不道千景は勇者である 作:幻在
ストレートかと思ったら、思いっきりボディーブローを喰らった気分だった。
まさかの結婚相手が神樹様とは思わなかったな。
本当にボディーブローを喰らった気分だった。
まあ、神樹様が何故友奈を選んだ理由は、おそらく高嶋さんが関わってんだろうけどさぁ・・・・
勇者部の怒りもごもっとも。しかし何が出来るのか、と思うのもまた事実。
最後のシーンでは、襲ってくるのがまさかの神そのものとは・・・
展開が全く予測できない中、次回が気になる話でした。
では、本編をどうぞ。
日曜日。
「・・・・来ないな」
「そうだね」
子ども会会場にて、まだ来ない人物を待っている、勇者部一同。
部長の風、同じ三年の剛、二年の千景、友奈、美森、翼。そして一年の樹。
この中で来ていないのは、夏凜だけだ。
「うーん・・・電話にも出ない・・・」
「マジかよ・・・・」
「千景は何か知らない?」
「いや。内緒で出てきたからな・・・・」
「まいったなぁ・・・」
「全く、どうしてこんな時に・・・・」
風が頭を抑えて唸る。
「仕方が無い。先に行ってましょう」
それに、全員が拒否する事はなく、仕方なくうなずいた。
「・・・・」
「夏凜ちゃん・・・」
まだ来ない少女の心配をし、千景と友奈は公民館へと入っていく。
結局、夏凜は来ず、千景たちはパワフル全開ハチャメチャモードの子供たちによって開放されるのに時間がかかってしまった。
三好夏凜。
才能の塊たる、三好春信の妹。
彼女は、子供の頃から、兄と比較され続けてきた。
兄の凄さを熱く語ってくる者もいれば、その兄の様になれと強要する者もいた。
正直に言ってうんざりだった。
いつも兄と比較されてきたため、何か一つでも兄に勝る事をしようと必死になっていたなか、『勇者』という大赦の『御役目』がある事を知った。
血の滲む様な努力の末、夏凜は、どうにか勇者になる事が出来た。
同時に、六道家の次期当主である、翼と共に戦える事に歓喜した。
勇者となった今でも、鍛錬は欠かさない。むしろ、これからが本番と言えるのだ。
休んでいられない。
だというのに。
あの勇者部にいる連中は、バーテックスと戦っている上に、特異点として、あの六人組とも戦わなければならないのに、あの緊張の無さ。
もっと、勇者としての自覚を持ってほしい。
翼でさえも、その雰囲気に飲まれている。
むしろノリノリな感じだ。
今日行われる子ども会でのレクリエーション。
あれは、自分が集合場所を間違えたのだが、そもそもあんな気の抜けた奴らに付き合う必要などない筈なのだ。
そう、付き合う必要などない。
ない、はずなのに―――――どうしてこんなに心が沈むのだろうか?
ランニングマシンの電源を落とす夏凜。
「滞りなし・・・」
酷く小さい声。
そこで、玄関の方で、来客を知らせるベルが鳴る。
「?・・・!?」
それは、一回にとどまらず、何度も何度もうるさくベルを鳴らされる。
新手の押し売りか何かか。
木刀を持ち出し、おそるおそる、玄関へと向かう。
そしてノブへと手をかけ、一思いにに思いっきり開ける。
「誰よ!」
『うわぁああ!?』
木刀を向けた途端、複数の悲鳴が響いた。
「・・・・え?あんたたち・・・」
そこには、千景、友奈、美森、風、樹、剛、翼の勇者部全員がいた。
その手に、大きな袋を持って。
「あ、アンタねえ!何度も電話かけてんのに、なんで電源オフにしてるのよ!?」
「それにいきなり木刀向けるたあどういう了見だオイ!?」
風と剛が文句を言う。
「そ、そんな事より何!?」
「何ってあんた、心配になったから見に来たのよ?」
「心配・・?・・・あ・・・」
今日行われる子ども会の事を思い出し、はっとなるが、目を逸らす夏凜。
「良かった。寝込んだりしてたんじゃないんだね」
「それならそれで看病する為のおかゆの材料を買ってきちまったぞ。まあ、それでも歯応えのあるものも買ってきたが・・・」
友奈と千景が安心した様に笑う。
「え、ええ・・・」
「じゃ、あがらせてもらうわよー」
と、風が本人の意志に関係なく勝手に部屋にあがっていく。
「え、ちょっと・・!?」
「まあまあいいじゃない」
「つ、翼様・・・!?」
と、部屋にあがっていった一同。
「殺風景な部屋・・・」
「どうだっていいでしょ!?」
部屋の様子を見て風が一言。
「これすごーい!プロのスポーツ選手みたい!」
「勝手に触んないでよ!?」
ランニングマシーンで樹が驚く。
「わあー!?・・・・水しかない・・・」
「買ってきて正解だったな」
「勝手に開けないで!」
友奈と千景が冷蔵庫の中身に落胆。
「なんなのよ・・・・いきなりきてなんなのよ!?」
そこでとうとう夏凜が怒鳴る。
「あのね」
「?」
「ハッピーバースデー!夏凜ちゃん!」
と、友奈がどこからともなくバースデーケーキを取り出した。
「・・・え?」
「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう」
「ど、どうして・・・」
「ほら、昨日出した入部届。そこにちゃんと書いあるんだよ」
翼が説明した通り、風が取り出した入部届には、夏凜の生年月日が記入されていた。
「結城が見つけたんだよ」
「あ、て思っちゃった。だったら誕生日会しないとって」
千景以外の全員がパーティーハットをかぶり、剛と友奈がそう言う。
「歓迎会も一緒に出来るねって」
「うん!」
「本当は、子供たちと一緒に児童館でやろうと思ったの」
「なのにお前ときたら、全然来ないからな」
千景が台所でかってに料理を作り始める。
「家まで迎えに行こうかと思ったんだけど、何分子供たちのわんぱくさに驚かされてね」
「結局、こんな時間になるまで開放されなかったのよ。ごめんね」
それを聞いて茫然とする夏凜。
それに首をかしげる一同。
「ん?どうした?」
「夏凜ちゃん?」
「あれー?もしかして自分の誕生日忘れてたー?」
「・・・・あほ」
夏凜が何かを呟く。
その間に千景は油を入れた深底の鍋で揚げ物を揚げ始める。
「ばか・・・ぼけ・・・おたんこなす・・・」
「へ?」
「なんだよそれ!?」
罵詈を吐く夏凜の眼は、かすかにうるみ、頬はほのかに赤くなっていた。
「誕生日会なんてはじめてだから・・・・なんて言ったらいいのか分かんないのよ・・・」
「なんだただの照れ隠しかよ」
「う、うっさい!・・・ってなによそれ?」
「何って、からあげだとかコーンスープだとか、あとサトウのご飯とか色々と」
「千景君はね、料理、ものすごく上手なんだよ!」
「私の次にね」
料理を終えてやってきた千景の手には、大量の料理があった。
「ま、なんだ・・・・・今日ほどめでたい日はないって事だ」
千景は、壁にかけられているカレンダーに目を向ける。
そこには、六月十二日の場所に、赤いマーカーで丸が付けられていた。
それを見た友奈が、夏凜を見て微笑む。
「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん」
夏凜は、それを恥ずかしそうに受けるのだった。
『かんぱーい!』
そんな訳で始まった夏凜の誕生日会。
「アハハ!飲め飲め!」
「コーラで酔っぱらうな!?」
「良いじゃない!こういうのは雰囲気よ」
「そうとは思わないけど・・・」
千景が作った料理やお菓子を広げ、騒ぐ一同。
「んー!千景君の作ったからあげはやっぱり美味しいなー!」
「あ、友奈ずるい!私にも食わせなさい!」
「俺にも食わせろ結城!」
千景の作った料理にがっつく友奈に続くように風や剛がかぶりつく。
「あ、折り紙!」
「上手じゃないか」
「み、見ないで下さいー!」
テレビの下のたんすにある折られた鶴を見つけた樹に、それを褒める翼。そして羞恥に顔を赤くする夏凜。
「ふふ。そういえば千景君」
「ん?どうした東郷?」
「最近、頭痛が多いって言ってたけど、大丈夫?」
「一日一回程度だからな。子ども会やってる時にもう来たよ」
「そう・・・酷くなったらいつでも言ってね。悩んだら相談、よ」
「ああ」
ただ、今回はとんでもなく気分の悪くなりそうな内容だったのは覚えている。
なんだか、壊れた都市の中、大きな卵が大量にあり、その中で何かが蠢いているような、そんな、
思い出すだけで気分が悪くなる。
ただ、今回はその光景だけで、その時の心境は分からずじまいだ。
「まあ、それは後で相談するとして、今は夏凜の誕生日会だ。楽しもう」
「そうね」
そう言い合う二人。
「えーっと、勇者部の予定と、私たちの遊びの予定っと」
「勝手に書き込まないでー!」
いつの間にか夏凜のカレンダーに色々と書き込んでいる友奈。
「勇者部は土日に色々と活動があるんだよ」
「俺も日が浅いが慣れると楽しいぞ」
「忙しくなるわよー」
「勝手に忙しくするなー!」
絶叫する夏凜。
「そうだよ忙しいよ。文化祭でやる、演劇の練習とか」
「え?」
「え?」
「演劇?」
「オイ待て、いつ決まったんだ?」
千景が友奈をジト目で見る。
「あれれ?もしかして私の中の勝手なアイデアを口走っちゃっただけかも・・・」
「バカなの?」
と、慌てる友奈と呆れる夏凜だったが。
「良いねぇ、演劇・・・」
『え?』
『は?』
風のつぶやきに全員が間抜けに声を漏らす。
「決まり!今年の文化祭の出し物は、演劇で行きましょ!」
今ここに文化祭の出し物が決定した瞬間だった。
「ていうか、アタシも勝手に巻き込まないでよ!」
「いいじゃん、暇だったんでしょ?」
「忙しいわよ!トレーニングとか!」
顔を背けて言う夏凜。
「演劇かぁ・・・懐かしいなぁ・・・・」
と、翼がそう呟いた。
「?」
その時の笑顔に、美森は、どこか悲しそうな表情を感じ取っていた。
ただ、その正体は分からない。
「良かったな。友奈」
「うん!」
そんなこんなで終わる誕生日会。
「そんじゃ、私ら帰るねー」
「帰れ帰れー!」
「俺は後片付けするから」
「また来るねー!」
帰っていく千景以外の勇者部一同。
彼女たちを見送った千景と夏凜は、すぐさま片付けに入る。
「悪いわね、片付けに付き合わせて」
「こうでもしないと生きていけないからな」
夏凜は菓子のゴミを、千景は皿洗いを片付けていた。
「それにしても、アンタ、随分と友奈と仲良いのね」
「へ!?」
ゴミを出しに外へ出ていた時に、そう言われ狼狽える千景。
「あら?もしかしてこの手の話に弱いとか?」
「わ、悪いかよ・・・」
「ふっふ~ん?」
夏凜は格好の餌でも見つけたかのような表情になる。
それに背筋が僅かにゾッとする千景だったが、すぐに振り払ってゴミ袋を置いた。
「そんじゃ、また明日な」
「ええ」
それぞれの部屋に戻る二人。
「さて、風呂にでも・・・ん?」
ふと、千景は自分の携帯にメールが来ている事に気付いた。
こんな自分に、アプリではなくメールという連絡手段で連絡してくる人物を、千景は一人しか知らない。
それを確認した瞬間すぐさまその内容を確認する。
『家が隣同士だなんて知らないよー!』
送ってきた人物は友奈だ。
ただ、その内容を見て、千景は思わず吹き出す。
『なんだ?ヤキモチか?』
『なんだか夏凜ちゃんずるいー!』
『そう言うなって。お前なんてしょっちゅう来てるだろ?』
『そうだけどさぁ・・・・どうせ夏凜ちゃんとご飯一緒に食べたんでしょー?』
『何故分かったし・・・』
『ひどい!』
『悪かった』
『今度美味しいうどん食べさせたら許してあげる!』
『オーケー、約束だ』
『うん!』
どうにか機嫌を取りなおした事にホッとする千景。
『あ、風先輩が夏凜ちゃんにあのアプリ、ダウンロードさせたみたいだから、続きは夜に!』
「へえ・・・」
千景はすぐに返信を返す。
『分かった。夜にな』
『うん!』
会話を終わらせ、すぐにシャワーを浴び、パジャマに着替える千景。
電気を消し、ベッドに寝っ転がる。
風『あんたも登録しておいてね。今日みたいに連絡の行き違いがないようにね』
樹『これから仲良くしてくださいね。よろしくお願いします』
東郷『次こそはぼた餅食べてくださいね。有無は言わせない』
友奈『ハッピーバースデー夏凜ちゃん!学校のことや部活のことでわからないことがあったらなんでも聞いてね』
剛『困った事があったらなんでも聞けよー。東郷に』
千景『押し付けてどうするんですか・・・』
剛『やかましい』
夏凜『了解』
「お、夏凜から来た。こりゃあれるな」
笑みがこぼれる千景。
その言葉通り。
友奈『わー返事が帰ってきた!』
風『ふふふ、レスポンスいいじゃない』
千景『いいじゃないか』
友奈『わーーーい』
樹『わーーーい』
東郷『ぼた餅』
翼『何故に!?』
夏凜『うっさい!』
風『ぶはははははは』
東郷『ぼた餅』
剛『いやぼた餅から離れろよ』
「本当にぼた餅好きだな東郷は・・・ん?」
そう呟いた直後。
友奈『これから全部が楽しくなるよ!』
「・・・ふ」
その言葉に、思わず笑みが零れる千景。
千景『ああ、楽しみにしてな』
それを最後に、その日の会話は終わった。
いない。いない。誰もいない。
誰もが死んでいる。
誰かが生きているなんて、そんなの
骨の山、壊されたバリケード、破壊されたビル。
そして、あの光景。
も
あんな風にはなりたくない。死にたくない。あんな死に方はしたくない。
称えられないまま死にたくない、褒められないまま死にたくない、愛されないまま死にたくない。
忘れられて死にたくない。
次回『歌が苦手な勇者』