不道千景は勇者である   作:幻在

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いつも通り、土曜に投稿だぜ!
あと一週間近くで今年も終わりですね。
近々、クリスマスもあって、自分は楽しみです。

なんでかって?



友奈がいるからだぁぁああ!!


という訳で本編をどうぞ。






情報交換

讃州中学体育館。

「えい」

『ハァァアア!?』

体育の時間。

翼の投げたバスケットボールが、コート一個分を超えて、ストンとゴールリングに入る。

それに、あんぐりと口を開ける男子たち。

「よし」

「なんで片腕だけであんなに飛ぶんだよ!?」

「そりゃ片腕だけで逆立ち腕立てするほどの腕力だ!出来て当然だろ!?」

「だけど一発ならまだしも五発連発で入るなんてありえねえだろ!?」

「・・・・流石だな」

授業で早速注目を浴びている翼。

それに対して、コート外で休憩している千景は感心する。

翼は、この試合を全て片手のみで制している。

股を抜いたり、残像を作って鉄壁の包囲網を突破したり、誰にも追いつけないような速さで走ったり、挙句の果てには、コート一個分のスペースを軽々超えるシュートでゴールを決めるという始末だ。

伊達に大赦の中で最も武術に精通した六道家の神童と呼ばれる事はある。

「ふう、いい運動だった」

「あまり内のバスケ部を虐めないでくれよ。あれでも大会を軽く優勝してんだからよ」

汗を拭きとりながらコート外に出てくる翼。

「それはすまない事をしたなあ」

ハッハッハと、まるで心配していないように笑う翼。

「・・・・」

それに若干引く千景。

「それはそうと千景君。君の指揮能力もなかなかのものだよね」

「ん。まあ、それほどでも」

そこでふと、千景はある事を尋ねた。

「そういえば、六道家ってどんな武術を教えてるんだ?」

「そうだなぁ。剣術や組討術はもちろん、居合や槍術や双剣術、暗器術や、あと暗殺術・・・おっと、これは教えちゃらなないものだったな」

「今とんでもなく危ないものが聞こえた気がしたが聞かなかった事にしておくよ」

「それは助かるよ」

なんだかホッとした翼。

「そういや気になってたんだけどさ」

「ん?なんだい?」

「お前、東郷の事、意外と気にかけてるよな?」

何気ない質問だった。

ただ、気になり、聞いてみただけだった。

「・・・・」

その時、翼の顔が明らかに曇った。

「・・・・あれ?」

何か気を悪くするような事を言ったか?

「なんか・・・悪い」

「いや、君は悪くないよ」

彼は、自嘲するように笑う。

その表情からは、確かな悔恨が感じられた。

「・・・・ッ!?」

また、頭痛が走る。

今度の記憶は、長いものだった。

 

 

 

終わった。

長かった。

長い戦いが終わった。

皆生き残った。

私も生き残った。

あの人も生き残った。

今は、この事を喜ぶべきだろう。

これで、私を称えてくれる、褒めてくれる、愛してくれる。

皆、みんな、ミンナ・・・・

 

 

「ぬあぁ!?」

「千景君!?大丈夫かい!?」

「あ、ああ・・・・すまない。またいつもの頭痛だ」

「顔色が悪い・・・保健室に行ったらどうだい?」

「いや、一応、問題無い」

「なら良いけど・・・」

入らない心配をかけてしまったようだ。

だが、今回のは一段と酷い内容だった。

褒めてくれるとか愛してくれるとか、千景には訳が分からない。

「これ、本当になんなんだ?」

そう呟くも、それに答えが出てくる訳がなく、ただ虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部部室にて。

「仕方がないから、情報交換と共有よ」

夏凜が、黒板の前に立ち、何故か煮干しを齧りながらそう言った。

「何故に煮干し・・・・?」

「何よ!ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、BTA、DHA、煮干しは完全食よ!」

ビシッと指を指しながらそう断言する夏凜に思わず引いてしまう千景。

「あげないわよ」

「いらないわよ」

「じゃあ私のぼた餅と交換しましょう」

「あ、ぼた餅僕大好物だよ」

「それじゃあ一個」

「ありがとう」

「あ、翼様・・・」

「夏凜ちゃんも一個貰ったら?」

「・・・・分かりました」

しぶしぶと言った感じで貰う夏凜。

それで早速と言った感じに夏凜が自らの持つ情報を話し始める。

「まず、バーテックスの出現は周期的なものと考えられていたみたいだけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ」

と、黒板に書かれている事を指しながらそう言う。

「帳尻を合わせる為に、今後は相当な混戦が予想されるわ」

「確かに、一ヶ月前も複数体出たりしましたもんね」

「私と翼様ならどんな事態にも対処できるけど、貴方たちは注意しなさい。特に不道。アンタは精霊の加護がないから、十分用心しておくこと。じゃないと死ぬわよ」

「分かっている」

「他に、戦闘経験値を貯めると勇者はレベルがあがり、より強くなる」

「ん?」

ふと千景は、翼の表情がそこで曇っている事に気付いた。

(なんだ?)

「それを、『満開』と呼んでいるわ」

「『満開』・・・・某死神漫画の『卍解』みたいなもんか?」

「違うと思うわよ剛・・・」

剛の余計な言葉にツッコむ風。

「確か、アンタは経験している筈よ」

「あ、アレの事?」

以前、友奈の姿が光と共に変化した事があった。

恐らく、あの姿の事を言うのだろう。

「みたいね。私は見た事ないから分からないけど、一応、それが満開なんじゃないかしら?」

「つまり、友奈は以前より一段と強くなったって事?く、先輩の私を差し置いて・・・」

「とにかく、満開を繰り返す事によってより強力になる。これが大赦の勇者システム」

「へえ、すごーい」

「すごくなんかないさ」

何気ない友奈の一言、誰かが冷たい声で叩き伏せる。

「翼?」

翼だった。

「確かに、満開をする事によって勇者は強くなる。だけど、強くなるためには()()()()()()()()()()。この事は覚えておいて欲しい」

至極真面目に、翼は、千景たちを睨みながら、そう言った。

「・・・・翼、お前―――」

「なせば大抵なんとかなる」

千景が何かを言いかけたのを、友奈が遮る。

「友奈?」

「何それ?」

「勇者部五箇条。皆で力を合わせれば、なんとかなるよ」

友奈が、黒板の上にある勇者部五箇条が書かれた紙を指さし、そう()()()()()笑みで答えた。

「なるべくとかなんとかとか、アンタたちらしい、ふわっとしたスローガンね」

「そうでもないと思うよ?」

「え?翼様?」

「そうだなぁ・・・・例えば、『挨拶はきちんと』。これは、気付けの意味かな?挨拶をしっかりする事で、一日の始まりを感じさせる上に、挨拶をしっかりする事で、相手に良い印象を持たせ、この部の活動を優位に進める、という感じかな。こんな深い意味はないと思うけどね」

すらっと、何気ない感想を述べる翼。

「おお」

「そこまで深い意味はないんだけどねぇ」

それに感心する剛に、苦笑する風。

「さて、今度は僕から」

次は翼が立ち上がり、持っていた鞄の中から、片手で器用にいくつかの写真を取り出す。

それは、この間襲撃してきた六人の顔写真だ。

「我が六道家は、武術に精通しているのは確か。だけどそのもう一つの顔は、大赦の暗部として暗躍する事だ。これは、内の連中が集めた襲撃者たちの顔写真だ」

「すごい。こんなに・・・」

感嘆する美森に微笑んだ翼は、話を続ける。

「じゃあ、一人ずつから離していこう。まず、この女の子」

まず、白髪のまだ幼い女の子を指差す。

「この子は針目美紀。六年までは、孤児院にいたみたいだけど、ある事件以来、ずっと行方不明だった」

「事件って?」

風が聞く。

「暴動事件だよ。集団薬物投与で商店街で、集団による暴力沙汰が起きてね。被害が大きすぎて、何人か怪我をしたんだけど、その時に居合わせた彼女は行方不明になったっきりなんだ」

「じゃあ、彼女はその時に・・・」

「死者も出た事件だから、彼女の人生を変えるには十分かもしれないね。次だ」

次は、いかにも気弱そうな顔色の少年。

「彼は加賀弘。中学二年だ。彼は、ごく最近まで普通に学校に通ってたんだけど、君たちが初めて勇者になった日に、突如行方をくらませた。今はどこにいるのか分からないんだ」

「この人、そこまで悪い事をしなさそうですけど・・・」

「彼、五年前に二人の妹を強盗に殺されている」

「・・・」

翼の次の一言で絶句してしまう樹。

「ここまでよく普通に生活してきたと思うよ。何せ、親のいない状態で精一杯生きてきたんだ。そりゃ精神的に壊れてもおかしくない」

翼は、淡々と無表情に告げ、次の写真を指差す。

「次のこの大柄な男は、車田真斗。幼少の頃、頭を強く強打した事によって言語能力が低下し、判断力その他諸々の脳の機能が低下している。これが原因で親に捨てられたらしい」

「酷いわね・・・」

「こいつは騙されてるって感がでかいな」

「知能は五歳の子供並み。コイツがなにでどうしてこうなったかは不明だ。次に行こう」

次は、大人の雰囲気を感じさせる少女だ。

「彼女は阿室佐奈・・・・」

突然言い淀む翼。

「? どうかしたの?」

風が気になり声をかける。

「・・・彼女は、うちの門下生なんだ」

「え!?それじゃあ・・・」

「大赦の人間も関わっているって事ね・・・」

友奈の驚きの声に、美森の落ち着いた推測が続く。

「僕には、兄がいるんだけど・・・」

「あ、お兄さんいるんですね」

「うん」

「ん?となると・・・・当主になんのはソイツじゃないのか?」

剛が最もな質問をする。

「そうなんだけどね・・・」

俯く翼。それに心配そうな表情をする夏凜。

「・・・さしずめ、この阿室って女が、何か問題でも起こしたんだろ?」

止まる会話を無理矢理進めるかのように、千景が口を開いた。

「千景君・・・」

「・・・うん。彼女は、大赦の暗部に入っていたんだ。まだ中学生なのに、その歳で入るなんて、将来は有望とまで言われていたんだ。二年前まではね」

「二年前・・・?」

美森が、そう聞く。

その時、剛の顔が少し険しくなる。

「うん。彼女は、ある日突然、暗部の人間の殆どを、殺したんだ」

「殺した・・・?」

「うん・・・・理由は分かってるんだけど、確信はなくてね。だけど、僕の兄さんは、部下の不祥事は指揮官の責任と言い張り、自ら当主のTHE降りたんだ。そして、僕が次期当主として成り上がった」

翼は、強い眼差しで、皆を見る。

「僕は、どうして彼女がそのような行動に出たのか分からない。ただ、言えるのは、彼女は兄の地位を貶めたという事。そして、六道家の稼業に泥を塗った事。この始末は、僕がつける。だから、皆は手を出さないで欲しい」

しばしの沈黙。

だが、それを破ったのは、翼だった。

「次に行こう」

次に差したのは、黒髪の少女。

「・・・・幸奈か」

「そう、君が以前いた施設で、君と一緒だった少女、稲成幸奈だ」

「え?そうなの?」

「ああ。悪いな、言い出しづらくてな」

「いえ、誰だって、知り合いが敵に回っていたら、言い出しにくいですものね」

樹が上手くフォローする。

「彼女とは、まだ、君たちがまだ小学二年生の時に、どこかに引き取られたんだっけか?」

「ああ、なんか人の好さそうな女性だったと思うが・・・」

「そうなんだ・・・・まあ、それはともかくとして、彼女、実はそれ以来行方不明なんだ」

「な!?」

思わず腰を浮かす千景。

「驚くのも無理もないよ。なにせ、幼馴染が行方不明なんて聞いたら、誰だって驚くよ」

「なんで・・・」

「引き取った人らしき人の行方も、というか戸籍も分からないからね。おそらく、連れ去られたっていう感じだね」

「じゃあアイツは・・・」

「騙されてる、のかな?」

「・・・・」

拳を握りしめる千景。

その時、その彼の手に、もう一つの手が重ねられる。

「友奈・・・」

「大丈夫だよ。きっと、戻ってきてくれるよ」

そう微笑む友奈。

確信の無い、無責任な言葉。だが、それは、彼女の()()()()の現れなのかもしれない。

だが、その笑みは、何者をも勇気づける様なものを感じる。

「・・・ああ、ありがとう」

千景は、笑って返した。

ただ、()()()()

「あー、コホン」

翼が、咳払いをする。

「あんたら、イチャイチャするのはいいけど、今大事な会議中よ」

「「!?」」

風に指摘され、慌てて手を離す二人。

「友奈ちゃん・・・・」

「アハハ・・・」

「仲良いな」

「・・・・緊張感の無い奴ら」

美森は千景にジト目を浴びせ、樹は苦笑し、剛はニヤつき、夏凜はすでに諦めたかのようにため息をついている。

「ま、まあ脱線はそこまでにしておいて、最後だ」

そして、翼は最後の男の写真を指差す。

「『八神(やがみ)翔琉(かける)』。この中では、一番の危険人物と言えるだろうね」

「その理由は?」

「報告書を見た限り、彼はかなりの剣客だ。おそらく、失われた西洋剣術の使い手だろうね」

「西洋・・・!?」

「・・・って何?」

友奈が首をかしげた事でずっこける一同。

「社会の授業で出てくるぞ・・・・」

「ほら、英国とか、ヨーロッパあたりの事よ、友奈ちゃん」

「ああ!」

美森の説明で納得と言った感じの友奈。

「しかし西洋剣術か・・・・私は良く知らないわね・・・」

「片手剣なら基本的にはレイピアとかその辺りなんだけど、彼の場合は、ソードの方だね。それも長い長剣だ。と、これはいいね。彼の素性だけど、彼は、この中では一番の年長者だ。高校生だね」

「へえ・・・他にはないんですか?」

「彼は、ずっと前に行方不明になっているんだ。ここまで、今までの襲撃者と共通している部分だ。可能性としては、騙されているか、自分の意志で入っているのか。そこまでは分からない。ただ、彼が行方不明になった際、家族全員が事故で死んでいる」

「事故?」

「ああ。家が火事になったみたいでね。その時に、彼もいっしょに焼け死んだという事になったらしいんだ。だけど、彼は生きていた。その証拠が、君たちが持ち帰った写真」

と、翼は黒板に新たな文字を書き込む。

「現在分かっている事は、彼らの目的はバーテックスと同じ神樹様の破壊による世界の滅亡。もう一つは、彼らは樹海化世界じゃないと力は使わない。そしてその力は、精霊の障壁を貫くという事。まだ、貫かれたのが友奈ちゃんだけだから、なんともいえないけど、用心にこした事はない。いいね」

全員がうなずく。

「さて、それじゃあ次の議題ね。樹」

「はい」

議題が変わって、翼と夏凜に渡されたのは、一枚の紙だった。

それには『子ども会 お手伝いのしおり』と書かれていた。

「・・・という訳で、今週末は、子ども会のレクリエーションをお手伝いします」

「具体的には?」

「えっと、折り紙の折り方を教えたり、一緒に絵をかいたり、やる事は沢山あります」

「わあ、楽しそう!」

「面白そうだね」

友奈がはしゃぎ、翼が笑う。

「夏凜にはそうねえ・・・暴れたりない子のドッジボールの的になってもらおうかしら?」

「ハア!?っていうかちょっと待って!?私もなの!?」

そんな感じに言う夏凜の目の前に入部希望所を突き出す。

「昨日、入部したでしょ?」

「け、形式上・・・・」

「ここに入っている以上、部の方針には従ってもらいますからね」

「そ、それも形式上でしょ!?それに私のスケジュールを勝手に変えないでくれる?」

「あれ?夏凜ちゃん日曜日何か用事あったっけ?」

翼が首を傾げる。

「う、な、ないですけど・・・」

「じゃあ、親睦会もかねてやろうよー。きっと楽しい!」

「な、なんで私が子供の相手を―――」

「いや?」

友奈の言葉に、気まずい表情になる夏凜。

しばし周囲を見渡し、やがて諦めたかのようにため息をつく。

「わ、分かったわよ!日曜日ね。丁度その日だけは空いてるわ」

「素直じゃないなぁ」

「そ、そんなんじゃありません!」

最後は簡単にまとめられ、その日の部活は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

千景は手頃な長い棒の先に手頃なサイズの木の板を釘ではっ付けた擬似的な鎌を持ち出して、砂浜にやってきていた。

その理由は至って簡単。

 

特訓の為だ。

 

自分の精霊の加護、というか障壁(バリア)が無い以上、技術で戦うしかない。

一応、一撃必殺の『大葉刈(おおはがり)』があるが、あれが当たる保証はどこにもない。

その為には、鎌の使い方を十分に覚えておかなければならない。

あの『切り札』も使えるかどうかも分からない。

だから、策を弄する。

鍛える事で、敵の襲撃にいつでも対応できるようにする。

だからこその特訓だ。

自転車で砂浜についた時、ふと、すでに先客がいる事に気付いた。

「あれは・・・夏凜と翼か?」

そこには、二刀の木刀を様になっている様子で振り回す夏凜と、それをまるで指導官の様に見守る翼がいた。

気になり、声をかけてみる。

「おーい、夏凜、翼!」

「ん?不道じゃない」

「あ、千景君」

二人に駆け寄る千景。

「どうしたんだい?」

「精霊の障壁がないからな。こうして鍛えようかなと」

「ふーん・・・あ、君の武器は鎌なんだね」

「まあな」

彼らから距離を取り、試しに振り回してみる。

目の前で両手を使って回転。その勢いのまま左手首を軸に体の後ろに回し、背中に来た時、右手で受け取る。

そのままものすごい勢いで振り回し、気持ちの赴くままに鎌を振るった。

そして最後は、体を回転させ、右から左にかけて鎌を薙いだ。

僅かに空気が揺れ、風が巻き起こる。

「ふう・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

それを見て、茫然としている翼と夏凜。

「ん?どうした?」

「・・・・なんだか様になってるわね・・・・」

「以前にも、鎌を振った事が?」

「いんや、ない」

きっぱりと答えた。

それにうーんと唸る二人。

「・・・なんだよ・・・」

「いや・・・・うん、その鎌、形はしっかりしてるから、夏凜ちゃんと一度手合わせしてみたらどうかな?」

「「え」」

「ほら、これから人とも戦っちゃうわけだし、夏凜ちゃんは僕と何度もやっているから、問題無いと思うよ。危なくなったら、僕が止めるからさ」

にこやかに笑って言う翼。

「・・・・どうする?」

「・・・・いいんじゃないかしら?」

いやそこは止めろよ。

と、言いたかったが、もはや流れという感じで始まってしまった模擬戦。

「一応、遠慮はいらないんだよな?」

「ええ。どこからでもかかってきなさい」

互いの得物を構える。

右半身を前に、鎌の刃を前方斜め下にして構える千景。

同じように右半身を前に、右手の木刀の切っ先を千景に向け、左手を後ろに下げて構える夏凜。

しばしの沈黙。

「それじゃあ、準備はいいね?」

「OKだ」

「私もいいです」

「それじゃ」

右手を上げる翼。

「いざ、尋常に――――勝負ッ!」

開始と同時に手を振り下ろす翼。

それと同時に、開幕速攻と言わんばかりに夏凜が砂地を蹴って駆け出す。

(速いッ!?)

生身の状態でのその速度に目をむくも、千景はすぐさま迎撃の構えを取る。

「ハァッ!」

左からの薙ぎ払い。

それをよけきれないと判断した千景は鎌の柄で防御。

すぐさま右手の木刀を振り上げ、真っすぐに振り下ろす。

だが、それを上手くさがって避ける千景。

だが、追撃と言わんばかりに夏凜が追いかける。

二刀による連撃。

それを千景は巧みに鎌を動かして防ぎ受け流す。

「くっ!」

「防御してるだけじゃ、勝てないわよ!」

右の木刀による左薙ぎ。

それによって大きく鎌を横に弾かれる千景。

「やばっ・・・」

「貰った!」

すぐさま左の木刀の連撃。完全に腹に入る一撃。

だが。

「まだ、だぁ!」

「な!?」

自分の体を軸に鎌を背中に回して左手から右手に持ち変え、鎌の刃の峰でその一撃をそらす。

「しまっ・・・・」

「ハァッ!」

そのまま鎌の刃と柄の付け根を叩き付けるように突き出す。

「舐めるな!」

だが、夏凜は無理矢理体を捻り、両手の剣を交差させてその打突を防ぎ、ただし踏ん張りが効かず、後ろに大きく吹き飛ばされる。

砂浜を転がり、しかしすぐさま態勢を立て直し、靴底を擦らしながら立ち上がる夏凜。

「ハア・・・ハア・・・・やるじゃないの」

「ゼエ・・・ゼエ・・・・そりゃどうも」

息を切らして睨みあう二人。

だが、しばし膠着状態が続いた後、二人はまた激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果は千景の負けだった。

体力の問題だったようで、先にばてた千景がだんだんと夏凜に蹂躙されていき、あとはフルボッコ祭りだった。

「くっそぉ・・・」

「まずは体力付けるところからね」

自転車をこぐ千景と夏凜。

翼は、片腕が使えない上に、住んでいる場所がなんらかの理由で駅前のマンションになっている為、帰りは別となっているのだ。

ただ、どういう訳か千景と夏凜の住んでいる場所は、同じアパートであり、さらに家が隣同士である。

「どーして今まで出会わなかったんだ?」

「それ、私に言われても困るわよ」

アパートにつき、自転車を置く。

「ん?そういやお前、夕飯どうしてんだ?」

「ん?・・ああ、それは・・・・あ」

千景の質問に答えようとした夏凜だったが、何かを思い出したかのように廊下で止まる。

「・・・夏凜?」

「・・・・弁当買うの忘れてた」

予想を斜め上を行く答えだった。

「どうしよう・・・翼様からは一日三食と言われていたのに・・・・・」

青ざめる夏凜に、やれやれと言った感じで笑みを零す千景。

「仕方がない。俺の部屋に来いよ。飯、出してやんよ」

「え?悪いわよ、そんな」

「遠慮すんな。それに、ちゃんと食べねえと愛しの翼様に怒られるんだろ?」

「い、愛しとか言うな!」

千景のからかいに思わず牙を向く夏凜。

だが、その勢いは急激に弱まっていく。

「それに・・・もう私の初恋は失恋で終わってるわよ・・・・」

「え?」

「なんでもない。さ、夕飯、食わしてくれるんでしょ?」

「・・おう!」

と、いう訳で自分の家に夏凜を招き入れる千景。

千景の部屋は、散らかっている訳ではない。

ノートパソコン、大量のゲームカセット、ゲーム機、etc。

とりあえず電子機器が多い。

「・・・・ゲーマーなの?」

「まあ、そうだな」

「こんなんで料理出来るとは思えないわね」

「よく言われるけど、これでも俺がいた施設の所長から手解きは受けてきたんだぞ」

「まあ、期待しないで待ってるわ」

「あ、そう・・・」

と、ソファに座る夏凜。

台所では、千景がタンタンと包丁で材料を切っている。

「ほんと、ゲームばっか・・・ん?」

ふと、夏凜は抽斗(ひきだし)の上に乗っている写真入れを見つける。

「これは・・・・」

見て見ると、そこには、おそらく千景が以前いたであろう施設の写真があった。

それには集合写真かのように、沢山の子どもや中学生たちが並んで立っており、その端とかには、施設の職員であろう大人たちが笑顔で立っていた。

その中で、唯一笑っていないまだ小学三年くらいの男の子がいた。

「これ・・・・不道・・・よね・・・」

目の下にはうっすらと隈が出来ており、足が痛いのか重心がズレている。

しかも、その表情はどこか悲しそうだった。

「・・・・」

夏凜は、千景の多くは知らない。

だが、この写真の千景の様子を見るに、そこまで良い生活とはいえないだろう。

「どうしてこんなもの飾っているのかしら・・・・他には・・・」

傍にあったアルバムを見てみると、他のは全て讃州中学での生活ばかりだ。

川でのごみ拾い、幼稚園での演劇、機械の修理、困っている老人を助けていたりと、どれも勇者部としての活動ばかりだ。

ただ、その中の一枚だけ、なんとも不思議な状態の写真があった。

夏凜でも目を疑いたくなるような写真。

そこには、白いスーツのような服を着た千景がいた。そこまでは良い。

 

 

問題なのは、何故かその傍らで笑う()()()()()()()()()姿()()()()がいる事だ。

 

 

「これ・・・友奈・・・よね・・・?」

それは確かに友奈だ。だが、どこか雰囲気が全く持って違う。

それは何故か。

おそらく、化粧だ。

その化粧が、友奈の魅力を存分に引き上げ、全く別の次元の存在へと変えているという事だ。

友奈だけど友奈じゃない。知っている人物だが別人。

そんな曖昧な存在へと変わり果てている。

しかし、何故そんな写真がここにあるのだろうか。

「どうしてなのかしら・・・」

「ああ、それはデザイナーの人の依頼で、結婚式の際に着るウェディングドレスとタキシードの試着を頼まれてな」

「へえ・・・・って、うわぁ!?」

数秒、遅れて飛び上がる夏凜。

「ついでに宣伝の為に写真を撮られて、その一枚がこれ」

そんな夏凜を無視して説明する千景。

「そ、そうなの・・・」

「あ、飯、出来たぞ」

「・・・いただくわ」

出されたのは、ごく普通のかけうどんだ。

「「いただきます」」

そんな訳で、食べ始める二人。

「ま、まあまあってところかしら」

と、すまし顔でうどんをすする夏凜。

「そりゃどうも」

それに顔を引きつらせながらも我慢してうどんをすする千景。

しばらく無言状態が続く。

ふと、先に口を開いたのは夏凜だった。

「あんたさ。以前、施設にいた頃は、何があったの?」

「・・・・」

思わず、手を止める千景。

そして、天井を仰ぎ見る。

「・・・そうだな・・・虐められていたな」

「隠さないのね」

「写真、見たんだろ?だったら、大抵予想は出来ている筈だ。俺は虐められていた。その範囲は、施設だけじゃない。学校も同じ。少なくとも味方は所長のじっちゃんだけだったよ」

千景は、自分の左耳に触れる。

「髪を切ると言われて耳に傷をつけられた。風呂に入っていれば溺れさせられた。飯の時はひっくり返された。絵を描いていれば破られた。机の上は落書きだらけ傷だらけ。部屋は荒らされベッドはボロボロ。犬を隠れて飼っていたら殺されて。そりゃもう散々だったよ」

今でも、耳につけられた傷は、時々痛む。

「お陰で、俺は現実というものをいつも突きつけられた。誰も味方なんてしてくれない。助けてくれない。だからこそ、自分で這い上がらなくちゃいけなかったんだ」

まだ鮮明に思い出せる。嫌な笑みを浮かべる同じ施設の子どもたち。

手にはハサミを、鈍器を、とにかく自分を痛めつけられるものを持っていた。

「なんか、悪かったわね・・・」

「いや、俺も話したのはお前が初めてだ。誰かに話すっていうのも良いもんだな」

はは、と乾いた笑い声をあげる千景。

「まあ、陰気臭い話はこれぐらいにして、今度はお前の話を聞かせてくれよ。例えば家族の話とか」

「そうね・・・・私には、兄がいるの」

「へえ、お兄さんがいたのか。名前はなんていうんだ?」

「春信よ。これがなんでも出来る人でね。大赦でもかなり上の方の地位にいるわ」

「ちなみにそのお兄さんとは?」

「疎遠になってるわね。兄貴がなんでも出来るから、周りにもそれを強要されてね」

「良くある話だな。出来る兄と出来ない妹で見比べられる、てやつか」

「ええ。兄貴の妹なんだからこれぐらいはしろ、なんで出来ないんだって。毎日周りから言われてきたわ。親からもね。それに、兄貴の邪魔をするなとも言われたわ。だから私も話しかけなかったわ。それなのに、あの馬鹿兄貴は、私に構ってきた」

「どんなふうに?」

「勉強分からない所ある?とか、プリン分けてあげる、とか。なんかうざかったわ」

「愛されてるねぇ・・・」

「どこがよ!?」

ガタン!立ち上がりかける夏凜。

「じゃあ聞くけどさ。お前のお兄さんは、自分のようになれ、とか、これぐらい出来るようになれ、とか言われたのか?」

「い、言われなかったけど・・・」

「だったら、やっぱりお前はお兄さんに愛されてるよ。あ、妹としての意味でな。大切な奴に優しくしない奴なんかいない。時々、怒る時はあるけど、それはきっと、間違った人生を歩んでほしくないからじゃないか?」

「・・・・でも、そのうちあまり兄貴の方から話しかけてこなくなったから、もう呆れられたんじゃ・・・・」

「お前さ。いつも避けるように行動してたら、嫌われてるって思われるに決まってんだろ?だったら話しかけづらいに決まってるだろ?」

「・・・・そうなのかしら・・・」

「そうなんだよ。ほんと、優しいよお前のお兄さんは」

「・・・・そう」

頬を赤く染め、うつむく夏凜。

それから、しばらく談笑し、うどんを食べ終えた。

「一応、ありがとうと言っておくわ」

「そりゃどうも。はい、本日三回目の科白~」

玄関の前にて、そう軽口を言い合う二人。

ふと、そこで少し考え込んだ千景。だが、すぐに何かに思い立ったのか、顔をあげ、夏凜を見る。

「夏凜」

「何よ?」

「これから、毎日がきっと楽しくなるぜ」

「・・・・あ、そう・・」

興味無さげに、夏凜は隣の自分の家に入っていく。

そんな様子に、千景は不満を見せずに、中に戻っていく。

「さぁて、記録、塗り替えに行きますかね」

そう言い、テレビに電源を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 




次回『新入りの誕生日』

新しい仲間に、生まれて来た事への祝福を。

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