バカが女体で恋をする   作:にと‪ ꪔ̤

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筋肉シリーズが煮詰まっていて、気分転換に…と書き出した結果です。反省はしておりますが後悔はしておりません。


吉井明久は女体を堪能する。

「んん…」

 

ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりで目を覚ます。

カーテンを開ければ、眩しい日差しがさんさんと照りつけていた。…うん、爽やかな良い朝だ。

少し体が重たい気もするけど、僕にしては珍しく目覚めが良く、気分も清々しいものだった。こんなに気持ちの良い朝は何日…いや何週間ぶりだろう。

ぐーっ、とベッドの上で軽く伸びをしてから下りる。

…何だかいつもより部屋の本棚やらが大きく見えるような…?……まぁ、気のせいだろう。まだちょっと寝ぼけているんだ、うん。胸の中にじわじわ広がる不安と違和感を抑えつけつつ、寝ぼけた頭でも冷やそうと洗面台に向かう。

そうして鏡に映ったのは、

 

「…へ?」

 

何処か見覚えのある、美少女だった。

 

自分のほっぺたを抓る。鏡に映る美少女の頬が抓られている。軽く自分の頭を叩けば、その美少女も頭を叩く。

 

「…もしかして、僕?」

 

いつもより甲高い声が辺りに響く。キョロキョロと辺りを見回しても誰も居ない。

鏡の美少女も慌てたように辺りを見ている。…うん、信じたくはないけどこれは、

 

「◯▲■※●□!?!?!?」

 

 

…どうやら僕は、世に言う“女体化”というものをしてしまったらしい。

 

            ☆

 

どういう原理でこんなことに…。

はぁ、とため息を吐きつつ、再度鏡に映る自分を見つめる。

栗色の髪の毛は背中の真ん中辺りまで伸びていて、目はいつも見るより、大きくてぱっちりしているし、睫毛も心なしか長くなっている気がする。パジャマがぶかぶかで丈がかなり余っているところを見ると、背もだいぶ縮んでいるみたいだ。ずり落ちそうな襟元を慌てて直すと、今までは無かった柔らかな膨らみに触れる。

 

「くぁwせふpじこ!?!?!!?」

 

もしかしてこれが、これが俗に言うお、おおおっぱいというやつでは…!?!?

 

そろそろと胸元に手を伸ばし、おそるおそるその膨らみに触れてみる。

……おぉ……。

膨らみは確かにある。あまり大きくはないけれど、明らかに男の固い胸板じゃなくて柔らかい膨らみが。せっかくだからと下から揉んでみたりしてさわり心地をしっかりとかみしめる。

……はぁ……まさかこの僕が女子の胸を触る機会が来るなんて……って揉み心地を堪能してる場合じゃない!今日はまだ水曜日、学校だって普通にあるんだ…どうしよう!

鼻から出ている赤い液体(断じて鼻血ではない)を慌てて拭い、()()()にメールを打った。この現状を、何とかしてもらうために。

 

           ☆

 

ピーンポーン……

 

ソファーに座っていると、慣れたチャイムの音がした。

はやる気持ちを抑えつけ、玄関のドアを開ける。

 

「はーい」

「…間違えました」

「待てやコラ」

 

ドアを閉めようとする、赤い髪をたてがみのように逆立てたガタイの良い男…もとい坂本雄二の手首を握る。

ゴツゴツとした手の感触、それから野性味溢れる、まるでゴリラみたいな顔を見ていると、何だか昂ぶっていた気分も引いてきた。

 

「やっぱり不細工(雄二)を見ると落ち着くね…」

「その失礼な物言いはてめえしかいねえな、明久」

「失礼だなんて、僕は事実しか言ってないよ」

「表出ろコラ」

「やだぁ~坂本君こわぁ~い」

「気持ち悪」

「ハッ倒すぞ」

 

全く…こんな美少女相手になんて態度だ、コイツめ。

 

「…にしても…()()不細工が随分化けたもんだな」

「失礼な!僕は雄二と違って何処からどう見ても美少年だから美少女になれたんだよ!!」

()少年の間違いだろ」

「そんなことないやいっ!」

 

…多分。

 

「まぁ、明久が不細工なのは今に始まったことじゃないしな………とりあえず、本当に明久なんだな?」

「不細工には凄く意義を立てたいけど…。うん、僕だよ」

「…心当たりは」

「ないね」

「……とりあえず学校に連絡入れるぞ」

「え、学校に?」

「お前、何の連絡も入れずに学校に行く気か?」

「あ…それもそうだね。…えーっと…学校の番号はっと…」

「繫がったら俺と代われよ、お前声も違うだろ」

「あ、うん。そうだね。………はい」

 

文月学園と繋げた受話器を雄二に渡す。こういったことに慣れていないのか、雄二は少しやりにくそうに電話に出た。

 

「もしもし、坂本ですが」

『…何を企んでいる?』

「げっ、鉄人」

『西村先生と呼べ。…で、何の用だ?』

「あー…実は明久が女になってだな」

『ほう、悪戯とは良い度胸だな』

「信じられないのはわかるが本当だ。今から明久を学校に連れて行くから、その目で確かめてみるといい」

『…………………わかった。……だがもし嘘だった場合は……わかっているな?』

「上等だ!補習でも鉄拳でも、いくらでも明久が受けてやらぁ!!」

「何で僕!?」

『とにかくさっさと来い』

「へーい」

 

雄二が受話器を雑に置く。

いつの間にか僕が補習とか鉄拳制裁を受けるはめになってるし、災難でしかない。何勝手に僕一人押し付けてんだ馬鹿。

…というか、この体で補習はともかく鉄拳制裁はかなりヤバいんじゃ!?

 

「ちょっと雄二!」

「何だ明久、そんなに慌てて」

「ねえ僕今女の子なんだけど!?補習はともかく鉄拳制裁は酷くない!?!?」

「嘘じゃないんだから何ら問題ないだろ」

「あ、そっか」

「それより服着替えろ、お前パジャマで学校行く気か?」

「ハイハイ」

 

雄二にそう言われ、服を取りに一度部屋まで戻る。

それにしても、パジャマでもこんなにぶかぶかとなると制服もかなりぶかぶかなんじゃないだろうか。

今後男に戻る可能性も加味すると、制服に下手な折り跡が出来るのは避けたいよなぁ…。

まあ、ジャージを捲って着るのが一番だろう。

そう思い、タンスから綺麗に畳まれた体操着一式を取り出して目の前に置く。

さて、後は…

 

 

「色即是空…空即是色…!!」

 

 

この煩悩を消し去るだけだ。

 

            ☆

 

「ったくお前のせいで遅刻ギリギリだ馬鹿!!」

「ご、ごめんって雄二!」

 

二人してジャージ姿で急勾配の坂を駆け上がる。

一応、僕も今日は早く起きていたし、雄二が来たのも遅い時間じゃなかった。勿論、僕の家から文月学園が遠いわけでもない。なのに何故遅刻しそうになっているかって?

…あの着替えは結局僕だけでは為し得ず、大変不本意(強調)ではあるが、ほとんど雄二にやってもらったのだ。

ちなみに雄二がジャージ姿なのは、僕の鮮血を浴びたからである。

いやあ…前に、何かあったらすぐに使え、とムッツリーニに貰った輸血パックがあって良かった。あれが無ければ、今頃僕は病院で目を覚ましていただろう。

急勾配もそろそろ終わりが見えてきた。

見慣れた校門付近には、浅黒い肌にゴツい体格をした鉄人、別名西村宗一先生が立っている。

あちらも僕達に気付いたようで、露骨に顔をしかめた。

 

「…おはよう、坂本。…横の女生徒は」

「如何にも、明久だ」

「おはようございます、鉄人」

「西村先生と呼べ」

「あいたっ」

 

はぁ、と深くため息をついた後に僕を軽くデコピンする鉄人。

いつもならチョップかグーパンが飛んでくるというのに…!これが女子の特権ってやつか!?

 

「…確かに面影は十分過ぎるほどあるが…本当に吉井か?」

「明久、三角形の面積の求め方は?」

「へ?底辺×高さでしょ」

「それは四角形だ馬鹿」

「…はぁ…疑って悪かったな」

「ええ!?!?今ので納得するの!?!?」

 

ちょっと頭が回ってないだけでいつもならちゃんと答えられるのに!こんなの僕が納得いかない!!

 

「とりあえず教室に行って来い、先生方には俺から伝えておこう」

 

シッシッ、と手で追い払われる僕達。

全く、人の扱いが荒い教師め。

やれやれと肩をすくめていれば、スタスタと雄二が早足で歩き出した。

 

「待ってよ雄二!」

「誰が待つか馬鹿!お前と一緒にいたら俺が処刑されるだろ!!」

 

…おぉ、言われてみれば。

 

「まあ、いいじゃん。僕だって分かれば皆処刑を止めるって」

「ならいいんだがな…アイツら話聞かねえし…」

「あぁ…」

 

疲れた顔で額を抑える雄二に同情する。

僕も別に悪いことはしてないけど、罪悪感があるというか。

 

「…ま、弁明には付き合うよ」

「当然だ」

 

ふん、と鼻をならしてから、僕に合わせてか、歩くスピードを緩める雄二。

優しいとこあるじゃん、なんて言わないけど。

 

「ふふっ」

「何だ、気色悪ぃな」

「何でもなーいっ!」

 

ニヤニヤと笑いながら、そっぽを向く雄二の隣に並んで歩いた。

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