Fate/Grand Order -Overlap control-   作:外山紡司

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これを3話に予定していたのだから、どうにかしている。
どうか、楽しんでほしい。


9話:overlap control

 夜通し降り続いた雪は、朝焼けに溶かされるように雨に変わり、都市が動き始めるころになると止んだ。しかし次第に日は隠れ始め、今では都市にこびりつくような、べっとりした雲に覆われている。

 彼等の歩みを遮るものは何も現れなかった。藤丸たち4人は電車を乗り継いで、容易にD社の前に辿り着いた。

 敵意というものが感じられない。藤丸のサーヴァントで、対軍宝具、もしくは対城宝具を持つ者がいたらすぐさまD社は吹き飛ぶだろう。そんな想像をするとまるでビルが砂の城みたいに感じられる。

 もちろん、藤丸は宝具で建物ごと破壊するなどという無茶をするつもりはない。さらに敵側に控えているサーヴァントがいないわけだから、カルデアから戦力の補充すらしない。平和的な解決をするために来た。

 外を監視するカメラすら装着していないD社の様子は、Sが藤丸の行動を予測していると言わんばかりである。

いや、予測していたとしてもそれが当たる保証はない。ならば、「初めから知っているようだ」という表現が的確かもしれない。

 藤丸は黙って自動ドアの前まで歩いて行く。

 

「先輩……本当に行くのですか?」

 

 マシュが気にかけているのは前回のように藤丸に異変がないか、ということだ。その境界を越えてしまったら、また同じように苦しむことになるかも知れない。

 怪訝そうな顔をするマシュに、藤丸は微笑みかける。穏やかな顔であり、その裏には曲がりそうのない信念が見え隠れしている。

 そんな表情を見てしまったら、これ以上何か言うことなどできない。それに、藤丸が同行することにマシュは安心感を覚えてしまう。

 

「行きます」

 

 覚悟を決めて言った。

 藤丸が前に出ると当然のように扉が開いた。歓迎されているようだった。

 そして扉という境界の先に、藤丸は足を踏み入れた。

 

 そのとき、また訪れた。

 頭の中に砂嵐が走った。何もかもを吹き飛ばそうとする暴風が記憶も意思もめちゃめちゃに書き換えようとする。その中で、意識を飛ばされないように藤丸は何とかしがみついた。

 腹の底に黒い手のようなものが生まれ、胃を握り、食道を引き伸ばし、肺を捻るような錯覚に襲われ、やがて吐血した。

 床に黒い血だまりが広がる。

 

「先輩!」

 

 マシュは叫ぶも、藤丸は扉の前で見せたものと同じ微笑みを浮かべて見せる。そこには苦いものが混じっていたが、固い覚悟だけは確実に灯っていた。だから、それ以上、マシュに言うべきことはなかった。

 ロビーは前回のときと変化はほとんどなかった。ただ、その中心に長方形の黒い穴が開いていた。地下へと続く階段だった。

 

「やあ、諸君また会ったね」

 

 いつの間にか、部屋の隅にSが立っている。手を広げ、藤丸たちを歓迎するように歩いてきた。

 

「こんにちは」

 

 そう返答した藤丸は極めて冷静だった。一度経験済みだったからか、あの衝撃からの回復は早かった。

 

「それで、今日はどんなご用かな?」

「あなたの計画を止めるために来ました」

「私の計画を知っていると?」

「はい」

 

 Sは階段のあたりまでやって来ると、立ち止まった。小さく何かを呟くと、地下への階段に明かりが灯った。

 

「なるほど。まあ、立ち話も悪いからね。歩きながら話そうか。前回、地下の方は見せてなかっただろう?」

 

 Sは藤丸たちを手招きして呼んだ。マシュは不安げな表情を浮かべたが、付いて行くほかに選択肢はなかった。計画を止めるためにはSに穴を開けさせる必要があり、その前に倒すことはできない。Sが動くまで藤丸らは黙っているしかないのだ。

 

「行きましょう」

 

 と、マナが言う。その言葉に背中を押されるように、それぞれが地下への一歩を踏み出した。

 

 底が見えない、長い階段だった。真っすぐに地下に伸びており、曲がったりはしていない。そこを藤丸たちは歩いた。

 地下にはサーバ室があるとSは前回語っていた。しかし、そのサーバ室への道のりがこれほど労力の必要になるものであるとは考えにくい。ならば、正規のルートを辿っていないとも考えることができた。

 歩きながらSは話を進めた。

 

「君たちは聖晶石の生成方法を知っているか?」

「いえ、知りません」

「聖晶石は私が発見したものだ。20年ほど前に、事故のあった立体駐車場にてそれらしい結晶を観測した」

 

 ミツルの中で一つの恐れが湧き上がる。

 それはあの日の記憶だ。彼女を殺そうとしたときの、そして自分が死んだときの記憶だ。知る者はほとんどいない筈だった。誰にも話していない、記録にすら残っていない。では何故、Sは知っているのだ。

 

「それって……」

「そうだとも、ミツルくん。いや、倉密メルカ。君がまだ幼いころ、君はそこに爆弾を仕掛けたハズだ。未来をカタチにして誰かを殺そうと画策していたハズだ」

 

 当時ミツルは「倉密メルカ」と名乗る爆弾魔だった。未来を視てその未来を確定させることができる、という能力は爆弾という兵器と相性が良かった。

あるとき倉密は犯行の最中、女性に顔を見られた。だから、その女性を消すために暗躍し、その立体駐車場で彼女を殺す未来を視た。

 

「しかし、失敗した。彼女、両儀式に『確定された未来』を殺されたからだ。そうだろう?」

「ああ。そうだ」

 

 ミツルはそのときに救われたのだ。確定された未来から救われた。その恩人がマナの母である両儀式であった。

 マナとの出会いも、その事件が関係している。

 

「未来が確定するということは、本来あるハズだった未来の広がりを一点に収束させることに他ならない。世界線の枝分かれを束ねる紐を君の目は作り出し、両儀式はその紐を断ち切った」

 

 マシュは何かに気付いたように、目を見開いた。

 

「では、その紐が『未来を確定する概念』だと?」

「そうだ。断ち切られたことで、紐の残骸はこの空間に姿を現した。それを私は見つけた。私の研究成果は拾いものが多いのだよ」

 

 聖晶石は“未来を確定する概念”の結晶体である。

 聖晶石を生成するためには、何かによって未来を束縛する必要があるらしい。その束縛は概念として昇華され、その概念を無視して未来が広がったときにその概念は行き場を失って空間に結晶として出現する。Sの説明によるとそういうことらしい。

 

「つまり、あなたが聖晶石を生成することができるということは、未来を確定できる力を持っているということですね」

 

 冗長な会話を終わらせるべく、核心に近づく一手を藤丸は言う。

 

「ほう。そこを突いてくるとは、本当に私の計画を知っているのかな。いや、エミヤが何か話したか」

「知ってますよ。あなたは他の世界線を管理することで、この世から可能性を消し去るつもりだ」

「ふむ」

 

 Sは肯定か否定か、どちらとも取れない頷きを見せただけだった。

 

「あなたは聖杯によって開いた穴から、世界の外側に手を伸ばし書き換えをする。その為の起点がこのD社という空間だろう。全世界線におけるD社という空間を一つにまとめ、書き換え可能な環境を作り上げる」

「それで、聖晶石を作る要領で未来の書き換えを行う、か」

「そうだ」

 

 藤丸の額には少量の汗が滲んでいた。

 

「おしい、かな。第一、聖晶石を作る段階でどのように確定をしているのか、君たちは知らないだろう」

 

 その通りだ、と藤丸は頷く。

 

「魔術の結果が科学によっても達成できるのならば、あらゆる魔術的な概念は科学によっても記述可能でなければならない。まあ、これが成り立つと仮定しよう。では多世界解釈を科学においての何になるか。分かるだろう、ダ・ヴィンチ氏」

 

 この場にいない筈のダ・ヴィンチに向かってSは話しかける。

 

『量子論、だろう? きみは馬鹿にしているのかい?』

「そうだ、量子力学だ。粒子の位置は観測するまで分からない。その粒子の不確定性が可能性となって、多世界を生み出す。すべての可能性は重なり合って存在している」

 

 科学に疎い藤丸は、頭を傾げることしかできない。

 魔術における結果が科学によっても達成し得ることは知っている。しかし、量子力学という分野はさっぱりだ。

 

「どういうことですか?」

 

 藤丸は尋ねる。

 

「そうだね、『シュレーディンガーの猫』の話は聞いたことがあるだろう。ランダムに毒ガスを噴射する箱の中に猫を投げ入れて、この猫は現在、生きているのか死んでいるのか。端的に説明するとそんな思考実験だ。

 解釈はいろいろある。例えば、コペンハーゲンの解釈だと箱を開くまで猫は死と生が重なり合わさった状態ということになる。箱を開け、人間が観測したとき初めて粒子の位置が収束し、死んだ猫もしくは生きた猫が姿を現す。そういった、人間が観測する、という事象が重要になる立場だ。

 しかし、多世界解釈は違う。多世界解釈だと猫が箱の中に入った時点で、世界線が分岐するんだ。猫が生きる世界線と死ぬ世界線の二つに。そして、開けてみるまで自分がどちらの世界線に分岐したのかは分からない。

 どちらの解釈も、量子力学が古典力学のように、数値を決めてしまえば出力が得られる、という関係に当てはまらないことを意味している。まあ、正しい解釈は魔術の裏付けがある、多世界解釈だろうね。

 それで、だ。些細な違いなのだけどね。私の計画はこの量子論を破壊することだ」

 

 藤丸はそれがどういうことなのか理解できなかった。しかし、礼装を通じて、ダ・ヴィンチの息を飲む声が聞こえる。

 

『それは……もしかして……』

「気付いたようだね。ダ・ヴィンチ氏」

『いや、そんなことができるわけがないだろう! それは世界線管理などというものじゃない。()()()()()()()()()()()()()()に他ならない!』

 

 ダ・ヴィンチの叫び声だけが、階段に響いた。

 

「そうだ。私は世界の摂理そのものを変える。粒子の不確定性そのものを破壊する。箱に猫を入れたところで結末は揺らがない」

 

 それで藤丸はようやく理解できた。

 Sの計画は他の世界線の管理を行うものではない。数多存在する世界線が一本になるように強引にまとめ上げる。そのように世界の秩序自体を書き換えることで、可能性を排除する。

 

「神にでもなったつもりか!」

 

 ミツルは言った。

 

「いや、神は『摂理』だ。そうだな、私は神の創造主になろう」

 

 ふざけた話である。人が救われない可能性を排除するために、自然の摂理を書き換える。一本の道に人類を固定して、制御する。

 しかし、それが可能ならば、不幸がでない選択肢だけを選んでいけるならば、皆が救われるのだ。

 会話をしている間に扉が迫っていた。

 白い扉だった。取り付けられた窓からは、室内が暗いことを確認できる。

 Sはドアノブを回し、躊躇なく入っていく。

 

「さあ、ここから始めよう。新しい世界の始まりだ」

 

 センサーに反応したのか、自動的に電灯がついた。白い病室を思わせる部屋の中の真ん中に一つの台が置かれている。

 

「どうするつもりだ」

 

 藤丸は力を込めた言葉で訊いた。

 

「計画を実行するのだよ。君たちは『世界線管理』と呼んでいたが、『世界線統合』と呼ぶ方がふさわしい。とにかくそれを実行するのさ」

『いや、そんなことができるはずがない。仮にどうにかして魔術理論を構築できたとしても、それほどの量の演算をすることができるはずがない』

 

 Sは笑って質問を吹き飛ばす。

 

「さっきも言ったが、私の研究成果には拾いものが多いのだよ。わたしはかつてある研究成果を拾った」

 

 拾い物。それをすることができる機会を昨日の会議時に藤丸たちは見ている。そのことに、ミツルは気付いた。

 

「“遺品回収”か」

 

 ミツルは言った。

 

「そうだ」

 

 恐ろしいものが駆け抜けた気がした。自分たちの相手にしているものが、見た目以上に巨大なものであるような影だけが遠くに見える。そんな気がする。

 ダ・ヴィンチはすぐに検索を開始する。

 

『1999年の東京、もっと広く日本に魔術協会から逃げ出してきた人物。そして死亡が確認された人物……荒耶宗蓮か。違う。なら他に……』

 

 ダ・ヴィンチは大量のデータを読み込んでいく。そして、ある結論に辿り着いた。

 

『いや……まさか……玄霧皐月』

「ダヴィンチちゃん! それは誰なんです」

 

 先程から話についていけてなかった藤丸が声を上げる。藤丸が一つだけ把握していたことは、自分たちの予想とは違う、地獄の淵へと事態が進行しているということ。

 震えているダ・ヴィンチの声音が藤丸の背筋を鋭く刺激した。

 

『平たく言ってしまえば、一つの言語から神代の言語に辿り着いた天才だ。かつて、バベルの塔が崩壊する以前、全ての言語は一つだった。それを神はバラバラに分解した。そして分解された一つの断片のみから、玄霧皐月はバベル以前の言語を会得して見せたんだ。

 統一言語“マスター・オブ・バベル”。ああ、それを使えば可能だろうね。統一言語は世界に直接語り掛けることができる言語だ』

 

 統一言語を使えば、世界に直接命令を下すことができる。それは分かったのだが藤丸は納得できない。どうして、それで演算の問題が解決するのかが。

 Sはその結論を導けるとは思ってもいなかったので驚きの表情を笑みの中に混ぜた。

 

「そうだ。私は彼の遺品を回収した。その中に一つの研究成果を見つけた。玄霧皐月は『語る』ことができる魔術師だった。しかし、言葉があれば文字にすることだってできる。彼は文字列を使うことで、統一言語を表現することを試みて、成功していたのだ」

 

「だからと言って、それをどう利用すると……」

 

 そう藤丸が問いかけるのをダ・ヴィンチが遮る。

 

『藤丸くん! どうしてリンゴは木から落ちるのだと思う? 万有引力があって、リンゴがあって。しかし、その重力とその後の運動を、誰が計算しているのだと思う?』

 

 藤丸はハッと息を飲んだ。

 

「世界そのもの……か?」

『そうだ。言語を文字列として記述可能にしたということは、演算量と演算速度が無限のコンピュータのプログラミング言語を手に入れたことと同意だ。つまり世界を使った演算、“世界演算”によって世界線統合を達成するつもりだ』

 

 計画の手順がようやく分かった藤丸は、視線をSに向ける。

 恐ろしかった。まるで、体が動かなかった。

ただ薄笑いを浮かべるだけの顔の下に、それほどのものが眠っていようとは誰が想像できただろう。

 

「Command : Stop」

 

 Sは小さく呟いた。なんとなく唱えられた一言。

 そのとき世界が止まった。いや、藤丸たちの体が動かなくなった。

そんな中、Sは悠然と歩いている。

理屈はすぐに分かった。統一言語を用いて、藤丸たちを空間に固定したか、脳からの命令を固定したか。とにかくこれが“マスター・オブ・バベル”の力だった。

 

「凄いじゃないか。これで、解決編はほとんど終わった。では実行に移すとしよう」

 

 言葉に反して、Sは苦い顔つきだった。

 誰だ、あれは。Sとは誰だ。とても、知っていた人間には思えなかった。

 きっと、誰に明かすこともなく、Sは内なる炎を静かに燃やしていたのだ。ただ一人で、人々を救うための灯を心に宿していたのだ。それをやっと、垣間見ることができた。

 それは「S」などという記号ではなく、どこにでもある人の顔だった。

 

『だが、統一言語を用いたとして、君は私たちには勝てない』

「そうか、君はまだ話せるか」

『その能力は明らかに戦闘向きではないだろう。サーヴァントに勝てるはずがない。それでも実行しようというのかい? 実行してしまえば、君の敗北は確定するだろう。

 それに、私にはそのコマンドが効かないということは、その空間だけのものだ。しかし、それだけ内と外を隔てる程の結界魔術をきみが知るはずがない。他にだれの協力を得ている?』

 

 Sはまだ笑みを浮かべた。もう結末は決まっていると言うかのように。

 

「君たちはまだ、二つの思い違いをしている。

 一つ、D社はビルではなく魔神柱そのものだ。私たちは協力することで、世界を救うことにした。魔神柱の力でD社は複数の世界線とリンクすることができた。藤丸くんが立ち入ったときに強く感じた衝撃はそれによるものだろう。

 二つ、全ての世界線に共通して存在する概念としてD社を使用すると思っているようだが、それは違う。第一、D社が全ての世界線に存在するなどと誰が分かるだろう?」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。しかし、すぐに思考を戻し、考えることに努める。

 そして、ダ・ヴィンチは何かの決定的な見落としをしていることに気付き始めた。

魔神柱がどこかに潜んでいることは想定内だった。それがD社自体であることも驚くほどのことではない。そしてSの計画が“世界線統合”だったとしても、外世界を管理するのか、世界線を一つに縫い合わせるのか、という違いだけである。

 他の世界線を扱う上で、その世界線に存在する概念を起点とする必要だ。それは他世界線の座標の特定をしなければ、操作できないためである。計画上全ての編纂事象を扱うため、全ての編纂に共通して存在している概念を利用する必要があるだろう。

 では、何を利用するのか。D社のようにSの身近にあるもの以外で、確固として「必ず存在する」と言い切れるものは何なのか。他に何か切り札を隠しているのか。それとも。

 

 そこまで考えたとき思考が止まった。その先に行ってはならないと本能が言っていた。それを知ってしまったら、希望はなくなる、と。

 しかし、礼装を通じて、その少年の画像が画面に映し出された。体を動かすことさえままならない、無垢な少年の姿が。

 目を開くしかない。希望が潰えたとしても、先に進み続けるしかない。

 まだ、世界に可能性は残されているのだから。

 

『……()()()()、か』

 

 フフッ、と笑い声がSの口から漏れた。何を思ったのだろう。楽しんでいるようでもなく、狂ったようでもない。

 冷徹な目線を、ダ・ヴィンチがモニタする礼装に向かって投げかける。

 

「そうだ」

 

 藤丸は何かを言おうとしたらしかったが、硬直しており声にならない。

 

『人理焼却を防ぐためには、正当な魔術師ではだめだった。藤丸くん、いや、48番目のカルデアのマスターの存在が不可欠だった。違うかい?』

 

 否定を求めて発せられたその問いを、Sは軽々しく肯定する。

 

「その通りだ。さすが天才、といったところかな。“現在”の編纂が存在するには2016年に行われた“逆行運河・創世光年”を阻止していることが条件となる。その為には48番目という存在が不可欠だった。本来、人員の埋め合わせとして存在していた、そして期待などされていなかったカルデア48番目のマスターが。どの世界線においても世界を救ったのは48番目だ。

 つまり“現在”が存在する為にはすべての世界線において48番目という存在が世界に誕生しなければならなかった。

 断じて“藤丸立香”ではない。容姿は似ていたが、どの世界線においても名前や性格は異なっていた。性別が違うときだって少なくなかった。つまり、誰でも良かったのだ。48番目でさえすれば」

『だから、カルデア48番目のマスターという概念を中心に全ての世界線を融合させる。そういうことかい!』

 

 Sは微笑んだ。その笑みだけで、解答としては十分だった。

 Sは聖杯が完成して、起動できなかったわけではない。待っていたのだ。藤丸立花、48番目という存在がD社に訪れる瞬間を。

 つまり、藤丸がD社に訪れた時点で、敗北は決まっていたのだ。

 Sは部屋の中心に置かれた台の方へと歩き始める。静かに、しかし確実に。足音だけが、小さく反響した。Sは両腕を広げ、風を真正面から受け止めるように、歩いた。

 それにより、広がって見えた背中には、とてつもなく大きいものが乗っかっているようだった。

 

「Command : Overlap Control」

 

 Sは噛み締めるように告げた。

 それが、幕開けの合図となった。

 




 どうだったでしょうか。
 サブタイトルと展開から最終話の接近を感じている方も多いかと思いますが、「あくまで中盤」です。
 しかし、ここを一つの目標として書いてきました。SFめいた設定とか、「空の境界読んでないと玄霧先生のこと分からんだろ!」とか、「説明し過ぎだ!」とか色々文句もあるかと思います。
 もしも、楽しんでいただけたなら幸いです。
 面白かったら感想とかに「よくやった」とでも書いていただけると励みになります。
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