46話 いざ地底へ
「はぁー。やっと終わったわ」
霊夢がテーブルに突っ伏す。妖怪の山での異変の後処理を何日かやっていた霊夢は現在かなり疲れている様子だ。
「後処理って何やってたんだ?今まではそんなことをしてなかったのに」
「天狗や河童に文句を言ってやる仕事よ」
「なんだその仕事は」
「だいたい合ってるわよ。特に天狗が頑固だから面倒だったわ」
「もう守矢神社は大丈夫なのか?」
「ええ。あの二人も以前の力に戻ったわ。早苗の腕はまだ治療中だけど」
「それならもう襲われる事は無いな」
「それでも天狗がまたやらないとも限らないから注意してきたのよ」
「文の話だと命令を出した天狗達も様子がおかしかったらしいけどな。とにかくお疲れ様」
今回の異変は様子がおかしくなったのが神奈子と諏訪子の二人だけに留まらず、天狗の一部もおかしくなった。どんどん規模が大きくなっていってる気がする。これもアスモダイの影響なのか……。
「最近多いわね異変」
「……だな。幻想郷のことはまだよく知らないけど、本来はこんなに起きるもんじゃないだろ?」
「当たり前よ。普通ではありえない事が起こったから異変なのよ。そんな何回も起こされたらたまったもんじゃないわよ」
「解決するのは霊夢だもんな」
「私以外も解決しようとするやつはいるけどね。異変が起きたら博麗の巫女が出向かない訳にはいかないのよ」
「魔理沙とかはよく解決に貢献してるんだろ?」
「あいつは目立ちたいだけよ」
「はは、魔理沙らしいよ」
「………」
霊夢がこちらをじっと見つめてくる。
「……なによ、気にしてるの?」
「……鋭いなぁ霊夢は。隠し事が出来そうにないわ」
「信二が気にすることないわよ。異変に直結してるのは幻想郷に来たもう一人の方なんでしょ?」
「そうとも言えねーな。俺が殺しきれてたらこんな状態になってないんだし。幻想郷のみんなにも迷惑かけてふ……」
急に霊夢が俺の両頬を抓る。
「何してるんですか霊夢さん」
「アホなこと言ってる信二にお仕置きよ」
「アホなことって……」
「誰も信二が来たことを迷惑に思ってる奴なんて居ないわよ。自分を卑下するのも程々にしときなさいよ」
「……分かったよ。ありがとうな霊夢」
「分かればいいわ」
本当に霊夢には敵わないな。言ったら絶対否定されるだろうけど、霊夢は優しい人だ。
「さて、気分転換にどこか行こうか」
「私疲れてるんだけど……」
「幻想郷には無いのか、こう疲れを癒す娯楽的な場所は」
「そうねぇ。……あ、ひとつあるわ」
「お、どこだそれ?」
「地底にある温泉よ」
「おん……せん?」
聞き慣れない単語に密かに心が踊った。
♢
「それで、その温泉ってなんだ?」
早速地底にある温泉を目指して博麗神社を出た訳だが、そもそも温泉が分からない。俺のいた国ではそんなものは無かった。
「お風呂のことよ。でもただのお風呂じゃないわ。すごく大きくて疲れによく効くお湯で入るの」
「へぇー。それで疲れが取れるのか?」
「ええ、不思議なことにね。温泉にゆっくり入って、その後お酒を飲むと疲れなんて吹き飛ぶわ」
「そういうものなのか。楽しみだな。その地底にも初めて行くところだし。……そういえばなんで地底に温泉があるんだ?」
「昔起こった異変の名残よ」
「地底でも異変が起こったのか。起きてないところの方が少ないんじゃないか?」
「そうかもしれないわね。幻想郷に居るヤツらの大半が異変を起こしてるから」
なるほど。意外と幻想郷も危険なところなのかもしれない。普通に過ごしているとそんな感じは微塵もないが。
「……おーーい、霊夢ーー!」
「あれ?魔理沙じゃないか。どうしたんだ?」
「こっちのセリフだぜ。博麗神社に行っても誰もいなくて探すのに苦労したぜ」
「なんか用でもあったの?」
「ない。暇だったから遊びに来たんだ。それで二人はこれからどこに行こうとしたんだ?」
「地底の温泉だよ。霊夢の疲れを癒しにな」
「霊夢が疲れてる?お笑いか?いつも神社でぐーたらしてるくせに疲れるわけないだろ」
「ぶっ飛ばすわよ」
「望むところだ」
「やめろって二人とも。疲れを癒しに行くのに、わざわざ疲れるようなことするなよ」
「ふん、信二に免じて今日のところは勘弁してやる」
「あんた絶対に目に物見せてあげるわ」
恐ろしい殺気だ。
「それで魔理沙はどうするんだ?着いてくるか?」
「そうだなー。たまには温泉に入ってもいいか」
「そういえば魔理沙はあんまり地霊殿に行かないわよね」
「長風呂するとすぐのぼせるから。長く楽しめないんだよ」
「確かに。魔理沙に長風呂のイメージはないわな。……おっ、あの穴か?」
「そうよ。そこから下がると地霊殿に行けるわ」
「早速行くぜ!」
「そうやってすぐ先に行くんだから」
「よっと。空飛べるように良かったわ」
〜〜〜〜〜
(ひょこ)
「ん?今なんか無かったか?桶に入った女の子が見えたんだけど」
「気のせいよ」
「そうか。おかしいな」
〜〜〜〜〜
(ひょこ)
「……なあ、今度は茶色いリボンをした女の子が見えたんだけど」
「気のせいだぜ。信二も疲れてるんだろ」
「本当か?見間違えか?」
〜〜〜〜〜
(ぴとっ)
「いやいるって。触られた、今触られました」
「「気のせいよ(だぜ)」」
「嘘つけ!絶対いるわ。ったく、二人して俺を騙そうとして」
「そんなことしてないわよ」
「本当に見てないぞ?」
「やめて、そういうの怖いからやめて!」
後で確認しておこう。念の為な。マジで俺しか見えなかったら怖いじゃん。今までゴーストとか相手にした事あるけど怖いじゃん。
「そんなことしてないで。そろそろ一番下よ」
「そんなことで済まされない気がするけど。てか地底には何があるんだ?」
「まず地底の主がいる地霊殿ってところがあるの。温泉もそこにあるわ」
「その前には旧都っていう地底で栄えてる場所があるぜ」
「地底も中々栄えてるのか。全然知らなかったわ」
そもそも地底なんて場所がある事を聞かなかった。今まで行ったところは少しばかりは人里で話を聞いたが地底だけは一切無かった。
「それは仕方ないわね。地底と地上の世界はまるで違うから」
「今でこそ温泉が出来たから妖怪なんかは出入りするけど、人里には今も知らされてないな」
「ほー。色々あるんだな」
「それともう1つ。旧都に行く前に通るところがあるわ」
「どれだ?」
「あれだよ。橋が見えるだろ」
「確かに見えるな。……うん?誰かいるのか?」
「あれも妖怪よ」
「橋姫って妖怪だな」
橋姫か。多分文字通り橋に関する妖怪なんだろう。具体的にはどんなものか分からないけど、守護霊的なものなのか。
そこに居たのは金髪の髪をショートボブくらいの長さにした緑目の女の子。まず目を引くのはその耳だろう。普通の人とは違い先が尖っている。
「あらあら。人間の皆様がぞろぞろと妬ましい。何をしに来たのかしら」
「初対面で嫌味を言われたのは初めてだよ」
思っていた性格と違った。まだ全然彼女のことを知らないけど卑屈な性格だろうな。
「ん?あなたは初見ね」
「初めましてだな。日渡信二だ。よろしく」
「信二……。そう、あなたが。妬ましいわ」
一体何がだ。
「__水橋パルスィよ。そんなに合わないだろうけど」
「パルスィだな。よろしく」
手を差し伸べられたので素直に手を出して握手をする。その時にじっと顔を見られた。
「ど、どうかしたか?」
「……眩しいわ。妬ましいほど眩しいわね信二」
「眩しい?何がだ?」
「__霊夢に聞いてみなさい」
「霊夢に?まぁ後で聞いてみるわ」
「霊夢も教えてくれないと思うけど(ボソッ)」
「なんか言った?」
「なんでも。それでわざわざ地底まで何しに来たのかしら?」
「温泉に入りに来たんだよパルスィ。ここ通るぜ」
「ええ。構わないわ。私はただ橋を守ってるだけだもの」
「それじゃあ失礼するわよ。……うん?」
霊夢が何かに目を奪われる。俺達もつられてそっちを見る。
「……っ?!」
「なんだあれ。真っ黒い変なやつがいるな」
「あぁあれ?最近地底でよく出るのよ__」
パルスィの言葉を遮るように信二が黒いものを蹴り潰す。余程力を込めたのか地底が少し揺れる程の衝撃がはしった。
「……なんでこいつが」
「し、信二?いきなりどうしたんだ?」
あまりに急な出来事だった為魔理沙も狼狽える。
「__いや、なんでもない。早く行こうぜ」
「お、おう」
振り返った信二はいつも通りの笑顔をしていた。しかし霊夢は見逃さなかった。その瞳に怒りと殺気が含まれているのを。
(……信二のあの目にあの様子。多分さっきのは……)
悪魔なのね。その言葉が紡がれることはなかった。
ヤマメとキスメが姿を表さなかったのは霊夢と魔理沙を怖がったからですね。原作だと二人とも退治されてましたしね。けど信二は気になる…でも二人が怖い。そんな感じですね。
パルスィが眩しいって言ったのは簡単に言うとイケメンって意味ですね。