東方不死鳥紀   作:はまなつ

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48話です。もう少しで2018年も終わりますね。もうこのssを書いて一年経つと思うと案外早いものですね。


48話 渦巻く感情

「そうですか。今日は温泉が目当てで来たんですね」

 

かなりテンションが上がっていたさとりも今は落ち着きようやく話を進めることが出来た。

 

「そうそう。ここの名物なんだろ?」

 

「本来地底で名物と言うのもおかしな話ですが、その通りです」

 

人を遠ざけるのが当たり前な場所で人が寄ってきそうなものかあること自体変な話という事だ。まぁ普通の人間はまず地霊殿までたどり着けないだろうけど。

 

「それでは案内します。お燐」

 

「はーい」

 

さとりが誰かを呼ぶと他に人は居ないのに返事が聞こえてくる。

 

「よっと」

 

「うわ、びっくりした!」

 

突然机の上で寝ていた猫が降りたと思ったら人間になった。何を言っているか分からねーと思うが以下略。

 

「火焔猫燐です!それではこちらにどうぞー」

 

凄い急展開な気がする。サラっと自己紹介もしてるし。

 

「ひ、火渡信二だ。__その、もしかして妖怪か?」

 

「そうだよ。猫の妖怪だったり」

 

「いや、間違えでもないけど」

 

「死体を運ぶ妖怪でしょあんたは」

 

「これまた物騒な妖怪だな……」

 

元地獄なんだからそういうのがいてもおかしくはないと思うけど。

 

「やだなー。あたいはそんなに怖い妖怪じゃないよ。死体にしか興味はないから」

 

「それはそれで怖いわ」

 

「にゃんだって?」

 

「な、なんでもない」

 

話がこじれそうだったため強引に話を終わらせお燐?の後について行く。

 

「あ、あの」

 

部屋を出ようとした時にさとりが呼び止めてきた。

 

「どうかしたか?」

 

「そのですね………温泉に入った後で良いので……お話してもらっても、いいですか?」

 

不安そうな顔でそんなことを聞いてきた。

 

「もちろんいいぜ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「断る理由なんてないからな。楽しみにしてるよ」

 

「はい!」

 

今まで誰かと話す必要が無かった……と言うよりは話せなかったさとりが人と話す楽しさを知ったようだな。俺としてはいい事だと思う。人と離さないで過ごすってのは案外キツイもんだからな。

 

「……随分とさとり様に好かれたね」

 

「だな。でも君こそ好かれてるだろ」

 

「お燐でいいよ」

 

「じゃあお燐。長い付き合いなんだろ?」

 

地霊殿の中には動物が沢山いる。その中でも話が出来る妖怪なんてのはさとりにとっても大事な人のはずだ。

 

「そうだけど。ちょっと嫉妬しちゃう」

 

「嫉妬?なんで?」

 

「あんなにテンションの高いさとり様なんてそうそう見れるものじゃないからねぇ。あんなこと出来るのなんて信二くらいだろうし」

 

「そうか?」

 

「うん、本当。___」

 

「………うん?なんか言った?」

 

最後に何かを呟いたような。

 

「いや?何も言ってないよ」

 

「そうか…。気のせいか?」

 

確かに何か聞こえた気がするんだけどな。

 

 

♢

 

「うおわー、これが温泉か……」

 

温泉に案内され脱衣所を出た先には霊夢が言っていた通りかなり広いお風呂があった。なるほどこれが温泉か。普通のお湯とは違って色々体にいい効果があるとか。

 

「えっと、まずは体を洗ってからだな」

 

温泉にはいきなり入ることはマナー違反との事なので体を洗うことに。温泉から取ったお湯を体にかけるとなんとも心地の良い温度だった。確かにこれは疲労回復に効果がありそうだ。

 

「霊夢にもいいリフレッシュ効果があるといいけど」

 

一通り体を洗い終わったのでいざ入ってみる。

 

「___あぁぁー……」

 

自然と声が出てしまった。それほど気持ちがよかったのだ。いいねこれ。

 

「___うん?」

 

今までは煙で見えなかったが温泉に入ってみると先客が居たようだ。てっきり1人かと思ったからなんか恥ずかしい。変な声も出てたし。

 

「あのー、こんにちは」

 

「___あぁ、こんにちは」

 

その人は白い髪をした俺よりも歳が上っぽい人。顔をタオルで覆っているため顔は確認できないけど。

 

「温泉は初めてですか?」

 

「えぇ。友人に言われて来てみたけど、いいものですね。体だけじゃなくて心も洗われるようで」

 

「そうですね。私も初めて入りましたがいいものです」

 

「初めてなんですか?」

 

「えぇ。今は旅をしていて、丁度ここの温泉の話を聞いてやってきたんです」

 

「へぇ〜」

 

幻想郷内を旅するとはやっぱり妖怪とかなのか。恐らくだけど普通の人間じゃないな。そんな奴が旅なんて出来るはずないし。

 

「………それでは私は先に出るとします」

 

妖怪かどうか聞こうとしたらタイミングが被ってしまった。わざわざ引き止めるのも悪いから止めはしないけど。

 

「そうですか。では」

 

「えぇ。では_____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会おう()()()よ」

 

「……っ?!!」

 

声音と雰囲気が変わった男は信二の事を不死鳥と確かに言った。自身のことを不死鳥と呼ぶものは今のところ幻想郷にはいない。ある男を除いて。反射的に振り返り臨戦態勢をとる。だがそこにはもう男の姿はない。

 

「朱雀!」

 

居ないと分かった瞬間朱雀を出して先程の男を探させる。

 

(嘘だろ……!そんなはずはない!)

 

確かに声も見た目も変わっていた。けどその雰囲気は___悪魔の雰囲気だけは消えないはずなのに!特にアイツ程のものなら尚更!

 

「どういうことだ、アスモダイ!」

 

それは信二の宿敵の名前。信二と共に幻想郷に降り立った悪魔の名前。それが先程まで自分の目の前にいた。

 

それは本来ありえないこと。普通なら二人が会った瞬間どちらかが死ぬまで戦闘をする。そのような関係。なのに今アスモダイは襲ってこなかった。

 

謎が信二の頭を駆け巡る。何故襲わなかったのか、何故ここにいたのか、何故悪魔の気配を微塵も感じなかったのか。

 

「………くそっ、考えても埒が明かねぇ!」

 

信二自身も温泉から急いで上がりアスモダイを探しに行く。ここで逃がす訳にはいかない。

 

(………待ってろよ!)

 

隠しきれぬ殺意を纏いながら。

 

 

 

♢

 

「……あぁーー」

 

「ちょっと、おじさんみたいよ魔理沙」

 

信二が温泉に入ったのと同時刻。霊夢と魔理沙も同様に温泉に入っていた。

 

「相変わらずここはいいわね」

 

「そうだなー。ワタシは長風呂出来ないからそこまで楽しめないけど」

 

「子供じゃないんだから湯船に長く浸かるくらい出来るでしょ」

 

「霊夢だって婆さんみたいになってるぜ」

 

壮絶な睨み合い。

 

「まぁいいわ。こんな所で喧嘩するなんて野暮だもの」

 

「それもそうだな」

 

「………………」

 

「……………なぁ霊夢」

 

「何ー?」

 

「お前ってさ……信二のこと好きなの?」

 

思考停止。

 

「……………はぁ?」

 

「いや、いつも一緒に居るし」

 

「それは信二が住む場所がないから__」

 

「信二が怪我すると異様に心配するし」

 

「同居人が怪我したら心配する___」

 

「よく信二のこと見てるし」

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

「どーだかな」

 

「まったく。さっきから何言ってるの」

 

「(頑なに認めないな…)信二は人気だから気をつけろよ?」

 

「何のはなs__」

 

「鈴仙は確定だろ。後は早苗とかフラン。幽香も気に入ってたな。妖夢のはちょっと違うか。それにさっきの感じだとさとりも……」

 

「それがどうしたのよ」

 

「……呆れたぜ。この魔理沙様が状況を教えてやってるのに」

 

「その情報を教えて私にどうしろと?」

 

「それくらい自分で考えろ。のぼせたからワタシは先に上がるぜ」

 

終始謎のことを話していた魔理沙が上がる。まだ湯に使っている霊夢は先程の話が頭で反芻していた。

 

「結局何が言いたかったのアイツ」

 

温泉の熱で頭がボーッとしてくる。それでも今頭に残っている言葉。

 

『お前ってさ……信二のこと好きなの?』

 

そんなことは無い。自分は普通に信二に接している。特別な存在じゃなくて周りと同じように。そうしていたと思っていたのに。

 

(そんなの……よくわかんない)

 

この胸のモヤモヤも温泉で流せたら___

 

 

♢

 

(くそっ、どこにいやがる!)

 

まず地霊殿の中を探し回ったが、それらしい者はいなかった。その周辺も朱雀が探しているが、依然として見つからない。その事が信二に焦りと苛立ちを生み出していた。

 

「……あっ信二さん。上がったんですね」

 

地霊殿を出ようとしたところでさとりと会う。

 

「さとり、白髪の男を見なかったか!?」

 

「い、いえ。見てません…」

 

「そうか……くそ!」

 

「あの、信二さ__」

 

「悪いさとり、話すのはまた後にしてくれ!」

 

「えっ?は、はい……」

 

信二が会話を後回しにするほど何かに焦っている。それは一目見ればすぐに分かること。何にそこまで急いでいるのかを読み取ろうと信二の心を読もうとするが、先程の魔法をまだ使用しているからなのか、読み取れない。

 

その時にさとりは初めて知った。人の心が分からないというのは、とても不安になるということを。

 

「そう、ですか………」

 

信二がさとりの横を通り過ぎる。

 

「__っ!?」

 

「な、きゃあ?!」

 

その瞬間信二に向けられて弾幕が降り注いだ。さとりに当たらないギリギリのところで。

 

「な、なにが。……はっ、信二さん!」

 

さとりも何が起こったのか理解できなかった。それにさっきまで目の前にいた信二の姿が見えない。

 

「……なんだぁ今の?!」

 

「信二さん!」

 

流石と言うべきか信二は弾幕を避けていた。そしてその視線は弾幕が打たれた所に向けられていた。

 

「誰だ!」

 

「……………」

 

弾幕を打った張本人は長い髪を緑色の大きなリボンで結っている少女。その右手は大砲の様なもので覆われている。

 

「お空?!何をしているの!」

 

お空と呼ばれた少女。お燐と同じく動物でありながらも妖怪として知性を持つ者。現状その顔はかなり険しい。

 

「さとり様は黙ってて!」

 

普段は大声を出さず柔らかい雰囲気のお空がさとりに向かって怒鳴る。そんなことを予想していなかったさとりは少し萎縮する。

 

「………信二」

 

お空の後ろからお燐が姿を見せる。

 

「お燐!あの子はなにを__」

 

ドンッ!

 

「___どういうことだ?」

 

お燐も信二に向かって弾幕を放ってきた。信二も異変を感じ取った。今地霊殿で起ころうとしている異変を。

 

「酷いじゃない信二。さとり様を悲しませるなんて」

 

「……それは悪いと__」

 

「さとり様をあんなに笑顔に出来るのなんて信二くらいなのに。それなのにお前が悲しませてどうする!」

 

「酷いよ!私達はそんなこと出来ないのに!」

 

お燐とお空は怒っている。信二に対して。さとりを悲しませたと。……いや、本当は()()()()が渦巻いているのかもしれない。

 

「……お前達は何を言って__」

 

二人が信二に殺意をむける。

 

「さとり様を悲しませるやつは……」

 

死んで詫びろ

 

 

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