『オーバードライブ!』
信二の技が炸裂する。その火力は一瞬で天狗や河童を無力化させている。その鬼気迫る戦い方、迫力にどうしても一歩後ずさりしていまう。当然と言えば当然だ。今の信二に近づくものは皆等しく燃やし尽くされる。それほどの殺気が感じ取れる。
『くそっ、一人相手にどれだけ苦戦しているんだ!』
劣勢にしびれを切らした天狗が叫ぶ。先程から攻撃もそこそこに指示を出していた者だ。今回の指揮官の様な存在なのだろう。
「黙りな。『
『ぐぁっ!』
炎で出来た斬撃が避けられず指揮官に直撃する。そのまま地面に落下する。
ついに指揮官も下した。司令塔を失った兵士は統率が取れずに慌てる。現に天狗達の動きは先程よりも連携が取れておらず疎らになっていく。
『司令塔まで!』
『どうするんだ、ここまで来てこんなの聞いてないぞ!』
慌て始める敵。ついに追い詰められ始めた。今の信二はまさに救世主そのものだ。そして信二が天狗達……いや、幻想郷の者達に強いのにはしっかりとした理由がある。
信二に苦戦する理由は攻撃の性質による。普通弾幕を撃つ時は必ず避けるためのスペースが作られている。これは癖よりももっと根強く結びついており、深層心理でやってしまう。いや、やるものだと思っていると言った方が正しい。そのため霊夢達の攻撃は躱されることも必然になる。
しかし信二の場合は違う。元々幻想郷の外ーー別世界の人間だ。弾幕ごっこのルールがまだ定着していない。そのため攻撃に隙がない。その攻撃は敵をなぎ倒すために使われる。だから避けづらい。
「…っ!」
響く銃声。これは1度信二がやられたにとりの拳銃の音。またもや光学迷彩で隠れて打ってきた。
「……残念だな。それはもう当たらないぜ」
しかしその弾が信二に当たることはなく、剣で弾かれた。
「やっぱり無理か。まぁ警戒されてるよね」
信二はこの戦場に来てから最も警戒していたのが今の銃である。そのため魔力を、神経を研ぎ澄ましにとりが打ってくるのを待っていた。
「それで1回負けてるんだ、嫌でも警戒するさ」
(信二さん……すごい。1人で戦況を返した)
信二の戦いぶりを見て早苗は戦慄を覚える。
(それに比べて……)
それと同時に自分と比べて自身を卑下していた。その力の差を……。
「早苗!」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ驚く早苗。そんな早苗に信二は戦いながら言う。
「お前は早く二人を救ってこい!」
「……え?」
「俺と約束しただろ、早苗の力で二人の目を覚ますと」
「……確かに約束しました。けど私じゃダメです。こんなに無力な私じゃ…」
言いながら涙を流す。またも自身の未熟さに嘆いているのか。
「何を言ってんだ」
そんな早苗を笑い飛ばす。
「弱い強いは関係ない。これは早苗にしか出来ない事なんだよ」
「……私にしか……」
「自分が弱いって言ったな。はっきり言うぞ、早苗は弱くない」
「……そんなこと」
「確かに戦闘面じゃ俺や霊夢に劣るかもしれない。けど早苗には俺らにはない強さを持ってる」
「……信二さん達が持っていない強さ……?」
「そうだ。そしてその強さが使われるのは今だ。俺らじゃ神奈子達は救えない。二人を救えるのは早苗だけなんだよ」
「………」
俯き、ただ聞いている早苗。未だに自分が信じられないのだ。
「だからもっと自身出せよ!それに早苗は自分を信じてないかもしれないけど、少なくとも俺は信じてるぜ」
その言葉に反応し顔を上げる。
「……信二さん」
「信じてなかったら今ここで戦ってないさ。それは俺だけじゃなくて霊夢達も。だから見せてくれ、早苗の強さを俺達に!」
「……また失敗するかもしれません」
「その時はまた助けてやるよ」
「……っ……」
「お、おい、なんでそこで泣くんだよ」
また泣きだした早苗に狼狽える信二。けどその涙は今までのものとは違う。自分の弱さに嘆いた涙ではなく、信二によって救われた涙。自分は弱くないと、ひとりじゃないと言われたのがどうしようもなく嬉しくて流したもの。
「……ったく、いつまで泣いてんのよ!」
「いたっ!……霊夢さん?」
「うだうだしてないでとっとと行きなさい!」
ぶっきらぼうに。それでもそれが霊夢の激励の仕方。
「……はい!」
「……素直に励ませないのかしら?」
「うるさいわね。早く帰りたいだけよ」
「……ツンデレってやつね」
「何よそれ」
アリスは霊夢をからかう様に笑う。霊夢は隠しているつもりだろうが何ともわかりやすい。
「おらよ」
信二が指を鳴らす。すると炎の壁に人が一人入れるだけの穴があく。
「任せたぜ早苗」
「はい、行ってきます!」
(……妖夢の時もそうだけど)
また魔理沙は一人思う。
(つくづく人を立ち上がらせるのが上手いやつだ)
魔理沙は今回で二度心が折れた者が立ち上がる姿を見た。本来は時間がかかるものを信二はいともたやすくやり遂げてしまう。
「……やっぱりすげーやつだな」
「何か言った?」
「なんでもないぜ」
猛る炎を見ながら魔理沙は改めて信二の強さを確かめた。
「神奈子様、諏訪子様!」
神社の中にいる二人の名前を呼ぶ。けどその声は届かない。全てを遮断するような壁が二人の周りを覆っているから。
けど、それが無くても声が届かないような気がした。今の二人は全てを拒絶している。
「……何故そうなってしまったんですか」
手を伸ばしても壁に弾かれる。声をかけることも、手を伸ばして歩み寄ることも出来ない。
「……認めませんよ」
それでも早苗は諦めない。壁に弾かれようとも手を伸ばし続ける。
「お二人はそんなに弱い神様じゃ無いはずです。私の知っているお二人は誰よりも強くて誰よりも優しい人です」
弾かれないように抵抗しているその手には次第に火傷のような傷がつき始める。
「私は悔しいです。弱い自分が、みんなに助けられてばかりの自分が」
傷はどんどん広がっていく。けれども少しづつ両手が壁をすり抜けていく。
「でもそんなみんなが私を信じてくれてます。泣いてばかりの私を。だから私はもう泣かないと決めました。辛くても、苦しくても」
早苗の声が届いているのか二人の目に涙が流れる。
「私よりも強いお二人ならすぐに帰ってきてくれると信じてます」
歯を食いしばり痛みを堪えて、今にも泣きそうなほどになっても早苗は手を伸ばすのを辞めない。それは信じているから。神奈子を諏訪子を、助けてくれたみんなを。
「お二人を信じてます、だから……だから!」
信じてくれたみんなのために、二人のために今声をあげる。
「目を覚ましてください!神奈子様、諏訪子様!」
「「早苗!」」
「さて。そろそろ降参したらどうだ?」
あらかたの敵を倒した信二は残った者達に問う。
『それは出来ないな』
「……そうか」
これ以上は無益な争い。そんなことはお互いに分かっている。でも引けない。根本が解決しない限りこの救われない戦いは永遠に続く。
最後の敵が迫ってくる。その時に神社を覆っていた炎が全て消え去る。
「な、なんだ?!」
「随分と世話をかけたようだな」
「これじゃあ神様の名折れだね」
その声はハッキリと力強く。堂々と凛として。
「……ったく、おっそいのよ。神奈子、諏訪子!」
「……使命を果たせたんだな。早苗」
「悪かったな霊夢。後始末くらいは自分でするさ」
「後のことは任せて」
『目が覚めたのか』
「そうだ。お前らの上司に伝えておけ」
「これ以上戦いを辞めないなら今度は私達が相手するってね」
その姿は神というのに相応しい迫力を見せつけていた。
『ああ、言っておくよ。私達ももうコリゴリだ』
そう言い残し天狗達は立ち去っていった。
「よくやったぜ早苗!」
戦いが終わり魔理沙は早苗に飛びついていた。
「ま、魔理沙さん達のおかげですよ」
「ん、どうしたその手?」
早苗の腕の傷に気が付き心配する。
「大したことないですよ。ただの火傷みたいなものですから」
「見てて痛々しいぞ。後でちゃんと治療しろよ?」
「はい。信二さんも」
信二の銃でついた傷口から少し血が流れていた。戦いの中で開いたのだろう。
「これくらいどうってことないよ」
「私には治療しろっていったのに自分はしないんですか?」
「……わかったよ。ちゃんとするよ」
「そうしてください!」
「改めて礼を言う。神社を守ってくれてありがとう」
「みんなが助けてくれなかったら今頃無くなってたからね」
「ほんとよ、貸ひとつだから」
「分かっている」
「それにしても霊夢がウチを助けるなんてね」
「何よ、なんか文句あるの?」
「いやー。珍しいなって思っただけだよ」
「……なんかむかつくわね」
「思った以上に大変だったな」
「ええそうね」
「……アリス?どうしt」
「こんなに大変だなんて聞いてないわよ!」
魔理沙の肩を掴みブンブンと揺らすアリス。相当怒っているのかそれはもう一心不乱に。
「あわわわ、落ち着けー!」
「あはは、皆さん騒がしいですね。あんな戦いがあったのに」
「あんな戦いがあったこそだよ」
「あったからこそ?」
「辛いことがあった時は笑うのが一番だ。そうだろ?」
当たりを見渡す。そこには笑っているみんながいた。早苗が努力の末に勝ち取った光景がそこにはあった。
「……ええ、そうですね!」
早苗の顔には笑顔の花が咲いていた。