不道千景は勇者である 作:幻在
全く展開が予想できないが、きっとハッピーエンドになる事を祈っています!
そして、のわゆのアニメ化が待ち遠しいッ!
若葉の居合を、想像ではなく映像としてみたい!
そんな訳で、本編をどうぞッ!
某日――――
「千景先輩、話しがあります」
本日の千景に対しての樹の第一声はこれだった。
「・・・どうした?そんな真剣な顔をして・・・」
樹のらしからぬ気迫に、どうにも嫌な予感がする千景。
一応、作業の手を止めて聞く。
「えっと・・・その・・・・」
俯いてもじもじとしだす樹に、千景はいよいよ何かある、と身構える。
いつまでも言い淀むために、気まずい沈黙が二人を支配する。
だが、樹が一度深呼吸し、やがて決意を改めたかのように表情を引き締める。
「よし・・・・」
「・・・」
千景もゴクリと唾を飲みこむ。
そして次の瞬間―――
「私に歌を教えてください!」
「・・・・・そっちか」
犬吠埼樹は、人前で歌を歌うのが、ちょっぴり苦手である。
「つまり、近々、歌のテストがあるから、それに向けて上手く歌えるようになりたいと」
「そうなんです・・・」
腕を組んでそう言った千景の言葉を肯定する樹。
「なんで千景なんだ?」
剛がそういう。
結局、その場にいた全員が樹の叫びを聞いていた訳なので、勇者部五箇条が一つ『悩んだら相談』に則り、勇者部全員で樹の歌について話し合っていた。
「千景君、歌がものすごく上手なのよ」
美森がそういう。
「そうなのか?」
「去年の内申、音楽の成績は学年トップよ」
「すごいね」
風の言葉に感嘆を漏らす翼。
「俺はただ普通に歌っているだけだが・・・」
「それでカラオケで毎回100点満点取るんだからすごいよね!」
「どんな声帯してんのよ・・・」
うんざりした表情で言う千景に対して、褒める友奈と呆れる夏凜。
「一応、占ってはみたんですけど・・・」
「占いってそうそう当たるもんでも・・・」
結果は――――
死神の正位置、意味は、破滅、終局。
「・・・だ、大丈夫だ樹!占いなんてそうそう当たるもんでもねえよ!」
「当たるも八卦当たらぬも八卦、っていうでしょ?」
「そうだよ!こういうのって、もう一度占ってみれば、全く別の結果が出てくるものだよ!」
「そんなに言うならもう一度やってみろよ」
結果!
Take2 死神の正位置!
Take3 死神の正位置!
Take4 死神の正位置!
『・・・・』
もはや誰も何も言えない。
「だ、大丈夫だよ!4カードだからきっと良い役だよ!」
「死神の4カード・・・・」
「ああ!?悪い意味じゃなくて・・・!」
「だぁー!占いなんて当てになるかァ!」
剛の絶叫で始まる樹の歌のテスト対策会議。
「歌が上手くなる方法かぁ・・・」
「歌でアルファ波を出せれば、勝ったも同然ね」
「アルファ波?」
「良い音楽や歌というものは、大抵アルファ波で説明がつくの」
「いやないから!?俺だせないから!?」
美森の言葉に思いっきりツッコミを入れる千景。
「ハハ、変わらないなぁ・・・―――は」
「? 翼君何か言った?」
「いや、なんでも」
翼のつぶやきに、反応する友奈だったが、誤魔化す翼。
「樹一人で歌うと上手いんだけどね・・・・人前だと、緊張してしまうってだけじゃないかな?」
「ようは気持ちの問題か」
「そっか、それなら」
ぽんと、手をたたく友奈。
「習うより慣れよ、だね」
そんな訳でやってきたカラオケ店。
「イエーイ!聞いてくれてありがとー!」
風がマイク越しにそう叫ぶ。
カラオケ店の一室にて、千景、友奈、美森、翼、風、樹、剛 夏凜はいた。
そして今歌っていたのは風だ。
「お姉ちゃん上手!」
「えへへ、ありがと」
「ちょっとごめんね」
ふと樹からパネルを受け取る友奈。
「ねえねえ夏凜ちゃん、この歌知ってる?」
「ん?一応知ってるけど・・・」
その後の友奈の行動は決まっている。
「じゃあ一緒に歌お!」
「ええ!?なんでアタシが・・・慣れ合う為にここにいる訳じゃ無いわ!」
と、断りを入れる夏凜だったが。
「そうよね~、私のあとじゃあ、ご・め・ん・ね~」
と、風が挑発気味に言って指を指した先には・・・
結果 92点
「・・・友奈、マイクをよこしなさい」
「え?」
「早くッ!」
「は、はい!」
そして勢い良く歌う友奈と夏凜。
「ハア・・ハア・・・夏凜ちゃん上手」
かなり飛ばし過ぎたのか、息切れをおこしている友奈と夏凜。
「ふ、これぐらい当然よ」
結果 92点
「変わらないな」
千景がそう呟いた。
「次は、樹ちゃんだね」
「あ、はい」
翼に言われ、マイクを手に取る樹。
結果 惨敗
「はあ・・・」
「やっぱりまだ固いかな」
「あそこまで固い声は聞いた事がねえ・・・」
「緊張がほぐれればどうにかなるんだがな」
風が腕を組み、剛があんぐりと口を開け、千景はジュースを飲みながらそう言う。
「誰かに見られていると思ったらそれだけで・・・」
「重症ね」
「夏凜ちゃん、そんな事を言わない」
「はい」
「まあ、今はカラオケなんだし、上手かろうと下手だろうと、好きな歌を好きに歌えばいいのよ」
「流石風、良い事言う!」
「あ、アリガト・・・」
剛の誉め言葉に思わず顔を赤くする風。
これで互いに無自覚なのだからなお質が悪い。
「そうそう、気にしない気にしない!」
「そうだぞ樹、こういう時はお菓子でも食べて――――」
瞬間、千景の伸ばした右手に強烈な痛みが走る。
「ぎゃあぁぁああああぁああ!?」
「あぁぁあああ!?牛鬼!それ食べ物じゃないから!食べ物じゃないから食べちゃだめぇええええぇえ!!」
牛鬼が思いっきり千景の手に噛みついていた。
気付くと、机の上にあった大量のお菓子は全て消えていた。
「こ、この糞ビーフ・・・全部食いやがったな・・・・ついでに俺の手も!」
わなわなと怒りの炎を燃やす千景。
「牛鬼は本当によく食べますね」
「食べ過ぎだよぉ~」
その直後、盛大な音楽がスピーカーから流れ出る。
「あ、私がいれた曲」
『!?』
それを聞いた直後、千景、友奈、風、樹の四人がビシッと直立姿勢となり、敬礼をする。
「「え!?」」
それに唖然とする夏凜と剛。
「お、なるほど」
そしてそれを察したのか、翼が遅れて立ち上がって敬礼をする。
美森がいれたのは、軍歌だった。
終わった後、美森が歌い切ったと爽やかな笑みを浮かべていた。
それと同時に、立っていた五人も一斉に座る。
「さっきのは一体・・・・」
「東郷さんが歌う時、私たちはいつもこうだよ」
「それにしても、翼よく乗ったわね。もしかして知ってた?」
「はは、まさか。ただ美森ちゃんが歌い始めた時にみんなそんな行動してたから、それに乗っただけだよ」
「あの、東郷と呼んで欲しいのだけれど・・・」
「ああ、ごめん、東郷さん。大抵の相手だと必ず下の呼んじゃうんだ」
「ま、一種の癖って奴だな・・・ん?」
ふと、すぐさま次の曲が流れ出した。
「これは・・・東郷?」
「私じゃないわ」
それは軍歌だった。
「あ、僕だ」
『!?』
まさかの翼だった。
歌い終わる翼。
「ふう・・・」
「お疲れ様です翼様」
「ありがとう夏凜ちゃん」
「まさか翼が東郷タイプだとは思わなかったわ」
「そうかな?」
翼がそう言った後、その手を取ってがっしりと握る美森。
「是非、是非、国防について話し合いましょう!」
「あ、ああうん・・・・言っておくけど僕は陸軍派だよ?」
「構わないわ!その代わり私は海軍について話すから!何から話しましょうか?やはり戦艦長門かしら?それとも空母瑞鶴かしら?それとも―――!」
「はいはい落ち着け東郷!翼が困ってんだろ」
「ああ!まだ国防について語り切れていないのにー!」
「ま、また今度でね?」
「ええ!」
美森は心底嬉しそうに翼の言葉を許諾するのだった。
「ねえねえ千景君!今度は千景君が歌ってよ!」
「俺か?そうだな・・・」
パネルを受け取り、曲を選ぶ千景。
「そうだな・・・・これで良いか」
選んだのはロックンロール。
「お、珍しい!」
「たまには激しいのもな」
そんな訳で歌った千景。
その結果は――――
100点
「ふう・・・」
「千景君、上手!」
「上手です千景先輩!」
「それはどうも」
「あれ?剛先輩?夏凜ちゃん?翼君?」
気付くと、夏凜、剛、翼の三人が口をポカンと開けて茫然としていた。
「・・・あっれ~?もしかして千景の歌のうまさに感動して声も出ないとか?」
「・・・・何も言えない」
「・・・・天才としか言いようがないわね」
「・・・・ここまですごいだなんて思わなかった」
どうにか絞り出した言葉がそれだった。
「次なに歌おうか?」
「好きに決めろ」
「おい待て!俺まだ歌ってねえぞ!」
次の歌は何を歌おうかと言いあっている間に、風の携帯に何かしらの連絡が入る。
それを見た風の眼が、見開かれる。
トイレにて。
流れる水を見ながら、黄昏る風。
そんな中に、夏凜がトイレの中に入り、背中を壁にもたれさせる。
「大赦から連絡?」
「・・・ええ」
「そう、アタシや翼様には何も言ってこないのに・・・」
何も言わない風。
「内容はだいたい想像つくわよ。バーテックスの出現には周期がある。だけど今の奴らの出現は、当初の予測とは全く違ってるわ」
「・・・最悪の事態を想定しろ、だってさ」
「怖いの?」
風の手が、握り絞められる。
「貴方は統率役には向いていない。アタシや翼様の方が上手くやれるわ」
それに対して、風は水道の水を止め、振り返る。
「これは、私の役目で、理由なの。後輩は黙って、先輩の背中を見ていなさい」
そう言い、トイレを出ていく。
「・・・・ふん」
それを見て、夏凜は鼻を鳴らすのだった。
夕刻、帰り道を歩く勇者部一同。
「あ~、楽しかったぁ」
「歩いて帰るの久しぶりだね」
「東郷は車椅子だから、送って貰わないとダメだからな」
「うん、でも、カラオケはあんまり樹ちゃんの練習にはならなかったかな?」
「でも、楽しかったですよ。皆が歌うのが聞けて」
友奈の言葉に、樹はそう返す。
そんな中、翼が剛にある事を話しかける。
「そういえば、剛さん、実家には帰らないんですか?」
それを聞いた剛の顔が曇る。
「実家?」
それを聞いていた友奈がそう聞いてくる。
「えっと・・・」
「俺の実家は、実は大赦にある程度の発言力を持つ家の一つなんだよ」
「え?それじゃあ三ノ輪先輩っていいとこのぼんぼんってところですか?」
「ぼんぼん言うな」
しばし言い淀んだ後に、剛は自分の身の上話を始める。
「俺の家は、確かに大赦の中でも発言力を持つ家系の一つだ。だけど、発言力があるからといっても、裕福なわけじゃねえんだ。その為、俺は中学に上がると同時に出稼ぎに出ると決めたんだ」
「中学からって、結構大変なんじゃ・・・」
「親は反対したんだがな。お前がそこまでする必要はないって。だけど俺には妹と弟がいて、さらにお袋の中には赤ちゃんがいて。その上仕事まで大変そうだと思ってな。そんな親に楽させたくて、俺は実家を飛び出したんだ」
「立派な理由ですね」
「まあな。だけどな」
剛の表情に影が差し、声も低くなる。
「・・・・・その年に、妹が死んだ」
『え・・・』
翼以外の、全員がそう声を漏らした。
「それを聞いたのは、妹が、小学校の遠足に行った数日後、告別式の日だったよ。その時には、妹は棺桶の中で眠ったように死んでいた。どうも、大赦の『御役目』とやらの最中に、死んだらしい」
「そのお役目の内容って・・・」
美森が、遠慮がちに聞いてくる。
「よくは知らねえ。ただ、命をかける程の危険な事らしい」
「なんだか、すみません・・・」
樹が謝る。
「俺は、火葬される前に一度妹の顔を見ただけで・・・あとは、何もしなかった」
夕焼け空を仰ぎ見る剛。
「まるで、自分が自分でなくなったかの様に、心がどっかに行っちまったようになってな。俺は何のために家を出たのか、それすらも忘れちまった。何もかもがどうでもよくなって、学校も行きたくなくなって、あっちこっちで喧嘩だとかカツアゲに明け暮れる日々だった。だけどな」
剛は俯き、フッと笑う。
「そんな中だよ。わざわざ学校を抜け出してまで俺を引っ叩きに来た奴が来たんだ。ソイツが言った言葉は今でも覚えている」
そう、今でも思い出せる。
とうとう、全てを忘れたくて、薬に手を出し掛けた時だった。
それを奪い取り、思いっきり頬を叩いた、一人の少女。
それに茫然とし、見上げる中で、胸倉を掴まれ、涙に濡れた目でこちらを睨み付けてくる少女が、大きな声で、自分を叱った時の言葉を。
『アンタの妹は、アンタにそんな風に生きろって言ったの!?』
初めてだった。
あんな事を言われたのは。
家では、母の手伝いや、まだ気弱だった妹ややんちゃな弟の世話をしたりで、かなりの働き者だったからそんな事はなかったが、妹が死んだ事で怠惰な生活を送っていく中で、初めて、叱られる事を、自分の為に放たれる暖かい平手打ちというものを受けた。
「今でも、ソイツには感謝してるんだぜ?なあ、風」
「・・・あ・・・えと・・・その・・・・」
剛が振り向いた先では、顔を真っ赤に染める風が立っていた。
「その・・・私は・・・ただ・・・・アンタに、全うに生きて欲しかったというか・・・なんというか・・・」
「・・・可愛いね、君のお姉さん」
「はい」
「コラ翼!恥ずかしい事を言うな!それに樹も悪ノリするなぁああ!!」
顔を真っ赤にした状態で風が翼と樹を追いかけまわす。
「まあ、心配とかなくてよかったです」
「妹の事は、あいつのお陰で乗り越えられた。だから、俺はあいつに返しても返しきれない恩ってものがあるんだよ」
「あれ?それじゃあなんですぐに勇者部に入らなかったんですか?」
何気なく鋭い指摘をした美森。それを聞いた剛はきょとんとした。
「え?なんでって・・・そりゃ不良として絶大な評価を持つ俺が勇者部に入れば、部の評価が落ちるんじゃないかという俺の配慮だが?」
「「「あー・・・」」」
なるほど、と納得する三人であった。
向こうでは、風の追撃を巧みに避ける翼と、すでに風によって轟沈させられている樹の姿があった。
後日、友奈が考え付いた応援方法によって、樹は無事に音楽のテストを合格したというのは、別の話。
人目の付かない、森の中にある、洞窟の中にて。
「傷の方はどう?翔琉さん」
「ああ、大分治ってきた」
幸奈が、ベッドの上で上体を起こしている男、『
「奴らの動向はどうだ?」
「特に大きな行動は起こしていないと、佐奈さんがそう言っていました」
「そうか。次の襲撃はいつになる?」
「一週間後と」
「ならば、そろそろ一ヶ月の遅れを取り戻さなければな」
ベッドから降りる翔琉。
「その事で、アモルさんから」
「?」
幸奈に連れられ、とある部屋に案内される翔琉。
そこには、翔琉と幸奈以外の全襲撃メンバーの四人がそこにいた。
それともう一人、妖美な気配を漂わせる、白衣姿の女がそこにいた。
「何の用だ、アモル」
「ふふ、貴方のそういう態度、私、好きよ」
「ふざけるな」
女性、アモルを睨み付ける翔琉。
それに呆れた様子で手に持っていた携帯端末を翔琉に向かって投げる。
それを片手で受け取る翔琉。
「アップデートしておいたわ。それなら、幸奈と同じように、簡単に精霊の障壁を突破できるはずよ」
「それじゃあ・・・・」
「ああ、邪魔な奴らを殺せる」
佐奈が、そう言う。
「それともう一つ、装備に新しいのを入れて見たから、後で試してみてね」
「・・・・感謝する」
渋々と感謝の意を示す翔琉。
「これ・・・で・・・全・・・部・・・」
「ああ、これで由美と由佳を殺したこの世界を壊せるんだ」
「アハハ、いいよねいいよね。
「これで・・・・救われる。あの子たちも、きっと・・・」
それぞれが、感情の高鳴りを抑えきれていない。
「・・・」
幸奈は、携帯の画面に映し出されている、写真を見ていた。
「・・・千景君、貴方は私が――――」
きっと、不道千景にとって、彼女は最大の壁となるだろう。
「――――新世界へ、連れて行ってあげる」
「俺は、殺す。神樹を殺す」
少年は神を憎む。
少女は周囲を憎む。
少年は人を憎む。
少女は世界を憎む。
少年は敵を憎む。
少女は今を憎む。
全ては、新たな世界の為に――――。
次回『その笑顔の意味』
いっぱいの優しさの中に、ほんの少しの哀しみを残して。