「まったく、酷いわ信二。私を炎で焼くなんて」
輝夜が信二に愚痴る。今は永遠亭で夕食をとっている。輝夜は先程のことを嘆いているようだ。
「悪かったって。でもちゃんと加減したからそんな熱く無かっただろ?」
「全然、凄く熱かったわ。私が蓬莱人だから良かったものを、蓬莱人じゃ無かったらどうしてるのよ…」
「それでも大丈夫だよ。俺が本気でやってたら今頃輝夜丸焦げになってたぜ?」
「本当かしら…」
「姫も気をつけてくださいね。信二が居なかったら今ここに優曇華院がいなかったかもしれないんですから」
「えぇ。反省しているわよ。もうあんなことにならないように気をつけながら殺し合うわ」
「殺し合うのは辞めないのか。鈴仙もなんか言ってやれ。危ないから辞めろってな」
「わ、私はもう気にしてないですから…」
「ていうか信二も馬鹿だよね。ヒメサマたちをお仕置きして自分の傷口が開いちゃうんだから」
「全くよ。医師としては褒められた行為ではないわ」
「まぁまぁ。そこまで深く開いてないから。誤差の範囲だよ」
「なんの誤差よ。姫達のお仕置きなら私がやるのに」
「「ビクッ」」
その言葉に輝夜が反応する。…何故か関係の無い鈴仙まで…。
「まぁおそらく信二は明日には退院出来るでしょうね。恐ろしい回復力だわ」
「シンジは本当に人間か?」
「失礼だなてゐ。れっきとした人間だよ」
「私としては結構本気で撃った弾幕が簡単にかき消されたのが納得いかないわ。私別に弱い訳では無いわよ?」
「そりゃ毎日命のやり取りをしていたからな。自然と強くなるさ」
「随分と重いことをあっさり言うわね…」
そんなやり取りをしながら箸を進めていく。やはり他の人と食べるとより美味しく感じる。また明日検診をしてみて退院するかどうかが決まるらしい。…まぁほぼ退院出来ると永琳さんは言ってたが…。自分で言うのもあれだが不死鳥の二つ名は伊達では無いな。
「ふぅー…」
今俺は一人縁側で空を見ている。今夜は月が良く見えて綺麗だ。
「そこにいるのは信二かしら?」
「ん?ああ、輝夜か。どうした?こんな夜中に?」
「すこし目が冴えてしまってね。信二こそ。一人で何をしているの?」
「月を見てたのさ。今夜は月が綺麗だろ?」
「…確かにそうね。とても綺麗だわ…」
月を見る輝夜の顔はどこか悲しげだった。
「…輝夜は月を追い出された事を後悔してないって言ってたよな?」
「えぇ、そうよ」
「それは本当か?」
「……そうね。完全にないと言えば嘘になるわ。だって自分が生まれた故郷ですもの。恋しくなることだってあるわ。でも…幻想郷に来たことも後悔はしてないわ」
そう言いながらこちらを笑顔で見てくる輝夜。…正直言って今の輝夜はかなり可愛い。月明かりに照らされた儚い美女だ。
「…そうか。まぁ、それならいいんじゃないか?後悔しない道を歩めてるなら。…俺は後悔だらけだったから…」
苦笑いしながらいう俺。
「…大丈夫よ。例え後悔したって今が楽しければ…。後悔しない道の方が少ないんだもの」
「…強いんだな、輝夜は」
「そうでもないわよ。ただ長く生きてきてそれが一番いいと思っただけよ」
「ふ、そうか」
「ええ。…それじゃあ私は寝るわね。お話楽しかったわ」
「ああ、おやすみ輝夜」
「おやすみなさい、信二」
そして輝夜は自分の寝室に戻っていった。
「ふぅー、さて俺も寝るか」
俺もだいぶ夜遅くなってきたので寝ることにした。明日も寝すぎて朝の検診が出来なかったら永琳さんにお仕置きされそうだしな。
(…今が楽しければそれでいい…か)
俺は先程輝夜が言った言葉が妙に頭に残っていた。
「うん、ほとんど治ってるわね。これなら退院出来るわ」
朝の検診。永琳さんから退院の言葉を言われた。
「食後にこの薬と入浴後にこの塗り薬を塗ってね。治りが早くなるから」
「はい、ありがとうございます」
「帰りは優曇華院が送ってくから心配しなくていいわ」
「いやー、至れり尽くせりで悪いですね」
「いいのよ、気にしなくて。姫もあなたのこと気に入ってるし」
「そうなんですか?」
「あそこまで人間に興味を持つなんて無いもの」
「そうですか…なんか、光栄ですね」
「ええ、全くよ」
「…それじゃあ俺は行きますね。ありがとうございました」
「また遊びにいらっしゃい。姫も喜ぶわ」
「はい。また今度」
そう言い永琳さん、途中で輝夜とてゐに別れを言って俺は永遠亭をあとにする。
「では、ここの道をまっすぐ行くと外に出られますので。そこを左に行けば博麗神社です」
「ああ、鈴仙もありがとうな」
「いえ、こちらこそ。助けて貰って、ありがとうございました」
「どういたしまして。…あ、そうだ鈴仙」
「はい、なんですか…」
俺は鈴仙が振り返ると同時に目を合わせる。
「っ!ダメ!信二さ…」
「大丈夫だよ鈴仙。俺は狂気にのまれたりなんかはしない」
「え?」
俺は朝検診を受ける前に永琳さんから鈴仙が目を合わせたがらない理由を聞いていた。
「俺が元いた世界では鈴仙の様な能力を持つ敵もいた。だから俺はそれを効かなくなるくらい精神力を鍛えたんだ。だから、俺とは目を合わせても大丈夫だよ」
俺は鈴仙の目を見ながら優しく微笑む。
「…まったく、信二さんは規格外ですね。それに優しい。ありがとうございます」
鈴仙の目には少し涙が見える。人と目を合わせないことは鈴仙にとってもストレスになっていたようだ。
「じゃあね鈴仙。また来るよ」
「ええ、待ってます」
そして鈴仙と別れたあと、俺は博麗神社を目指した。