『あったぞ、これだ!』
ついに見つかってしまった。守りの要の結界。それらを強固なものにしている御札が。
天狗の声を聞いた四人は戦慄する。これまでの戦いで確実に天狗は減っている。残すところ後数百といったところか。しかしそれは守矢神社の欠損を気にしなくて良かったための戦績であって、もしここで御札が剥がされるーーつまりは結界が破られたら一気に形勢が逆転する。
そのため絶対に剥がされてはならない。ここまで来て全てが水の泡になったなぞ受け入れられる筈がない。……特に早苗には。
『これを剥がせばいいのね』
天狗が御札に手を伸ばし剥がそうとする。
『っ?!剥がれない!』
しかし御札が簡単に剥がれない。これはもしもの時の為に霊夢がとっていた策。霊夢以外の者が御札を剥がそうとすると急激に固くなる。自信家でずぶとい霊夢も流石に御札に何も細工をしないのは危険と判断した。
だがそれも緊急の時のための措置。あくまで予想外の状況になった時に一時的に凌ぐ手段でしかない。つまりは長くは持たない。
けどその稼いだ数秒。されども数秒、ギリギリのところで天狗の前に人形が現れる。
「そこをどきなさい!」
アリスの人形の攻撃が刺さる。ギリギリのところで耐え忍んだ。
「ナイスだアリス!」
なんとか最悪の事態は避けられた。だが御札の場所がバレたためこれから天狗総出でかかってくるだろう。
「ここは私に任せて。2人は少しでも多く倒してちょうだい」
アリスが御札の前に立ち守護をする。アリスの人形なら多方面からの攻撃でも対処しやすいだろう。魔理沙と早苗は撹乱するように移動しながら攻撃を続ける。また他の御札に気づいている天狗がいないかも確認しながら移動する。あのようなことがあったのだ、嫌でも注意する。
一部危ういところもあったがそれも上手く対応できている。敵の数も減っており、霊夢達もまだ余力がある。根本的な異変解決はともかく、このまま行けば戦闘は霊夢達の勝利だろう。
…………このまま行けばの話だが。
(なんでかしら、無性に嫌な予感がする…)
霊夢が1人言いようのない不安を抱えながら戦っていた。
そんな時である。
「っ、なんだ?!」
突如として結界が乱れた。基本攻撃を受けた時にしか目に見えなかった結界が今波を打つように揺れている。
「まさか御札が!」
「剥がされたんですか?!」
そんな馬鹿な…。3人とも注意深く観察していたしそのような素振りを見せた天狗もいなかった。
「………そこ」
文と戦っている最中に霊夢がある一点を攻撃する。そこには何も無く、誰もいない。
しかし、土煙が晴れると同時に皆は目を丸くした。
「…やれやれ、荒っぽいじゃないか霊夢」
「お前、にとりか!」
叫ぶ魔理沙。そう、御札を剥がし結界を弱めたのは河童のにとり。光学迷彩を羽織り音も立てずに御札を剥がしていた。何故誰も気づかなかったのにも説明がつく。
「なんでお前がここに居る!」
にとりに攻撃しながら接近する魔理沙。それをひらりと躱し距離を置く。
「残念だけど、この戦いには河童も参戦する。悪く思わないでくれよ」
「なんで河童が天狗達の助太刀をするのよ!」
「簡単に言えば契約さ。それだけ言えばわかるだろう」
にとりのその言葉をきっかけに次々と河童が現れる。全員が迷彩で隠れていたのだろう。数は天狗に比べかなり劣るがそれでも百人ほどは居るだろう。
流石にこの展開は読んでいなかった。魔理沙達は苦虫を噛み潰したよう表情になる。無理もない。既に満身創痍なのだ、この期に及んで援軍なぞたまったものではない。
「文、ちょっと歯ァ食いしばりなさい」
「……仕方ないですね」
結界が弱まったことで一気に窮地に追い込まれたため、文が霊夢にわざとやられる。文が足止めなぞしている余裕はないのだ。
「夢想天生」
霊夢はすかさず自身最大のスペルを発動する。一息に蹴散らすつもりだろう。
「おい霊夢、間違っても結界に当てんなよ!」
「そんなヘマするわけないでしょ!」
今力が弱まった結界に霊夢の本気の一撃が飛んできたら耐えられなだろう。もし仮に耐えたとしても、最早結界としての能力が機能しない。そのため霊夢は結界に弾幕を当てない立ち回りが必要になってくる。
だがそれはかなりの精神力を使う。夢想天生はただえさえ攻撃範囲の広い技。それを結界には当てずに敵にだけピンポイントで当てるのは霊夢でも骨が折れる。
結界が弱まり、河童達の予期せぬ援軍が来ようとも霊夢らは奮闘する。誰一人として諦めた者はいない。
……けど、それでも。
「っ…、また結界が…!」
現実は残酷なもの。さらに結界の力が弱まる。また誰かが御札を剥がしたのか。いや、それだけではない。これまでの天狗の攻撃、援軍の河童の攻撃、自分達の流れ弾。それらを受け止め続けたのだ、自然と力が弱るなるのも道理と言える。
「いい加減……どいて下さい!」
早苗はとっくに限界を迎えていた。肉体的にも精神的にも。けれども立ち止まらない、いや、立ち止まれない。今もなおボロボロになりながら戦っている。その目には自身が気づかないうちに涙を流していた。その涙は痛いから流したのか、苦しいから流したのか。……そうではない。それは自らの無力さを嘆くもの。何故自分はこんなにも弱いのだと叫ぶ涙。大切なものも守れないのかと自分を責める悲しい涙。
そんな早苗の想いをさらに踏み潰す現実。ついに結界にヒビが入ってきた。こうなると破壊されるのは時間の問題だろう。
多勢に無勢、そんなものは分かっていた、覚悟していた。けどそれは実際にはとても大きくのしかかってきた。最初は勝てる気しかなかった。いや、何がなんでも勝たなきゃいけなかった。そのためならどんな痛みもどんな苦しみも乗り越えられると信じていた。
でも今は違う。どんなに抗っても、どれだけ手を伸ばそうとも、どれだけ痛みを重ねようとも届かない、守れない。
何故、何故自分はこんなにも弱いのだ、無力なのだ!けど、いくら自分を叱責しても何も変わらない。もう変わらない。手遅れなんだ。
結界の亀裂が全体に行き渡りそして……砕け散った。
早苗の目は……ついに光を失ってしまった。
守れなかった、救えなかった。
あぁ、やっぱり私は……
「ダメだなぁ…」
「ダメなんかじゃない!」
早苗の暗き瞳に炎が煌めいた。諦めた心に火をつける紅蓮の炎が。
「し、信二さん!」
早苗はすがるように信二の名前を呼ぶ。目からは溢れんばかりの涙を流して。そんな早苗を見た信二は優しく微笑んでから…
「悪いな、遅くなって。でもこっからは……」
全てをなぎ倒し、燃やし尽くすようなそんな強くも恐ろしい形相になった。
「俺が全部蹴散らしてやる!」
そう言ったあと信二は炎の壁を守矢神社に作る。誰も通さないように。
「ったく、おせいぜ信二!」
「すまない、けどそのお陰で万全の状態だ!」
信二の炎が燃え上がる。剣を一振する度に炎の海が波よせてくる。
『くそ、あいつは無力化したんじゃないのか?!』
天狗の一人がにとりに詰め寄る。
「……1度はしたさ。ただあいつがまた立ち上がったってだけだよ」
『適当な仕事しやがって!』
「…………」
(止められるわけないだろう。だってあいつは)
「おら、怪我したくないやつは今すぐ失せな。それでも失せる気がないってなら……全力でかかってこい!」
「不死鳥なんだから」