「さて、今日はどうしよっかな」
朝起きて霊夢から任されていた日課の掃除も終え昼食を作りなが一人ボヤく。
妖怪の山の異変から数日。信二の傷もすっかり癒え暇を持て余していた。昨日まで動いてはいけないと永琳に言われていたため今日は久しぶりに体を動かしたいのだ。
しかし未だ幻想郷をよく知らない信二は何処に行こうかを悩んでいた。今まで異変を解決してきた場所には何度か行っているため新しい場所に赴きたいという欲が出ている。
ちなみに霊夢は守矢神社に行っている。あの異変の事後処理的なことをしている。それと今日は紫と対談するとも言っていた。信二もついていこうとしたら拒否られたので若干凹みながら今日の予定を考えている。
「悩んでても仕方ないか。とりあえず周辺をうろついてみるか」
♢
何やかんや散歩をしていたら人里の近くに来ていた。確かに人里に行けば新たな出会いがあるかもしれない。人里には人間だけでなく普通に妖怪なんかも歩いているからな。無意識のうちに中々良い選択をしたんじゃないか?
「……おっ、あれは」
早速見知った姿を目撃した。あの青髪リボンと緑髪の後ろ姿は仲良し二人組だな。
「ようチルノに大妖精。何してるんだ?」
「あ、しんじ!」
「信二さん、お久しぶりですね」
「あぁ、久しぶりだな」
相変わらず大妖精は礼儀がいい。同じ妖精でも何故こんなに差がついてしまったのか。
「しんじ!今アタイに失礼なこと考えただろ!」
おっと、まさかチルノに考えが読まれるとは。案外鋭いのかもしれない。
「で、二人はなんで人里に居るんだ?いつもは森によく居るけど」
「これからある場所に行こうとしてたんです」
「ある場所?」
「太陽の畑です。知りませんか?」
「太陽の畑?聞いたことないな。そこに何かあるのか?」
「そこに最強の妖怪がいるって霊夢が言ってた!さいきょーはアタイなのに!」
「……つまりチルノはその最強の妖怪に喧嘩を売りに行くつもりか」
「そう!」
「や、やっぱりやめようよチルノちゃん。前にあった時にチルノちゃん震えてたよ」
「そんな昔のことは忘れたわ!」
「えぇ!?」
「なんか面白そうだな。俺も一緒に行くよ」
「しんじも着いてくるの?いいわ、アタイがさいきょーになる瞬間を見るといいわ!」
「はいはい、お供しますよ」
面白そうだったからチルノ達について行くことに。理由はそれだけじゃないけどな。
霊夢が幻想郷最強という程の人物だ。嫌でも気になってしまう。てっきり幻想郷最強は霊夢か紫さんだと思ってたが、その他にも候補がいたとは。それに霊夢は基本本気を出さないし、紫さんに至っては戦っているところを見たことがない。だから知りたかったのだ、幻想郷のトップクラスの実力者を。
ーーあわよくば手合わせしてみたいものだ。
♢
人里から妖怪の山の反対方面へ歩いていく。……いや、もう既に結構な距離を歩いていると思うんだがまだ着かない様子だ。
「なあ大妖精、まだ着かないのか?」
「はい、太陽の畑の主は人間が嫌いですから人里から離れているんです」
「こんなに離れてるとか、そんなに嫌ってるのか」
「幻想郷でも一番人を嫌ってると思います」
「一番ときたか。俺実は危険な事をしてるんじゃないか?」
一応俺も人間だ。変に怒りを買わないようにしなければ。
「どうしたのしんじ?もしかしてもう疲れたの?」
「俺はチルノさんと違って強くないから。もう疲れちゃったよ」
「情けないなぁ。アタイはまだまだ元気だよ!ほら!」
そう言い颯爽と飛んでいく。
「あ、待ってよチルノちゃーん!」
いきなり飛んでいってしまったチルノを大妖精も急いで追っていく。
「……本当に元気だなチルノは。大妖精も大変だろうな」
そんなことを考えていると置いていかれた。あの様子だと後は真っ直ぐ行けば着くだろうから多分着くと思う。ふよふよと浮いてゆっくり行くことにしよう。
チルノを追ってほどなくして黄色い花畑が見えてきた。
「あれか!」
森を抜けるとそこには見渡す限りに花が咲き誇る畑があった。見る者の心奪う美しい花畑が所狭しと並んでいるなんとも壮観な風景だ。
「おぉー、幻想郷にはこんなところもあるんだな。」
いつか見た白玉楼の桜も十二分に綺麗だったが、こちらも負けず劣らず美しい。こんな場所を散歩出来たらどれだけ気持ちがいいことか。
「てかチルノ何処に行った?」
花々に見とれて忘れていたが先にいったチルノ達を探さなくては。こうも花が多いと背が低い二人は見つけずらいだろう。特に急いでいる訳じゃないからゆっくりと探すとするか。
「ぎぃゃぁああ!」
「チルノちゃん!?」
……どうやらゆっくりしている暇はない様子だ。
「声のする方はあっちか!」
チルノの叫び声がする方へ走っ…てると時間がかかる。空を飛んでそっちを見た方が速いか。
「くそ、こうなると花が邪魔をするな」
空から見ても中々に見ずらい。せめてもう少し花の背が低ければ。
「……いた!」
黄色い花達の隙間から青と緑の髪がチラッと見えた。急いでその方向へ向かう。
「どうしたのあなた達。今日はどんな用で来たのかしら?」
「ち、チルノちゃん……」
「だ、だだ大ちゃんはアタイが守る」
「まだ何もしてないわよ」
「おい、チルノ、大妖精大丈夫か?!」
チルノ達はお互いの手を繋いで震えて座り込んでいた。二人が見ている方には緑髪で日傘をさしている女性がいた。
「……どういう状況だ?」
見たところ何か危害が加わった様子は無いんだけど。
「あら、今日は来客が多いわね。あなたは?見ない顔ね」
「あ、あぁ。俺は火渡信二。1ヶ月程前から幻想郷に来た人間だ」
「信二……確か文の新聞に載ってたわね」
「本当に載せたのか文のやつ。まぁそれで合ってるよ。それであなたは?」
「私は風見幽香。ここの主よ」
太陽の畑の主ってことはこの人が幻想郷最強の?全然そんな風には見えないけどな。
「ところでその二人はどうしたか知ってるか?」
「さぁ、ただ話しかけただけよ」
「話しかけただけでこんなになるのか?」
「知らないわよ。そこの二人に聞きなさい」
だよな。幽香も悪気があるわけじゃないし。
「とりあえず二人はもう帰りな。いつまでもそこでそうするのも嫌だろ」
「う、うん」
「い、行こうチルノちゃん」
力なく立ち上がり逃げるように去っていった。いつもはあんなに強気のチルノがあそこまで弱々しくなるなんてな。滅多に見れない光景だったかもな。
それはそれとして
「ふっ!」
「あら、防ぐのね」
突如幽香が手に持っていた傘を俺に向かって殴りかかってきたから、こっちは剣を出して対抗する。
「あれだけ殺気を出しておいて警戒しないわけないだろ」
俺が幽香の前に現れてからというもの痛いくらいに殺気を放っていた。理由は知らないがな。
「てかいきなり襲ってくるのはないんじゃないか?」
「対象出来なかったらそこまでの人間ってことでしょ」
「言うじゃん。ーーおらぁ!」
拮抗状態から脱し幽香から距離をとる。今のだけでも幽香が実力者なのが知れた。それだけ強いんだろう。
「襲ってきた理由はなんだ?俺が人間だからか?」
「ただ単に戦ってみたかっただけよ。なんでそう思うのかしら?」
「聞いた話だと人間嫌いなそうだな。だからだ」
「それは誤解があるわ。人間が嫌いなんじゃなくて弱い奴が嫌いなのよ」
「それなら俺を嫌う理由がないな。なんたって強いからな俺は」
「……言うじゃない。口先だけじゃ無いことを祈るわ!」
踏み込んで来る幽香。あくまで接近戦を仕掛けてくるようだ。ここは相手の能力が分からない以上変に回避するよりも素直に受けにいった方がいいだろう。
幽香の太刀筋はわかりやすい。妙なフェイントが入っていない。純粋な力で押してくるタイプだ。ただそれが強い。フェイントを入れないことで逆に一発に集中出来るからだろうが受ける攻撃全てが重い。
「その細腕の何処にそんな力があるんだよ!」
魔力で多少筋力を強化している俺よりも強く打ち込んでくる。正直このままだとジリ貧だ。そうならないためにも……
『
俺を中心として爆炎を起こす技。予備動作もなく技を見切るのは困難な技だ。威力もそれなりに高い。
それを幽香は傘を広げて防いだ。予期しずらい初見の技をだ。
「なに?!」
「危ないじゃない」
「しまっーー」
一瞬動きが止まった俺に容赦なく幽香が攻撃してくる。直撃だけは避ける!攻撃を受ける寸前に合わせて体を捻って攻撃を流す。また当たるところは魔力で防御を上げる。
「……上手く躱すじゃない」
「それでも痛てーよ」
なんとは直撃は免れた。本当に一瞬も気が抜けないな。
「それで信二は炎を出す能力かしら?急に出たからびっくりしたじゃない」
「嘘つけ。初見であれを防いだやつはそういねーよ。それで聞くが幽香はなんの能力を持ってるんだ?」
幻想郷の住人は何かしら能力を持っていると霊夢が言っていた。例に漏れず幽香も能力を持っているだろう。
「私の能力は『花を操る程度の能力』よ」
「花を操る?そんなに強そうじゃないな」
「そうね。そこまで戦闘向きの能力じゃないわ。枯れた花を元に戻したり出来るだけよ」
「ふーん。なら俺がここの花を燃やし尽くしても治せるか?」
挑発のように発言する。俺は幽香の全力が見たいからな。
「……流石に無理よ、燃えてしまったら。でもそんなことをしたら最後。あなたをどこまでも追いかけ回して絶対に花の肥料にしてあげるわ」
今の幽香からは実際にそれが出来ても不思議ではないほどの威圧感がある。
「お〜。怖い怖い。それだけは避けようか!」
今度はこちらから仕掛ける。炎を纏いながらだ。少しはやりづらいだろう。
「暑苦しいわね。花符「幻想郷の開花」」
そこらかしこに花が咲き、それが弾幕となって襲ってくる。
「そっちがその気なら。『紅焔の勾玉』」
当たると炸裂する炎の玉を出す技。これで向こうの弾幕を相殺する。元々幽香は弾幕を打つことが少なかった。その代わり戦闘能力が高い。どちらかと言うと騎士と戦っているような気分だ。
「これならどうだ!『
使用者本人もどこへいくのか分からない五つの炎。俺の中でも高威力の技だ。
「奇妙な軌道ね」
先に飛んでいった三つを華麗に躱す。だがその後ろには二つが迫っている。
「けど意味無いわ」
幽香はそれを傘で叩き潰す。当たり前のように。
「おいおい、フランでも壊しきれなかった攻撃だぞ」
流石に呆れるほどのパワー。ここまで強いとは。
「これだけかしら?」
そう言い傘の先から魔理沙のマスタースパークに似た弾幕を繰り出してくる。
「そんなことを出来るのかよ!『オーバードライブ』!」
こちらも極太の熱線を繰り出す。威力は同等らしく、お互いが相殺し合い爆発する。
「……花?」
爆煙に混じり大量の花が俺の視界を覆う。花ってことはーー
「そういう事だよな!朱雀!」
視界が悪いところを朱雀の羽ばたきでクリアにする。そこに幽香の姿はない。となると
「後ろか!」
振り向きながら剣をふるう。そこには読み通り幽香が攻撃を仕掛けに来ていた。
「よく分かったわね」
「生憎と状況判断は早くてな!」
「でも勢いはこっちの方が上よ」
確かにこっちは先っきまで止まっていた。対する幽香は勢いに乗って傘で攻撃してくる。
「舐めんなよ?『焔一文字』!」
焔による剣戟。勢いなど関係なく純粋に火力が上がる。連発は出来ないもののその威力は幽香を吹き飛ばすほど。
「意外と力あるじゃない」
チャンス!幽香が体制を立て直す前に決める!
『フレアジェット!』
爆炎で自身を加速させる。一気に幽香の目の前までいきその喉に剣をふりーー
「……
切ることは無く寸止めで留める。決着としてはこれで十分だろう。
「どうかしら?」
「なに?……!」
幽香の方も俺の心臓に傘を立てていた。こちらが幽香の首を落とそうともう一歩踏み込んでいたらこちらの心臓も貫かれていただろう。
「なんだよ。引き分けか」
「そうみたいね。勝つつもりだったんだけど」
「そんなのは俺もさ」
お互い武器を下ろし花畑に降りる。ここまでやれば相手の実力はよく分かった。だからここで辞めておく。出ないとどちらかが死ぬことになるからな。
「それでどうだった?俺の強さは」
「そうね。とりあえず嫌いにはならなそうよ」
「ははっ。そいつはよかった」
二人で笑い合う。
「どう信二。この後お茶でも」
「いいねぇ。頂くよ」
どうやら幽香のお眼鏡にかなったようだ。けど本当にトゲのある花だったわ。幻想郷最強ってのもあながち間違いじゃないかもな。
その後幽香とお茶をした。お互いのことを聞きあっていたらすっかり遅くなってしまった。辺りはもう真っ暗だ。
「いやー。今日はありがとうな幽香。楽しかったよ」
「こっちも中々楽しめたわ。また暇があればいらっしゃい」
「おう。じゃあまたな」
今日はいい日だった。気分よく博麗神社に戻る。
……博麗神社?
「あ、今日の晩御飯当番俺だった」
ヤバい。控えめに言ってヤバい。霊夢多分疲れて帰ってくるだろうからそこに晩御飯がないって知ったら………。
どうやら俺は今日二人目の幻想郷最強を相手にすることになりそうだ。