不道千景は勇者である   作:幻在

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まさか、次回がまさかの次週とは思わなかった。
よく考えてみたら大晦日前日。
そんな日に放送してる訳ないよな・・・・・

皆さんは、正月は何して過ごすのでしょうか?

自分は家族とスキヤキを食べますね。スキヤキは大好物です!

そんな訳で、本編をどうぞ。


その笑顔の意味

某日。

 

 

「今日は僕と東郷さんだけだね」

「そうね」

放課後、勇者部部室にて、翼と美森はやってきていた。

今日は他の部員は全て出払っているため、今は二人だけなのだ。

 

千景と夏凜はある屋敷の壊れた機械や道具の修理を手伝いに行っている。

 

風と樹は資源回収のボランティア。

 

友奈と剛は生徒会の手伝い。

 

そんな中で、翼と美森だけは今日は依頼は来なかったので、こうして部室で文化祭の出し物の準備をしている訳なのだが。

「・・・」

美森は、翼の挙動にどうにも不信感を抱いているのだ。

どうにも、自分に対しては妙に優しいというか、遠慮しているというか、距離を取っているというか。

パソコンを操作する中で、美森は、どうにも彼の事が気になってしまうのだ。

どうしたというのだろうか。

「これを、こうして・・・・うん。こうだ」

一方の翼は、片手だけなのに巧みに衣装の材料となる布を切っていた。

さらに裁縫道具でミシンよろしく縫っていく。はっきり言って美森よりもハイスペックだ。

やはり家系というだけあって相当な技術の持ち主だ。

「それで・・・・ん?どうかしたの?東郷さん」

「あ、いえ、なんでもないわ」

突然、声をかけられ、慌てて自分の作業に戻る美森。

「ふ~ん・・・あ」

ふと、翼がポケットから携帯を端末を取り出し、立ち上がって窓際の方へ歩く。

「どうしたんだ?・・・うん・・・・そうか・・・・分かった・・・・ありがとう。引き続き、調べてくれ。いいね・・・・・うん・・・・父さんや兄さんには、元気にしてると伝えておいて・・・それじゃ」

通話を終わる翼。

「大赦から?」

美森が聞いてみる。

「まあね。といっても、僕ら六道家が担当している暗部からだけど。ついでに言って、今の僕の権限で動いてくれる人からの連絡だけどね」

「そう・・・」

なんだか、翼の美森に向ける笑顔が、どこか悲しそうに見える。

「どうかしたのかい?」

「いえ・・・・・なんだか、貴方が悲しそうで・・・」

俯いてそう答える。

その時の翼の表情は、僅かに目が見開かれていたが、いつものいっぱいの優しさの中にほんの少しの哀しみが紛れた笑みで微笑む。

「そうかな?」

「・・・・いえ、なんでもないわ」

「・・・そっか」

と、ポケットへ携帯を入れる翼。

「それはそうと、ホームページに新しい依頼とかの入ってないのかな?」

「あ、見て見るわね」

パソコンを操作する美森。

「えっと・・・まだ来てないわね」

「そうか・・・なんだか、こればっかりだと暇だねぇ・・・・」

と、すでに作り終えた衣装を畳みながらそう言う。

「あ、そうだ。せっかくだからこの間の約束でも果たそうか」

「!」

瞬間、美森の眼がきらめく。

「ええ!何から話しましょうか!」

「そうだね・・・あ、それじゃあ、デストロイヤーと呼ばれた菅野直はどうかな?」

「日本空軍が誇るパイロットの一人ね!良いわ!」

そこからは、とても会話が弾んだように思える。

時間を忘れて、ただ互いが知る限りの知識を言い合った。

そして、気付けば時刻が六時に差し掛かっていた頃。

「あー、やっと終わった」

「まさか修理だけであんなに疲れるなんて思いもよらなかったわ」

工具箱を置きに来た千景と夏凜の二人が廊下を歩いて部室に向かっていたころ。

「ん?」

「話し声?」

部室から聞こえる楽し気な声。それが気になり、足音を忍ばせて扉の隙間から中をのぞく。

「大和は、その体に何本もの魚雷が突き刺さろうとも、どれほどの砲撃を受けようとも、決して沈む事無く、最後の最後まで戦い続けた、まさに大和魂を体現した日本の誇りであり、世界最大の名に恥じない戦艦なのよ!」

「舩坂弘は、アンガウルの戦いにおいて、米兵二百人を擲弾筒及び臼砲で殺傷したともいわれてるんだ。さらに絶望的状況の中、敵から鹵獲した機関銃や銃剣などで、敵の米兵をそれはもう千切っては投げ、千切っては投げ、まさに鬼神の如き戦いを繰り広げたんだよ」

白熱している会話。その正体は、興奮して頬を紅潮させて海軍の事を熱弁している美森と冷静に陸軍の事を分かりやすく簡潔に伝えている翼の姿があった。

「あの東郷があそこまで興奮する所は初めて見たな」

「・・・・羨ましい」

ぼそり、と夏凜が何かを呟いた。

「ん?なんか言ったか?」

「な、なんでもないわよ!」

と、夏凜が声を抑え気味に怒鳴った時。

「あれ?夏凜ちゃん、戻ってきてたの?」

「え!?」

そこは流石、武術に精通している六道家のご子息、すぐさま二人の気配に気付いた。

「よう翼に東郷。随分と仲良さげに話してたじゃねえか」

「あ!?えと!?これは!その!違うの!違うのよ!」

「何が違うの東郷さん?」

「友奈ちゃん!?」

さらに友奈までやってきていた。

「おう友奈、三ノ輪先輩はどうした?」

「お手伝いは終わったんだけど、もうこんな時間だからそのまま解散ー、て感じに」

「へえ・・・じゃあなんでこっちに来たわけ?」

夏凜がそう聞いてくる。

「何ってお前、東郷の迎えだろ?車椅子なんだから」

「ああ。なるほど」

「そういう千景君はなんでここに?」

「ん?」

千景は持っていた工具箱を胸のあたりまで持ち上げる。

「修理に使う工具箱を置きに来たんだよ。もともと学校のものだからな。ちなみに、いつも持参してるのは俺のだ」

「ああ、なるほど」

納得する翼。

「それにしても、随分と楽しそうに話してたな。大和がどうとか舩坂がなんたらとか」

「え?東郷さんそんなに楽しそうにしてたの?」

「ええ。それはもう熱弁するほどにね」

「わー!見てみたかったなぁ!」

「みんな・・・・東郷さんがあまりの恥ずかしさに爆発しそうだからそれぐらにしてあげて」

見れば美森が耳まで真っ赤な状態で両手で顔を隠していた。

「・・・・誰か介錯をお願いします」

『しないからね?』

「いっそ殺してくだひゃい・・・」

『しないからね?』

皆に気圧される形で黙り込む美森。

そんな帰り道。

「東郷さん。そろそろ機嫌治して」

「殺して・・・」

「もう言うな東郷」

「殺して・・・」

「どんだけ恥ずかしいのよ」

「きょろして・・・」

「おい、とうとう噛み始めたぞ」

まだ恥ずかしいのか、顔を隠したままの美森。

ただ、そんな状態でも、美森は、翼のあの笑顔の意味を考えていた。

(結局、あの表情は一体、なんだったのかしら?)

それは、いずれ知る事になるだろう。

 

たとえそれが、どれほど心を締め付ける様なものでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっしーらしいね」

「うん。やっぱり須美ちゃんは須美ちゃんだったよ」

「良かったね~」

「そうでもない、かな?」

「それはまたなんでかな~」

「言わなくても分かるでしょ?」

「言ってくれなきゃ分かりませ~ん」

いたずらっぽく笑う包帯の少女。

それにやれやれと言った感じで苦笑する翼。

 

「―――互いに好き合っている男女の片方が記憶喪失だなんて知って、もう片方の気持ちはどうなるのかな?」

 

「・・・・そうだね。ごめんね。いじわる言って」

「別に良いよ。そういうのが、君の性格というものだろ?」

「ありがと、つばくん」

嬉しそうに笑う包帯の少女。

「それじゃあ。僕は行くね」

「うん。また明日~」

椅子から立ち上がり、立ち去っていく翼。

その寂しそうな背中を見て、少女は、一つ声を漏らした。

「・・・・君が一人で苦しむ事なんて、ないんだよ」

その声は、届かなかったのか、翼は振り返る事なく、部屋を出て行った。

少女は、机の上に置かれた写真を見る。

そこには、三人の少女、一人の少年が並んで映っている写真があった。

それを見て、少女はまた涙を流す。

 

いつか、彼の心が救われる事を信じて。

 

 

 

そんな中、部屋の扉が開かれる。

「ん~?これは珍しいお客さんだね~」

「気分はどうだ?」

「重畳~」

「そうか。なら良かった」

入って来たのは、ガタイの良さそうな一人の男。

大分老けた顔だが、それでも、威厳ある雰囲気は衰えてはいない。

ボロボロのコートを羽織り、腰には、薄汚れた布で巻かれた一本の棒のようなもの。

男は、少女のベッドのすぐ横に立つ。

「今日はなんの様かな?」

「次のバーテックスの襲撃、お前にも出て貰う可能性が出てきた」

「出る?」

僅かに、少女の表情が引き締められる。

「敵のシステムがアップデートされた可能性がある。おそらく、精霊の障壁は役にたたない」

「それで経験豊富な私って訳~?」

「そうだ・・・お前には、あくまで襲撃者たちの足止めを要求する。ただ、その場の判断を全てお前に任せる・・・」

男は、苦虫を噛み潰したかのような表情になる。

「すまない・・・・俺が、()()()()()()()()()()()()()・・・」

「自分を責めないでください、師匠(せんせい)。神に見初められるのは、いつだって、無垢な少年少女なんですから」

「・・・・だが」

「分かりました。その時は、喜んで出撃させもらいます。他でもない、貴方の頼みだから」

少女は微笑む。

「・・・・すまない」

「もー、いつも言ってるじゃないですか。こういう時は、ありがとう、て言うんですよ~」

「・・・そうだな。ありがとう」

男は微笑む。

まるで、娘を見る父親のような表情で。

 

 

 

 




次回『一人じゃない』

記憶を見せられる少年は、何を思うのか。
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