「……なんだと?!」
アスモダイが紫さんを襲っただと?紫さんが普段住んでいる場所は知る人しか知らない秘境にあると霊夢が言っていた。何故そんな場所がバレた?いや、そんなことより
「紫さんは?」
「それが……今は意識不明の状態だ」
「ばかな!」
手合わせをした訳では無いが会っただけでも紫さんが強いのは十分に分かっていた。そんな人がやられる?しかも俺とアスモダイが温泉で合間見えた時にあいつからは強さを一切感じなかった。完全に一般人のそれと同じだ。それなのに紫さんを重症にした?!
「とりあえず案内してくれ!」
「元からそのつもりだ、ついてきてくれ!」
数々の疑問は残るもののまずは紫さんの容態を見るのが先だ。移動中でも状況を話す事もできる。
「今は霊夢が紫のそばにいる。急ぐぞ信二!」
「霊夢が……ああ!」
霊夢がここにいない理由はそれか。あれだけの騒ぎがあったにも関わらず霊夢が出てこなかったのにもちゃんと理由があったんだな。
「藍さん。何があったか詳しく話してください。俺には知る権利があるはずだ」
「……そうだな。これはお前が解決する問題だからな」
そう言って藍さんは何があったかを話してくれた。俺が戦っている裏で何があったのかを。
♢
「……いい加減逆上せてきたわね」
魔理沙が先に上がってからもずっと温泉に入っていた霊夢。特に何かを考えていた訳では無い。いや、あるひとつの事だけを考えていた。そして気がついた時には随分と体も火照っていた。
「魔理沙が変な事を言うから……」
霊夢は魔理沙の言ったことが忘れられずにいた。自分が信二を好いている。………いや、ない。そんなことはない。そりゃ嫌いではもちろん無い。けど恋仲になるほど好きな訳でもない……はず。そんな自問自答を繰り返していた。
「ないわ。それはない」
そしてまだ自分に言い聞かせている。暗示でもするかのように。そんな独り言を呟きながら脱衣所でいつもの巫女服に着替える。
「……心做しか外が騒がしいような」
そこで何故か外がうるさいことに気がつく。祭りが始まったなどの喧騒では無く、どちらかと言うと誰かがやり合っているような騒がしさである。
「嫌な予感がするわね……」
実は霊夢も感じていたのだ。地霊殿で起こっている異変に。だからすぐに着替えて向かおうとしていた。信二の力になるために。
「………えっ?」
しかしいつの間にか床に立っている感覚がない。詳しく言うと違う空間へと強制的に移動させられていた。
「これは紫の?」
その空間は大きな目が多数あるもの。これは紫の能力。つまり今霊夢は紫によってどこかへと連れていかれている状態と言える。
「まったく、一体どこに___」
___スキマから出た霊夢は目を疑った。そこには藍が知らない男の攻撃を結界を張って耐えていた。さらにその後ろには紫が血を流しながら倒れている。一目見ればわかる。襲撃にあったのだと。
「紫!藍!」
一瞬呆けていた霊夢だったがすぐに事の重さに気付き姿見えぬ男に向かっていく。その男は黒いモヤがかかっているように顔が見えなかった。
「霊夢!?」
「……博麗の巫女か。思わぬ来客だな」
霊夢の攻撃をいとも簡単に避ける。その後霊夢を見て何かを呟いたあと不利だと悟ったのか男は振り返る。その後ろには紫のスキマのようなものが発現した。
「逃げる気!」
「今は貴様に用はない。それに当初の目的も果たせた。ここに長居する気はない」
今度は先ほどとは逆で霊夢の攻撃を男が防いでいる。霊夢も近くに紫達がいるため全力で攻められない。今ここでこいつを倒すことは不可能だ。だから一つだけ、聞かなければならない事を問う。
「……あんたはアスモダイなの?」
「…………そうだ。
そう言い残しアスモダイは姿を消した。
「何よそれ……」
さっきの含みのある言い方に霊夢は疑問を抱く。だが今それを考えたところで意味は分からない。それにそんなことを考えている場合ではない。
「助かったぞ霊夢……」
「何があったの藍!」
余程消耗していたのか息を荒らげて膝をつく。その額には汗が流れている。
「私より先に紫様を……」
「……わかったわ」
霊夢は紫の傷を見る。その間に何があったかを藍は語り始める。
「私も実はよく分かっていないんだ。突然紫様が居る部屋から大きな音がして、急いで向かった時にはもう……」
「不意打ちってことね。卑怯なやつ!」
紫を狙った理由は簡単だろう。幻想郷の主を先に無力化しておきたかったのだろう。不意打ちなぞ一度やったと分かればその後警戒される。だからその一回を紫に当てたのだ。
「霊夢がここに呼ばれたのは紫様の最後の力だろう」
「そうでしょうね。急にスキマを使うなんてよっぽどの事だろうもの」
いつもは紫から出向いて霊夢に要件を伝える。そうしなかった時点で何か起きていたと考えるべきだったと後悔する。あの一瞬の硬直が無ければ……と思ってしまう。
「とりあえず信二を呼んできて藍。これの担当はあいつだから」
「あぁ。すぐに呼んでくる」
♢
「霊夢!」
藍の話を聞いて気が昂っていた。いや、無念さで胸が埋まっていた。自分があの時気がついていたら……そんな考えがまとわりついて離れない。けど落ち込んでいる暇はない。
「話は聞いてるわね信二」
「ああ、それで紫さんは!」
「思ったより傷は浅いわ。でも……目を覚まさないの」
「なんだと?」
「揺すっても声をかけても叩いても、うんともすんとも言わないわ」
「……少し見させてくれ」
何か思うところがあるのか信二が紫のそばに行き手をかざす。
「……やっぱりそうか」
「何か分かるの?」
「これは悪魔の魔法の特徴だ。今紫さんの心には闇が巣食ってる」
「闇?」
「そうだ。今紫さんは心の中で闇と戦っている状態だ。その闇を払わない限り目を覚ます事はないだろう」
かつて何度も見た魔法__悪魔が自分の力を相手に寄生させる魔法。
「何か解決策はないのか?」
「……あるにはある」
解決策があるにも関わらず信二は浮かない表情をしていた。
「まず一つ目に紫さんが心の闇に打ち勝つこと。けど攻撃してきたのは悪魔の中でも最上位のアスモダイだ。そう簡単には勝てない」
「他は?」
「他には魔法で回復させるのがある」
「ならそれで……!」
「いや、無理なんだ」
「どうして?信二は使えないの?」
悔しそうに頷く信二。
「悪魔の力に対抗出来る魔法を聖魔法って言うんだ。もちろん俺もそれは使える」
「それなら回復させられるんじゃないの?」
「性質が違うんだ。今必要なのは悪魔の魔法を浄化させるための回復魔法。俺が使えるのは悪魔を祓うための攻撃魔法、これだと紫さんを回復させられない」
「……そうか」
「すまない藍さん。力になれなくて……」
「お前のせいではない。しかしそうなると紫様は当分目を覚まさないのか」
「……いや、あと一つだけ。すぐに目を覚まさせる方法がある」
「それは!」
「魔法の主を倒す……アスモダイを倒すことだ!」
「………ならすぐに見つけないとね」
霊夢は信二の悔しそうな顔に気付いていた。だから自分も力になりたいと思った。
「とりあえず紫さんを安全な場所に移動させよう。もう襲ってこないとも限らない」
「そうだな。また何かあったらすぐに連絡しよう」
これで確実にアスモダイが生きていることがわかった。そう分かった以上信二の心は燃え始めた。今度こそ自分の手でこの戦いを終わらせると誓ったから。
「あんまり張り切り過ぎないでね……」
「うん?何か言ったか霊夢?」
「なんでもないわよ」
その信二の姿に少し霊夢は危うさを覚えた。今の信二は自分の身を案じていない。アスモダイを倒せれば自分は死んでもいいとすら思っているだろう。
だからこそ自分が支えようと思った。信二を死なせたくはない。その想いの真実は霊夢自身も気がついてはいないけど。
「にしてもなんであの時は何も感じなかったんだ……」
信二はそれだけが不思議だった。不意打ちとはいえ紫を一撃で倒す力は持っているのにも関わらず温泉で出会った時は何も力を感じなかった。力を隠していたとしても悪魔の力を完全に隠すことは出来ない。だから本来なら気づくはずなのに。
「どうなってんだ……」
「霊夢!!信二!!」
そんなことを考えていたら外で見張りをしていた魔理沙が声を荒らげて飛んでやってきた。尋常では無い慌てようで。
「魔理沙、何があった?!」
「異変?」
「異変も異変、空を見ればすぐに分かる!」
「「空?」」
外に出て魔理沙の指さす方を見上げる二人。
「なんだ……あれは……?!」
そこには本来あるはずのないものが___巨大な船が空を進行していた。