「し、信二。大丈夫か……?」
「ああ、問題ない」
あれだけの攻撃を受けたのに今の信二は傷一つ付いていない。その理由はやはり周りにある七つの剣のおかげか……。
「なーんでやられてないの?お燐もお空もそんなにヤワな攻撃してないよ」
こいしも疑問に思う。あれだけの攻撃だ、無事な方がおかしい。しかし目の前の男は不敵な笑みを浮かべている。
「……『
その魔法は今までの戦いでも使おうとしていた。しかしこれまではその時の敵、状況と相性が悪かった。その魔法は信二の刀を魔法で複製し、七つに増やしたもの。もちろんオリジナルに比べれば耐久力は下がる。しかし切れ味は問題なく再現出来ている。そしてこの魔法の最大の強さは何よりも信二自身が持って振るわなくても信二の意思で自在に動かせるところ。それは刀のリーチが目に見える範囲全てになった事と同義なのだ。
もしこれを妖夢が見たら嫉妬するかもしれない。自分は二刀しか扱えないのに信二は七つも操っていると。でもこれは普通の刀の扱い方が通用しない。剣を使うと言ってもあくまで魔法。扱い方としては魔法として使うのが正しい。そのため信二が昔言っていた通り、二刀流としての腕は妖夢の方が上なのだ。
……そしてこの魔法の本質はさらに別なところにある。
「魔理沙、早くさとりを移動させてくれ」
今までの展開で唖然としていた魔理沙も我に返る。信二が無事と分かれば自分は任された仕事をするのみ。
「任せろ!ワタシが戻るまでくたばるなよ!」
「いや、魔理沙には人を連れてきて欲しい」
自分に加勢するのではなく、何故かある人を探して欲しいと頼む。
「人ー?一体誰を?」
「
信二の考えとしてはその嫉妬を操る者がいれば直ぐに解決するというもの。というのも今回だけは信二がこいし達を倒すだけじゃ意味が無い。嫉妬の対象となるものに倒されたとなるとさらなる憎悪を産むだけだからだ。だからその心から嫉妬心を綺麗に取り除かなければならない。
「嫉妬を操るヤツ?なんでそいつが必要なのかわかんないけど丁度いるぜ、地底に!」
「そうか。それなら好都合。なるべく早く頼むぞ!」
「任せとけ!」
話が終わると信二は改めて構えを取る。魔理沙もさとりを抱えて地霊殿の中へ。
「そんなものが増えたからって関係ない!」
痺れを切らしてお燐とお空がまたも信二に突っ込む。
「そうとも限らないぞ」
突っ込んでくる二人に対して信二は剣を突貫させる。
「くっ!」
「邪魔くさい!」
操っている剣は人の首なぞ簡単に落とす威力はある。それは向かってくる剣の迫力で分かる。そんなものが近づいてきたら怒りで我を失っている者でも危機を感じる。現に二人は襲ってくる剣に手を焼いてる。
「こんなもの!」
弾幕で向かってくる剣を弾き飛ばそうとする。
「無駄だ!」
信二はそれぞれの剣に更なる魔力を込める。そうするとそれぞれが輝くように炎をあげる。それは素人目でも分かる。
「なぁ?!」
「うゎ!」
お燐、お空の弾幕を切り裂き、そのまま切りかかる。ただの剣と侮るなかれ。その威力は計り知れない。
「__っと!?」
「うそ?!」
信二が急に自身の後ろに向かって回し蹴りを放つ。本来ならそこに誰も居ないはず。しかし、そこには確かにこいしがいた。無意識を操り、人の意識の外から攻撃出来るこいしが。
「さっきからなんで私の攻撃が読めるの!」
「いや、読めてはいないさ。ただ何かが当たった瞬間反射で避けてるだけだ」
軽々しく信二は言ってるがそんなもの常人には出来やしない。例え武術を極めたものでも。信二は今までの経験に加え魔法での感知を最大限に利用して躱しているのだ。さらにこいしが居ると既に分かっている。それなら不意をつかれたとしてもまだ対処ができる。
こいしはあの時に一撃で信二を堕とすのが最善手だった。しかしその時は出来なかった。いや、しなかった。信二をもっと痛めつけようとしたから。だが信二の力は想像の遥か上をいっていた、侮っていたのだ。それは嫉妬による心の油断から産まれたものなのか……。
「さあ、どんどん行くぞ!」
信二は止まらない。三人を止めるまで。その心はどこまでも猛り燃え盛る。
♢
「……よしっ、とりあえず大丈夫だろ」
魔理沙は信二に言われた通りさとりを地霊殿の中へと避難させた。ここなら相当な事が起こらなければ安全だろう。
「次は嫉妬を操るやつを連れてこいとか言ってたな」
何故必要なのかは魔理沙自身よく分かっていないが信二が連れてきて欲しいと願ったのだ。何かしら理由があるはず。
「早く
そう。幻想郷で嫉妬を操る者と言えばここ地底で初めて出会った少女__水橋パルスィの事だ。
今思えばパルスィは今回の異変の事を予知していたのかもしれない。嫉妬の心が動いていると感じ取ったから。けどあそこまでの大事になるとは予想してはいなかった。あの時パルスィは信二なら大丈夫だと思ったからだ。あそこまで眩しくて誰にでも優しい男なら誰にだって好かれると思ったから。だから忠告をせずに黙っていた。
しかし、それが裏目に出た。さとりに好かれたために嫉妬の対象となってしまった。けれでもそれを誰が止められようか。人の心のままの行動を変えることなんて出来ない。そして例えパルスィに忠告を受けたとしても信二の行動は変わらなかっただろう。自分の心が示す方へと行く。それが火渡信二と言う男だから。
(てか霊夢はこの騒動の中でも風呂はいってるのか?)
ふと未だに姿を見せない霊夢の事が気になった魔理沙。確かにあれだけの騒ぎが起きていた。そんな中で知らんぷりしながら風呂にでも入っているのかと。いくらなんでもそこまで図太くは無いと思っていたが、まさか………。
「__おっ、あれは」
そのような事を考えながらいると旧都の中で探している者を見つけた。
「おーい、パルスィ!」
「魔理沙!どうしたの?」
「お前を探してたんだ。信二がお前の力が必要なんだと」
その事を聞き顎に手を当て何かを呟き始めた。
「……やっぱりこの感じ。とてつもなく大きな嫉妬が……」
「おいおい、考え事はいいがなるべく早くしてくれ。信二がこいし達と戦ってんだ」
「こいし達と?__そう、根源は地霊殿か」
「さっきから何言ってるんだ?もしかして心当たりがあるのか?」
「……そうね。あると言えばあるわ。でも確証が持てなかった。だから魔理沙達に言うのを躊躇ったの」
嫉妬を操るパルスィでも誰が誰に嫉妬心を持つかは分からない。だから言いたくても言えなかった。
「とりあえず詳しい話は後。今は急いで地霊殿に行くぞ」
「ええ、乗らせてもらうわ魔理沙」
「そっちの方が早いからな」
二つ返事で承諾したパルスィ。ここまで素直になるのは大変珍しい。話している相手が魔理沙というのもあるだろうが、やはり信二が背景にいるからだろうか。異性として好きな訳では無い。ただ『人』として気になってしまうのだ。あれだけ明るい心に塗りつぶされた黒い感情がある人間の事が。
「しっかり捕まってろよ!」
パルスィが乗ったことを確認して箒に魔力を込める。これなら数分で地霊殿へと到着するだろう。
「__っまりs……!」
今までの異変でもそうだった。いつも予想と違うことが起こる。イレギュラーな事態がやってくる。今回も例外では無かった。魔理沙達の頭上から何かが物凄い勢いで降ってきた。その威力は壮絶で地面にクレーターを作ったほど。
「___ったく、今日は随分な挨拶が多くないか、勇儀!」
魔理沙は流石というか当たり前のように躱していた。そして攻撃してきたのは今日地底に来た時も同じような事をした星熊勇儀であった。
「ゆ、勇儀?!どうしてこんなこと……」
「いや悪いね。パルスィを巻き込むつもりはなかったんだけどどうしようもなく疼いてね」
(ワタシはどうでもいいのか……)
「何かが私を興奮させてるんだ。けどたまには乗ってやるのも悪くない。結局の所私達鬼は戦うことに快楽を生み出すのさ!」
「だからってワタシ達を巻き込むなよ!」
戦う気のない魔理沙は箒で逃げようとする。しかし勇儀はそんな魔理沙を逃がすまいと追ってくる。
「鬼は人の話を聞かないもんさぁ!」
「くそっ、めんどくさい!」
相手がそれほど強くない者だったら直ぐに逃げ切れるところだが、相手は鬼。そう易々と逃がしてくれるほど甘くない。
「仕方ない、パルスィお前も協力しろよ!」
「………うん、勇儀には悪いけどここで止まってられないもの!」
エクスピアサンライズを使おうとした場面は白玉楼、妖怪の山の時ですね。前者は魔法で複製された物なので白い化け物に食べられるから。後者は神社にも被害が及ぶかもしれなかったかから使いませんでした