東方不死鳥紀   作:はまなつ

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51話です。本当は先週の日曜日までに投稿したかったんですけどテストが〜。はい、言い訳です。


51話 それぞれの本気

「恋符「ノンディレクショナルレーザー」!」

 

箒に乗り後ろにパルスィを乗せながらもスペルカードを発動する。本当なら全速力で駆け抜けたいところ。しかし勇儀はそうさせてくれない。

 

「まぁまぁ、そう急がずにゆっくりしていきなぁ!」

 

全方向へと発射されるレーザーを軽々と避けてそのまま魔理沙達へと殴りかかる。興奮状態で痛みを感じていないのか多少の被弾はお構い無しに。

 

「くそっ!捕まってろパルスィ!」

 

そして魔理沙が一番苦戦しているところは勇儀が接近戦を仕掛けてくることだ。純粋な弾幕対決なら魔理沙は間違いなくトップクラスの実力を持つ。しかし近接戦闘となると話は別。こなせないことも無いが『強い』と呼べるほどでもない。ましてや相手が鬼となると相手にならない。そもそも鬼と格闘で互角に渡り合えるものが極わずかな者しかいない。

 

「ワタシは霊夢みたいに脳筋じゃないんだよ!魔符「ミルキーウェイ」!」

 

「私も!妬符「グリーンアイドモンスター」!」

 

魔理沙の無差別の広範囲弾幕にパルスィの追尾してくるスペル。縦横無尽に逃げれば逃げるほど間隔は狭くなり避けづらくなる。

 

「怪輪「地獄の苦輪」」

 

そこで勇儀もスペルカードを発動する。このスペルはリング状の弾幕が四散する。無論それだけではない。相手の弾幕と相殺し合い消える瞬間大きな弾幕へと姿を変える。その性質のおかげで二人の弾幕を防ぎ、隙を作るのにはもってこいの代物。

 

「ほらぁ!ちゃんと避けなきゃ痛い目見るよ!」

 

「そっちがな!恋符「マスタースパーク」!」

 

またも接近してきた勇儀に対し魔理沙は拳が当たる寸前かつ絶対に避けられないタイミングでマスタースパークを放った。その結果勇儀は正面から直撃することになった。

 

「………甘いねぇ!」

 

「なにぃ?!」

 

いや、()()()()()()()()()。理由は至極簡単、避ける必要がなかった。力を込めたその拳でかき消す事が出来ると確信していたから。さすがにこれは予想だにしていなかった。今度は先程とは逆で魔理沙が絶対に避けられない間合いまで勇儀の接近を許してしまった。

 

(直撃だけは……!)

 

魔理沙は何とか直撃を避けようと箒を盾にする。箒ならまだ魔法で強度を強化できる。一撃くらいなら勇儀の攻撃も耐えられると考えた。事実魔理沙の予想通り勇儀の一撃には耐えた。しかし衝撃はもろに喰らい吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃぁぁ!」

 

「パルスィ!」

 

その時の反動でパルスィが箒から投げ出される。勇儀の攻撃は凄まじくパルスィは体勢を立て直せない。このままだと地面へと墜落する。ここでパルスィに一大事があれば信二との約束を果たせなくなる。それだけは避けようと一心不乱にパルスィの元へ駆けつけ左手を伸ばす。

 

「___間一髪だな」

 

何とか地表に当たる手前で手が届いた。

 

「あ、ありがとう魔理沙」

 

「いいって、気にするな」

 

今の攻防で魔理沙は確信した。この本気の勇儀を振り切ることは不可能だと。

 

思い返してみれば初めて地底に来た時に戦った時は手加減していた。しかも自身で力を抑えるように枷をしていた。手に持っている酒を落とさないようにと。しかし今は違う。今彼女を縛るものは無い。しかも手加減無しの臨戦態勢。純粋な鬼の力を剥き出しにしている。

 

「………パルスィ、悪いけど先に行ってくれ」

 

「任せて大丈夫なの?」

 

恐らくパルスィも同じことを思っていた。力の差を感じていた。だからこそ魔理沙を心配する。一人であの勇儀と対等にやり合えるのかと。

 

「ふん、余裕だぜ!」

 

満面の笑みを浮かべ言い放つ。パルスィに不安を与えないように。自分に言い聞かせるように。

 

「……任せたわ!」

 

パルスィもあえて何も言わずに走り出す。それが魔理沙に対する一番の礼儀だと知ってたから。

 

「……案外すんなりと通すな。血相変えて追うもんだと思ってたよ」

 

「私は闘いたいだけだからねぇ。それに個人的にパルスィを傷つけたくもないし」

 

普段勇儀はよくパルスィのことを気にかけていた。だからこそ襲ってきた時に驚き動揺した。

 

「パルスィがいいならワタシも良くないか?」

 

「駄目だ。恨みも理由も無いがあんたは私と闘ってもらうよ」

 

なんとも理不尽な話である。しかし理不尽を力ずくで通すのが鬼というもの。

 

「それ今じゃないと駄目なのか?」

 

「そうだよ。今じゃないと駄目なんだ」

 

「ったく、異変が起きてる時に…」

 

「異変?__なるほどね。ずっとあるこの嫌な感じは異変のせいなのかねぇ」

 

「嫌な感じ?そんなもんしてるか?」

 

「人間には分からないだろうね。私ら()くらいだよ、感じ取れるのは」

 

「ふーん。興味無いな」

 

嫌な感じと言われても感じないものに興味は惹かれない。魔理沙自身明るい性格のためそういうものに縁がないのも一枚かんでいる。

 

「あんたはそうだろ。何も気にしないってタチだろ」

 

「お前に言われたくないっての」

 

「ははっ、それもそうだ。……さて、そろそろやろうじゃないか」

 

拳を握り構えを取る。もう待ちきれないと言わんばかりに。

 

「ワタシとしては遠慮したいんだけど」

 

魔理沙は本来なら信二の所へ向かいたい。こんな所で油を売っている暇はないのだ。

 

「いい加減諦めな。それにすぐ遠慮なんかしてられなくなるさぁ!」

 

そんな話など知ったこっちゃないと再び魔理沙へと襲いかかる。

 

「やれやれ、血の気の多いやつだな!」

 

魔理沙も久々に本気でいく。すぐ勇儀に勝ち信二の元へ行くために。

 

♢

 

「どうした?さっきまでの威勢は?」

 

三対一という状況の中にも関わらず戦況は信二が有利だった。その理由はもちろん信二の魔法__七皇の宝剣(エクスピア·サンライズ)のおかげだろう。

 

「くそっ!くそっ!」

 

「生意気な!恨霊「スプリーン__」

 

「させねぇっての!」

 

「__っ邪魔!」

 

先程からお燐達がスペルカードを発動する寸前で妨害をし大技を出させなくしている。信二が持っている剣を除く六つの剣はそれぞれお燐、お空、こいしにまとわりついて追いかけ回すように攻撃してくる。

 

信二が自分達を殺すことは無いと分かってはいる。しかし攻撃一つ一つに殺気がしっかりと感じ取れる。何よりも刃物が自分に向かって飛んでくる状況だ。そんなもの避けない人の方がおかしい。

 

「いい加減にして!」

 

「悪いが諦めな」

 

こいしには無意識に行動させないように信二が常に追い詰めている。このように相手に何もさせないようにして立ち回っている。

 

「_____信二ぃ!」

 

「うん、パルスィ?どうしてここに」

 

そこへ息を切らしながら現れたパルスィ。何故今ここでパルスィが来たのか疑問に思う。加えて魔理沙が居ないことにも。

 

「どうしてって、私の力が必要なんでしょ!」

 

「力?もしかして嫉妬を操る能力を持つやつってパルスィ?」

 

「そうよ!」

 

なるほど。それなら魔理沙はしっかりと仕事をこなしてくれたらしい。居ないのは何かしらのトラブルに巻き込まれたか__

 

「………さっきから何余所見してるのよ!」

 

「おっと危ない」

 

自分と戦ってるのにも関わらずパルスィと話す信二を見てさらに激昂するこいし。もはや手がつけられないと誰が見ても分かるほど怒り狂っている。

 

「説明は省くが見ての通りだ。こいつらの俺への嫉妬を取り除いて欲しい!」

 

「……私が言うのもなんだけど何をしたらそんなに怒りを買うのよ……」

 

「さぁな、本人達に聞いてくれ!」

 

少し戸惑いながらもこいし達の心を視る。そして自身の能力で嫉妬心を排除しようと試みる。

 

「__っ?!何故……!出来ない!」

 

「なにぃ?!」

 

予想だにしていない言葉がパルスィから聞こえてきた。これがダメだとなるともうお手上げか……。

 

「なんか……上手く言えないけど何かが邪魔をしてる感じがする」

 

「邪魔?どういうことだ?」

 

「分からないけど……。純粋な嫉妬心だけじゃない、こいし達の心を乱す邪悪なものが心に住み着いているイメージよ」

 

「邪悪なものって、そんな曖昧な……」

 

けど信二には心当たりがある。もしかしなくても悪魔の力だと確信している。これまでの異変もそれのせいだと先程アスモダイと会った時に確信した。

 

「どうすればいい?」

 

「多分意識を奪ってしまえばいける!」

 

「……結局力技になるのか」

 

どうにかこいし達を傷つけずに解決させたかったのだが最終的にこうなってしまう。心のどこかでそうしないといけないと思ってはいたが。

 

「しょうがない。ならすぐに終わらせるか!」

 

「はぁ?!何を言って__」

 

「はっ!」

 

「うっっ!……馬鹿!」

 

今まで距離を詰めていたこいしを蹴り飛ばしてあえて距離をとる。飛ばされた瞬間こいしも無意識の中へ。姿が見えなくなる。さらにお燐、お空に向けていた剣を全て自分の周りへと戻す。

 

「何を……?!」

 

「関係ない!核熱「ニュークリアエクスカーション」!」

 

「そうね!贖罪「旧地獄の針山」!」

 

お燐は信二の行動に一瞬戸惑ったがすぐにお空がスペルカードを発動したため自分も即座に発動する。この機を逃さまいと。

 

「____気づいてないか?辺りに赤い粉塵が見えるのが」

 

そう言った瞬間信二を含む辺り一面が突如爆発する。前触れもなくいきなりにだ。

 

「きゃあ?!」

 

「何が?!」

 

スペルカードを飲み込み二人も巻き込む程の爆発。当然二人には何が起きたのか見当もつかない。そして勝利を確信したような笑みを浮かべる信二。

 

「ここからだぜ、俺の魔法は!」

 

剣が荒ぶり空を駆ける。ここからが信二の魔法の真骨頂。


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