出現に向けて待機したいた。

 

『そうね。予定ではもう固有結界が崩壊して魔神柱が姿を現すはず』

「向こうの方々に、何かあったということでしょうか?」

『おそらくね。確証はないけど。だから、ここからの戦いは白紙よ。大丈夫かしら?』

「ええ、問題ありません。建物の影から曲げるだけですし。それよりも、皆さんが心配です」

 

 そこに新たな通信が割り込んだ。ダ・ヴィンチだった。

 

『膨大な魔力反応を感知した。浅上藤乃。そろそろ来るようだから、任せたよ。頼んだ』

「はい」

 

 ドン、と音がした。

 空間にガラスでもあったみたいに空間がペリペリと剥がれ落ちた。そして突然の霧に包まれると、おぞましい魔神柱が姿を現した。




遅くなり申し訳ありません。「逆光」から2部の内容考察したり、色々したりしてました。
そろそろホントに終わりが近づいてますので、どうか温かい目で感想とか送ってもらえたら嬉しいです。
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